松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆自治体から見た協働とは何か(三浦半島)

2016-09-26 | 1.研究活動

 ある自治体職員方が来られて、改めて、協働とは何かを考えた。 

 協働については、次のような図がよく使われる。「協働」の画像検索結果
 話をしながら、この図ができた、当時のことを思い出した。

 この図は、1996~7年ころ、日本NPOセンターの山岡さんたちが、考えた図である。その意図するところは、それまで行政の下請的存在であったNPOを行政と対等の契約主体として位置づけるものである。それが、1999年3月の横浜市市民活動推進検討委員会報告における「横浜市における市民活動との協働に関する基本方針」、いわゆる横浜コードに採用され、それがその後、全国に広がっていった。今日では、この絵が、協働の代表的な図として広まっている。

 この図が広まるには、イギリスのコンパクトも影響している。イギリスでは、サッチャー政権の1980年代になって、それまでの国家、行政による福祉国家を転換する大行政改革を行い、国や行政による直営ではなく、非営利組織とのパートナーシップによって行政サービスを進めた。その狙うところは、肥大化した行政コストのコストカットなので、パートナーシップの相手方であるNPOも、安売り競争に巻き込まれることになる。

 行政とNPOとのパートナーシップの方法として、競争入札による委託契約が採用されるが、その流れの中で、本来は自立的、自発的存在であったNPOが、行政との委託事業の中で、その自立性、自発性がそこなわれ、NPOが行政の従属的存在、下請的存在となってしまう危険性が出てきた。

 そこで、それに危機感を抱いたNPOが、1998年に、当時のブレア政権と、コンパクトと呼ばれる合意文書を結んだ。「イングランドにおける政府とボランタリーセクターおよびコミュニテイセクターとの関係についての協定」で、ここではNPOの自立性や社会的意義を尊重しつつ、政府がその財源確保に積極的に協力しながら、お互いがお互いの価値を認めて、なおかつ友好なパートナーシップを結んでいくことに合意した。下請的存在から脱して、対等の関係をつくろうとしたものである。

 つまり、この図で示される協働という考え方は、NPOサイドからの発想で、NPOを行政と対等の関係に位置付け、対等の契約当事者として、委託や補助などの契約ができることを示そうとする意図から提案されたものである。

 ちなみにコンパクトであるが、一般には評価の高い方式であるが、私は十分でないと考えている。つまり、これは役所と市民の一部(NPO)だけでつくるルールである。ほかの市民の代表である議員が入らないルールづくりは、やはり十分ではないと考えているからである。

 これは、パートナーシップ事業に関して、一般市民が抱く疑問は、行政と一部NPOとのバカップル現象である(バカップルとは、馬鹿なカップルの略である。電車の中で、場所柄もわきまえず、二人だけの世界に入っているカップルが代表例である。当事者同士は了解しているが、外から見ると、なにをしているのか理解できず、それに多少の羨ましさが加わるから、なんだあいつらという非難に変わる)。バカップル化を避けるためにも、パートナーシップの基本ルールは、野球の9人、つまり自治(まちづくり)の主要な当事者である議員も入れた9人でつくるべきと考えているからである。

 ともかく、こうしたいきさつで協働の図ができ、それが広まり、そして全国の自治体に広がった。そこで、協働というと委託や補助といった対等の契約の部分がメインだと思われるようになった。

 しかし、この協働論では、①NPO同士、地域コミュニティとNPOとの協働は出てこない、②時と場所を一緒にせず、金銭等の伴わない支援(例えばNPOに対する励ましや暖かな視線)は協働に入ってこない。しかし、自治体側から協働を見ると、こうした「協働」も重要な協働である。

 つまり、さまざまな協働論があってよいが、自治体は、自治体から見た協働論を再構築すべきだということである。いいかえると、自治体協働論とは、幸せな社会を作るには、自治体とNPOの関係はどうあるべきかから考えていくものであるが、この立場で協働を考えると、行政とNPOが一緒にやらなくても、NPO同士でも、NPOに対する励ましや暖かな視線だって、それを契機に、NPOが社会のために力を発揮し、幸せな社会ができていけば、それだって立派な協働といえる。

 この点については、『協働が変える役所の仕事・自治の未来―市民が存分に力を発揮する社会』に詳しく書いた。

 この自治体協働論から見れば、
 ①先の図でいえば、⇔と書かれた、その左側の地域活動、住民活動と書かれたところも協働であると考えている。私の用語でいえば、⇔のある真ん中の3つは、「一緒にやる協働」で、左側の部分は、「一緒のやらない協働である」
 ②この図は、縮尺がおかしいということになる。5分割されているが、比率でいえば、右の行政の部分と左側の地域活動の部分が圧倒的に広いはずである。イメージでいえば、真ん中の3つ(広義のパートナーシップ⇔と置かれている部分)は、せいぜい全体の1割くらいの比率くらいだろうか。

 忘れていたことを思い出すことができて、とてもうれしかった。

 


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