スパーンと小気味よい音が控え室に響いた。
「いったぁい」
「ちょっと! ツグさんでしょ、これ鞄に入れたの!」
叩かれた後頭部を抱える桃子の後ろから雅がよれよれの雑誌を机に投げつける。
その表紙にはきわどい姿でクネクネしている女の人の写真。
向かいに座っていた愛理がひゃあーと声を上げる。
「もう、それ何日前の話よ。気づくの遅いなぁ」
「遅いなぁじゃないわよ、学校で知らずに出しちゃうところだったじゃない!」
桃子は今日のレッスンを振り返る。
なんかいつにもまして突っかかるなあとは思っていたけど、このことだったか。
痛む頭をなでながら桃子はひとりなるほどと納得する。
雅が憤懣やるかたない様子でそんな桃子をにらみつけた。
「どうしてくれんのよ、誰かに見られてあだ名がゴニョゴニョ本とかになっちゃったら!
やっと最近『ベリーズ工房』って呼ばれなくなってきたのに」
「ちょっとー、ベリーズとエロ本を一緒にしないでよ」
「エゥ…ゴニョゴニョ本とかはっきり言わないで!」
雅が顔を真っ赤にして地団太を踏む。
なにやら危険を感じたのか、愛理がそそくさと帰り支度を始めている。
「だいたいさ、こんなもんどこで手に入れたのよ」
「落ちてたの。で、ちょっといたずらしちゃえ! って思って」
「だからって普通拾う? 信っじらんない!」
「えー、楽しければいいと思うんですけど」
「ぜんっぜん楽しくないんですけど!」
「あのぅ…」愛理がおずおずと立ち上がる。
眼光鋭い二人の注目を浴びて愛理は泣きそうな顔になる。
「…あたし、もう遅いから先に帰るね」
「あっ! 待って愛理」
突然の桃子の声にドアノブに手をかけた愛理が恐る恐る振り返ると
手早く荷物をかき集めた桃子が慌てて寄って来た。
「ももも一緒に帰る。暗くなると危ないし。いいでしょ?」
体よく逃げようとする桃子に雅はますますご立腹だ。
「ちょっとツグさん待ちなさいよ。まだ話終わってないでしょ!」
「はいはい、ごめんごめーん。もうしませぇん。じゃあねー」
高音の余韻を響かせながら、桃子の声が遠ざかっていく。
雅は眉間にしわを刻んだまま、ソファにどかっと座り込んだ。
その目の前にはあのいかがわしい本。思わず目をそらす。
が、ふと気がつく。
そう言えば控え室にゴニョゴニョ本と二人きり。どうすんのこれ。
いっそこのまま置いて帰る。
いや、だめだ。明日はここでベリーズの新曲の練習がある。
こらー、昨日この本控え室に持って来たの誰だー。
はぁい、夏焼さんでぇす。
やだーみやってそんなの持ち歩いてるんだークスクス。
うわあ、無理無理無理無理。
やっぱり持って帰って近所のゴミ捨て場に捨てる。
いや、まずい。誰かに見られないとも限らない。
聞きました奥さん。夏焼さんとこのお嬢さん、こそこそとあんな本捨ててたらしいですわよ。
まあ、はしたないですわねえ、アイドルなんてやってるのにクスクス。
うわあ、ないないないない。
じゃあ近所じゃなくて都内のどこかに捨てて帰る。
いや、やばい。最近はどこで写真撮られるかわからない。
【スクープ!】B工房のM・N、都内某所でH本を捨てる【激写!】
これって目線してあるけど絶対夏焼さんだよねー。
ねー、ネットでもものすごい話題になってたしークスクス。
うわあ、人生終わる人生終わる。
突如訪れた大ピンチに雅はパニックを起こす。
どうするどうする夏焼雅。このままではもう生きてゆけない。
普段あまり使わない脳細胞をフル回転させて、ふいに思いつく。
前に映画かなんかで見た。そう。土は土に、灰は灰に、塵は塵に。
雅は鞄から携帯を取り出して大急ぎで番号を呼び出す。
「はぁいもしもーし」
相変わらずのハイトーンボイスが全面稼働中の脳を揺らす。
「ツグさん、この本どこで拾ったの!?」
「なんだみーやん、またその話? しつこいなあ」
「どこって聞いてんの!」
「えー、駅降りたそばの公園だけど……でももうそれ一冊しかなかったよ」
「違うわよバカッ!! コレ捨てに行くの、返しに行くの、元あったとこに!」
「ええぇ、なによそれ」
「いいから責任とって案内しなさい!」
∴
駅前のベンチに桃子はいた。桃色のマフラーに口元をうずめ、少しふてくされている。
正直帰ってしまってる光景を想像していた。明日の朝、挨拶代わりにビンタするシミュレーションまでしていた。
「ほら、行くよ」
雅が桃子の小指を掴んで立ち上がらせる。
雅に促されるまま、桃子はため息混じりにとぼとぼと歩き出す。
「そんなのそこらへんに適当に捨てときゃいいじゃない」
「バカね、夜逃げしたいの?」
「はぁ?」
すっとんきょうな声を上げて、桃子が雅を見上げる。
が、雅の真剣な表情を見て、何も言わないでおいた。
どうせまたいろいろと考えすぎたんだろう。
日が落ちた公園には幸いにも誰一人いなかった。
すっかり冷たくなった秋風だけが二人の前を通り過ぎる。
「ツグさんはその辺見張ってて」
「え? 見張る? 何を?」
「いいから!」
雅はそう言うと公園の中ほどにある砂場へ座り込んで、例の雑誌を黙々と埋め始めた。
しばらくは雅に言われたとおり辺りをうかがっていた桃子だったがすぐに飽きて
孤軍奮闘する雅の背中を眺めていた。数分後、雅は砂場を足で踏みならすと
達成感に満ち満ちた顔で戻ってきた。砂まみれだった。
公園の水は冷たかったが、雅は手が真っ赤になるまで洗い続けた。
手を振って水を払い落としていると、桃色のハンカチが差し出された。
顔を上げると呆れた顔の桃子と目が合った。受け取って「ありがと」と呟く。
「みーやんさぁ」
「なによ」
「いいかげん大人になんない?」
「ツグさんにだけは言われたくない」
「うるさい」と桃子がこつんと雅の胸元を打つ。
あばらの感触が手の甲に痛かった。
おわり
原案:あみどさん
701 名前:あみど[] 投稿日:2007/11/14(水) 00:23:00
ボーノですか
むっつりスケベな雅ちゃんの鞄にエロ本を忍ばせる話とか
「いったぁい」
「ちょっと! ツグさんでしょ、これ鞄に入れたの!」
叩かれた後頭部を抱える桃子の後ろから雅がよれよれの雑誌を机に投げつける。
その表紙にはきわどい姿でクネクネしている女の人の写真。
向かいに座っていた愛理がひゃあーと声を上げる。
「もう、それ何日前の話よ。気づくの遅いなぁ」
「遅いなぁじゃないわよ、学校で知らずに出しちゃうところだったじゃない!」
桃子は今日のレッスンを振り返る。
なんかいつにもまして突っかかるなあとは思っていたけど、このことだったか。
痛む頭をなでながら桃子はひとりなるほどと納得する。
雅が憤懣やるかたない様子でそんな桃子をにらみつけた。
「どうしてくれんのよ、誰かに見られてあだ名がゴニョゴニョ本とかになっちゃったら!
やっと最近『ベリーズ工房』って呼ばれなくなってきたのに」
「ちょっとー、ベリーズとエロ本を一緒にしないでよ」
「エゥ…ゴニョゴニョ本とかはっきり言わないで!」
雅が顔を真っ赤にして地団太を踏む。
なにやら危険を感じたのか、愛理がそそくさと帰り支度を始めている。
「だいたいさ、こんなもんどこで手に入れたのよ」
「落ちてたの。で、ちょっといたずらしちゃえ! って思って」
「だからって普通拾う? 信っじらんない!」
「えー、楽しければいいと思うんですけど」
「ぜんっぜん楽しくないんですけど!」
「あのぅ…」愛理がおずおずと立ち上がる。
眼光鋭い二人の注目を浴びて愛理は泣きそうな顔になる。
「…あたし、もう遅いから先に帰るね」
「あっ! 待って愛理」
突然の桃子の声にドアノブに手をかけた愛理が恐る恐る振り返ると
手早く荷物をかき集めた桃子が慌てて寄って来た。
「ももも一緒に帰る。暗くなると危ないし。いいでしょ?」
体よく逃げようとする桃子に雅はますますご立腹だ。
「ちょっとツグさん待ちなさいよ。まだ話終わってないでしょ!」
「はいはい、ごめんごめーん。もうしませぇん。じゃあねー」
高音の余韻を響かせながら、桃子の声が遠ざかっていく。
雅は眉間にしわを刻んだまま、ソファにどかっと座り込んだ。
その目の前にはあのいかがわしい本。思わず目をそらす。
が、ふと気がつく。
そう言えば控え室にゴニョゴニョ本と二人きり。どうすんのこれ。
いっそこのまま置いて帰る。
いや、だめだ。明日はここでベリーズの新曲の練習がある。
こらー、昨日この本控え室に持って来たの誰だー。
はぁい、夏焼さんでぇす。
やだーみやってそんなの持ち歩いてるんだークスクス。
うわあ、無理無理無理無理。
やっぱり持って帰って近所のゴミ捨て場に捨てる。
いや、まずい。誰かに見られないとも限らない。
聞きました奥さん。夏焼さんとこのお嬢さん、こそこそとあんな本捨ててたらしいですわよ。
まあ、はしたないですわねえ、アイドルなんてやってるのにクスクス。
うわあ、ないないないない。
じゃあ近所じゃなくて都内のどこかに捨てて帰る。
いや、やばい。最近はどこで写真撮られるかわからない。
【スクープ!】B工房のM・N、都内某所でH本を捨てる【激写!】
これって目線してあるけど絶対夏焼さんだよねー。
ねー、ネットでもものすごい話題になってたしークスクス。
うわあ、人生終わる人生終わる。
突如訪れた大ピンチに雅はパニックを起こす。
どうするどうする夏焼雅。このままではもう生きてゆけない。
普段あまり使わない脳細胞をフル回転させて、ふいに思いつく。
前に映画かなんかで見た。そう。土は土に、灰は灰に、塵は塵に。
雅は鞄から携帯を取り出して大急ぎで番号を呼び出す。
「はぁいもしもーし」
相変わらずのハイトーンボイスが全面稼働中の脳を揺らす。
「ツグさん、この本どこで拾ったの!?」
「なんだみーやん、またその話? しつこいなあ」
「どこって聞いてんの!」
「えー、駅降りたそばの公園だけど……でももうそれ一冊しかなかったよ」
「違うわよバカッ!! コレ捨てに行くの、返しに行くの、元あったとこに!」
「ええぇ、なによそれ」
「いいから責任とって案内しなさい!」
∴
駅前のベンチに桃子はいた。桃色のマフラーに口元をうずめ、少しふてくされている。
正直帰ってしまってる光景を想像していた。明日の朝、挨拶代わりにビンタするシミュレーションまでしていた。
「ほら、行くよ」
雅が桃子の小指を掴んで立ち上がらせる。
雅に促されるまま、桃子はため息混じりにとぼとぼと歩き出す。
「そんなのそこらへんに適当に捨てときゃいいじゃない」
「バカね、夜逃げしたいの?」
「はぁ?」
すっとんきょうな声を上げて、桃子が雅を見上げる。
が、雅の真剣な表情を見て、何も言わないでおいた。
どうせまたいろいろと考えすぎたんだろう。
日が落ちた公園には幸いにも誰一人いなかった。
すっかり冷たくなった秋風だけが二人の前を通り過ぎる。
「ツグさんはその辺見張ってて」
「え? 見張る? 何を?」
「いいから!」
雅はそう言うと公園の中ほどにある砂場へ座り込んで、例の雑誌を黙々と埋め始めた。
しばらくは雅に言われたとおり辺りをうかがっていた桃子だったがすぐに飽きて
孤軍奮闘する雅の背中を眺めていた。数分後、雅は砂場を足で踏みならすと
達成感に満ち満ちた顔で戻ってきた。砂まみれだった。
公園の水は冷たかったが、雅は手が真っ赤になるまで洗い続けた。
手を振って水を払い落としていると、桃色のハンカチが差し出された。
顔を上げると呆れた顔の桃子と目が合った。受け取って「ありがと」と呟く。
「みーやんさぁ」
「なによ」
「いいかげん大人になんない?」
「ツグさんにだけは言われたくない」
「うるさい」と桃子がこつんと雅の胸元を打つ。
あばらの感触が手の甲に痛かった。
おわり
原案:あみどさん
701 名前:あみど[] 投稿日:2007/11/14(水) 00:23:00
ボーノですか
むっつりスケベな雅ちゃんの鞄にエロ本を忍ばせる話とか