井上靖と司馬遼太郎。
昭和のある時期、二人はともに大阪で美術記者をしていたそうです。
井上靖は毎日新聞社で、
司馬遼太郎は産経新聞社で。
展覧会の紹介や批評、芸術家のインタビューなどを記事にする仕事です。
*
いずれも各社の人事でしたが、
井上靖はその仕事を積極的に受け入れて精力的に取り組みます。
一方、司馬遼太郎は「美術批評を書かされたんでしたが、それがいやで・・・もう落魄の思い、でした」と。
やがて役目から解放されたあと、自由に美術と接する醍醐味を知ったそうで、
人生はそんなものなのかなと思います。
*
成り行きであれ、二人は新聞記者として時代の美術現場とどのように向き合ったのか、
その経験は、のちに小説家となった二人にとってどんな意味をもったのか。
井上靖は53歳の時のヨーロッパ訪問で、ゴヤの虜になりました。
かたや司馬遼太郎が自身でも収まりがつかないほど惹かれたのはゴッホでした。
* * *
新聞記者時代、美術と宗教を担当し、
その後作家へと転身した共通点をもつ井上靖と司馬遼太郎。
のちに国民的作家となったふたりの知られざる美術記者としての葛藤の日々、
対照的な美へのまなざしを追う作品です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます