五里夢中於札幌菊水 

野戦病院へ出向予定。
医療崩壊に対して国民全てと共闘を夢想。
北海道の医療崩壊をなんとか防ぎたい。

抗血小板剤という地雷?

2007-07-23 19:56:16 | JBM

なんちゃって救急医先生をちょっと真似して地雷シリーズをスタート。
でもちょっと歯切れが悪いことをお許しください。

今回のネタは一昨日の当直からひねり出してみました。

一昨日、脳出血の患者さんがわたくしが当直している病院へ緊急搬送されてきました。
えーもう瞳孔が開きかかっていて、呼吸も止まりそうで、
急いで血圧を下げて、気管内挿管とかやったあとに、
御家族に、病態・現状・治療方針のICを行ったわけですが、
抗血小板剤が出血傾向になるということを知らない
と攻め立てられてしまいました。
ちなみにわたくしは外来で、抗血小板剤を飲んでいる患者さんには
口をすっぱく、血圧高いのほっておくと血管が切れちゃいますよと
言っております(おどし?)

IC後、手術したら(脳室ドレナージという簡単な手術なのですが)
HCV(+)の血がびゅーびゅーふいていました。
たかが頭皮ですが。それを微妙にかわしながら手術するので2倍難しいです。
いや、適当なことを言ってすみません。
平素、抗血小板剤を飲んでいる方は出血が恐ろしいので手術はしませんが、
この場合、手術をする出血のリスク<手術をしないで放っておくリスク
なので手術を致します。

さて、今日の問題点は手術は置いといて、
抗血小板剤投与にまつわる出血性の合併症のお話です。

はじめの写真はごく普通の方で高血圧を持っている方のMRIでT2*という撮影方法で撮ったものです。
この撮影方法で、へモジデリンという、無症候性の脳出血があった際の産物を検出できるわけです。もちろん大きな出血があっても検出できますが、CTで充分検出できるので、症状はクマ膜下出血でもCTではよくわからないという時に撮影したりします。要は微妙な出血性病変を捉えることができるのです。

よく見ると黒い点が見えますね(矢印部分)。これが無症候性脳出血と言われているものです。microbleedingとも言われ、原因はここでは割愛しますが、small vessel disease(SVD)と言われているもので、高血圧に起因する微小血管の変性壊死が原因で起こります。これは時にはラクナ梗塞、時には脳出血に発展しうる病態です。

下記の論文によると、22,5ヶ月±13,1ヶ月(range3,5-42m)のフォローアップ中に深部脳出血の既往のある方199人のうち2名がラクナ梗塞・5名が深部脳出血を再発、ラクナ梗塞の既往のある方138人のうち5名がラクナ梗塞・8名が深部脳出血を再発したとあります。

ラクナ梗塞の既往のある方において脳出血を発症する方が多いことがうかがわれます。

参考文献:J Neurosurg. 2004 Dec;101(6):915-20 Dotlike hemosiderin spots on T2*-weighted magnetic resonance imaging as a predictor of stroke recurrence: a prospective study.Imaizumi T, Horita Y, Hashimoto Y, Niwa J.

皮質下に黒い点が多い方も有意に再発が多い、
全体的に黒い点が多い方も再発に関係がありそうという結論です。
抗血小板剤の脳梗塞患者さんへの投与と再発の関係は無かったようです。
しかし、重症度など他の観点を取り入れたらどうなるかわかりません。
ラクナ梗塞後の脳出血再発が多いかどうかの判断材料としてT2*撮影
は有用な感じではないでしょうか?
そこに言及した論文が無いかどうか現在検索しています。

ここで脳卒中ガイドラインを見てみます。

脳卒中ガイドラインではラクナ梗塞の二次予防に抗血小板剤の使用は薦められる(グレードB)。
ただし十分な血圧管理を行う必要がある。と書いてあります。
さらには、ラクナ梗塞再発において、抗血小板剤使用群(アスピリン・チクロピジン)で
有意な減少はretrospecyiveに認められなかったという文献もあるぐらいです。
http://www.jsts.gr.jp/guideline/078-080.pdf
脳梗塞の再発予防では降圧療法が推奨される。(グレードA)
高齢者の最終目標は血圧140/ 90mmHg未満、若年.中年者は130/85、
糖尿病.腎障害患者は130/80。
この目標値、厳密にやろうと思えば結構管理が難しいです。
http://www.jsts.gr.jp/guideline/055-056.pdf

脳外科の先生の中でも温度差があると思います。
ラクナ梗塞にはたいていの先生はアスピリンやシロスタゾールを投薬しますが
抗血小板剤を出さないで降圧療法のみという方もいます。

頚動脈の高度狭窄の方が慢性硬膜下血腫で入院。
手術前後に抗血小板剤止めたら、術後2日後に
頚詰まっちゃったりして。
太い血管には明らかに有効な気がします。

僕の少ない経験では、脳出血の患者さんといえば
トンでも高血圧放置
HCV(+)
どうしようも無い慢性アルコール中毒
透析患者さん(へパリン透析中に)
そして、抗血小板剤服用者
このどれかにあてはまっていたり、重複していることが多いように思えます。

ラクナ梗塞で入院して、抗血小板剤を投与。
退院したらすぐ脳出血で戻ってきたりして。
痛い思い出です。

で、結局ラクナ梗塞の患者さんに抗血小板剤をどうしたら良いのかという結論は出ていないのですが、
抗血小板剤使用の前に、きちんとした降圧、出血性合併症のIC
他の出血傾向をもたらすリスクの検索が必要かと思われます。
リスクの1つに、MRIT2*でのmicrobleedingの有無も関係しているのでは?
ちなみに透析患者さんの脳にはmicrobleedingをよく見かけます。
そして脳出血発症率も有意に高いはずです。
いい文献が見つかれば続編を書こうと思います。

参考ブログ;マイアミの青い空ー抗血小板剤と脳出血の危険ー2007/07/22

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4 コメント

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HCV (Dr.Pooh)
2007-07-23 23:47:15
とても勉強になりました。
HCV陽性が出血のリスクというのは,血小板減少や凝固能低下を伴った場合と考えてよろしいでしょうか?
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血小板減少などなくても (脳外科見習い)
2007-07-24 01:09:27
Pooh先生、コメントありがとうございます。

慢性アルコール中毒で肝硬変とかで、血小板減少、凝固機能低下で脳出血というのはわかるのですが、実感としては、肝機能が悪くなくてもHCVキャリアというだけで脳出血を起こしやすいような気がするのですよね。30代~40代の若年脳出血に特に多いような気がします。いい文献が見つかったらご紹介します。あと書き忘れましたが、透析導入になっていなくても慢性腎不全の方にも多いですね。勉強してみたら面白かったです。
返信する
脳卒中専門神経内科医からのコメント (Taichan)
2007-07-24 01:47:36
私のブログにDr Takechanから以下のコメントが来ました。
Tai-chanせんせい、なかなか厳しいご指摘、ありがとうございました。
ただし、私は抗血小板剤については積極論者です。高齢者が元気でいるためには、血流、それも、Atsuせんせいが詳細に?ご報告された“微笑准看”・・・?
          あ、ちがうちがう...“微小循環”..を守ること!
 だから、抗血小板剤は、積極的に投与すべきだと考えています。

これは、ムカシ、脳血管撮影所見とCTにおける内頸動脈石灰化、さらには、血小板凝集能をさんざん検討してきた私の臨床経験(当時は発表もよくしましたが..)から身についていまして...結局、動脈硬化の強い患者さんは、薬漬けにでもしないと、安全は得られないと思っています。そのかわり、血圧コントロールは結構厳しくしてまして、おそらく20年ほど前から、120〜130台までにせよ!、と言い続けています。

ラクナの場合、おっしゃることはよくわかりますが、では、血管病変はわずかなのか、頸動脈や中大脳動脈病変はないのか、そのあたりがまだ大丈夫だと証明されない限りは、抗血小板剤は原則必要、と考えてもいいのでは?
(これは、EBMというより、experience-basedになってしまうかな?)
いずれにせよ、私の目標とする高齢者医療は、Total risk managementと自分で呼んでいます.....。Dr. Takechan

~脳卒中専門の神経内科医でいらっしゃる先生のご意見を伺いたいと思っていました。先生のおっしゃるExperince based Medicine、私も大切だと思います。ご指摘の通り頚動脈病変、頭蓋内動脈の狭窄病変がないかを確認しないといけないことは言うまでもありません。ただ個人的に感想を頂いた先生の中には血圧管理の重要性について脳梗塞の慢性期に考えていなかったという感想も頂戴しました。問題提起を今回、させて頂きました。Taichan
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何点か論文を (脳外科見習い)
2007-07-25 20:47:41
T2*-weighted MR images の脳出血とラクナ梗塞関連の論文を何点か貼っておきます。
わかりやすい日本の論文と手に入りやすいstroke誌に限定しました。

Miyata K, Imaizumi T, Horita Y, Hashimoto Y, Tanno K, Koide A, Niwa J.
[Multiple intracerebral microhemorrhages associated with primary aldosteronism: a case report]
No Shinkei Geka. 2003 Nov;31(11):1223-7. Japanese.

Imaizumi T, Honma T, Chiba M, Niwa J, Miyazaki Y.
[Risk factor for cerebral hemorrhage for the patient with lacunar infarction: investigation of 5 cases associated with both of symptomatic hemorrhagic and ischemic strokes]
No To Shinkei. 2001 Aug;53(8):737-41. Japanese.

Toyama K, Imazumi T, Yoshifuji K, Miyata K, Kawamura M, Kohama I
[Study on hemosiderin deposition after intracerebral hemorrhage]
No Shinkei Geka. 2005 Dec;33(12):1177-81. Japanese.

Horita Y, Imaizumi T, Niwa J, Yoshikawa J, Miyata K, Makabe T, Moriyama R, Kurokawa K, Mikami M, Nakamura M.
[Analysis of dot-like hemosiderin spots using brain dock system]
No Shinkei Geka. 2003 Mar;31(3):263-7. Japanese.

maizumi T, Chiba M, Honma T, Niwa J.
Detection of hemosiderin deposition by T2*-weighted MRI after subarachnoid hemorrhage.
Stroke. 2003 Jul;34(7):1693-8. Epub 2003 Jun 12.

Kato H, Izumiyama M, Izumiyama K, Takahashi A, Itoyama Y.
Silent cerebral microbleeds on T2*-weighted MRI: correlation with stroke subtype, stroke recurrence, and leukoaraiosis.
Stroke. 2002 Jun;33(6):1536-40.

Tajitsu K, Yokoyama S, Taguchi Y, Kusumoto K.
[The correlation between lacunes and microbleeds on magnetic resonance imaging in consecutive 180 patients]
No Shinkei Geka. 2006 May;34(5):483-9. Japanese.

Viswanathan A, Chabriat H.
Cerebral microhemorrhage.
Stroke. 2006 Feb;37(2):550-5. Epub 2006 Jan 5. Review.

Ota K, Yokota N.
[Dot-like hemosiderin spots]
No To Shinkei. 2004 Jun;56(6):526-7. Japanese. No abstract available.
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