村上春樹原理主義!

作家・村上春樹にまつわるトピックスや小説世界について、適度な距離を置いて語ります。

「村上RADIO~RUN&SONGS~」inTOKYO FM☆全記録

2018-08-06 22:55:10 | トピックス

 

まさに昨日、8月5日午後7時から、

村上春樹さんのラジオ番組が始まりました。

すでに日は沈んでました。

灼熱の猛暑日の夜。

楽しかったです、心から。

内容を記録します。(TOKYO FM  のネットからの引用です。)

テーマは「僕が走るときに訊いている音楽」

はじまりは……。

 

こんばんは、村上春樹です。ラジオに出演するのは今回が初めてなので、僕の声を初めて聴いたという方もきっとたくさんいらっしゃると思います。
始めまして。
この番組は、僕の好きな曲をかけて、曲と曲との間に少しおしゃべりもします。リスナーからいただいた質問にもお答えして、皆さんと一緒に楽しくひと時を過ごせればと思います。


MADISON TIME

DONALD FAGEN WITH JEFF YOUNG & THE YOUNGSTERS
THE NEW YORK ROCK AND SOUL REVUE - LIVE AT THE BEACON
Giant Records 

1991ドナルド・フェイゲンのMadison Time。
スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが2003年NYでやったライブ。キーボード奏者ジェフ・ヤングのバンドがバックです。これはジャズ・ピアニストのレイ・ブライアントの作曲で、1960年ぐらいにヒットしました。レイ・ブライアントは正統的なジャズ・ピアニストで、マイルズ・デイビスとかソニー・ロリンズなどとも一緒に共演したことがあります。
10代の頃、僕はすごく真面目なジャズ・ファンだったので、あのレイ・ブライアントがどうしてこんなコマーシャルな音楽をやるんだろうと首をひねったんだけど、いまこうして聴くとすごくいいですよね。肩の力が抜けていて、グルーヴィーで。

 

僕はジョギングするときにいつもiPodで音楽を聴いていますが、一台に1000~2000曲入っていて、それを7台ぐらい持ってます。今日はそのラインナップの中から、何曲かお聴かせしたいと思います。
走るときに適した音楽は何かというと「むずしい音楽はだめ」ということですよね。リズムが途中で変わるとすごく走りにくいから一貫したリズムで、できればシンプルなリズムのほうがいい。メロディがすらっと口ずさめて、できることなら勇気を分け与えてくれるような音楽が理想的です。たとえば、そう、こういうのを聴いてみてください。


Heigh-Ho / Whistle While You Work / Yo Ho (A Pirate's Life for Me)
Brian Wilson
IN THE KEY OF DISNEY
DISNEY PEARL SERIES 2011

この曲はブライアン・ウィルソンがつくったディズニー関連の曲を集めたアルバムの中の一曲。3つの曲が一緒になっていますが、一曲目がこのYO₋HO、これはディズニーランドのカリブの海賊のテーマソング。あと2つはHeigh-HoとWhistle While You Work(口笛吹いて働こう)。この2曲は1937年に公開された白雪姫の中の音楽、つまりディズニーの古い映画のテーマと新しい映画のテーマを一緒にしちゃったわけです。組み合わせが面白いですよね。
アルバムが出たときは「なんでブライアンがディズニーの曲集を出すわけ?」と首をかしげましたが、 考えてみれば、ウィルソン三兄弟が生れ育ったのはカリフォルニア州のホーソンという街で、アナハイムに近いんです。アナハイムといえば、ディズニーランドがある。子どものころのブライアンはディズニ―ランドに行くのがすごく好きだったみたいです。

 

【挿入曲】
SURFIN' U.S.A.
THE BEACH BOYS
SURFIN' USA
CAPITOL RECORDS 1963

ビーチ・ボーイズはずっと同時代的に聴いてきたわけですが、出会いはもちろんSurfin' USA 。サーフィン・ミュージックというコンセプトがすごくかっこよかった。 しびれました。あれからほとんどしびれっぱなしなんだけど。
しかし、ウィルソン三兄弟のうち、いまブライアンだけが生き残ってこうして熱心に演奏活動をしているというのはちょっと信じられない。すごく不思議な気がします。ブライアンは天才肌で、超センシティブな人で、現実の世界とはうまく折り合いをつけていけないタイプの人だったから、そういう人が生き残るって、すごく不思議だと思いますね。人生ってわからない、本当に。

 

昔から走ることは割に好きだったんです。高校時代、学校で走らされたりするじゃないですか。神戸の学校だったから、六甲の山の上を走るレースが年に1回あるんだけど、僕は結構僕走るんですよね。クラスの女の子とかが道路に沿って並んでて、「何とか君頑張って~」と応援するんだけど、僕には“村上君無理しないで~”とかいうんですよね。それはないだろうと思うんだけどね(笑)。

 

D.B.BLUES
king pleasure
moody's mood for love
初出は1956年のアナログシングル盤
KING PLEASURE AND BAND「D B BLUES / BLUES I LIKE TO HEAR」
Aladdin Records 1956

これはキング・プレジャーのD.B.Blues 。キング・プレジャーはもちろん芸名で、本名はクラレンス・ビークス、かなり田舎くさい名前です。これでは絶対に芽が出ないと考えて、「王様の喜び」という意味のド派手な名前をつけました。 これはジャズでいうボーカリーズ、ジャズの器楽ミュージシャンの演奏やアドリブにそのまま歌詞をつけて歌うタイプの草分けの人です。
ジャズ・テナーのレジェンド、レスター・ヤングが1945年に発表した「DBブルーズ」というブルーズ曲に歌詞をつけて歌ってます。DBというのは、陸軍刑務所(Disciplinary Barracks)のこと。ヤングは実際に麻薬所持の罪で1年間陸軍刑務所にぶち込まれた。これはとても過酷な体験だったようで、それが彼の人生や人柄をずいぶん変えてしまったといいます。曲の終わりのほうでテナーサックスのヒューストン・パースンの、レスター・ヤングばりのがんばったソロが入るんだけど、シングル盤用の録音なので途中でフェード・アウトしてしまう。気の毒です。

 

SKY PILOT
Eric Burdon And The Animals
The Best Of eric burdon and the animals 1966-1968
Polydor 1991


初出は1968年アナログシングル盤,
MGM Recordsこの曲は1968年のヒット曲Sky Pilot。エリック・バードンとジ・アニマルズ。ちょうどベトナム戦争の頃で、ラジオからこの曲が聴こえてくると空気がひりひりするような、独特の皮膚感触がありました。途中で「汝殺すなかれ」というメッセージが入っている反戦歌で、アメリカのラジオでは政治的な理由からあまりかけてもらえなかったようです。演奏時間が7分23秒あり、当時のシングル盤には片面には入り切らないので、A面B面に分けて入っていました。DJが自分でレコードをひっくりかえすので、途中で空白の時間が入ります。でもその空白がいい。
この曲は走りながら聴くのもいいけど、車を運転しながら聴くのが好きです。オープンカーで天気のいい日に屋根を開けて、これを聴いて歌いながら運転するのが好きですね。ディストーションかっこいいです、ジェット機のエンジンみたいで。
後半にはスコットランドの連隊が行進に使うバグパイプが入ります。アニマルズはイギリスのバンドなのでこういうのが入ってきちゃう。パート2は結構好きなことをやってて、破天荒ですよね。

 

質問タイム

【先日、父が「葬儀では“My Way”をかけてほしいと遺言状に書いた」と言ってきました。村上さんが自分の葬儀のときにかけてほしい音楽は何ですか?】

村上:ビー・ジーズの「Night Fever」……というのは、もちろん冗談です(笑)。この「My Way」はあまり好きな曲ではないんですよ。でも、この間アレサ・フランクリンの歌う「My Way」を聴いて、こんないい曲なのかと感動したんです。アレサ・フランクリン、いいですよ。
生きているときにしっかり音楽を聴いたので、死ぬときぐらいは静かなほうがいいですね。(プレイリストを作っておくなどは)うけなかったら嫌だし、マイテープを作って女の子に聴かせてしらけられたとか、ああいうことを繰り返したくないから、死ぬときは静かに死にます(笑)。

【音楽を聴かない時期はありましたか?】

村上:まったく音楽を聴かない時期はなかったですね。僕は、ヨーロッパに2~3年いたことがあるんですけど、そのときはいろんな国といろんな住まいを移り歩いていたので、カセットテープのウォークマンか、ラジカセしかなかったんです。持ち物が何にもなくて気楽でよかったなぁ。
80年代、『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書いていた頃は、ほぼ音楽のない生活をしていました。ただ、朝走るときにウォークマンでペット・ショップ・ボーイズや、デュラン・デュランなんかを聴いていました。だから『ノルウェイの森』の本を見ると、今でもペット・ショップ・ボーイズの「Suburbia」を思い出します。

【「音楽がない世界」と「猫がいない世界」、どちらを選びますか?】

村上:すごく難しい質問ですね。僕はこういう二者択一の質問には、答えないことにしているんです。というのは、軽い気持ちでどちらかを選んだら、本当にそうなっちゃうかもしれない。そしたら後ですごく後悔しますよね。たとえ仮定の質問でも答えないですね。

【バンドを組むならバンド名は何と付けますか?】

村上:バンドを組もうと思ったことがないから、考えたことがないです。ただ、バンドの名前を付けてくれと時々言ってくる人がいるんです。80年代に店をやっていた頃、バンドに名前を付けてくれとよく頼まれました。思いつかなくて「『アース渦巻&ファイアー』はどう?」って言ったら、「バカにしてるでしょう」と怒り出した人もいました。いい名前だと思うんだけど。猫の名前を付けるのも難しいけどバンドの名前も難しいです。
小説家になると思っていなかったので、ペンネームを考えなかったんです。病院なんかで名前を呼ばれることもあるし、ペンネームを作っておけば良かったなと(笑)。

 

WHAT A WONDERFUL WORLD
Joey Ramone
Our Little Corner Of The World: Music From Gilmore Girls
Rhino 2002

あ、ラモーンズのジョイ・ラモーン!これは1968年のヒット曲、ルイ・アームストロングがオリジナルのWhat a Wonderful World。だいたいはみんなバラードで切々と歌いあげる曲なんですが、ジョイ・ラモーンはアップテンポのリズムでやっています。勇敢にもというか、ラモーン関係の人って、こういうリズムでしか歌えないんじゃないかというか……(笑)。

 

Between the Devil and the Deep Blue Sea
George Harrison
BRainWASHED
Universal Music, Dark Horse Records 2002

これはジョージ・ハリスンのBetween the Devil and the Deep Blue Sea、悪魔と深く青い海――。1932年にハロルド・アーレンがつくった古いスタンダードソングですが、曲名の「between the devil and the deep blue sea」は「絶体絶命」とか「進退窮まる」という英語の慣用句です。イギリスの作家テレンス・ラティガンが「深く青い海」という戯曲を書いていて、僕は18歳くらいの時にこの戯曲を読んですごく心を打たれたんです。若い女性が「前から悪魔が迫ってきて、後ろの崖の下に深い海が広がっていたら、自分は深く青い海を選ぶ」と言って自殺をはかります。その戯曲をすごく好きになって、同じタイトルを持つこの曲をよく聴くようになりました。ジョージ・ハリスンはこの曲を2002年の遺作アルバムの中で歌っていますが、本人が弾いているウクレレのイントロ、のんびりとノスタルジックでいいですよね。遺作っぽくなくて、しめっぽくなくてすごく好きです。走るときには本当に気持ちいい。

 

もともと文章家になるつもりはなかったんです。どちらかというと音楽のほうに興味があって、それを仕事にしていたわけ。そういう人間が突然、小説を書いて小説家になったので、誰かの小説技法を学ぶというよりは音楽から入ったというほうが近いですね。リズムとかハーモニー、フリーインプロビゼーションとか。書きながらそういうことを意識して、それこそ踊りながらというか(笑)、フィジカルに書くという傾向が僕の場合は強いと思います。だから僕の本を読みやすいという人がいたら、そういう人たちとは割と音楽的に通じているんじゃないかという気がすごくします。僕は文章の書き方は音楽に学んだと言ってるんです。

 

Knockin' on Heaven's Door
Ben Sidran
Dylan Different
Cd Baby Inc, 2009

これは、ちょっとゆっくり休憩しながら走る感じの曲。
ベン・シドランとはコペンハーゲンのジャズクラブで会って仲良くなったんですよ。カフェ・モンマルトルという古いジャズクラブがあって、ベン・シドランがライブに出ているというので聴きに行ったんだけど、向こうも僕のことをたまたま知っていて、休憩時間に二人でずっと話してました。けっこう趣味が合うんです。好きなピアニストがモーズ・アリソンだったり、セロニアス・モンクのことを話したり。後で日本まで送ってきてくれたCDの中の一枚がボブ・ディランの曲を集めた「Dylan Different」。なかでも、このKnockin' On Heaven's Doorが一番気に入ってます。すごくクールなアレンジですよね。

 

NYなんかのジャズクラブに行くと、なぜか僕の本をよく読んでくれているミュージシャンが多いんです。よく話して、盛り上がりますね。ジャズ・ボーカリストのカート・エリングとかランディ・ウェストンとか、ウェイン・ショーターとも話しましたね。
中学生のときに行ったアート・ブレイキーとザ・ジャズメッセンジャーズのコンサートに出ていましたねと話したら、「お前はいったい何歳なんだ」と言われました(笑)。1963年くらいの話。その頃は外国のミュージシャンなんてほとんど来なかったんです。わからないまま、ただ珍しいから聴きに行ったんですけど、そこで生まれて初めてジャズを聴いて、打たれて、あれで人生が狂わされた(笑)。

 

Knockin' on Heaven's Door
Ben Sidran
Dylan Different
Cd Baby Inc, 2009

これは、ちょっとゆっくり休憩しながら走る感じの曲。
ベン・シドランとはコペンハーゲンのジャズクラブで会って仲良くなったんですよ。カフェ・モンマルトルという古いジャズクラブがあって、ベン・シドランがライブに出ているというので聴きに行ったんだけど、向こうも僕のことをたまたま知っていて、休憩時間に二人でずっと話してました。けっこう趣味が合うんです。好きなピアニストがモーズ・アリソンだったり、セロニアス・モンクのことを話したり。後で日本まで送ってきてくれたCDの中の一枚がボブ・ディランの曲を集めた「Dylan Different」。なかでも、このKnockin' On Heaven's Doorが一番気に入ってます。すごくクールなアレンジですよね。

 

僕が走り始めたころ走っている作家なんかいなかったから、みんなにけっこう馬鹿にされたけど、最近は世の中も変わってきて、作家もよく走っている。僕が一番面白かったのは1984年だったか、アメリカに行って誰にインタビューしたいかと聞かれて、ジョン・アーヴィングがいいといったら、朝セントラルパークをジョギングしているので、走りながらでよければということで、並んで走りながらインタビューしました。あれは面白かったな。

 

下半身が安定しないと文章って書けないんですよ。誰も信じてくれないけど。下半身がしっかりすると上半身がやわらかくなる。そうすると文章がうまく書けるようになるんですよね。フィジカルな能力ってすごく大事なんです。みんな椅子に座って字を書くのは体力いらないだろうと思っているけど、体力がないと2時間も3時間も机に向かって集中して文章を書くことなんてできないんですよね。だから、もう35年間、毎年1回はフルマラソンを走っていますね。

 

LOVE TRAIN
Daryl Hall & John Oates
EARTH GIRLS ARE EASY (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)
Sire, Reprise Records 1989

これね、オージェイズのヒット曲Love Trainをホール&オーツがカバーしたバージョン。これは1989年公開の映画「ボクの彼女は地球人」挿入曲です。原題はEarth Girls Are Easy.。「地球人の女の子はすぐにやらせてくれる」、ひどい題ですよね。でも、そんなに簡単じゃないと宇宙人には言いたいけどね。僕は観たことがないけど、ジーナ・デイビスとジェフ・ゴールドブラムが出演してるから、けっこうちゃんとした映画で面白いのかもしない。もし観た人がいたらどんな映画か教えてください。このバージョンはこのサントラ盤でしか手に入らないと思う。たぶん誰も買わないよね、僕ぐらいしか。

 

Light My Fire
Zacharias
ON THE ROCKS PART ONE
Capitol Records, 1997

初出は1969年リリースの「ZACHARIAS plays THE HITS」(Columbia Records)に収録後テーマの曲は、ドアーズのLight My Fire。
もし僕が野球選手で神宮球場に出るとしたら、テーマはこのLight My Fire。もうこれに決まってるんです。ただ出る話がないだけで(笑)。けっこう脱力感があるでしょ、ジム・モリソンとは違って。ヴァイオリンはドイツ人のヘルムート・ツァハリアス。こういうロック系の曲を演奏するのは珍しいです。

 

村上RADIO、いかがでしたか。
僕は意外にというか、結構楽しかったです。質問をたくさんお寄せいただき、ありがとうございました。
最後になりますが、僕の好きな言葉を一つ引用させてください。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ・ストーンがこんなことを言いました。
「僕はみんなのために音楽をつくるんだ。誰にでも、馬鹿にでもわかる音楽をつくりたい。そうすれば、誰ももう馬鹿ではなくなるから」
いい言葉ですよね。僕はすごく好きです。それでは今日はここまで。またそのうちにお目にかかれるといいですね。
さようなら。

 


8月にTOKYO FMで「村上RADIO」が放送される

2018-06-05 22:37:04 | トピックス

まだ先の話ですが、8月5日に

村上春樹が初DJをつとめる番組が放送されるそうです。

番組名は「村上RADIO~RUN&SONGS~」

時間は夜の7時から55分間。

 

iPodやCD、レコードを持ち込んで

ご自分で選曲するそうです。

どんな話が聴けて、どんな曲が流されるんでしょうね。

それに、いったい、どんな話し方なんでしょう!

いやあ、楽しみです。

 

きっとラフな感じの番組ながら、

55分のなかに物語が流れるのではないか

なんて期待してしまいます。

下に紹介するのは

村上春樹さんの初ラジオDJに向けてのコメント

★小さい頃から、レコード(とかCD)のコレクションが趣味で、おかげでうちにはそういうものが溢れかえっているんですが、「こんな素敵な音楽をいつも僕ひとりで聴いて、気持ちの良い時間を送っていて、世の中になんか申し訳ないよな」とよく思っていました。ときにはいろんな人たちと適当におしゃべりをしながら、ワイン・グラスやコーヒー・カップを手に、心地よい時間を分け合うのもいいかもしれない。

ラジオでディスクジョッキーみたいなのをやってみようかという気になったのは、そういうところが原点になっています。だから僕の好きな音楽ソースをうちから持ってきて、それを好きなようにかけて、そのあいだに好きなことを話させていただく……そんな感じのパーソナルな番組にできればと思っています。

他の番組ではあまり(まず)聴けないような曲を、でもできるだけ寛いで聴ける音楽を選んでかけていきたいと思います。むずかしいことはほとんど抜きで。そしてその合間にちょっとしたお話もできればなと思っています。楽しんでください。

 

 


『騎士団長殺し』の中で秋川まりえと伯母の笙子にふるまったアスパラガスとベーコンのパスタ

2017-05-05 22:46:04 | harukiグルメ

小田原郊外の山頂の家に住む『騎士団長殺し』の主人公は、週に一度、まとめて料理の下ごしらえをします。

そして、つくったものを冷蔵したり冷凍したりして、あとの一週間はただそれを食べて暮らすのです。 
「私」が秋川まりえの肖像画を引き受けてから、伯母と姪の二人は毎週日曜に「私」の元にモデルになるために通ってきます。
二回目の日曜、「私」は「もしよかったら、食事でもしていきませんか?」と二人を食事に誘います。
そのときに「私」がつくったのはアスパラガスとベーコンのパスタ。 

私は台所で湯を沸かし、アスパラガスとベーコンでつくったソースをソースパンであたため、レタスとトマトとタマネギとピーマンのサラダをつくった。湯が沸くとパスタを茹でて、そのあいだにパセリをみじん切りにした。冷蔵庫からアイスティーを出して、グラスに注いだ。

 
きっと「アスパラガスとベーコンでつくったソース」というのは、週に一回の料理日につくって冷凍しておいたものなのでしょうね。
いかにも手際よさそうです。
どんな味なのでしょう。ニンニクを効かせているのかな。
ぺペロンチーノ風なのでしょうか。
それともクリームソース?
伯母にあたる秋川笙子が「あとでソースのレシピを教えてほしい」と言ったと書いてあります。
笙子さんでなくても、レシピ、教えてほしいものです。 

村上春樹さんが『騎士団長殺し』について語りました!

2017-04-02 22:23:18 | トピックス

4月2日付の朝日新聞の朝刊に、村上春樹さんへのインタビューが掲載されました。

どんなことが書いてあるかというと……


この小説はまず「騎士団長殺し」というタイトルが最初にあったのだそうです。

モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」を聞くたびに

そこに出てくる「騎士団長」って何だろうと思っていたのだとか。


続編を期待する人も多いらしいけど、それに対しては

「なんとも言えない、時間をおかないとわからない」と述べています。

 

「物語は即効力を持たないけれど

時間を味方にして必ず人に力を与えると、僕は信じている。

そして、できればよい力を与えられたらいいなと希望しています」

村上春樹さんは、インタビューの中でそう語っています。

 

インタビューを受けたということは、現在は日本にいるんでしょう。

出版後初めての声を聞けるのはうれしいですね。

続編、出るのでしょうかね?

 

以下は朝日新聞のインタビュー記事【引用】

★「騎士団長殺しというタイトルが、まず最初にあったんです」。この奇妙な題名の小説について、村上さんはそう切り出した。

 騎士団長は、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」の登場人物。「聴くたびに、騎士団長って何だろうって思ってたんです。僕は言葉の感触の奇妙さにひかれる。騎士団長殺しっていう小説があったらどういう話になるだろう、という好奇心が頭をもたげる」

 語り手の「私」は無名の画家。もともと村上作品は「僕」という一人称の語りが定番だった。だが、『海辺のカフカ』で一人称と三人称を併用し、『1Q84』で純粋な三人称に移行した。そのなかで小説の幅を広げてきた経緯がある。

 「でも『1Q84』を書ききって、また一人称に戻りたい気持ちがあった」と村上さん。「ただ『僕』からは離れようと。『私』という新しい一人称になって、主人公のある種の成熟を感じています」

 執筆時、過去の作品と比べて技術的に向上していることを実感したという。

 「『世界の終(おわ)りとハードボイルド・ワンダーランド』は、もどかしかった。物語はどんどん湧いてくるけど、それを制御する文体がなかったから。『ノルウェイの森』をリアリズムで書ききったのが転換点。そのあとの『ねじまき鳥クロニクル』で、リアリズムと非リアリズムのかみ合わせが、初めてうまくいった」

 その『ねじまき鳥クロニクル』から、はや20年以上。「自分で言うのも何だけれど、20年の差を感じた。昔書けなかったことが書ける手応えがある」

 物語は「むろ」という子の誕生とともに結末を迎える。やはり妻がいなくなる物語だった『ねじまき鳥クロニクル』には、なかった展開だ。「僕はこれまで、家族を書いてこなかった。でも今回は、一種の家族という機能がここで始まる」

 村上作品は失われたもの、消えてしまったものを描いていると言われてきた。でも今作には、その一歩先に歩みを進めたような印象がある。

 「僕自身が年をとってきたからかもしれないけど、何かを引き継いでほしいという気持ちがあるんです。それが何なのか、自分でもよくわからないけれど」

 続編を期待する声は多い。「うーん。『ねじまき鳥クロニクル』も『1Q84』も続きはないって言って書いちゃったから、何とも言えないですよ。時間をおかないと、わからない」

 今回の小説は、東日本大震災より前の9カ月間を、震災後の未来から回想する設定。村上さんは作品執筆中だった一昨年の秋、福島県で開かれた文学イベントに参加した際に、東北の沿岸を一人、車で走った。「この物語の中の人は、いろいろな意味で傷を負っている。日本という国全体が受けた被害は、それとある意味で重なってくる。小説家はそれについて、あまり何もできないけれど、僕なりに何かをしたかった」

 人類が負った戦争という深い傷も、重要な意味を持つ。ナチスのオーストリア併合と日本軍による南京大虐殺、西洋と東洋でほぼ同時期に起こった暴力が、謎の絵を描いた老画家と、次第に結びついていく。「歴史は集合的な記憶だから、過去のものとして忘れたり、作り替えたりすることは間違ったこと。責任を持って、すべての人が背負っていかなければならないと思う」

 昨年デンマークで開かれたハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞の授賞式で、「どれほど高い壁を築いて侵入者を防ごうとしても、そのような行為は我々自身を損ない、傷つけるだけ」と語った。

 「最近世界各地で見られる、異物を排除すれば世の中よくなるという考え方へのおそれが、すごく強い。社会の影の部分を何でも排除しようという流れが強くなってる。ただ僕はそういうことを、政治的なステートメントとしてはあまり言いたくない。物語という形で語っていきたいんです」

 「長編小説はツイッターとかフェイスブックみたいな、いわゆるSNSとは対極にある。短い発信ばかりが消費されていくのが今の時代。読み始めたらやめられないものを書くのが、僕には大事なことです」。村上さんはそう語った。

 「物語は即効力を持たないけれど、時間を味方にして必ず人に力を与えると、僕は信じている。そして、できればよい力を与えられたらいいなと希望しています」(柏崎歓)


『騎士団長殺し』の主人公には名前がない?

2017-03-20 08:20:17 | 小説世界
ちょっと意味深な導入部分が冒頭にある小説ですが
それを過ぎると
 
 その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入口近くの山の上に住んでいた。 
 
というさりげない語り口で、なじみ深い空間に入っていくかのように物語に引き込まれることになります。
 
 「私」という人物が語る小説世界です。
 
 そして、興味深く読み終わり「面白かったー」とため息をつくのですが、
その感想を人に話そうと思ったときに、はたと気が付くのです。
 主人公である「私」には名前がない!!
 
 これまで『1Q84』は天吾と青豆という主人公がいました。 
『海辺のカフカ』の「僕」には、本名ではないらしいけれど、田村カフカという名前があります。 
『色彩を持たないむ多崎つくると、彼の巡礼の年』の主人公は、
タイトルにうたわれているとおり、多崎つくるという名前を持っています。
 
 でもこの『騎士団長殺し』の主人公には名前がつけられていない!
 (もし「いや違う、この部分に名前がちゃんと出てるじゃないか」と見つけられた方がいたら、
教えてください。 よろしくお願いします) 
 
なぜ名前をつけなかったのでしょう? 
もちろん意図的な仕掛けだと思います。 
読み終わってもしばらく名前がないことに気づかないくらい、自然な感じで物語は語られます。 
そこには、作家としてのなにがしかの工夫があるのでしょう。 
 
「私」に名前をつけなかったのは、名前をつけることによって
「個人」としてのフレームが出来上がるのを嫌ったからではないか。 
名前をつけないことで「私」はどこまでも拡がっていける。そういう可能性を求めたからではないか。
それこそ、私の意識の中であれば、どんなことでも不自然ではなく、可能になるからではないか。 
僭越だけどそんなことを感じます。
 
短編小説なら、名前をもたない語り手というのもよくある話ですが、
これだけ長い小説となると、どうしても村上春樹さんの書き手としての意図を感じざるを得ません。 
これって、考えすぎでしょうか?

『騎士団長殺し』のなかで免色氏がつくった「完璧なオムレツ」

2017-03-17 21:44:00 | harukiグルメ
話は『騎士団長殺し』の後半の後半。
 飲まず食わずで疲弊しきった主人公の「私」に 免色氏がつくってくれたのが
オムレツだったという話です。 
 
ちなみに免色氏は谷間を隔てたゴージャスな邸宅に住む隣人の男性です。 
さて、ギリギリの状態で助け出された「私」にまず差し出されたのは、 
ミネラルウォーターでした。 
それから、リンゴの皮を剥いたものを3個か4個。
 次にクラッカー。 
そして蜂蜜入りの紅茶。 
最後に冷蔵庫を覗いて作ってくれたのがオムレツでした。 
 
免色は冷蔵庫から卵を四つ取り出し、ボウルの中に割り、箸で素速くかき混ぜ、そこにミルクと塩と胡椒を加えた。そしてまた箸でよくかき回した。馴れた手つきだった。それからガスの火をつけ、小型のフライパンを熱し、そこにバターを薄く引いた。抽斗の中からフライ返しをみつけ、手際よくオムレツをつくった。 
 
 
「私」が予想したとおり、免色氏のオムレツは完璧でした。
「そのまま料理番組に出してもいいくらいだ」と「私」は考えます。 
オムレツは皿に移され、ケチャップと共に「私」の前に供されます。 
 
「完璧なオムレツだ」と私は言った。 
 
 
免色氏はなにもかも見事にスマートで手抜かりなく、効率よく、繊細な手際の持主。 
その彼は、どのような形で物語に絡んでいくのでしょうね。 
それは本を読んでのお楽しみということで。  

町の書店の『騎士団長殺し』特設コーナー

2017-02-25 20:24:43 | トピックス

近くでは一番大きな本屋さんでも、

『騎士団長殺し』はこんなふうに特設コーナーを設け
並べられていました。

店の人によると、売れてるそうですよ。
自分で書店に出向いて、
手にとって買う人多いのではないかなと推察します。
そのほうが、買ったという実感がありますから。

本を手にとって開いてみると、目次がいいです。

①もし表面が曇っているようであれば
②みんな月に行ってしまうかもしれない
③ただの物理的な反射にすぎない
④遠くから見ればおおかたのものごとは美しく見える
⑤息もこときれ、手足も冷たい
⑥今のところは顔のない依頼人です
⑦良くも悪くも覚えやすい名前
⑧かたちを変えた祝福
⑨お互いのかけらを交換し合う
⑩僕らは高く繁った緑の草をかき分けて
⑪月光がそこにあるすべてをきれいに照らしていた
⑫あの名もなき郵便配達夫のように
⑬それは今のところただの仮説に過ぎません
⑭しかしここまで奇妙な出来事は初めてだ
⑮これはただの始まりに過ぎない


第1部だけでも目次は32個もあります。
いったいどういう内容なのでしょうね。

読んでしまったら、もう自分にとって未読ではなくなるので

もったいなくて、まだ読めません。

今日は『騎士団長殺し』の発売日!

2017-02-24 11:37:13 | トピックス

本日発売! です。

朝日新聞朝刊の2面の下段に、色刷りの広告が出ていました。

 

第一部「顕れるイデア編」

第二部「遷ろうメタファー編」

 

広告のコピーはこうです。

 

7年ぶりの本格長編

 

それは孤独で

静謐な日々であるはずだった。

騎士団長が顕れるまでは──

 

☆広告の中のコピーだけど、以下は多分本文からの抜粋

 

今のところは顔のない依頼人です

何かが起ころうとしている

勇気のある賢い女の子にならなくてはならない

今が時だ

死が二人を分かつまでは

しかしここまで奇妙な出来事は初めてだ

 

いったい本の中で何が起きたのでしょうね!

知りたい。

知りたいです。

 

しかし、アマゾンなどに出回っていた本の装丁は

ダミーだったんですね。

どこまでも、新作の内容は秘密だったわけです。

なかなか…。


村上春樹の新作の英語タイトルは『Killing Commendatore』

2017-01-26 21:34:47 | トピックス
HARUKI MURAKAMI’s latest book is going to be published in Japan,at 2017.2.24.
The novel is called "Killing Commendatore". 
 

村上春樹の新しい小説『騎士団長殺し』の英語タイトルは、 

『Killing Commendatore』だそうです。

作家の千葉望さんという方は、

以下のようにツイートしておられます。

★村上春樹の新作が『騎士団長殺し』と聞き、どうしてもモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の騎士長を思い出してしまう。娘を取り戻そうとしてドン・ジョヴァンニに殺されるも、最後には亡霊となって彼を地獄に引き込む役。それとはぜんぜん関係ないのかしら。★

どうなんでしょうね?


新作はまだ予約段階にも関わらず

アマゾンのランキングでは、今日現在、3位と5位につけています。

新潮社では、第1部、第2部とも初版50万部で発売というからスゴイ!

本が売れないと言われている昨今、

村上春樹さんがどうしてこんなに売れるのか。

期待値が高く、知名度も高く、

そして常に読者の期待を裏切らない作品を提供し続けてきた

というのがその理由でしょうか?

こういう前評判であるからには、超絶面白い内容を期待します。


満を持しての長編小説でしょうから

きっと面白いに違いにないと、ワクワク感が膨らみます。


ああでも、村上春樹さんご本人は、本当に受けるだろうかと、

きっと緊張しておられるでしょうね?

 


村上春樹の『職業としての小説家』で語られる「物語」について

2017-01-18 21:32:10 | 村上春樹のエッセイ

村上春樹さんの『職業としての小説家』を読みました。

作家・村上春樹がいかにして誕生したか、

いかにして小説を書いているか、

というようなことが書かれています。

 

いつも思うことですが、

村上春樹にはブレがない。

その思考をたどっていくと、

きちんと着地させてくれるところがありがたい。

結論が明らかとか、論理が鮮明とかいうのではなく

ストンと心に落ちる、という感覚です。

だから、村上春樹のエッセイは、

読む喜びがあるのだと思います。

 

12の文章で構成されていて、

どれも面白いですが、

第十二回の「物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出」で

物語について語られているところに

興味を惹かれました。

 

村上春樹は河合先生と、「物語というコンセプト」を共有していた

と村上春樹さんは語ります。

 

~物語というのはつまり人の魂の奥底にあるものです。

人の魂の奥底にあるべきものです。

それは魂のいちばん深いところにあるからこそ、

人と人とを根元でつなぎ合わせられるものなのです。

僕は小説を書くことによって、日常的にその場所に降りていくことになります。

河合先生は臨床家としてクライアントと向き合うことによって、

日常的にそこに降りていくことになります。

あるいは降りていかなくてはなりません。

河合先生と僕とはたぶんそのことを「臨床的に」理解しあっていた

──そういう気がするんです。

 

ここで村上春樹さんのいう物語について、余計な説明をくわえるのは

やめておこうと思います。

おぼろげながらイメージはあるけれど、

人によって受け取り方も、理解する基準点も違うでしょうから

余計なお世話になりそう。

 

でも、読者も著者が書き表したテキスト(物語)を読むことで

物語を共有することができるということですよね。

 

なんにしても、読み応えのあるエッセイ集、あるいは思想本でした。

 

村上春樹さんが六十代にならんとする辺りから出版されたエッセイ集は

★『走ることについて語るときに僕が語ること』

★『小澤征爾さんと、音楽についての話をする』

いずれも深い考察と、

それと併走するように見え隠れする村上春樹さんの活動が

リズムよく語られ、

読むことで、とても高い領域に連れていってもらえる気がします。

生きていることに嬉しさがともなうような、

そういう読中・読後感があるのが、

とてもいいなと思います。


今度は『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』が読みたくなりました。