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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

スクウォットというコミュニティー

 
 まず、「スクウォットとはそもそもなに?」という質問があると思います。簡単に言いますとスクウォットとは所有者が何らかの理由で不在となり、そのまま放置された建物に人々が勝手に入り込み、占拠し、生活、管理をしている場所のことです。こうしたスクウォットはアナーキストを中心に組織され、欧米を中心に世界中にあり、ニューヨークのイーストビレッジやベルリンなど一時期は相当数存在し、独自の文化空間を生み出してきました。そうした建物は昨今の都市の再開発や高級住宅化などにより失われつつあることは事実ですが、まだいくつかは残っています。

 KÖPIの歴史を簡単に説明しますと、1989年の東西ドイツ統一後、ドイツは資本主義として新たなスタートを切るわけですが、東ドイツはそれまで社会主義であり、不動産は私有財産として認められず、国有でした。それが統一により私有財産として認められるようになる。そうした中で今まで国有とされていたような建物を自分達のものにしてしまおうという運動が広がり、東西の活動家が多くの建物を占拠しました。こうした運動の一環でKÖPIも占拠され、その後多くのスクウォットが強制退去や火災などでなくなっていくなか、今日まで100人もの人が生活するベルリン最大のスクウォットとして残っているのです。(とはいえ、今年に入ってから、KÖPIの建物は銀行によってオークションにかけられてしまいました。この結果、一時は強制退去の可能性もあり、デモなどで反対運動を繰り広げました。ただ、現時点ではデモの成果もありまだ存続するもようです。)

 僕がKÖPIの存在を知るようになったのはそもそも大阪のパンクバンドの友達がヨーロッパツアーをやるということになったとき、ベルリンのライブ会場がKÖPIだったというのが始まりです。ちょうど、ベルリンでパンクのライブをやっているような場所を探していた自分は早速KÖPIへ向かいました。KÖPIがスクウォットであるという話は友人から聞いていましたが、ライブをやるような場所だから、もっとライブハウスみたいな小さな場所を想像していたのですが、到着してびっくり。建物は6階建てくらいあり、古いレンガ造りで、壁には様々な落書きや横断幕が。そこには、まるで資本に包摂されていないような生活の臭いが立ち込めているのです。その日は300人くらいの人が中庭でビールを飲んだり、タバコを吸ったりしながら、談笑をしていました。そして、地下では50人くらいしか入れない場所でスウェーデンから来たハードコア・バンドがライブをやっている。ビールもライブもどちらも利潤目当てではないため、非常に安価。ビールは150円くらいだし、ライブも500~800円くらい。話を聞くと毎晩ライブのあるなしに関わらず、多くの人が集まり、明け方まで時間を過ごすとのこと。

 ここにスクウォットの重要性があると思います。つまり、お金を儲けるということでなく、人々が集まり、自分達の文化を生み出すスペースを供給しているという役割です。僕は東京出身ですが、300人がふらっと集まれるような場所というのはなかなか思いつかない。ライブハウスはそういう場所の一つですが、ライブハウスは結局お金を儲けなくては、賃貸料や従業員の給料も支払えない。だからドリンクなどの値段が高くなるし、朝までいるということも近隣住民うんぬんという問題で出来ない。また、音楽を媒体として集まるため、一つのジャンルに偏り、排他的な内輪な雰囲気となってしまいがちです。それとは反対に、KÖPIではパンク、ハードコア、ラップなど様々なジャンルの音楽が演奏し、それを聴くもよし、聴かないで外で、他の人と話ながらお酒を飲んでもよし。そうすることで、どんどん知り合いが増えていく。僕は全然ドイツ語が話せないのですが、英語を使ったりして、スペイン人やパナマから来たネイティブ・アメリカンとまで知り合いになりました(笑)。

 さらに、音楽だけでなく、KÖPIでは映画上映やアナーキズム会議、そして毎週日曜日にはヴィーガン・ブランチなどもやっています(ヴィーガンとは肉だけでなく乳製品も食べない人々)。こうして、社会的マイノリティ(パンク、ヴィーガン、アナーキスト)が集まり、仲間に会うことで彼らの文化を発達させていくし、ヴィーガン・アナーキスト・パンクスなんていう全てを実行する人達も生まれてくる(笑)。

 こうした彼らの横のネットワークは先日のG8のデモでも見ることが出来るでしょう。アナーキストである彼らはスクウォットの世界ネットワークを持っていて(http://www.squat.net/)、こうした世界中のネットワークがデモの組織化を助けたり、海外からのデモの参加者へ滞在場所を提供したりしているのもスクウォットです。実際、日本から来たG8デモ参加者のグループにもKPÖIで会いました。

 さて、先ほど、毎晩みんなが朝まで飲んでいると書いて、仕事はどうするんだ?と思われた方もいるかもしれません。スクウォットに住んでいる人、スクウォットに毎晩来る人のほとんどは仕事をしていません。日本だと仕事をしていないとか、きちんと仕事についていないというと「ニート」や「フリーター」と名前もついて、社会問題化していますし、POSSEもそういった中で生まれてきたNPOです。ドイツでも失業率が10%以上と高く深刻な社会問題となりつつあるのですが、失業給付がいまだに手厚いため、働かなくても、住む部屋と食費くらいはもらえてしまうのです。そうした中で、金銭的に豊かな生活に興味の無い若者は働くことなく、政府に生活費をもらいながら自分の好きな音楽や芸術をするようになってきています。賛否は分かれるかもしれませんが僕は素晴らしいことではないかと思っています。

 今、日本では「ニート」や「フリーター」は「やる気のない」「モラルの低下した」若者だと罵倒され、「自己責任」という形で見捨てられようとしています。そして、資本主義のグローバル化にともなってブランド商品やその看板が都市を覆い尽くし、人々が資本に包摂されないような文化圏を作り出す可能性がどんどんなくなっている。けれど、ドイツでは失業率が多いから仕事がなくても悪いことにはならない。また東西統一時に「東の人が急に資本主義になって落ちこぼれないように」というドイツ国内の世論のおかけで、いまだに社会保障が高水準なため、仕事がなくても生きていける。そうした中で、スクウォットの住民やその運動に関わる人々は、フリースペース、つまり自由(お金のいらない)空間を守り、彼らの文化を発達させています。毛利さんが『ポピュラー音楽と資本主義』で言うような「ポップの戦術」も特有の文化発達の可能性があるかもしれません。でも包摂されない側の戦い(エリート主義といわれようと)をまだまだ僕は諦めません。ここで書いたことは本当にさわりです。実際の雰囲気は圧倒するものがあります。是非、ヨーロッパやNYへ行く時はスクウォットへ行ってみてください。

コメント一覧

jim
単純にビールやライブが安いというのはいいな(笑)

でも、それ以上に、こういった空間の占拠は生活空間の確保として重要だし、まさに生存の要求を直接的に実行しているよね。

それゆえに、強制退去というのは怒るべき事態だと思う。
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