冥土院日本(MADE IN NIPPON)

美味しい色ってどんな色?

前回の続きです。今回は私の体験的懺悔録です。


●美味しい色ってどんな色?

20代後半の頃、私はCMの企画と演出の仕事をしていた。ある日のこと、大手ハムメーカーのCM演出依頼があった。演出家としてはまだ駆け出しだった私にとって、大手メーカーの仕事は願ってもないチャンスであった。私はこの作品に全力投球で取り組んだ。撮影前日のこと、プロダクションマネージャーのN君とオフィスで最終確認の打ち合わせを行っていた。

「撮影商品のウインナーはもう届いたの?」
「届いてますよ。生ものですからオフィスの冷蔵庫に保管してあります。持ってきましょうか?」
「いや、自分で見てくるから、わざわざ持ってこなくてもいいよ」

私は冷蔵庫のドアを開けて、思わず笑ってしまった。ウインナーが入った箱の表に、骸骨マークの絵と「撮影用商品、猛毒!食べるな!!」と書かれた張り紙がしてあったのだ。その冷蔵庫にはもらい物のビールや清涼飲料水がいつも入れてあり、スタッフは自由に飲んで良かった。撮影用の大事な商品をビールのつまみに食べられては困ると考えたN君のジョークだと思った。

「ジョークとしては面白いけど、ちょっとオーバーじゃないの」
私が笑いながら言うと、N君は真顔になって答えた。
「あれオーバーじゃないんですよ。撮影用のために発色材が多目に入れてあるらしくて、食べると死ぬから保管は厳重にと、担当者からしつこく言われたんですよ」

食品のCMの基本はシズル感にある。如何に美味しく、新鮮に商品を見せるかが肝となる。CMはフイルムで撮影され、テレビの画面を通して視聴者の目に触れる。そのため実際の商品の色とは違って見える事がある。そのあたりを熟知しているメーカーは美味しい色に見えるように、発色材を多めに入れた撮影用商品をわざわざ用意していたのだった。


●青酸カりに匹敵する毒性

私が愕然としたのは、そんな危険な発色材が微量とはいえ、普段私達が頻繁に食べている食品に含まれていることだった。私は本屋に飛び込み、食品添加物の本を買い求めた。

発色材の代表的なものは「亜硝酸ナトリウム」である。ハム、ソーセージ、いくら、筋子、たらこ、明太子などの加工食品には、変色を防ぐ為に使われている。「亜硝酸ナトリウム」は急性毒性が強い。劇毒物でよく知られた「青酸カリ」の推定致死量(成人)の0.2g~0.3gに対し、「亜硝酸ナトリウム」の推定致死量はなんと0.182g~0.25g。「青酸カリ」に匹敵する強烈な毒性をもっていたのだ。

※致死量参考HP
医薬品情報21 http://www.drugsinfo.jp/contents/data/sa/dase2.html
ニュースジャパン http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=82

「いくら法律で許可された基準値内とはいえ、これは純然たる毒薬ではないか」
「こんなものが入っている商品なのに、『美味しいですよ』とか『食べて健康家族』などいう無責任なCMを作っていいのか・・・」私は明日の撮影を控えて暗澹たる気分になった。

この出来事を契機に、なぜか食品や酒類の仕事が続いた。詳しく調べてみると、それらも多くの危険な添加物が含まれていた。そればかりでない。飲食物以外のCM商品も、消費者にとって本当に良いと思われるものは少なかった。CMで消費者を欺くことに耐えきれなくなった私は、CM制作の仕事と縁を切った。

コメント一覧

たけぴょん
対応どうも。
http://jikken.jp
対応ありがとうございます。

検索中よらせて頂きました、少々前の記事なのでどうしようかと思いましたが、数字が大幅に違っていると記事の信憑性に疑問が出てきてしますと思い書かせていただきました。
50%致死量で表示されたいたり、、。
実験動物が違うと全く結果が違ったりなどなど。
例えばある合成甘味剤(ダイエット甘味料として使われています)などは人体にはあなり影響ありませんが犬には大変な影響を与えます。
関係ないですね、大変失礼しました。
フォトン
ご指摘ありがとうございます。
随分と前のことなので食品添加物に関する書籍は手元にありませんでしたので、数値に関しては下記のサイトを参考にさせて頂きました。
●野菜日記(農健クラブ)
http://oisi-yasai.jugem.jp/?eid=62
良く調べますと0.077gはラットに対する体重1kg当りの致死量のようです。その表示がなかったので誤認いたしました。上記のように訂正させて頂きました。
たけぴょん
「亜硝酸ナトリウム」の致死量はなんと0.077g 出典は
http://jikken.jp
>「亜硝酸ナトリウム」の致死量はなんと0.077g
上記の出典を示して下さい。
致死量の算定は難しいのですが誤認識の可能性があります。

WHOでは単独致死量で4gと規定。
多くのホームページでは0.18g
あの「買ってはいけない」でも0.18~2.5g
と記載されています。
確かに安全はものでは無いのですが量の問題は重要です。
その基準に誤認識があっては意味が薄くなってしまいます。

>「いくら法律で許可された基準値内とはいえ、これは純然たる毒薬ではないか」
ふぐの毒素の致死量を調べてみてください。
「いくら除去されているといっても、化学兵器レベルなみの毒性である。」
というような事が言えてしまいます。
フォトン
広告裏事情
広告プランやマーケティングプランを提案する為に、広告マンはクライアントの業界事情や製品に関する様々な情報を調べます。オープンデータだけでは分からない部分は、クライアントと同業種に在籍する友人、知人等から、一般情報や裏情報を取材することもあります。

また仕事を通じ、クライアントとの関係が深くなればなるほど、酒の席などで裏話や裏事情を聞く機会が増えてきます。お友達も色々と情報をお持ちかもしれませんよ。

カンヌCM映画祭で日本人受賞者第一号となった、杉山登志さんという演出家がいました。「若きCMの天才ディレクター」と呼ばれながら、不幸にも自殺という形で、その生涯を閉じました。遺書には次のように書かれていたそうです。

「リッチでないのにリッチな世界などわかりません。
ハッピーでないのにハッピーな世界など描けません。
夢がないのに、夢を売ることなどは……とても。
嘘をついてもばれるものです」

学生時代、遺書の話を初めて聞いた時、杉山さんの死の理由を深く理解できませんでした。しかし、この体験で、杉山さんの悩みの深さを少しは理解できたような気がしました。

りゅう
怖い話
そんじょそこらの怪談よりも怖い話です。
明日、大学時代の友人と集まるのですが、一人が業界2位の広告代理店に勤めています。
彼がそういう話に通じているかどうかわかりませんが、それとなく聞いてきます。
劇物の代表として、また比較基準としていつも持ち出される青酸カリ。自分よりももっと猛毒のものがたくさんあるのに、いつも悪者よばわりされて気の毒ではあります。

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