馬の絵を描きたいと思うようになったのはいつの頃だったか。
遊園地のメリーゴーランドの木馬をモチーフにしていたことがある。
ヨーロッパを旅した折、立ち寄ったアンティークショップで買い求めた木馬の置物、
中国の兵馬庸のレプリカ、骨董品店の店先で埃をかぶっていたブロンズ、
馬への興味はもっぱらグッズ収集に向けられていた。
それらの「馬」はしばしば絵の中に登場してくるようになった。
「日本の原風景」「故郷の山河」を主題に風景画に取り組むようになって、
更に自然を知るためにと制作のアトリエを東京から信州の山中に移した。
自然の息吹を肌で感じる感動は作家として貴重な体験となった。
朝、谷の下から湧きあがった雲がアトリエの庭に踊り込んでくる。
木立を吹き抜ける風の音、谷のせせらぎ、鳥たちのさえずり・・・
新緑の春、紅葉の秋、霧氷、四季の変化に戸惑いながらの暮らしが続く。
自然の空気観と生命観が作品に反映出来たら素敵な絵が描けそうだ。
そんな想いで模索していたころ
スケッチ取材の旅の途中で出会った牧場の馬、乗馬倶楽部の馬たち。
生きた馬との出会いもまた衝撃だった。
美しい肢体、躍動する大きな命の塊り。馬の生態を知りたいと思った。
馬を知るためには乗馬も出来なければと一念発起、乗馬倶楽部にレッスンに通うことになる。
ダービーにも出たことがあるという競走馬から引退して乗用馬になったサラブレットに体験乗馬
させてもらったのが最初で、常歩・走歩・駈足(ウォーク・トロット・キャンター)の歩様が
扶助出来るようになるまで何鞍騎乗したことか。
乗馬の楽しさにのめり込むと次は自分の専用の馬が欲しくなる。
自馬を持つということは維持費もかかり大変なのだが、
若い馬との出会いがあって家に連れて来てしまった。
家の庭で馬を飼う夢が叶ってしまったのだ。
馬と人がともに生きる姿は素敵だ。
人馬一体というが、心の通い合う関係を維持していけたらと思う。