五里夢中於札幌菊水 

野戦病院へ出向予定。
医療崩壊に対して国民全てと共闘を夢想。
北海道の医療崩壊をなんとか防ぎたい。

ぺルジピンという地雷

2007-07-24 00:03:09 | JBM

脳出血の際の降圧薬として、ぺルジピンを救急外来に置いている脳卒中病院は多いのではないだろうか。ぺルジピンしか置いていない病院も散見される。

話のきっかけはTaichan先生
問題提起はDr.I様
情報提供はなんちゃって救急医様からです。
ありがとうございました。

AVMに対する塞栓術後の脳出血にぺルジピンを使用し、
訴えられた例です↓

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060914115139.pdf

*********************

ペルジピン部分を抜粋

(原告らの主張)
被告病院は,本件手術後,Aに対し,ペルジピンを投与している。しかし,ペルジピンは,出血を促進する可能性があるため頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される患者への使用は禁忌とされ,また,脳血管れん縮は,脳出血が影響して引き起こされるものであるところ,Aは,本件手術中に出血後,強い脳血管れん縮を起こすという経過をたどって死亡しているから,被告病院のAに対するペルジピンの投与により,Aの頭蓋内出血が促進され,強い脳血管れん縮が生じた可能性は十分にある。したがって,被告病院の医師には,薬剤の投与につき,過失又は不完全履行があり,かつ,同行為とAの死亡との間には,因果関係がある。

(裁判所の見解)
原告らは,被告病院の医師には,本件手術後,Aに対し,ペルジピンを投与した過失があり,その結果,Aが死亡した旨主張するので,まず,被告病院の医師がAに対し,ペルジピンを投与したことにつき過失があるか否かを検討するに,上記第2の2(3)イのとおり,ペルジピンを頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される者に対し投与することは禁忌とされているから,頭蓋内出血が確認された者に対するペルジピンの投与は,血管撮影画像で止血を確認した後に又は時間を置いて自然止血が完成した時点で開始されるべきであり,血管撮影画像で止血を確認しないで,また,時間を置かないで,ペルジピンを投与することは,本件当時の医学的知見に照らし,相当で
はないと解される。そして,上記1(3)ア認定のとおり,被告病院の医師は,16時30分ころ撮影されたCT画像においてAに頭蓋内出血があることが確認された後わずか1時間20分を経過したにすぎない17時50分ころ,Aに対し,血管撮影画像により止血を確認することなく,ペルジピンを投与しているのであるから,その行為は,医学的知見に照らし,相当ではないというべきであり,
上記の態様でのペルジピンの投与には,過失があると認められる。これに対し,被告は,17時50分の時点では止血が完成していると推定されるなどとして,被告病院の医師には,ペルジピンの投与につき過失がないと主張する。しかし,上記説示に加え,血管撮影画像による確認を経ることなく17時50分の時点でAの止血が完成していたと推定することが本件当時の医学的知見に照らし相当であると認めるに足る医学的立証等がなされていないことに照らすと,被告の上記主張は理由がない。

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細かいところで反論はありますが、
もうぺルジピンを使うのはやめようと思いました。

頭蓋内出血の降圧薬においてぺルジピンは禁忌!
さあ、皆様も何回か唱えてみましょう。
科学的なことは何も書いていませんがとりあえず狼煙をあげてみました。

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9 コメント

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長文で失礼します (shim)
2007-07-24 08:07:06
こちらでは、はじめて書きこさせて頂きます。

ICHにペルジピン、『禁忌』とされているのは百も承知ですけれどもね。
実際へルベッサーではBPコントロールが上手くいかない症例って、山のようにいますよね。
そういった症例に際して、ペルジピンに変わる、へルベッサーよりも優れた選択枝があれば、何も最初からペルジピンを使わないのですが・・・。

問題は、家族に対して事前に充分な説明がなされて理解を得られていたのか、ICHの急性期にどの程度BP管理をすれば、どの程度prognosisに影響するのか、というevidenceだと思います(※救急の現場では、しばしばICを行う時間的な余裕が無いこともままありますが・・・)。

vasospasmを惹起するという副作用があっても、積極的なBP管理が生命予後を(大幅に)改善するというevidenceがあれば、ICHにおけるBP管理にペルジピンを『絶対禁忌』とせずに、『相対禁忌』あるいは『慎重投与』とするべきだというのが私見ですが、いかがでしょうか?


私自身不勉強で、ICHにおけるBP管理と生命予後に関するデータを調べたことはないのですが、不利なデータが一つある⇒即敗訴、というのは非常に短絡的で、いろいろな意味で恐ろしい気がします。

この記事を見て『ICHでペルジピン使わなくて、血圧管理が出来るかぁー!!!!』と叫んでいる脳外科の先生は少なくないのではないかと想像しますが、そういった先生方には是非、(とりあえずretrospectiveでもいいので)『ICHにおいて厳密なBP管理を行うことのrisk&benefit』に関するデータをまとめて頂きたいと思います。

その上でriskに勝るbenefitが無いとなれば、その時こそ『ICHにペルジピンは『絶対禁忌』!』と叫べば良いわけで、状況によってはvasospasmのriskを上回るbenefitが期待できるとなれば、充分なICを行った上で、ペルジピンを使用する、という選択枝は残すべきだと思います。
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単なる思い付き (元行政)
2007-07-24 08:28:04
ペルジピンは、添付文書の問題を語る上では定番の話ですね。

ふと思ったのですが、添付文書の禁忌をたてにして原告が主張してきた時に、何故それを禁忌としたのか厚生労働省の担当官をいちいち証人として呼ぶようにすれば、厚生労働省も紛争の際に悪影響のある添付文書の表現を改めるのに積極的になると思うのですが、どうですかね。
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厳密なBP管理を行うことのrisk&benefit (脳外科見習い)
2007-07-24 09:55:09
Shim先生、コメントありがとうございます。

本件のようなトラブルケースでは、
本来の趣旨とは違う、
このような薬の使い方で責められるような気がします。
責めやすいところを責めるみたいな。
今後結果が悪ければ、全てぺルジピン使用のせいにされることを危惧しております。
JBMを遵守すると、経験上、薬を使わないことによって患者さんのデメリットになる可能性があるのでは?と思っても、使う勇気が湧かない医師が結構な割合でいらっしゃるのでは?と思います。

厳密なBP管理を行うことのrisk&benefit
調べてみたくはあるのですが、
メガスタディじゃないと今の時代説得力を持たないのでは?このぐらい↓気合の入ったデータ収集すのは
自分の力じゃな~。言っていることは当たり前のことなのですが。

~rinzaru 先生の日記より~

Arch Intern Medという雑誌に「高齢者の糖尿病は合併症のリスクが高い」という論文が載っています。

新規に糖尿病と診断された高齢者とコントロールの高齢者を11年間追跡比較。
糖尿病群ではコントロールより死亡率が9.2%高く、合併症の発症が91.8%とコントロール群の72.0%よりも高かった。
合併症の中でも心血管系が多く、心不全は糖尿病群で57.6%とコントロール群の34.1%より高かった。
結論:高齢になってから糖尿病と新たに診断された患者は、その後10年間における合併症の頻度が高い。

とのこと。
糖尿病なんだから10年も経過すれば病気じゃない人に比べて死亡率や合併症がこれ位多くて当たり前だと思いますが、こういう当たり前のことをきちんとエビデンスとして形にするのがやっぱり大事なんでしょうかねー。
この雑誌、Impact Factorが7点前後の一流誌です。
nの数が糖尿病群33,772名、コントロール25,563名と超ビッグ。さすがアメリカ。

自分の病院で細々とデータ取ったって、相手になりませんわな、こりゃ・・・。
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good idea (脳外科見習い)
2007-07-24 09:58:22
元行政様、コメントありがとうございます。

>ふと思ったのですが、添付文書の禁忌をたてにして原告が主張してきた時に、何故それを禁忌としたのか厚生労働省の担当官をいちいち証人として呼ぶようにすれば、厚生労働省も紛争の際に悪影響のある添付文書の表現を改めるのに積極的になると思うのですが、どうですかね。

good ideaのような気がしますが、現実的にはどうなんでしょう?LMでの話題にしてみますか。

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これでやめました。 (もと脳外科医)
2007-07-24 13:11:37
私は最近脳外科をやめました

脳外科はご存知のとおり、毎日非常にリスクの高い治療をしております。医学的に最善の治療がなされた症例でも患者さんが亡くなられることは日常的にあります。

ペルジピンに関しても、再出血のリスクよるもこの薬剤の優れた効果により 血圧を下げることによるベネフィットのほうがはるかにあるのではないかというのが一般的な脳外科医の意見ではないでしょうか?

リスクのある治療をし、患者さんが不幸にして亡くなれば訴訟という日本は極めて異常な社会であると思います。

このような判決のでる国ではリスクのある脳外科のような診療科は今後10年以内に消滅するでしょう。
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個人的には (しま)
2007-07-24 20:20:19
はじめまして。個人的には、以下の部分も併せて引用するべきだと思うわけですが。


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証拠(鑑定)によると,ペルジピンを頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される者に対し投与することが禁忌とされているのは,ペルジピンの投与により投与された者が急性期再出血が発症することが考え
られるからであり,証拠(乙A11の1・2,13の1・2,検証,鑑定)によると,ペルジピンが投与される前である9月30日撮影のCT画像(乙A11の1)と,10月1日撮影のCT画像(検証)及び同月2日撮影のCT画像(乙A13の1)とを比較すると,前者に比べ後者では,出血を思わせる高吸収域は,明らかに減少していることが認められるから,ペルジピンの投与によってAに急性期再出血が生じたものではないと推認すべきである。

また,ペルジピンを投与しなかった場合に,Aがなお生存していたことをうかがわせるに足りる証拠もない。したがって,証拠上,被告病院のAに対するペルジピンの投与とAの死亡との間に因果関係はあるということはできない。

(3) 以上によれば,結局,原告らの上記主張は理由がない。
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JBMによれば、ペルジピンが問題にされるケースというのは、Ⅰ)ペルジピンによる急性期再出血が生じたケース、かつⅡ)ペルジピンを投与しなかった場合に、患者が生存したことをうかがわせるケースとも解釈できるように思います
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?? (MTL)
2007-07-24 20:45:17
<血管撮影画像で止血を確認しないで,また,時間を置かないで,ペルジピンを投与することは,本件当時の医学的知見に照らし,相当で
はないと解される。そして,上記1(3)ア認定のとおり,被告病院の医師は,16時30分こ
ろ撮影されたCT画像においてAに頭蓋内出血があることが確認された後わずか1時間20分を経過したにすぎない17時50分ころ,Aに対し,血管撮影画像により止血を確認することなく,ペルジピンを投与しているのであるから,その行為は,医学的知見に照らし,相当ではないというべきであり,上記の態様でのペルジピンの投与には,過失があると認められる>
1時間20分も経ってVital,神経症状の大きな悪化がなければ止血されていると考えていいと思うのですが,頭蓋内出血,特にSAHで止血されていない状態が続いたらどうなるかまったく分かっていませんね.
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Nicardipine (Taichan)
2007-07-25 14:42:31
Dr. Yumiが書いてくれていましたが、アメリカでは頻回に使用する薬です。脳血管攣縮にも使用します。
この話は有名でしょうが、添付文書を書いた側にもう少し詳しく解説して欲しいですね。
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添付文書 (脳外科見習い)
2007-07-26 20:16:50
皆様コメントありがとうございます。
現場にそぐわない添付文書を改善する必要があります。
どう手をつけていいかわかりませんが、
LM内でもう少し深い議論ができればと思います。
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