直島では、島の北部、本村(ほんむら)地区で、家プロジェクトが行われている。家プロジェクトは、アートプロジェクトといわれるものである。『日本型アートプロジェクトの歴史と現在』によると、アートプロジェクトとは、「現代美術を中心に、1990年代以降日本各地で展開されている共創的芸術活動。作品展示にとどまらず、同時代の社会の中に入りこんで、個別の社会的事象と関わりながら展開される。既存の回路とは異なる接続・接触のきっかけとなることで、新たな芸術的・社会的文脈を創出する活動」でとされている。
要するに、アトリエや研究室の中ではなく、野外やまちなかにある、廃校、廃屋、公園、広場などを使って、あるいは拠点にして行う創作活動、芸術祭をいう。同書では、「①制作のプロセスを重視し、積極的に開示、②プロジェクトが実施される場やその社会的状況に応じた活動を行う、社会的な文脈としてのサイト・スペシフィック、③さまざまな波及効果を期待する、継続的な展開、④さまざまな属性の人びとが関わるコラボレーションと、それを誘発するコミュニケーション、⑤芸術以外の社会分野への関心や働きかけなどの特徴を持つ」とされている。
直島の家プロジェクトは、現在7点が公開されている。1998年制作の「角屋」に始まり、「南寺」「きんざ」「護王神社」「石橋」「碁会所」「はいしゃ」である。直島の家プロジェクトは、本村地区という集落エリアで、その地域に昔からあった建物や特定の場所を使って、アーティストによって、作品化されたものである。
家プロジェクト第一弾の「角屋」は、住人が高齢のため空き家になる築200年の民家をベネッセが買い取り製作されたものである。角屋は、道沿いの角に建っていることから名が付けられたということであるが、漆喰・焼板・本瓦による日本家屋である。実は、この本村地区は、戦国時代末期に城(水軍)があり、その城下町として本村の町並みや寺院群、神社などを整備されたものである。島にいるとは思えない見事な街並みが残っている。
はいしゃは、家プロジェクトの中でも異彩をはなっている。もともとは歯科医院であった建物を作品化したものである。彫刻的であり、絵画的という評価であるが、評価はさまざまなのだろう。ひらがなの「はいしゃ」から、人それぞれのイメージが生まれる作品だと思う。
絵画にも彫刻には素養のない私は、ウィーンで見たフンデルトヴァッサーの作品群を思い出した。シュピッテラウゴミ焼却場やフンデルトヴァッサーハウスを見て回ったが、その時も連れ合いは、「これなに・・・」「なんでことを・・・」と私に問いかけたが、もちろん私は答えの術を持たなかった。