📖『戦争する国、平和する国
ノーベル平和賞受賞者
コスタリカ大統領
オスカル・アリアス・
サンチェス氏と語る』
小出五郎 著 佼成出版社
から、
P.224
若者へのメッセージ
(👴をお伝えします。)
生物はDNAを次世代に伝えて進化するが、
人間は後の世代にDNAだけではなく文化を伝える。
文化を伝えることが教育の大きな意義である。
アリアス邸でのインタビューは、思いがけず長時間に及んだ。アリアスさんの話は、1つのテーマをさまざまな側面から述べるために、重複する感がなきにしもあらずだが(あるが)、その説得力と情熱には深い感銘を受けた。
小出
「最後に、21世紀の若者にメッセージを」
アリアス氏
「若者こそ、人類の存在価値を示せる人々です。
今日、世界の平和を阻(はば)んで(とおせんぼして)いるのは、
▼飢餓、
▼社会的不平等、
▼教育機会(学ぶチャンス)のないこと、
▼多くの病気、
▼環境破壊、
▼麻薬問題
▼……
なのです。若者たちは、
❇️新しい価値観、
❇️新しい倫理観を創りだす責任を背負っているのです。」
実践を伴わないお説教は、実に危ういものです。ダブルスタンダード、二重基準はあってはならないのです。
たとえば、中ごくでは人権が脅(おびや)かされていると非難しながら、サウジアラビアでの人権侵害は放置する。そのようなことはあってはなりません。一方で環境保全を説きながら、他方ではオゾン層を破壊してはなりません。
民主主義が世界全体の共通な制度になるべきだと言いながら、一方では、💀独裁者に武器を売る。
世界は、厚顔無恥と偽善に疲れていると、私は思います。若者には、そうした状態を改めて欲しいのです。
また、若者は透明で清潔な政治を目指し、いかなる腐敗にも反対して戦わなければならないと思います。
さらに、特に若者に知ってほしいことがあります。
▼腐敗のなかで最悪なのは、
▼人々が聞きたがっていることを言うだけで、
▼知る必要のあることを言わないことです。
▼これこそ腐敗の最たるものです。
人間はみなひとりひとり違っています。違っているからこそ、社会をつくっている意味があります。違っているひとりひとりが、特に若者には、
ひとにへつらうことなく、
おもねることなく、
自分自身の両親に従って、主義主張に従って、
行動する勇気を持って欲しいと思います」
アリアスさんとの長時間インタビューを含むコスタリカの取材を終えて、最後に、私はテレビカメラに向かって以下のようにコメントした。
「コスタリカを理解するキーワードに、私は、『多様性』をあげたいと思います。
コスタリカの豊かな環境に生きる動植物の多様性。生きものはそれぞれに持ちつ持たれつの関係があります。そして、コスタリカの人々は実に多様性に富んでいます。だれもが主張しながらそれぞれに認めあう。平和の基礎は多様な人間の尊重にあると教育の場でもはっきりと掲(かか)げています。
多様性があるということ。それはコスタリカに限らず、国際社会の問題、地球環境問題を考え、行動するときにも、欠かせないことです。
アリアスさんの言葉を貫(つらぬ)く『心』のようにも思える『多様性』を保つということ。21世紀を開く大切な考えだと思います。」
長目のあとがき
戦争する国の「正義」に騙(だま)されないために
人間はなぜ戦争をするのだろうか。
人間は「正義」を信じることによって戦争の悲惨を繰り返し経験してきたにもかかわらず、なぜ同じ道に踏み込むのだろうか❔
戦争の「正義」は、ほんとうに正義なのか❔「正義」に騙(だま)されないためには、どうしたらいいのだろうか❔
戦争の「正義」とは❔
戦争する国は、つねに「正義のための戦争」と主張する。政府が国内の反対勢力を武力で鎮圧するときにも、「正義」を主張する。
イラク戦争でアメリカのブッシュ政権は「テロとの戦い」を正義の旗印(はたじりはし)として掲(かか)げた。
この7月10日にパキスタンのムシャラク大統領は宗教施設ラール・マスジードに特殊部隊を突入させた。イスラム過激派の排除を目指したもので、160人余の死者を出した。やはり「テロとの戦い」の正義を主張した。
しかし、正義とは何だろうか❔
正義とは、実はつくられるものなのだ。
自国の正義を正当化するために、世論を誘導して国民の同意をとりつける。国民の同意という明確な意思表示まで行かないまでも、
反対できない雰囲気をつくりあげる。(👧誰が❔
👨戦争指導者。)
このように情報によって世論を誘導することを
💀プロパガンダという。
プロパガンダ(propaganda)の意味を辞書で調べると、
・主義や信念の宣伝、
・宣伝活動、
とある。さらに見てゆくと、
カタカナのプロパガンダもあり、「これには悪い含みをもって用いる」という注釈がついている。つまり、ある主義主張によりそった目標を達成するための宣伝活動をさす。目指すところは、
狙(ねら)ったとおりの世論をつくることにある。
(👧自国の正義を正当化するために、世論を誘導して国民の同意をとりつけたり、国民が反対できない雰囲気をつくりあげる「プロパガンダ」のことをもっともっと教科書のページを割(さ)いて私たち子どもにおしえてくれなければ困ります❗プロパガンダを知らなければ簡単に戦争になってしまうじゃないの‼️)
イギリスの政治家で平和主義者のアーサー・ポンソンピーは、1928年📖『戦時の嘘』という本を著(あらわ)した。そのなかで、戦争目的のプロパガンダの、まるで
💀
⬜まるで階段をのぼるような
⬜⬜世論操作のやり方を
⬜⬜⬜「10の法則」に
⬜⬜⬜⬜集約してみせた。
⬜⬜⬜⬜⬜戦争指導者が発する
⬜⬜⬜⬜⬜⬜プロパガンダの言葉を
⬜⬜⬜⬜⬜⬜⬜「法則」としている。
ポンソンピーの「10の法則」に従って、
歴史学者のアンヌ・モレリは、2001年に
📖『戦争プロパガンダ10の法則(翻訳版、草思社)』という本を書いた。
(👨ママの書棚で見たぞ❗ガサゴソ。
📖『戦争プロパガンダ10の法則』は、)
20正義の戦争で行われた世論操作をまとめ、
21世紀になった世界で、
「⚠️⚠️⚠️また戦争プロパガンダが始まった」と
警告している。
ポンソンピーが示し、モレリがまとめた
「戦争プロパガンダ10の法則」はたいへんわかりやすい。
ここでその(10の)法則を紹介しておこう。
1.「われわれは戦争をしたくない」
2.「しかし、敵側が一方的に戦争を望んだ」
3.「敵の指導者は悪魔のような人形だ」
4.「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
5.われわれも誤(あやま)って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為に及んでいる」
6.「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
7.「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
8.芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
9.「われわれの大義は神聖なものである」
10.「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」
プロパガンダの階段を上る
(👨👆️)1から10までの間に、プロパガンダは一歩一歩、まるで階段を上るかのようにエスカレートしていく。この法則を現在のイラク戦争に当てはめてみよう。
まずは、
1.「われわれは戦争をしたくない」と
2.「しかし、敵側が一方的に戦争を望んだ」
であった。
アメリカのブッシュ政権は、2011年9月11日9のニューヨークの世界貿易センタービル攻撃を、真珠湾攻撃に匹敵する奇襲攻撃として、「テロとの戦い」を宣言、テロリストの背後にアメリカの安全を脅(おびや)かす無法者国家がいるとした。
その後、
アフガニスタンのタリバン政権、
イラクのフセイン政権攻撃を、
世論が支持する伏線をつくるために、
1と2の法則を利用したといえる。
アメリカは世界最強の軍事国家である。
アメリカの正義のために軍事力を行使する国である。
ブッシュ政権は、国内世論だけではなく、
国際社会の世論の支持を得るためにも、
プロパガンダに力を惜しまない。
プロパガンダはエスカレートした。
3.「敵の指導者は悪魔のような人間だ」そして、
4.「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」。
サダム・フセインは、国内では残虐非道、人権無視の独裁的な恐怖政治を行い、一方では、核兵器、生物兵器、化学兵器を製造・保有し、世界の平和を脅(おびや)かしている、
サダム・フセインを倒すことは正義の戦いである、とした。
日本の小泉政権は無条件にアメリカを支持した。
しかし、フランス、ドイツを中心に、イギリスを例外としてヨーロッパ諸国は、ブッシュ政権のプロバガンダに冷淡であった。
国際世論は、1色ではない。国連決議のないままに、それでもブッシュ政権のアメリカと同盟国は、イラク戦争に突入する。
フセイン政権を短期間で崩壊させることには成功した。アメリカの軍事力の大きさを改めて世界に示したといえる。
しかし、イラク国内の抵抗はやまなかった。イラク市民とアメリカ兵の犠牲者は増大した。
プロパガンダは、5.6.7.へと進む。
5.「われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為に及んでいる」、
6.「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」、
さそして、
7.「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」。
複雑に人種とイスラム教の宗派が入り乱れるイラクは、かつての敗戦日本のように、軍国主義から民主主義への変わり身の早さは期待できない。終わったはずの戦争は泥沼化した。
敵味方がよく分からない状況で、同盟国への誤爆が起きる。多数の市民が巻き添えとなって死亡する。同盟国、特にアメリカ軍の死者は、すでに「9.11」の死者を超えた。さらに、その何十倍、何百倍のイラク人死者が出ている。
(中略)
泥沼化して抜き差しならぬ状況に陥り、見方の被害が増大すればするほど、敵の残虐行為を強調し、敵の被害は過大に見方の被害は過小に、希望と期待をまじえて評価するようになる。
プロパガンダは、さらに
8.「芸術家や知識人も正義の戦いに参加している」、
9.「われわれの大義は神聖なものである」、
10.この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」
と続く。
いつの世にも、政権に都合のよい意見を表明してくれる▼御用芸術家や▼御用知識人はいるものだ。有名人が登場するCMと同じ効果を、戦争のプロパガンダでも期待できる、というわけだ。
イラクでは、開戦の理由であった非人道的兵器は見つからなかった。非人道的兵器が存在するという理由そのものが、そもそもプロパガンダの一部であったことも判明している。
(👧ブッシュさんは裁かれないの❔
👨……)
「非人道的兵器が発見できなかったとはいっても、存在しなかったとはいえない」と詭弁(きべん)を弄(ろう)する政治家がまだいるが、開戦の理由が薄弱だったことがはっきりした。そこで持ち出したのが、イラクに民主主義をもたらす、という「正義」である。
各国には、それぞれの事情がある。
他の国が政治体制を押し付けることは決して「正義」ではない。これまでの歴史で、世界に普遍の「正義」など、ありえないことを教訓としたはずなのに、プロパガンダとしては相変わらず健在である。
民間会社が一役
今の世のなかでは、経営を効率的にするということで、アウトソーシングが日常的に行われている。
アウトソーシングをカタカナで書くと、何か最先端の経営戦略のように聞こえるが、要するに外注すること、業務の一部を下請け、孫請に出すことである。大小の企業、中央と地方の公官庁、大学から小学校まで、いまやアウトソーシングしていない組織は、まずないのではないだろうか。
そのアウトソーシングが戦争でも行われている。
昔から外人部隊はあった。フランスの外人部隊が有名だ。外国人を雇って部隊を編成し、自国のために働かせるもので、最前線の危険なところに派遣されるのが常だった。雇い主は国家。雇われるのはプロの兵士だった。
ところが最近のアウトソーシングは違っている。民間会社が戦争の業務代行を、するのである。
戦争の業務は戦闘だけではない。兵たんが重要だ。兵たんとは、武器弾薬をはじめ戦闘員の生活を支える食料から医薬品までの、すべての軍需品の補給、修理、輸送、連絡などの業務全体を指す。
戦場はいつも人手不足だが、正規軍の増派には世論がうるさい。そこでお金を払って、世論を気にする必要のない民間会社に業務を代行させるのである。
兵たんだけではない。重要人物の護衛も任せる。特にイラクでは敵味方が判別できないような状況だから、異国人には護衛が欠かせない。正規の兵士に人数の余裕がないから、いきおい民間会社に委託する。刑務所のスタッフも民間委託になっているという。
戦場はお金が儲かる場所なのだ。ネットには無数の会社が、さまざまな職種で戦争に参加する要員を募集している。
そうしたなかで、プロパガンダのためのアウトソーシングがあり、そこに民間の広告宣伝会社が関わっていないわけがない。
(中略)
進行中の事態を左右するプロパガンダが行われ、そのプロパガンダで成功報酬を得る民間企業が暗躍する時代になっている。プロパガンダの内容には創作、捏造多々含まれる。情報社会といわれる現在、プロパガンダは手を変え品を変えて、利益の上がる商売としてますます盛んになって行く。
そういった点が重要なのだ。
対抗手段 1.『法則を知っている』
それでは、戦争プロパガンダに対して、私たちはどのように対抗すればいいのだろうか❔
戦争から日用品の広告にいたるまで、ありとあらゆる領域で行われるプロパガンダ、情報操作に対して、私たちはどのような心構えでいたらいいのだろうか❔
まず、「10の法則」にあるようなプロパガンダの法則を知っている、ということでが大切だ。
プロパガンダが、「これはプロパガンダだ」と分かる形で行われることはない。ひそかに頭のなかに忍び込むように行われる。
(👨まるで♪『サウンド・オブ・サイレンス』だな。)
したがって、耳よりな情報を聞いたときに、
🌕️丸ごと信じ込むことはしないで、自分なりにチェックしたほうがいい。(10の)法則はチェックするときの手がかりになる。
たとえば、法則の10に「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」とある。
対外的な緊張が高まるときに、反対する者を「非国民だ」とか「愛国心がないのか」と非難する声が高まる。選挙のような政治的な戦いのときも、反対する者は「改革」に対する抵抗勢力だ」と一括り(ひとくくり)にして推し切る。
🌕️法則10を知っていれば、このように「敵」を非難する方法は、プロパガンダの定法であることが分かる。そんな視点で情報をチェックすることで、簡単に乗せられて後悔する愚をさけることができる。
法則を知っていることは、いわばプロパガンダに対抗するための、自分自身の関所を持っているようなものだ。
しかし、ただ法則の文言(もんごん)を知っている、というだけではいささか心もとない。
「知っている」と、
「理解している」と、
「納得して理解している」
とでは違う。
つまり、裏付けにとなる歴史上のできごとについての知識がないと、あまり実際の役には立たない。
私たち日本人は他の国々の国民に比べて、客観的に見て自国の歴史の知識に乏しい。特に明治時代から現在までの近代史、現代史を集中的に学ぶ。いちどは挑戦していいことだと思う。
(中略)
「10の法則」の1と2にあるように、
1.「われわれは戦争をしたくない」、
2.「しかし、敵側が一方的に戦争を望んだ」のでやむをえず開戦したなど
まるで戦争は人智を越えた宿命であるかのように主張する人がいる。
ほんとうは、戦争は宿命ではなく選択の結果である。
敗戦は、精神主義で判断を誤って選択をした結果なのである。
(中略)
統計の数字は、かなり意図的に変えることができる。
統計の数字は一般的に操作可能なものであり、
コンピューターの予測となるとなおさらである。
予測する当事者にとって望ましい結果を得ることができる。
下請けの会社は顧客の希望に合わせた「予測」を提供することで利益を上げる。
さらに、スーパーコンピューターによる予測、というと、ほとんど神様の指し示す未来のように思われがちだが、実際は違う。カタカナの数が増えるほど権威が増すような錯覚(さっかく)があるが、出てくる結果はその分、あいまいになると見てよい。
統計や予測の数字は、もっともらしいが、実はかなり意図的で不確実なのだ。