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「大庄」店員過労死事件

「大庄」店員過労死事件

 大学新卒で大庄(日本海庄やなどを経営)に入社した店員の方(以下、Aさん)(24)が働き始めて4か月で心臓の病気で亡くなりました。両親が会社、取締役と争った過労死裁判の京都地裁判決(平成22年5月25日)が出ました。
(判決文 最高裁HP http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100604194535.pdf

 今回の事件は、まだ若い24歳の男性が入社してわずか4ヶ月で死にいたるというショッキングなものです。一部の特殊な事例のように見えるかもしれません。しかし、日ごろNPO法人POSSE(ポッセ)に寄せられる相談のなかも、似たような状況のものが多くあります。さらに、現在実施中の若者が仕事を辞めた理由を尋ねるアンケート調査においても健康を害するような長時間労働がしばしば見受けられます。
 決して他人ごとではないではないこの事件を取り上げて、どこに問題があるのか、今回の判決の意義を考えていきたいと思います。

◎問題点

1、長時間労働
 Aさんの残業の時間は、平均して1カ月112時間です。これは、週5日勤務とすると1日13.6時間働いていた計算になります。Aさんはおよそ9時ごろに出勤し、夜11時まで働くという生活を送っていました。通勤時間などを差し引けば、休める時間や、自分の自由に使える時間はほぼありません。

 厚生労働省は過労死の労災基準を示しています。それは、症状の発症前1ヶ月に100時間の残業、2カ月前に80時間の残業をしていれば、その症状の発生と仕事の関連性が強いとするものです。

 Aさんはいつ死んでもおかしくない労働時間で働いていたことになります。もちろん本件でも労働災害として認定され、十分とは言えませんが所定の保険金が下りています。

2、契約の問題点
 これほどの長時間労働を強いられた背景には契約に問題がありました。

 契約の内容はこのようになっていました。

 「新卒者―最低支給額19万4500円
内訳基本給12万3200円,役割給7万1300円
役割給―予め給与に組み込まれた固定時間外手当と固定深夜勤務手当であり,設定された時間に達しなかった場合はその時間分を控除し,その時間を超えて勤務した場合は超えた実質分を残業代として支払う
 最低支給額については,時間外労働が役割給に設定された80時間に満たない場合,不足分を控除するため,本来の最低支給額は12万3200円。」

 第一の問題点は、長時間労働を前提とした契約を結んでいる点でしょう。最低19万4500円と書いておきながら、それは残業80時間を前提とした金額で、残業が80時間以下の場合その分を差し引くと書いてあります。
前記のとおり、残業80時間というと過労死水準です。いつ過労死してもおかしくない残業時間を大庄は当然の前提として契約にしていたのです。人を殺すかもしれない契約をしていいものかとおもいます。

 第二の問題点は契約を不明確でわかりにくくしている点です。役割給と呼ばれるものは実質残業代のことだったのです。残業代というのは法律で払わなければいけないと決められたものですから、契約書にこのように書かなくても当然払わなければなりません。この契約は実質「給料12万3200円」と書いているのと同じです。それを一見して給料が安いと思われないように、残業代に「役割給」という名前を付けて給料が多いかのように見せていたわけです。
 基本給をもとに計算すると、時給は770円になります。当時(2007年)の最低賃金は下回っていないものの、極めて低い賃金です。
 さらに、さらに、裁判所の認定によるとAさんの就職活動時の大庄HPの求人では営業職月給19万6400円(残業代別途支給)と記載されていました。80時間以上残業しなければ残業代が出ないことや、80時間以下であれば給料が引かれることは全く書いてありません。給料の仕組みについて詳しく説明を受けたのは入社後の研修でした。
情報をきちんと伝えずに、いい条件のように見せて契約をすることには非常に問題があります。

 語弊があるかもしれませんが、このように見てくると、だましてでも、安く、長く使い倒してやろうという企業の意思を感じます。

◎判決の意義
 以下のように判決は原告の主張をほぼ全面的に認めました。
「会社に対し,安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めるとともに,会社の取締役に対し,長時間労働を前提とした勤務体系や給与体系をとっており,労働者の生命・健康を損なわないような体制を構築していなかったとして会社法429条1項に基づく責任を認め」る。(判決要旨)

 つまり、会社の責任を認めただけでなく、社長はじめ役員の責任も認めたのです。一部上場で従業員が3,000人いる大企業においては、役員は到底ひとりひとりの社員に目を行き届かせることはできません。この判決はこのような大企業でも役員がひとりひとりの社員の健康など労働条件に責任を持たなければならないと示したはじめての事例です。

 本件のような外食産業をはじめ、長時間労働が常態化している企業は数多くあるでしょう。この判決がこのような企業が体制を見直すきっかけになってくれればと思います。

 ちなみに、大庄はこの判決を不服として大阪高裁に控訴しています。今後もこの裁判がどのように決着するのか注視していく必要があります。

◎最後に

 今回は裁判という形でこれらの問題が浮き彫りになりましたが、これらは裁判でなくても十分に不当だと声を上げることができます。本件でも、同じような労働環境で働いている社員の人たちがだれも声を上げなかったためにAさんが犠牲になってしまったともいえます。
しかし、知識やサポートがなければ、会社がやっていることは不当だというのは難しいでしょう。NPO法人POSSE(ポッセ)では、相談の電話を受け付けて具体的なアドバイスを行っているので、なにかあればご相談ください。



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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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