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かものはし通信

他是不有吾

「シャーロック・ホームズの息子」

2011-03-28 00:33:09 | 
ブライアン・フリーマントル著「シャーロック・ホームズの息子」 新潮文庫

古書店で、上下巻揃いで見つけた。
なんと、あのフリーマントルがホームズ物のパスティーシュを書いていたとは。
これまであまりまともなパスティーシュに出会っていないので、中途半端ではあっても一応のシャーロキアンとして、少々警戒。しかし警戒しつつも“フリーマントル”の看板に取り込まれてしまう自分も情けない。

スパイ物としては、なかなかの読み応えである。
なぜシャーロック・ホームズに息子がいるのか、という理由もその筋立ても、不自然ではない。
ただ、ホームズ、ワトソン、兄のマイクロフトのそれぞれの持つ魅力的な人柄は、本作では薄められており、さらに息子の人柄ももうひとつ惹きつけられるものがなく、やや物足りない感じが否めない。
しかも、「セバスチャン」はクララの家の執事、という印象がどうしても拭えず、、、

「夜想曲集」

2011-03-21 18:37:06 | 
カズオ・イシグロ著「夜想曲集」 ハヤカワepi文庫

最初は、ジェフリー・アーチャーの短編集に似た趣を感じた。
しかし読み進めていくうち、よりしっとりと味わい深く、それでいてところどころクスッと笑える絶妙のユーモアが、徐々に自分の心を捉えて離さない不思議な感触を覚えた。

そういえば、今週末には映画の「わたしを離さないで」が公開されるのだな。
これだけは見逃すまい。

「競争の作法」

2011-03-19 00:47:10 | 
齋藤誠著「競争の作法」 ちくま新書

「失われた20年」とか「格差社会」とか「貧困問題」とか、マスコミが煽る言葉に踊らされた日本国民に突きつけられている本当の現実は、以下の一文に見事に集約されている。
「労働の現場、金融の現場、あるいは、教育の現場で、多くの人々の能力がどうしようもなく低下し、規律が目もあてられないほど劣化してきたことが、豊かな幸福が遠ざかった真の理由ではないだろうか。」

またエピローグでは、日本経済の今の姿を、中島敦と坂口安吾の引用でこれまた見事に表している。

日本の大学教授にも、このような気骨のある方がちゃんとおられるということに、僅かではあるが安堵感を覚えた。

「話の終わり」

2011-03-14 22:17:02 | 
リディア・ディヴィス著「話の終わり」作品社

週刊ブックレビューと新聞の読書面で紹介された。ただ、珍しくハードカバーの海外小説なぞ購入したのは、それが理由ではない。訳者が岸本佐知子氏だったからだ。

読み始めてしばらくの間、主人公と訳者が被って見えた。エッセイから想像する岸本氏の人物像と、この小説の主人公がなぜか似ているように感じるのだ。
しかし読み進めていくうちに、妙な居心地の悪さと懐かしさがないまぜになった感覚に陥るようになる。
この主人公の愚かさは、自分と同質のものだ。似ているのは訳者でなく、自分自身だ。

最近は、本棚を占拠するハードカバーはできる限りさっさと売り払うことを心がけている。
しかしこの本は、手放したくても手放せない、そんな一冊になりそうな気がする。

「波止場日記」

2011-03-13 05:08:00 | 
エリック・ホッファー著「波止場日記 ─労働と思索」 みすず書房

「ホッファーを試す」第二弾。
勢古氏が絶賛するだけのことはある。
沖仲仕として肉体労働に従事しながら、読書、思索、執筆を続けるホッファー。このような人物の存在が既に驚異だと思える。
手元に置いて、繰り返し読みたい。
師事する経営コンサルタントのK氏は、就寝前に松下幸之助氏の「道をひらく」を読むことを習慣とされている。自分にとっての『枕右の書』は、これになるかもしれぬ。