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ガイドライン・安保法制についての統幕監部資料を読む (大内 要三)

2015年08月27日 | 批評
ガイドライン・安保法制についての統幕監部資料を読む

                           2015.8.26 大内 要三


 8月11日の参議院特別委員会で小池晃議員が示した、統合幕僚監部作成の資料「『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について」を読んで感じたことをメモしておきたい。現場が法案内容を成立以前に準備開始していることがまさに問題だが、平然と「軍軍間」調整・協議をいうガイドライン自体の危険性、従属性を、国会内外で追及する機会になればと思う。

その1、先軍政治について。

 ガイドライン文書は条約ではなく政府間合意ですらないが、60年安保改定期・70年安保固定期限終了期の闘争の再現を恐れて安保条約改定をためらう日米両政府にとって、事実上、日米安保条約を超えた日米軍事協力の最高位文書となっている。

 4月27に日米安全保障協議委員会(SCC)で合意された第3次ガイドラインは、章D項に「指針は、いずれの政府にも法的権利又は義務を生じさせるものではない」としながらも「具体的な政策及び措置に適切な形で反映することが期待される」に書いていた。この「期待」に応えて4月29日、安倍首相は米議会での演説で「安保法制の充実」を「この夏までに、成就させます」と約束した。安保法制の与党協議が成立したのは5月11日、法案を決定した閣議は5月14日、法案の国会提出は5月15日だった。ガイドラインに沿った安保法案は、国会審議前、内閣合意前からその成立が首相によって米国に対して約束されていたことになる。

 SCC合意は最後のセレモニーであって、ガイドラインは実質的には防衛協力小委員会(SDC)がまとめている。SDCには国家安全保障会議・外務省も参加するが、肝心の軍事協力の具体的な協議はさらにその下の共同計画検討委員会(BPC)で行う。BPCは純粋に自衛隊・米軍の軍軍協議である。

 今回の統幕監部文書でいう「必要な検討」とは何か。軍軍協議で基本を作成したガイドライン→に従って作成した安保法制の成立を前提に→その運用について防衛省が検討する。軍から軍へ戻ってきたわけだ。内閣・国会のお墨付きを得るであろうことを見越して、日米軍事協力深化の運用を検討する。外務省・内閣・国会が多少の横槍を入れるかもしれないが、だから横槍が入った、あるいは当面限定されたことについては運用にあたって検討しなければならないが、基本は揺らぐはずはない。防衛省のこの自信は、やはり軍事優先の日本政治、先軍政治の現れと呼ぶべきではないか。

 なお、文民統制について。日本の文民統制は、内閣、国会、自衛隊内の3段階ではたらくという。隊内では内局が制服組を抑える文官統制がはたらいてきた。しかし6月10日に成立した防衛省設置法改正で、部隊運用(作戦)を制服組主体に改める「運用一元化」が実現した。今回の統幕文書問題を国会が十分に追及できなければ、日本型文民統制の3段階はすべてないに等しいことになる。

 その2、同盟調整メカニズムについて。

 第3次ガイドライン文書で同盟調整メカニズム(ACM)は、平時、日本有事、同盟国有事、大規模災害、国際活動、のすべてのケースで日米軍事協議をする機関とされている。ガイドラインが自衛隊の「瓶の蓋」になっていることを明示している。ACMがどのような組織でどのように運用するかは、ガイドラインの文面では「手順及び参加機関の構成の詳細を状況に応じたものとする」「平時から、連絡窓口に係る情報が共有される」とある(章A)だけで、詳細は明らかでなかった。

 東日本大震災「トモダチ作戦」で災害対策での調整メカニズムが稼働し、2011年10月には防衛省によりその総括がまとめられ「教訓事項」も書き込まれてはいる。「トモダチ作戦」で設置された調整メカニズムは、あくまでも有事運用調整メカニズム(BCM)の災害対策版であり、97年ガイドラインで「平素から準備」されるはずだった調整メカニズムは結局、常設されなかった。

 ガイドライン文書には記述のなかった同盟調整メカニズムの詳細について、今回の統幕文書は、わずかながらその姿を明らかにした(41頁)。

 今後は常設のACMが設置される。常設ではあるが「人の常駐」を意味しない、ACM内に「運用面の調整を実施する軍軍間の調整所が設置される予定」。「運用面の調整」とは共同作戦実施協議のこと。平時から共同作戦司令部、ACMの中枢としての「軍軍間の調整所」を置くことになる。これは横田に置かれている日米共同統合運用調整所(BJOCC)を拡充する形で設置されることになると思われる。「平素からの連携強化を踏まえ、要員派遣等について検討が必要」とあるから、海外駐在を含めて連絡将校を相互派遣し、情報交換を密にし、さまざまな「事態」に即時対応できるようにするのだろう。さまざまなケースでの協議メンバーと協議のありかたをあらかじめ決めておくことになる。

 ACMで平時から有事まで、大規模災害対応から海外派兵まで協議するとなれば、例えば原発事故対応など電力会社や地方自治体も含めての対応にならざるを得ない。その中枢が「軍軍間の調整所」になるわけだ。

 ガイドライン本文には「同盟調整メカニズムにおける調整の手順及び参加機関の構成の詳細を状況に応じたものとする。この手順の一環として、平時から、連絡窓口に係る情報が共有され及び保持される」とある(章B)。連絡窓口は当然、統幕文書のいう「軍軍間の調整所」に置かれるのだろうが、「軍軍間の調整所」も「連絡窓口」も、どのような形で置かれるのか、明らかでない。

 そして軍軍間で実質的に日米共同対応の基本が決められてしまうのだとしたら、国家安全保障会議や国会審議はどのような位置づけになるのだろうか。日米共同作戦実施にあたって、単なる形式的事後承認組織となるのか。特定秘密保護法による軍事機密の壁から、国会で内容ある審議が行われるとも思われない。

 また今回の統幕文書はガイドラインと安保法制の関係について、ガイドライン記載内容の実施が ①現行法制下で実施可能なもの ②安保法制成立以降に実施可能なもの ③ガイドラインに関連性のない安保法案、の3種を分けている(35頁)。ここでは同盟調整メカニズムの稼働は①+α「現行法制下で実施可能+別途文書が必要なもの」とされる。

 統幕文書の別の箇所では、同盟調整メカニズムは「別途、日米間で文書が発出され初めて実施される見込み」とある(7頁)。同48頁「今後の進め方」日程表によれば、ACM「設置に関する検討」は4月から始まっており、8月からACMが運用されることになっている。きわめて早い展開であり、ずっと前から準備されていて、あとは日米軍軍間での細部の詰めが終了すれば運用開始となることが明白だ。「『防衛協力小委員会』の指示の発出に伴い」運用開始ともある。8月17日にワーマス米国防次官(政策担当)が来日して防衛相を表敬訪問したのち西事務次官、徳地防衛審議官と会談した。これはまさに8月のことだから、同盟調整メカニズムはすでに実質的には稼働しているのかもしれない。97年ガイドラインの締結後に調整メカニズム設置の協議が始まったのに比しても、そのテンポは早い。

 その3、共同計画策定について。

「共同計画策定メカニズム」(BPM)はガイドラインにBilateral Planning Mechanismとあり、共同計画=日米共同作戦計画を策定する。78年ガイドラインを根拠とする協議で日本有事の共同作戦計画OPLAN5051と中東有事波及(シーレーン確保)の共同作戦計画OPLAN5053 が作成され、日本政府は作成したことは認めたが内容は概要も明らかにしていない。97年ガイドラインを根拠とする協議で朝鮮有事の共同作戦計画OPLAN5055 が作成されたことは米国側は認めているが、日本政府は存在も認めていなかった。

 第3次ガイドラインには「引き続き、共同計画を策定し及び更新する」とある(章C)。これを解説して今回の統幕文書は、「これまでは日米共同計画については『検討』と位置付けされていたことから、共同計画の存在は対外的には明示されていませんでしたが、今後は共同計画の『策定』と位置付けられ、日米共同計画の存在を明示することになります。これは抑止の面で極めて重要な意義を有するものとなります」という(41頁)。

「引き続き」ということは、これまでも共同作戦計画を「検討」ではなく策定していたことを認めたということだ。今後は堂々と策定し更新する。内容は特定秘密だが、朝鮮有事の米韓共同作戦計画OPLAN5027の韓国での場合と同様に、必要に応じてチラ見せして、抑止効果を狙うのだろう。

 統幕文書48頁「今後の進め方」によれば、BPMはまだ稼働していない。今年の12月から「共同計画の策定を開始」し、「2年間を想定」するという。すでにある共同作戦計画のバージョンアップは定期的に行われるとしても、新たな共同作戦計画はまだ、ということになる。では、これから作られる共同作戦計画は、どのような有事を想定したものだろうか。

 その一端が書かれているのは、まず統幕文書42頁、これは平時からの「情報収集、警戒監視及び偵察」での日米協力に関する部分だが、「東シナ海、日本海等」で「一層の推進」、「南シナ海」で「関与のあり方について検討」とある。南シナ海有事への自衛隊の関与が検討されると読むべきだろう。ガイドラインの適用範囲が「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域」とされていることからすれば、朝鮮有事、台湾有事、南シナ海有事、さらに中東・アフリカでの事態に関する共同作戦計画も検討されることになるだろう。

 肝心のBPMの構成は明らかでない。97年ガイドラインでいう「包括的メカニズム」をupgradeしたもので、「各々の政府の関係機関を含む」、日米安全保障協議委員会(2+2)が「進捗の確認及び必要に応じた指示の発出について責任を有する」「日米安全保障協議委員会は、適切な下部組織により補佐される」と、ガイドラインには書かれているだけだ(章C)。
 包括的メカニズムは3段階で、いちばん上が2+2、いちばん下が軍軍協議の共同計画検討委員会BPCで、BPCの構成は日本側は統合幕僚会議事務局長、米国側が在日米軍副司令官と太平洋軍代表者だった(1997年当時)。今回の統幕文書は露骨に、「統幕が主管となって『計画策定』を行うことになります」と書いている(41頁)。97年当時の統合幕僚会議は陸海空自衛隊を束ねる権限はないが、現在の統合幕僚監部は米軍の統合運用に合わせて陸海空を束ねる、はるかに重い存在だ。

 今回の統幕文書は、共同作戦計画と自衛隊の作戦計画、また共同作戦計画と自衛隊の作戦計画の関係を、分かりやすく示して見せた。44頁には武力攻撃事態での米軍支援、宇宙・サイバー脅威に関して「防衛・警備等計画及び共同計画への反映する(原文ママ)ことを見据え」「KE等の訓練・演習を活用しつつ具体化を図ります」とある。また48頁の「今後の進め方」の図表では、防警は「KE16成果の反映」で見直されることになっている。

「防警」とは「防衛・警備等に関する計画」であり、年次に訓令で出される自衛隊の作戦計画である。KEは隔年に行われる日米共同統合指揮所演習(コンピューターの画面上で行われる)Keen Edgeであり、直近では14年1月に実施されたKE14がある。次回は16年1月のKE16であり、これを反映してこれまでに策定されていた共同作戦計画が「更新」され、防警もアップグレイドされる。同様にKEと交互に隔年に行われるKS(Keen Sword)、日米共同統合実動演習は万単位の将兵が実際に動く最大規模の演習であり、この成果によっても日米共同作戦計画も警防もバージョンアップされていく。ガイドライン章Cには「共同計画は、日米両政府双方の計画に適切に反映される」とある。

 その4、安保法制の実施について。

 統幕文書は「平和安全法制関連法案の概要」の説明に全体の半分近くを割いている。その上で「主要検討事項」を、ガイドラインの章立てに従って説明する。

 この部分の統幕文書については煩雑になるので、ここでは分析しない。ただし問題になっている、まだ国会審議中の法案内容の具体的実施に関する部分、南スーダンPKOの9次隊についてと、在外邦人保護について少し述べる。

 PKO法が「国連」平和協力法から「国際」平和協力法へと変身するのに伴い、「業務が拡充」されることになっている。「いわゆる安全確保業務やいわゆる駆けつけ警護、司令部業務、統治組織等の設立・再建援助」を統幕文書23頁で挙げているが、その危険性については述べられていない。そして48頁「今後の進め方」の日程表では、「運用構想の研究、準備構想の作成、教育訓練に反映すべき事項の研究」がこの8月までに行われ、8月中に「準備通達発簡」があり、9月から9次隊準備訓練が行われ、11月中に新任務を与えられた9次隊が出国する。

 現在南スーダンに派遣されている約350人の8次隊は陸上自衛隊5方面隊のうち西部方面隊から選抜されたメンバーが主力で、9次隊は中部方面隊からの選抜になる。日経新聞8月16日付電子版によれば、「政府は自衛隊を派遣している南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)で、首都ジュバにある宿営地を他国軍と共同で防衛する検討に入った。参院で審議中の安全保障関連法案に盛りこんだ新たな任務で、法案が成立すれば来年春にも開始する。同じく法案成立で可能になる治安維持任務については、隊員の安全を確保できないとみて見送る」という。なかなか慎重だ。

 在外邦人保護の警護・輸送については、従来から待機態勢が維持されている。陸自ではヘリ隊と誘導隊が、海自では輸送艦と航空部隊が、空自では輸送機が。次の待機部隊交代は来年1月であり、それまでに新たに「任務遂行型の武器使用」が可能になることを見越して、「『訓令等の整備』及び『教育訓練に反映すべき事項の研究』を実施する必要がある(46頁)という。次の陸自の待機部隊は練馬の第1普通科連隊と宇都宮の中央即応連隊になる。

 在外邦人救出については、統幕文書日程表でもまだ基本計画検討が続き、「基本計画発簡」が来年2月、「新法制に基づく運用」はそれ以後になっている。現在、テロリストに拉致された邦人を奪還するような能力や任務を持つ部隊はないから、新たに編成することになるのだろうか。

 その5、文書の性格について。

 今回の統幕文書は、8月19日の参院特別委での中谷国会答弁によれば、5月15日に中谷防衛相自身が指示して作成させたものであり、5月26日に約350人の陸海空メジャーコマンドが参加してのテレビ会議で使われたという。パワーポイント47画面を使って40分で、ガイドラインの概要、法案の概要、両者の関係、今後の検討事項を説明したのだから、きわめて効率的だ。それだけ幹部自衛官にとっては容易に理解できる内容だったのだろう。

 しかしながら統幕文書は「取扱厳重注意」文書であって防衛秘密でも特別防衛秘密でもないから、特定秘密保護法の対象にはならないのではないか。だからこそ小池議員が入手できた。そして中谷防衛相が8月11日の参院特別委員会では小池議員がどこまでキャッチしているか事前に把握できず狼狽した脇の甘さも、安保法制に反対する者にとっては幸いだが、米国にとっては苦い経験になっただろう。

 そして統幕文書は幹部自衛官に対して、ガイドラインも安保法制も危ないものではない、隊内の動揺を抑えよ、と強調しているようにも読める。ガイドラインの武力攻撃対処に関して(10頁)、島嶼攻撃に対する米軍の奪回作戦支援・補完が「明記されています」と書いたり、「米軍の打撃力の使用についても明記」「武力攻撃事態における米国の強い関与について言及」と書いて、日本が攻撃されてもいざとなったら米軍が助けてくれるように見せているのがそれだ。

 しかし97年ガイドラインと比較してみれば一目瞭然だが、第3次ガイドラインでは、空域防衛でも弾道ミサイル攻撃対処でも海域防衛でも陸上攻撃対処でも、米軍が「打撃力の使用」で支援してくれることはなくなり、作戦を「主体的に実施する」のは自衛隊であって、わずかに「領域横断的な作戦」つまり宇宙・サイバー作戦でのみ米軍は「打撃力の使用」で支援してくれることになっている(章C)。また島嶼防衛ではなく「奪還」の場合のみ米軍は自衛隊を支援することになっている。

 そして第3次ガイドラインも安保法制も、海外で自衛隊が米軍を支援することが主眼であるにもかかわらず、統幕文書のガイドライン章「地域の及びグローバルな平和と安全のための協力」に関する説明はきわめて短い。
 このような文書が公開されたことにより、第3次ガイドラインと安保法制の危険性に対して、自衛隊内の動揺は広がるのではないか、とも思われる。