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エリーザベト・レオンスカヤのシューベルト

2018年04月15日 | pocknのコンサート感想録2018
4月12日(木)エリーザベト・レオンスカヤ(Pf)
~シューベルト・チクルスⅤ~
~東京・・音楽祭~

東京文化会館小ホール


【曲目】
1.シューベルト/ピアノ・ソナタ第7番 変ホ長調 D.568
2. シューベルト/ピアノ・ソナタ第14番 イ短調 D.784
3. シューベルト/ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D.959
【アンコール】
シューベルト/ピアノ・ソナタ第6番ホ短調 D.566~第2楽章


レオンスカヤが、6夜に渡るシューベルトのソナタチクルスをやると知り、どれか一つは聴いてみたいと思った。と言っても、レオンスカヤをこれまでに聴いたというはっきりした記憶もないし、評価についても確かな認識もなく、チラシから伝わる風貌と、聞き覚えは確かにある名前と、シューベルトという3つの要素が自分の中で合致して、聴き逃してはならないリサイタルになる気がした。そして、その予想は見事に的中。僕がライブのコンサートに最も求めている一期一会の出逢いとなった。

レオンスカヤはステージに登場するや、真っ直ぐにヤマハのピアノの前に座り、おもむろに演奏を始めた。その最初の数秒を聴いただけで、「この音、好きだな」という感情が静かに、けれど確かに沸き上がってきた。それを一言で表すなら「溢れる人間味」。レオンスカヤという一人の人間がこれまで生きてきて、染み込んだ数々の体験や思いが音に凝縮されている。

プログラム最初の変ホ長調のソナタは、シューベルトの初期の作品ということだが、レオンスカヤはこの曲を一瞬にして魅力いっぱいのシューベルト色に染め上げた。その演奏からはある素敵なシーンが浮かんだ。それは、舗装されていないのどかな田舎道をゆっくりと走る馬車に乗っている情景。そこからは土や草や花の匂い、暖かな陽射しや柔らかい風が肌に当たる感触や、道を歩く親子がこちらを見て微笑んで手を振っている光景が感じられ、どこかで出逢ったことがあるような懐かしさと温かさに包まれた。

次は、さっきのソナタから6年後に書かれた、深刻で重々しい空気を伝えるイ短調のソナタ。レオンスカヤの演奏からは、一つ一つのフレーズが呼吸をしているのが聴こえて来る。その呼吸は、時に深く激しく、また時に穏やかに優しく、いつもすぐ耳元で聴こえてきて、音楽全体が「生きる」ことに強い執着心を持った熱い生命体のように心に迫ってきた。

休憩を挟んで演奏されたイ長調のソナタは、シューベルト最晩年の3つの傑作ソナタのひとつ。さっき聴いたソナタでは人の呼吸を感じたが、このソナタの演奏からは更に「人生」が伝わって来た。波乱万丈で喜びも悲しみもあった人生をバラードのように語り聴かせる第1楽章、魂の行方をじっと見つめる第2楽章、心躍る愉悦を回想しているような第3楽章を経て、第4楽章では、遠く来し方を振り返りつつ、自らの人生を穏やかに優しい表情で語るレオンスカヤがいた。とは言っても、まだ70代前半のレオンスカヤは、人生を振り返るだけではない。曲の終盤で再び現れる最初のテーマが、「さあ、また前を向いて歩いて行きましょう!」という頼もしい彼女の決意表明にも聴こえ、それにジーンときてトリハダが立った。

温かく味わい深く、人間味溢れた演奏を聴いて、何年か前にボロディン弦楽四重奏団との共演で聴いたことを思い出した。その後にN響定期でベートーヴェンのコンチェルトも聴いたことまでは思い出さなかったが、過去2回の、共演者として聴いただけだったが、そこで得た深い感銘が記憶の底に確かに刻まれていたことを認識し、今夜は更に新たな感動となって記憶に刻まれた。

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番 ~2016.10.27 サントリーホール(N響B定期)~
ボロディン弦楽四重奏団 with エリーザベト・レオンスカヤ ~2015.4.2 東京文化会館(小)~
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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2 コメント

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Kさまへ (pockn)
2018-05-10 00:33:51
Kさま、嬉しいコメントをありがとうございます。
感動した気持ちを直接演奏者に伝えられたことで、演奏会が一層心に刻まれたことでしょうね。また一期一会のステキな演奏会との出会いがありますように。
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ありがとうございます (K)
2018-05-09 00:57:16
素晴らしいレポートありがとうございます。
私も同じく12日のレオンスカヤのシューベルトを聴き、言葉にできないほどの感動を得た一人です。終演後、楽屋口で、この日の演奏を一生忘れないと思います、とご本人にお伝えしたら、優しく微笑んでくださいました。
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