普段よく頭痛を診る立場として今回の訴訟に対して私見を述べさせていただきます 。
ネタ元はいなか小児科医さんです。
いつもお世話になっております。
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カルテ記載めぐり主張翻す 医師に慰謝料命令 医療ミス訴訟
5月23日6時12分配信 河北新報
仙台市若林区の民間病院で2003年に死亡した同市の男性=当時(44)=の妻が診断ミスなどを理由に、担当医に約3920万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は22日、医師の過失を認め、約3370万円の支払いを命じた。さらに争点の一つだったカルテの記載について、虚偽の説明で原告に不要な負担をかけたとして、慰謝料50万円も合わせて支払うよう命じた。医療過誤訴訟で医師の証言を賠償の対象とした例は珍しい。
判決によると、男性は03年12月上旬、医師に緊張性頭痛と診断されたが、同月下旬にくも膜下出血で死亡した。妻は誤診と専門医に転送しなかったことの過失があるとして05年2月に提訴した。
審理では、医師が緊張性頭痛と診断した際、カルテに「nuchal stiffness」という英語を記載した真意が争点の一つになった。
本来はくも膜下出血の兆候とされる「項部硬直」の意味なのに、医師は本人尋問などで「首から肩にかけての『こり』という意味」と説明し、緊張性頭痛との診断を正当化してきた。
しかし、結審間近の昨年11月になって「項部硬直がないことを示す『-』(マイナス記号)を単に記載し忘れていた」と主張を変更。今年2月の再尋問では「カルテへの記号の入れ忘れは医師として恥ずべきミス。裁判所にも信じてもらえないと思った」と虚偽証言を認めた。
判決で潮見直之裁判長は「訴訟当事者は誠実に訴訟を進める責務を負う。被告は自分の認識と異なる主張や立証を積極的に行い、原告に無用な訴訟活動を強いた」と指摘した。
最終更新:5月23日6時12分
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頭痛を訴え、歩いて診察室に入られる方の中には,くも膜下出血のfirst attackの患者さんがおられることがあります。自分の経験では一番若くて29歳のかたもいらっしゃいました。first attack後24時間以内、特に6時間以内が再破裂の危険性が高く、もし再破裂がおこれば亡くなる危険性がとても高いのは周知の事実だと思われます。
それらのなかには項部硬直のはっきりしないかたもいらっしゃいます。
幸いなことに僕の経験した例では項部硬直のはっきりしなかった方全例で
CTではっきりわかるクモ膜下出血があったので問題にはなりませんでした。
仮にCTでクモ膜下出血がはっきりわからなく、
でも非常に頭痛の程度が激しければ、
以前過去ログルンバールで述べましたが,
その場で次のような検査をオーダーします。
①MRI FLAIR T2*、 MRA →
(10分以上かかるのでその間に再破裂の可能性あり)
それでもわからなければ
②ルンバール →
(痛みが引き金で再破裂の可能性あり
感度はほぼ100%と思われるが、静脈出血による擬陽性あり
と考えています)
今回のケースの場合最初診察したとき
既にくも膜下出血を起こしていたとは断定できません。
可能性としては、
①軽度のくも膜下出血→再破裂
②警告出血(出血が微量のためおそらくルンバールでもわからないかも)
→破裂(これを初回破裂とするか再破裂とするか定義が難しい)
③単なる頭痛→初回破裂
があると思われます。
日常的な臨床で診る頭痛は大多数が
④単なる頭痛→くも膜下出血にならずに天寿を全うする
なのでありますが。
今回のケースで敗訴になってしまうということは、
単なる頭痛→翌日初回破裂という可能性も
ゼロでは無いということを考えると、
すべての頭痛の方に対して、はっきりとした神経症状や項部硬直が無くても
(感冒も含めて、実際風邪で頭痛という人の中にもくも膜下出血の方が紛れています)
結果的に上記の①~④のいづれの頭痛であれ、受診後可及的早期に
①CT
②MRI FLAIR T2*、 MRA
③ルンバール
と検査を進めていかなければいけないということになります。
軽度の頭痛であれば患者さんはこってりとした検査は
いやがるかもしれませんが、カルテに検査拒否と書かなければなりません。
もちろん大勢の頭痛患者さんにこれだけこってり検査をしても
実際くも膜下出血で救われるというケースはわずかでありますから、
一人のくも膜下出血S/Oの方を見逃さないためには
1億円分くらい余計な検査が増えるかもしれません。
この程度だったら安いもんかもしれませんが、
きちんと調べてみるのも面白いかもです。
もちろん当日にこんな馬鹿なこってりとした検査は僕はしませんが、
成人の数%に脳動脈瘤を持っておられる方がいらっしゃるので
半分ばかばかしいのですが自己防衛のために
②MRI FLAIR T2*、 MRA の予約を必ず入れます。
今回の訴訟の一件から、自己防衛のために
②MRI FLAIR T2*、 MRA
③ルンバール
も当日すすめたが患者さんは希望されずと
やんわりと書いておかなければいけないかなと思った次第です。
また解離性のくも膜下出血だと話が少し変わってきます。
この点に関しましてはまた後日自分の復習も兼ねて記事を書こうと思います。
拙ブログを御紹介いただきありがとうございました。
walking SAHに関しては、いなかの病院で全館当直をしなければならない私にとって、ホント恐ろしい病態です。いままで、CTはルーチンに行っていましたが、MRI FLAIR T2*、MRAを行っていきたいと思います。ルンバールに関しては、ちょっと勇気がいりますが....必要であれば、(手技による再出血の可能性も含めて)説明し同意があるならば施行することも考慮ですね....。
ある方より、再出血までの時間のデータをご教示いただきましたが...2日以内が85%、7日以内が99%となっていました。それを考えると、本症例は非常にレアなケースであろうとも感じます。
先生のところは脳外科不在でしょうか?
MRI FLAIRでは脳槽が白く光り、
T2*では脳槽が黒く見えます。
正確にはわかりませんがCTより感度はかなり高いと思います。
そうでなくてもMRAで動脈瘤があれば怪しいでしょう。
あと言い忘れていましたが脳動脈解離という病態もあり、これは血管が裂けているだけなので外壁まで及ばなければくも膜下出血にはなりません。
ただし患者さんは激しい頭痛を訴えます。
血管が裂けているわけですから。
後日裂けたところが広がり脳梗塞になったり、血管の外壁まで破けてくも膜下出血になったりします。
なので脳梗塞であっても頭痛があれば解離を疑うここともあります。
この診断には最近出てきたBPASという撮影方法が診断には有効です。http://www.nv-med.com/jrs/pdf/20036309/582.pdf
後日これに関する記事を書こうと思います。
激しい頭痛だけどCTは何ともない。
でも直感として変だという時は、
先生のように熱心な方からならば
脳外科に転送してもいやな顔はされないと思います。
あと熱があるときはひどい熱でなくとも
髄膜炎ということもありますので
気をつけください。
解離性動脈瘤は見逃しそうになったことがありTBさせて頂きます。
コメント・TBありがとうございました。
貴ブログにコメントを書かせていただきました。
何もしないで、脳外科医がいるか、MRIを24時間撮れる病院に紹介いやさ、最初からうちでは診れませんと断るのが正しいです。
そしてwalking SAHではやはりCTでわかりにくい症例が多いですね。
総合診療科もやはり診れないし責任とれないんでしょうね。
困ったものです。
と書いていたのが印象深かったです。
いわく、CTを撮っても見逃す。
CTでわかるようなSAHでも、また撮り直すので無駄
なんだそうです。素敵な先生でした。
是非近所にこういう先生がいて欲しいものですな。
クモ膜下出血の手術が不可能な病院
(残念ながらまだ自分でクリッピングには程遠いです)
で当直している際は自分も救急隊のコールから
直接○○脳神経外科へ行って下さいと判断することもあります。
walking SAHなら後は手術をするだけというところまで検査して鎮静してから(僕は全身麻酔をかけるのが好きなのですが・・・)転送します。
脳外科医不在での病院での対応としては、SAHに当てはまるアナムネだったら余計な時間・検査が増えるほど再出血のリスクはあがっていくので然りですね。
非典型の病歴だけどCTですぐわかるSAHがあると思えば、
病歴は怪しいけれどCTではわからないSAH(解離も含めて)
ほんとなやましい毎日です。