泡立つかのように怖気が腹の底から全身にめぐっていくような……そんな感覚だった。
(こいつはやばい)
人間の本能……それが間違いなく警告を鳴らしてる。こんな体験は初めてだっだ。今までだって危機は何度かあった。けどこんなことは初めてだ。逃げ出さないと……そう思うし、きっと女もそう思ってるはずだ。流石にあいつに向かって獲物を見るような……そんな目をしてたら、俺は一人で逃げる! 逃げるぞ!!
と思って女の方を見る。すると女も汗をダラダラと流しつつ、酷い顔をしてた。それは実際不細工な顔だった。けどある意味で俺は安心した。これであいつに立ち向かっていくような奴だとここできっと関係は終わってた。
まあまだ始まってもいないが。でも実際問題……一体どうしたらいいのか。どういうことかというと――
(身体がうごか……)
――そう身体が動かない。体中から汗がびっしょりで気持ち悪い。汗を気持ち悪いなんてこの世界の人達ならそんなに思うことじゃない。なにせ熱い世界だ。すぐに汗なんてかく。だけど、それよりも乾燥してるから、そんなに気持ち悪さなんてないはずなんだ。でも……今は違う。
汗によって張り付く服のベットリ感……それがやけに気持ち悪く感じる。
「ん? ゴミか……はは、なるほどなるほど。はあああああ」
俺たちに気づいたそいつ。そして状況も理解したんだろう。こいつはきっとさっき殺したやつと知り合いだ。知り合いが殺されて怒ったか? そう思った。
「くははははははは! そうかそうか……お前たちがそいつを殺したか。まったくもってそうかそうか」
なんだか楽しそうにそいつは笑ってる。知り合い? だよな? 友達とかではないとしても、知り合いが頭真っ二つにされて死んでたら普通は動揺とか……そんな風になるものではないだろうか? いや、こいつらに……教会の奴らにそんな事を期待するだけ無駄なのか。
俺の中での教会関係者のこれまでの印象が崩れていく。俺が知ってる神父とかなら、きっと泣き崩れたりするだろう。でもそいつらとこの眼の前の中央の奴らは違う。
そう、違う生き物なんだ。長く笑ってたそいつ。けどふと、ピタッとその笑い声が止まった。そして更に玉のような汗がもっと吹き出してくる。
それに……
「かっひゅっ――」
息ができなかった。そしてそいつはいう。
「まったく、ゴミも使いようはあるじゃないか。よくやった。私の為にありがとう。私が褒美を贈ろう。死という褒美だ。受け取ってくれ」
聖職者の様な笑みを称えるそいつに俺は恐怖しかなかった。
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