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『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』(2008)

2008-05-27 23:52:01 | 映画・DVDレビュー

カスピアン王子のつのぶえ ナルニア国ものがたり (2)
C.S. ルイス,C.S. Lewis
岩波書店

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『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』公式サイト

という訳で、『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』を日曜日に観て来ました。以下、映画・原作ともややネタバレ。

原作愛読者から見ると、うまく原作を解体、再構成して、映画として面白く作ってあると思いました。そもそも(個人的意見ですが)原作『カスピアン王子のつのぶえ』は有名な割に読後感が薄い作品なので、実は脚色し易いのかも、とも思います。
最も重要な脚色・改変は、カスピアンとピーターの関係です。原作の王子は年齢もピーターより下(13歳くらい)で、まだまだ「昔話」の英雄たちに憧れを抱くお年頃。四人のきょうだいが王子と出逢うのも、もっとずっと後のこと(人狼や鬼婆が現れるくだり)だし、王子もすぐ「英雄王」ピーターを受け入れて、ひたすら憧れの眼差しを向けます。
しかし映画では、カスピアンの年齢をピーターより上に設定し(演じる役者さんの関係かも知れませんが)、対抗心や双方の抱えるジレンマを通じて彼らの成長を描いています。映画の観客が、すぐさま「お伽の国」「夢の国」に没入できる年齢層に限定される訳ではない以上、これはうまい脚色だと言うべきでしょう。

ナルニアで一度は「大人」になり、「一の王」「英雄王」と呼ばれる立場だったのに、現実のロンドンでは、通りすがりに因縁をつけられ喧嘩を売られたりしているピーター。ただでさえそんな自分に苛立っていた彼が、ナルニアに戻ったことで、特にカスピアンとの関係に於いて、更に自己を確立する必要に迫られます。
映画『ライオンと魔女』では描かれませんでしたが、かつては近隣諸侯がこぞって求婚するような「やさしの君」であったスーザンも、現実世界で声をかけて来るのは同年代の冴えない男子だけという状態です。
今回の冒険は、そんな彼らが再びナルニアという「夢の世界」を経験することで、逆に現実世界とそこに生きる自分自身を受容し得るまでを描いた物語であったとも言えそうです。
気になっていたスーザンとカスピアンの「淡い恋」も、それ自体が突出していた訳ではなく、彼らの成長や「ナルニア」との距離感を描く上でうまく絡めてありました。そして、やがてそれが『さいごの戦い』の「あれ」に繋がって行くのかも知れない──と思うと、ちょっと切ないながら納得できる気もします。

ここで不満を言うと、初めはルーシーにしか見えなかったアスランの姿が、他の三人(とトランプキン)にも次第に「見えて」来るという原作の展開は、そのままにおいてほしかったです。唯一ルーシーの言葉を「信じる」のがエドマンドだというくだりも、『ライオンと魔女』から読んで(観て)いれば感動的なシーンだし。
その展開がなく、アスラン出現を最後の最後にしてしまっては、それは単にデウス・エクス・マキーナとしての登場でしかなく、だから「もっと早くかれが来ていれば」と言われてしまうんですよ……

さて、テルマール国の三悪人(笑)は、ミラースが子供から見れば憎々しく、大人の観客から見れば、そのワルっぷりがなかなかよろしゅうございました。グロゼール卿(映画では「将軍」でしたっけ?)の扱いも、原作よりひとひねりしてあり、彼が最後にああする「彼」になるとは、意外であったけれど無理のない展開でした。
またテルマールの服装や武器、甲冑と、ナルニアのそれの意匠の違いも面白かったです。演じる俳優さんもそうですが、国全体の雰囲気も中世イタリアっぽかったですね。

戦いの終わりの方に出て来る「エント」や「ウルモ(?)」は『ロード・オブ・ザ・リング』のパクリとかじゃなくて、原作にも出て来るんですよ。もっとも、原作者ルイス教授自身が、親友だったトールキン教授の著作から「ちょっと拝借」した可能性はあるかも知れません。
彼らや数々のクリーチャー──セントールやドリアード、ドワーフ、グリフォン、ミノタウロス、そしてもちろん「ものいうけもの」たちの存在からも判るように、ナルニアとは、子供が思い描く異世界、「夢の国」なのです。『ライオンと魔女』に突如登場するサンタクロースも含めて。その部分のみを取り上げて「子供だまし」だという批判に対しては、「だってあれはそういうものなのだから」とお答えするしかありません。
まあ、さすがに映画ではバッカスは出せませんでしたね。しかし、その一行とアスラン、そしてルーシーとスーザン(原作では彼女も同行する)の道行きの、あの「祝祭感」みたいなものが消え失せてしまったのは残念でした。

それでもクリーチャーの中では、偉大なるリーピチープが期待以上の活躍を見せてくれたので満足です。
トランプキンは、原作とはちょっとイメージが違ったなあ……原作だと、偏屈だけど剽軽なところもある人(ドワーフ)だし、あの駄洒落も楽しみにしてたんだけどなあ……武骨な優しさは感じられましたが。
ピーターとミラースの決闘で、ちゃんとクマさんが警備役に立っているのは嬉しかったです。でも「前足しゃぶり」もしてほしかった(笑)。

そして、今回自分が最も注目したのは、王子でも英雄王でもなくて、正義王エドマンドでした。演じるスキャンダー・ケインズくんも随分りりしくなっていたし、エドマンド自身の「適度な可愛げなさ」や、ミラースとの交渉っぷり、ピーターへの(ちょっとひねくれた)フォローの仕方も良かったです。往年の「大人時代」にも、彼はそうやって兄を支えていたんでしょうね。ついでに、ナルニアではない(テルマールでもアーケン国でもカロールメンでもない)某国の偉い家系の長男次男もこんな感じだったのでは?と連想してしまったり
『朝びらき丸』ではどうなっているか、今から楽しみです。

ところで、今回は都合により吹替版の鑑賞でした。どんなもんだろうと心配していた菊之助さんの王子、なかなか良かったです。
それより何より、コルネリウス博士の声が有川博さんだったんですよ!もうガンダルフにしか聞こえませんでした。うんうん、やっぱりガンダルフの言うことは聞かなくちゃね、とヘンな反応をしてしまいましたよ。
わかっていても、やっぱり『指輪物語』を連想したり、引き合いに出してしまう……これはもうどうしようもないことかも知れません。

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3 コメント

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アスラン (rukkia)
2008-05-28 00:51:29
やっぱり描かれ方が足りてないのですね。
彼に頼らねばならない理由が映画からだけではわからなかったのです。
アスランの力は信じられてこそ、なのでしょうか…。

エドマンドはよかったですね。
返信する
弟! (にいな)
2008-05-28 21:25:46
エドマンドの成長ぶりが頼もしく感じられました。
王子目当てで見に行ったんですが、エドマンドにやられましたね(笑)
魔女の氷を剣で破壊し、お兄ちゃんと王子を誘惑から守ったのがエドマンドというのが良いですね。
「兄さんだけでも勝てたよな」とクールに言うのも弟らしいし。(吹替えではどういう言い方だったんでしょう)
3作目が今から楽しみです。

返信する
ライオンと子供たち (Qまたはレイチェル)
2008-06-08 00:15:35
rukkia様、にいな様、コメントありがとうございます。
いつもながらお返事が遅れて失礼致しました。

>rukkia様
ナルニア原作は、好き嫌いや良い悪いはともかく、「信仰」というものを子供たちにわかり易い形で伝えることも狙いの一つなので、その部分をちゃんと描かないと、単にご都合主義な話に見えてしまうと思います。
だからと言ってあまりお説教臭くなっても、映画としては困ったことになるし…

でも、全体としてはうまく映画化してあると思いました。

>にいな様
良かったですね、弟君。
魔女の氷を破壊した後の台詞、吹替えでは「一人で平気なんだろ」でした。
クールぶりながらも兄をいろいろ気遣う彼が好きです(笑)。
それに、前作で最も魔女と関わりの深かったエドだからこそ、その誘惑を斥けることが出来たんでしょうね。
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