村上春樹原理主義!

作家・村上春樹にまつわるトピックスや小説世界について、適度な距離を置いて語ります。

「村上RADIO~RUN&SONGS~」inTOKYO FM☆全記録

2018-08-06 22:55:10 | トピックス

 

まさに昨日、8月5日午後7時から、

村上春樹さんのラジオ番組が始まりました。

すでに日は沈んでました。

灼熱の猛暑日の夜。

楽しかったです、心から。

内容を記録します。(TOKYO FM  のネットからの引用です。)

テーマは「僕が走るときに訊いている音楽」

はじまりは……。

 

こんばんは、村上春樹です。ラジオに出演するのは今回が初めてなので、僕の声を初めて聴いたという方もきっとたくさんいらっしゃると思います。
始めまして。
この番組は、僕の好きな曲をかけて、曲と曲との間に少しおしゃべりもします。リスナーからいただいた質問にもお答えして、皆さんと一緒に楽しくひと時を過ごせればと思います。


MADISON TIME

DONALD FAGEN WITH JEFF YOUNG & THE YOUNGSTERS
THE NEW YORK ROCK AND SOUL REVUE - LIVE AT THE BEACON
Giant Records 

1991ドナルド・フェイゲンのMadison Time。
スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが2003年NYでやったライブ。キーボード奏者ジェフ・ヤングのバンドがバックです。これはジャズ・ピアニストのレイ・ブライアントの作曲で、1960年ぐらいにヒットしました。レイ・ブライアントは正統的なジャズ・ピアニストで、マイルズ・デイビスとかソニー・ロリンズなどとも一緒に共演したことがあります。
10代の頃、僕はすごく真面目なジャズ・ファンだったので、あのレイ・ブライアントがどうしてこんなコマーシャルな音楽をやるんだろうと首をひねったんだけど、いまこうして聴くとすごくいいですよね。肩の力が抜けていて、グルーヴィーで。

 

僕はジョギングするときにいつもiPodで音楽を聴いていますが、一台に1000~2000曲入っていて、それを7台ぐらい持ってます。今日はそのラインナップの中から、何曲かお聴かせしたいと思います。
走るときに適した音楽は何かというと「むずしい音楽はだめ」ということですよね。リズムが途中で変わるとすごく走りにくいから一貫したリズムで、できればシンプルなリズムのほうがいい。メロディがすらっと口ずさめて、できることなら勇気を分け与えてくれるような音楽が理想的です。たとえば、そう、こういうのを聴いてみてください。


Heigh-Ho / Whistle While You Work / Yo Ho (A Pirate's Life for Me)
Brian Wilson
IN THE KEY OF DISNEY
DISNEY PEARL SERIES 2011

この曲はブライアン・ウィルソンがつくったディズニー関連の曲を集めたアルバムの中の一曲。3つの曲が一緒になっていますが、一曲目がこのYO₋HO、これはディズニーランドのカリブの海賊のテーマソング。あと2つはHeigh-HoとWhistle While You Work(口笛吹いて働こう)。この2曲は1937年に公開された白雪姫の中の音楽、つまりディズニーの古い映画のテーマと新しい映画のテーマを一緒にしちゃったわけです。組み合わせが面白いですよね。
アルバムが出たときは「なんでブライアンがディズニーの曲集を出すわけ?」と首をかしげましたが、 考えてみれば、ウィルソン三兄弟が生れ育ったのはカリフォルニア州のホーソンという街で、アナハイムに近いんです。アナハイムといえば、ディズニーランドがある。子どものころのブライアンはディズニ―ランドに行くのがすごく好きだったみたいです。

 

【挿入曲】
SURFIN' U.S.A.
THE BEACH BOYS
SURFIN' USA
CAPITOL RECORDS 1963

ビーチ・ボーイズはずっと同時代的に聴いてきたわけですが、出会いはもちろんSurfin' USA 。サーフィン・ミュージックというコンセプトがすごくかっこよかった。 しびれました。あれからほとんどしびれっぱなしなんだけど。
しかし、ウィルソン三兄弟のうち、いまブライアンだけが生き残ってこうして熱心に演奏活動をしているというのはちょっと信じられない。すごく不思議な気がします。ブライアンは天才肌で、超センシティブな人で、現実の世界とはうまく折り合いをつけていけないタイプの人だったから、そういう人が生き残るって、すごく不思議だと思いますね。人生ってわからない、本当に。

 

昔から走ることは割に好きだったんです。高校時代、学校で走らされたりするじゃないですか。神戸の学校だったから、六甲の山の上を走るレースが年に1回あるんだけど、僕は結構僕走るんですよね。クラスの女の子とかが道路に沿って並んでて、「何とか君頑張って~」と応援するんだけど、僕には“村上君無理しないで~”とかいうんですよね。それはないだろうと思うんだけどね(笑)。

 

D.B.BLUES
king pleasure
moody's mood for love
初出は1956年のアナログシングル盤
KING PLEASURE AND BAND「D B BLUES / BLUES I LIKE TO HEAR」
Aladdin Records 1956

これはキング・プレジャーのD.B.Blues 。キング・プレジャーはもちろん芸名で、本名はクラレンス・ビークス、かなり田舎くさい名前です。これでは絶対に芽が出ないと考えて、「王様の喜び」という意味のド派手な名前をつけました。 これはジャズでいうボーカリーズ、ジャズの器楽ミュージシャンの演奏やアドリブにそのまま歌詞をつけて歌うタイプの草分けの人です。
ジャズ・テナーのレジェンド、レスター・ヤングが1945年に発表した「DBブルーズ」というブルーズ曲に歌詞をつけて歌ってます。DBというのは、陸軍刑務所(Disciplinary Barracks)のこと。ヤングは実際に麻薬所持の罪で1年間陸軍刑務所にぶち込まれた。これはとても過酷な体験だったようで、それが彼の人生や人柄をずいぶん変えてしまったといいます。曲の終わりのほうでテナーサックスのヒューストン・パースンの、レスター・ヤングばりのがんばったソロが入るんだけど、シングル盤用の録音なので途中でフェード・アウトしてしまう。気の毒です。

 

SKY PILOT
Eric Burdon And The Animals
The Best Of eric burdon and the animals 1966-1968
Polydor 1991


初出は1968年アナログシングル盤,
MGM Recordsこの曲は1968年のヒット曲Sky Pilot。エリック・バードンとジ・アニマルズ。ちょうどベトナム戦争の頃で、ラジオからこの曲が聴こえてくると空気がひりひりするような、独特の皮膚感触がありました。途中で「汝殺すなかれ」というメッセージが入っている反戦歌で、アメリカのラジオでは政治的な理由からあまりかけてもらえなかったようです。演奏時間が7分23秒あり、当時のシングル盤には片面には入り切らないので、A面B面に分けて入っていました。DJが自分でレコードをひっくりかえすので、途中で空白の時間が入ります。でもその空白がいい。
この曲は走りながら聴くのもいいけど、車を運転しながら聴くのが好きです。オープンカーで天気のいい日に屋根を開けて、これを聴いて歌いながら運転するのが好きですね。ディストーションかっこいいです、ジェット機のエンジンみたいで。
後半にはスコットランドの連隊が行進に使うバグパイプが入ります。アニマルズはイギリスのバンドなのでこういうのが入ってきちゃう。パート2は結構好きなことをやってて、破天荒ですよね。

 

質問タイム

【先日、父が「葬儀では“My Way”をかけてほしいと遺言状に書いた」と言ってきました。村上さんが自分の葬儀のときにかけてほしい音楽は何ですか?】

村上:ビー・ジーズの「Night Fever」……というのは、もちろん冗談です(笑)。この「My Way」はあまり好きな曲ではないんですよ。でも、この間アレサ・フランクリンの歌う「My Way」を聴いて、こんないい曲なのかと感動したんです。アレサ・フランクリン、いいですよ。
生きているときにしっかり音楽を聴いたので、死ぬときぐらいは静かなほうがいいですね。(プレイリストを作っておくなどは)うけなかったら嫌だし、マイテープを作って女の子に聴かせてしらけられたとか、ああいうことを繰り返したくないから、死ぬときは静かに死にます(笑)。

【音楽を聴かない時期はありましたか?】

村上:まったく音楽を聴かない時期はなかったですね。僕は、ヨーロッパに2~3年いたことがあるんですけど、そのときはいろんな国といろんな住まいを移り歩いていたので、カセットテープのウォークマンか、ラジカセしかなかったんです。持ち物が何にもなくて気楽でよかったなぁ。
80年代、『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書いていた頃は、ほぼ音楽のない生活をしていました。ただ、朝走るときにウォークマンでペット・ショップ・ボーイズや、デュラン・デュランなんかを聴いていました。だから『ノルウェイの森』の本を見ると、今でもペット・ショップ・ボーイズの「Suburbia」を思い出します。

【「音楽がない世界」と「猫がいない世界」、どちらを選びますか?】

村上:すごく難しい質問ですね。僕はこういう二者択一の質問には、答えないことにしているんです。というのは、軽い気持ちでどちらかを選んだら、本当にそうなっちゃうかもしれない。そしたら後ですごく後悔しますよね。たとえ仮定の質問でも答えないですね。

【バンドを組むならバンド名は何と付けますか?】

村上:バンドを組もうと思ったことがないから、考えたことがないです。ただ、バンドの名前を付けてくれと時々言ってくる人がいるんです。80年代に店をやっていた頃、バンドに名前を付けてくれとよく頼まれました。思いつかなくて「『アース渦巻&ファイアー』はどう?」って言ったら、「バカにしてるでしょう」と怒り出した人もいました。いい名前だと思うんだけど。猫の名前を付けるのも難しいけどバンドの名前も難しいです。
小説家になると思っていなかったので、ペンネームを考えなかったんです。病院なんかで名前を呼ばれることもあるし、ペンネームを作っておけば良かったなと(笑)。

 

WHAT A WONDERFUL WORLD
Joey Ramone
Our Little Corner Of The World: Music From Gilmore Girls
Rhino 2002

あ、ラモーンズのジョイ・ラモーン!これは1968年のヒット曲、ルイ・アームストロングがオリジナルのWhat a Wonderful World。だいたいはみんなバラードで切々と歌いあげる曲なんですが、ジョイ・ラモーンはアップテンポのリズムでやっています。勇敢にもというか、ラモーン関係の人って、こういうリズムでしか歌えないんじゃないかというか……(笑)。

 

Between the Devil and the Deep Blue Sea
George Harrison
BRainWASHED
Universal Music, Dark Horse Records 2002

これはジョージ・ハリスンのBetween the Devil and the Deep Blue Sea、悪魔と深く青い海――。1932年にハロルド・アーレンがつくった古いスタンダードソングですが、曲名の「between the devil and the deep blue sea」は「絶体絶命」とか「進退窮まる」という英語の慣用句です。イギリスの作家テレンス・ラティガンが「深く青い海」という戯曲を書いていて、僕は18歳くらいの時にこの戯曲を読んですごく心を打たれたんです。若い女性が「前から悪魔が迫ってきて、後ろの崖の下に深い海が広がっていたら、自分は深く青い海を選ぶ」と言って自殺をはかります。その戯曲をすごく好きになって、同じタイトルを持つこの曲をよく聴くようになりました。ジョージ・ハリスンはこの曲を2002年の遺作アルバムの中で歌っていますが、本人が弾いているウクレレのイントロ、のんびりとノスタルジックでいいですよね。遺作っぽくなくて、しめっぽくなくてすごく好きです。走るときには本当に気持ちいい。

 

もともと文章家になるつもりはなかったんです。どちらかというと音楽のほうに興味があって、それを仕事にしていたわけ。そういう人間が突然、小説を書いて小説家になったので、誰かの小説技法を学ぶというよりは音楽から入ったというほうが近いですね。リズムとかハーモニー、フリーインプロビゼーションとか。書きながらそういうことを意識して、それこそ踊りながらというか(笑)、フィジカルに書くという傾向が僕の場合は強いと思います。だから僕の本を読みやすいという人がいたら、そういう人たちとは割と音楽的に通じているんじゃないかという気がすごくします。僕は文章の書き方は音楽に学んだと言ってるんです。

 

Knockin' on Heaven's Door
Ben Sidran
Dylan Different
Cd Baby Inc, 2009

これは、ちょっとゆっくり休憩しながら走る感じの曲。
ベン・シドランとはコペンハーゲンのジャズクラブで会って仲良くなったんですよ。カフェ・モンマルトルという古いジャズクラブがあって、ベン・シドランがライブに出ているというので聴きに行ったんだけど、向こうも僕のことをたまたま知っていて、休憩時間に二人でずっと話してました。けっこう趣味が合うんです。好きなピアニストがモーズ・アリソンだったり、セロニアス・モンクのことを話したり。後で日本まで送ってきてくれたCDの中の一枚がボブ・ディランの曲を集めた「Dylan Different」。なかでも、このKnockin' On Heaven's Doorが一番気に入ってます。すごくクールなアレンジですよね。

 

NYなんかのジャズクラブに行くと、なぜか僕の本をよく読んでくれているミュージシャンが多いんです。よく話して、盛り上がりますね。ジャズ・ボーカリストのカート・エリングとかランディ・ウェストンとか、ウェイン・ショーターとも話しましたね。
中学生のときに行ったアート・ブレイキーとザ・ジャズメッセンジャーズのコンサートに出ていましたねと話したら、「お前はいったい何歳なんだ」と言われました(笑)。1963年くらいの話。その頃は外国のミュージシャンなんてほとんど来なかったんです。わからないまま、ただ珍しいから聴きに行ったんですけど、そこで生まれて初めてジャズを聴いて、打たれて、あれで人生が狂わされた(笑)。

 

Knockin' on Heaven's Door
Ben Sidran
Dylan Different
Cd Baby Inc, 2009

これは、ちょっとゆっくり休憩しながら走る感じの曲。
ベン・シドランとはコペンハーゲンのジャズクラブで会って仲良くなったんですよ。カフェ・モンマルトルという古いジャズクラブがあって、ベン・シドランがライブに出ているというので聴きに行ったんだけど、向こうも僕のことをたまたま知っていて、休憩時間に二人でずっと話してました。けっこう趣味が合うんです。好きなピアニストがモーズ・アリソンだったり、セロニアス・モンクのことを話したり。後で日本まで送ってきてくれたCDの中の一枚がボブ・ディランの曲を集めた「Dylan Different」。なかでも、このKnockin' On Heaven's Doorが一番気に入ってます。すごくクールなアレンジですよね。

 

僕が走り始めたころ走っている作家なんかいなかったから、みんなにけっこう馬鹿にされたけど、最近は世の中も変わってきて、作家もよく走っている。僕が一番面白かったのは1984年だったか、アメリカに行って誰にインタビューしたいかと聞かれて、ジョン・アーヴィングがいいといったら、朝セントラルパークをジョギングしているので、走りながらでよければということで、並んで走りながらインタビューしました。あれは面白かったな。

 

下半身が安定しないと文章って書けないんですよ。誰も信じてくれないけど。下半身がしっかりすると上半身がやわらかくなる。そうすると文章がうまく書けるようになるんですよね。フィジカルな能力ってすごく大事なんです。みんな椅子に座って字を書くのは体力いらないだろうと思っているけど、体力がないと2時間も3時間も机に向かって集中して文章を書くことなんてできないんですよね。だから、もう35年間、毎年1回はフルマラソンを走っていますね。

 

LOVE TRAIN
Daryl Hall & John Oates
EARTH GIRLS ARE EASY (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)
Sire, Reprise Records 1989

これね、オージェイズのヒット曲Love Trainをホール&オーツがカバーしたバージョン。これは1989年公開の映画「ボクの彼女は地球人」挿入曲です。原題はEarth Girls Are Easy.。「地球人の女の子はすぐにやらせてくれる」、ひどい題ですよね。でも、そんなに簡単じゃないと宇宙人には言いたいけどね。僕は観たことがないけど、ジーナ・デイビスとジェフ・ゴールドブラムが出演してるから、けっこうちゃんとした映画で面白いのかもしない。もし観た人がいたらどんな映画か教えてください。このバージョンはこのサントラ盤でしか手に入らないと思う。たぶん誰も買わないよね、僕ぐらいしか。

 

Light My Fire
Zacharias
ON THE ROCKS PART ONE
Capitol Records, 1997

初出は1969年リリースの「ZACHARIAS plays THE HITS」(Columbia Records)に収録後テーマの曲は、ドアーズのLight My Fire。
もし僕が野球選手で神宮球場に出るとしたら、テーマはこのLight My Fire。もうこれに決まってるんです。ただ出る話がないだけで(笑)。けっこう脱力感があるでしょ、ジム・モリソンとは違って。ヴァイオリンはドイツ人のヘルムート・ツァハリアス。こういうロック系の曲を演奏するのは珍しいです。

 

村上RADIO、いかがでしたか。
僕は意外にというか、結構楽しかったです。質問をたくさんお寄せいただき、ありがとうございました。
最後になりますが、僕の好きな言葉を一つ引用させてください。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ・ストーンがこんなことを言いました。
「僕はみんなのために音楽をつくるんだ。誰にでも、馬鹿にでもわかる音楽をつくりたい。そうすれば、誰ももう馬鹿ではなくなるから」
いい言葉ですよね。僕はすごく好きです。それでは今日はここまで。またそのうちにお目にかかれるといいですね。
さようなら。

 



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