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「国際平和協力」を理由とした武力行使への突破口

2016年07月11日 | 批評
日本民主法律家協会編『法と民主主義』505号(2016年1月)所収論稿再録

「国際平和協力」を理由とした武力行使への突破口

三輪 隆

<戦場での救命率向上の検討>


 昨年4月、防衛省・自衛隊は、「第一線救護における適確な救命に関する検討会」を発足させ、戦場で傷ついた隊員の救命率を引上げる対策にのりだした。モデルとされたのは、イラクやアフガンに派遣された米陸軍の緊急即応部隊である第75レンジャー連隊が用いた「戦術的戦傷救護」Tactical Combat Casualty Careのガイドラインである。このガイドラインを用いた同部隊の搬送前死亡率は、他の部隊よりも顕著に低い(平均16%が10%!)。このことに自衛隊は注目している。

 ここで、「第一線救護」とは、Care under Fire すなわち戦場での救護をさす。Combat Casualty とは戦闘による死傷者を意味する。

 自衛隊はその名が示すように、日本に対して武力攻撃が生じた場合(日本有事)において武力を行使する組織である。武力攻撃に際して武力を行使すれば不可避的に死傷者がでる。これまで自衛隊は、日本有事に際して死傷者が出ることを想定していなかったわけではない*1。それが今この時点で戦場での救命率向上の検討が始まった。これは言うまでもなく、この度の安保関連法によって隊員に死傷者がでる可能性が高まったと自衛隊自身が認識していることを意味する。

 本稿では安保関連法によって新たにつくられた武力行使の場面を整理し、それが現実となる可能性を検討する。

[1] 武力行使への突破口

 自衛隊は日本有事の際に武力を行使する組織であるから、それが国外に赴くこと自体、国外で武力を行使し憲法に違反する可能性がある。そこで、自衛隊の海外展開については、それが合憲の活動であると説明するため、武力行使を伴わない活動にたずさわる場合(A)と、武力行使を伴う他国軍などの活動に関わる場合(B)との二つに分けて「歯止め」が工夫されてきた。

 前者では、隊員の武器使用を国内の警察官と同じく自衛基準に限ること、後者では自衛隊の活動を武力行使と「一体化」しない「後方地域」における「後方支援」活動とすることである。ところが安保関連法は、この双方の歯止めを大幅に緩和すると共に、新たに自衛措置の一環として国外での武力行使を認める二つの場合(C)を設けた。戦争法と呼ばれる所以である。

 これらは次のように整理できよう。
A)[PKO協力法改正]
イ)国連PKOとならび非国連統括型の「国際連携平和安全活動」を新設
ロ)武器使用基準の任務遂行型へ緩和、
ハ)治安維持と駆付け警護の業務を追加、
B)[国際平和支援法(派兵恒久法)・重要影響事態法(周辺事態法後継法)]
「国際平和共同対処事態」・「重要影響事態」における他国軍にたいする「協力支援活動」・「後方支援活動」の武力行使からの地理的・時間的隔離の緩和、弾薬提供の支援メニュー拡大、
C)自衛理由の武力行使場面の拡大
d.[自衛隊法95条の二]平時における米軍などの部隊の武器などの防護、
e.[自衛隊法94条の五]在外邦人救出活動。 
 以下、新たに生まれた武力行使が可能となる場面を大まかに検討しよう。

<A.PKO参加五原則の放棄>

 安保関連法の審議では、PKOへの参加が武力行使とならないことを保障するPKO参加5原則*は維持されているかのような主張がなされた。これはデマである。
* 1. 紛争当事者間の停戦合意成立、 2. 活動地域国を含む紛争当事者の受入れ同意、3.中立的立場厳守、4.条件破綻状況での撤収、5.自己防護のため必要最小限の武器使用

 ロ)まず任務遂行のための武器使用とは、たとえば従来も業務とされていた「水・食料等の人道関連物資の輸送が、武装勢力等の輸送経路封鎖により妨げられている状況」で、これまでのように妨害状況が解消されるまで輸送を見合わせるのではなく、今後は輸送「業務を妨害する行為を排除するため」武器を使うことを意味する。

 ハ)また治安維持活動とは、「防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止」をし、特定区域の「保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」(3条2号四ト)をすることであり、駆付け警護とは他国部隊・国連職員・NGO関係者などの「生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生じるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して」「関係者の生命及び身体の保護」(同上・ラ)をすることである。いずれも「危害、侵害、危難」を防ぎ排除・克服することが任務内容であるから、この任務遂行のための「武器使用」は戦闘に直結する可能性が高い。

 この他、PKOの受入れ同意について、「紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在しなくなった場合」「武力紛争がいまだ発生していない場合」には、国のみによる同意で可能とした(3条1号ロ・ハ)点も注目される。紛争地域では、紛争当事者が不規則に出入りしたり、国家が破綻状態であることが少なくない。これは紛争当事者による受入れ同意という参加基準の時間軸での緩和を意味する。

 参加5原則は放棄され、PKO参加の自衛隊が武力行使する可能性は著しく高まったといえる。

<B.「一体化」区分の無意味化>

 これまでの周辺事態法や2つの特措法における「後方支援」は、「現に戦闘が行なわれておらず、かつ、実施活動期間を通じて戦闘行為が行なわれることがないと認められる」ところで行われるので武力行使と一体化せず、また自衛隊自身が武力行使に「巻込まれる」可能性を、時間的・空間的になくすものと主張されていた。

 しかし、「後方支援」はそれ自体が武力行使を伴わないとしても、支援対象である米軍等の軍事活動から別の独立した活動ではない。日本の国内法によって「武力行使と一体化しない」と規定したとしても、「後方支援」は他国軍の武力行使に対してなされ、その内容は武力行使する部隊の必要によって左右される。それは、1986年 ICJ判決も判示するように、国際的には米軍等の武力行使と一体不可分の兵站活動 logistics と判断される。「一体化」基準は、国際的には通用しない国内向けの欺瞞でしかない。

 それでも従来は「後方支援」活動は、活動する現在および将来に戦闘行為が行なわれない場所で行われると定めていたので、自衛隊自身が武力行使を迫られる可能性は、時間的・空間的に縮減されていた。しかし新法はこの時空間的隔離を「現に戦闘が行なわれている現場」からの隔離に限った。隊員を戦闘現場の隣りにまで送り込めることが可能となった。

 「一体化」基準が緩和され自衛隊自身が「後方支援」活動において武力行使する可能性は、これまた著しく高まったのである。

<C)米艦等の防護、在外邦人救出>

 d) 自衛隊法は、自衛隊の武器等を防護するための「武器使用」を自衛の一環として認めていた。改正法は、「我が国の防衛に資する活動に現に従事しているものの武器等」までをも防護するため自衛隊が「武器使用」できるものとした。米軍等との間で平時から行われている共同演習、情報収集や警戒監視活動のなかで、自衛隊が米軍等を守ることになる。

 e) 国内で「生命又は身体に危害が加えられるおそれがある」人を警護、救出など保護することは警察の職務である。しかし改正法は国外で在外邦人が同様のおそれがある際には自衛隊が保護措置にあたり、「武器使用」ができるものとした。

[2] 武力行使が現実化しうる場面

 では安保関連法制によって新たに設けられた武力行使の場面が現実となる可能性はどこにあるか。

 このうち、d)は南シナ海における中国に対する軍事行動に関わって問題となる。第3次ガイドラインと安保関連法の成立をうけ統合幕僚監部がつくった運用計画『今後の進め方』には、日米間の「平素からの協力」として共同訓練、監視偵察、挑発的行動も含みうる柔軟抑止オプションFDOがあげられている。また安倍首相は警戒監視活動への意欲を露わにしている。これらは米国の対中ヘッジ戦略の中でも軍事負担の同盟国への肩代わりが追求されていることを奇貨として自衛隊の役割を拡大しようとする動きに他ならない。しかし、対中軍事衝突だけは避けなくてはならない米国は、IS問題など中東対応で手一杯であり、日本側の思惑が速やかに実現して行く可能性は高くない。

 また、e)は、自衛隊の準機関紙『朝雲』昨年2月12日のコラムも「国民に誤解を与える無責任な」ものと断じているように、右派政治家たちの妄想の産物というべきである。

 Bの「協力支援活動」「後方支援活動」が発動される可能性はどうか。この活動は、「脅威を除去する共同対処活動」や米軍等の軍事作戦を前提している。いま考えうるのはISに対する軍事作戦であろう。しかし米露の確執などから自衛隊の「協力支援活動」が求められる作戦が発動する可能性は今のところ少ない。

 以上に対して最も注意されるべきなのがAである。すでに南スーダン国連PKO(UNMISS)に自衛隊は参加しており、先にあげた統合幕僚監部の運用計画「今後の進め方」のPKOの欄には、3月からの「新法制にもとづく運用」、5月に派遣される第10次隊からの適用が明記されており、駆付け警護任務が新たに追加されようとしているからであり、これに伴う「武器使用基準」改定が3月を目途に急がれているからである。

 武力行使に至る可能性を含んでいる駆け付け警護任務の追加は閣議の専権事項である。しかし、PKOは軍事作戦に関わらない安全な平和貢献だといった多くの人々の幻想があり、アフリカは遠く現地の情報も入りにくいため、この閣議決定に注目が集まる可能性は低い。

<武力行使経験への梃子:南スーダンPKO>

 南スーダン(人口約1200万人)は、20年以上続いた内戦(死者約190万、難民約400万)の後、2005年の包括和平合意にもとづく2011年の住民投票によってスーダンから分離独立した歴史の浅い国家である。独立後もスーダンとの境界にある油田地帯の帰属や権益をめぐって国境紛争が続き、多くの難民が生じていた。

 13年12月、かつての独立運動を担った軍事・政治組織を正規の軍や政権与党へ編成替えする中で生じていた部族間対立を背景に、自衛隊も駐屯する首都ジュバで大統領警護隊同士が衝突し、再び全土で戦闘が始まった。何万人もの住民が避難を求めて国連施設に殺到し、陸自部隊が100キロ離れたボルに駐屯する韓国軍部隊に弾薬を提供したのもこのときのことであった。

 それから20ヶ月、政府軍などの部族勢力間の衝突と報復により住民殺害が横行し、住民の約半数は飢餓状態に追いやられた。マラリアやコレラが流行するなどし、避難民は150万人、周辺国へ逃れた者は50万人に達した。この内戦の過程で住民保護のため武力行使を含む「あらゆる手段を用いること」が認められていたPKO部隊も攻撃され、隊員の中からも死傷者がでた。

 停戦合意は何度も破られ、包括的和平合意が成立したのは昨年8月末になってのことであり、その後も武力衝突が散発する中でようやくこの1月上旬に移行政府が発足した*3。

 移行政府が発足したからといって長年殺し合ってきた部族間の和解、そして安定した民生の回復への道のりは遠い。ほとんどの男性が武器をもち、命令系統の曖昧な武装グループの武装解除が進んでいない現状(昨年11月の国連報告)では、武力衝突が再発しない保障はどこにもない。駆付け警護が追加され任務遂行目的での「武器使用」が認められることは、派遣部隊が戦闘に加わり殺し殺されるようになる可能性を飛躍的にたかめるものでしかない。

 初めに紹介した「第一線における救命」対策は、まずはこの南スーダンPKOへの新規派遣部隊を対象として実施されることになるだろう。

<古典的PKOから武力行使を伴うPKOへ>

 もっとも、こうした指摘に対しては、駆付け警護任務とその任務遂行目的での「武器使用」を認めることは、武力行使権限をもつことが普通になっている国連PKOの現状に「合わせた」ものであるから望まれるものでこそあれ批判されるべきではないとの反論が返ってくるかもしれない。

 ルワンダ1994年、ボスニア・スレフレニツァ1995年などの虐殺事件を経験した後、国連では2000年にそれまでのPKOのあり方の変更を求める『ブラヒミ報告』が出されていた。そこでは、第一に、全紛争当事者の同意や中立性遵守といった公平性基準は、文民保護などの任務目的実現の観点から修正され、自衛以外にも任務遂行のため「必要なあらゆる行動」における武力行使を容認し、交戦規則も「より柔軟・弾力的な」ものとすること、武力行使の権限と装備もったPKO部隊を待機させること;第二に、停戦監視や兵力分離などの紛争終結直後の平和維持だけでなく、紛争後の永続的平和をもたらすための武装・動員解除、文民保護、政治社会制度改革、社会・経済開発など、長期間にわたる平和構築も合わせて民間支援団体などと協働してすすめる複合任務遂行能力をもった大規模部隊を派遣することが提唱されていた。

 ブラヒミ報告にそって、その後のPKOでは武力行使権限を付与されたいわゆる7章型のPKOが一般化し、PKO参加5原則が成立つPKOは例外となった。また国連のPKOだけで対応できない紛争地においては、平和構築活動の支援を目的として地域機関などが国連の枠の外で編成する多国籍部隊(*2)と連携して活動することが常態化した。PKOは武力行使とは無縁の活動ではなくなっていたのである。戦闘行為などによるPKO要員の死者は、92年以降約450人にのぼっている。

 日本でも2002年の国際平和協力懇談会報告(いわゆる明石報告)は、「PKO参加五原則をはじめ現行法を前提にした場合には、国際平和協力の活動の初動時において、日本が協力できる範囲は限られてしまう」と述べ、「より柔軟な国際平和協力の実施に向けて」「国際平和協力業務において、警護任務及び任務遂行を実力をもって妨げる試みに対する武器使用を可能とする」ことが提言されていた。今回の法改正は、15年遅れでPKOの現状に合わせるものに過ぎないようにも見える。

<PKO:武力行使依存の見直し>

 ところが、このような強化されたPKOや、平和構築支援活動との関係については、平和維持・平和構築活動に対する要請と提供能力とのギャップが拡っている状況に促されていま包括的な再検討が進んでいる。その最新の成果は、昨年6月に提出された「平和活動に関するハイレベル独立パネル」報告(A/70/95 S/20155/446)に示されている。同報告は、平和構築活動が決定的に重要であるとのブラヒミ報告の提起を踏まえ、平和活動における政治の重要性を強調し、PKOが協働することが一般化したさまざまな平和構築支援部隊との関係を見直している。

 そこでは平和維持活動における武力行使の限界を明確にし、対テロ作戦に関わらないこと、そしてPKO活動の軸足を、軍事面での対応ではなく、持続する平和構築を支える政治プロセスの強化におくことなどが提唱されているのである。

 今次のPKO法改正を同報告に重ね合わせてみると、法改正はもっぱらPKOの軍事面での変容(任務遂行における武力行使権限の付与)に対応するものであっても、より重視されつつある平和構築活動の充実に対応せず反対方向を向いている。しかし、日本の人的・技術的資源や経験からすれば平和構築活動にこそ、貢献する場があることは言うまでもない。
 
<暗い展望>

 駆付け警護業務が追加され、その任務遂行において「武器使用」がなされれば死傷者が出る可能性は高い。不幸にしてそうした事態になれば、それは自衛隊の国際法上も正式の軍隊としての認知要求の噴出、そして憲法9条2項改正への引き金となろう。幸いにして死傷者が出なかったとしても、実質的に武力行使権限をもって部隊が国外展開するという経験は、それが積重ねられれば近い将来に改正法が新たに設けた非国連統括型の「国際平和協力活動」(Aイ)への参加へと必ずやつなげられる。

 人を殺し殺される国へとこの国を転落させる最初の一発、それがアフリカにおける「国際平和協力」の場で発射される可能性がいま高まっている。

[注]
*1 冷戦下、陸自が想定していた作戦任務は、米軍の水平エスカレーション戦略にそって、SLBM搭載ソ連原潜の宗谷海峡通過を確保すべく上着陸してくるであろうソ連軍を撃退することにあった。本来の意味での日本有事を自衛隊は想定することはなかった。戦闘によって死傷者がでることは自衛隊にとって実は切実な問題になっていなかった。

*2  平和構築支援部隊。改正法が新設した非国連統括型の「国際平和協力活動」(Aイ)は、これをさしている。それ自身は平和維持・平和構築の活動にたずさわるのではなく、これに対する妨害を排除するなど兵員を展開して支援する国際治安支援部隊ISAFなどが該当する。

*3 移行政府は閣僚ポストの合意はなされたが、1月末現在、まだ成立していない。
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