本書は、そのブラック企業をテーマに書かれた新書である。第一部では、著者自らの経験とキャリアカウンセラーとして得た情報に基づいて、「新卒使い捨て」の【肉食系】・成長のチャンスを奪う【草食系】・一見勝ち組の大手だが過酷な仕事に晒される【グレーカラー】の三つに分類する。そしてそれぞれの分類で特徴的な業界を取り上げ、どのようにブラックなのかを事例と業界事情などを交えながら描いていく。
第二部では、その構造を分析する。まず、勝ち組といわれる「大手元請け企業が自分たちの待遇や雇用も保持しようとすればするほど、そのしわ寄せが下請けに及んで過酷な環境を生み出している」として、大手元請けをブラック企業を生み出す黒幕として描く。そして、「無能でラクをしているのに高給を食むことのできる元請け会社の正社員と、優秀だが薄給のなかで激務にあえぐ下請け会社の正社員の不公平こそ問題」であると主張する。正社員の解雇が難しいと企業が新規雇用をためらってしまうためにこのような状況が生じてしまう。だから雇用の流動化を促進し、優秀な人材がしかるべき待遇で働けるよう、「正社員を解雇しやすくせよ」と解雇規制緩和の議論を展開していく。
本書はブラック企業そのものの存在の是非を問うような内容ではない。むしろブラック企業は「現代の経済社会の歯車の一部として必要不可欠」であり、「私たちの豊かで快適な生活を維持するために」は欠かせない存在であるという観点から議論を進めていく。
しかし、ブラック企業は本当に必要不可欠な存在なのだろうか？過酷なノルマを強いられ、長時間労働や上司のパワハラに晒され、非人間的な扱いを受けるような職場、それによりうつ病を発症してしまったり、最悪の場合には過労死してしまうような職場は社会的に許容されるべきではないだろう。ブラック企業そのものを問い直していく議論が必要である。
そのためには、ブラック企業の問題を「元請け正社員VS下請け正社員」と矮小化せず、グローバリゼーションや日本型雇用システムの変容いった文脈から構造的に分析していかねばならないだろう。
また、本書でも主張している正社員の解雇規制緩和は、労働条件の一層の引き下げにつながり、ブラックな企業を増やしていく危険性が高い。安易な規制緩和ではなく、労働者の生活の安定や平等という立場から、保護の対象から排除されている非正規への保護を強化し、正規非正規を問わない公正な規制と同時に、雇用と社会保障を連関した幅広い議論が求められているのではないだろうか。
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