美男子俱楽部

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過去へのジャンプ、未来への逆戻り

2022-09-07 | エッセイ

 人間、現在と云うのが最も大事で、それは何故かというとわれわれは現在にしか生きられないからであるが、中には過去の汚点或いは栄光に執着する余り現在の自分を正当に評価出来ずに居る人、自棄になって周囲を蔑ろにする人などが在って、将又、何の保証も無い遠い未来の為に現在を犠牲にするのは全く以て愚かとしか云い様が無く、それは未来が現在の積み重ねであるからで、今を楽しめない人間が未来で笑う日が来るとは到底思えず、未来でも未来を求めて苦心する筈である。

 と、思う自分の事を書くと為れば、俺は過去には女に大変もてたし、未来に向けて、此れからは更にもてて行きたいという所存である。その為には現状、つまり現在の有様を評価しなければなるまいね。先ず、現在の自分が以前のようにもてなく為ったのは、学生時代の様に多数の女性とまみえる機会を失っている事がその原因として考えられるが、どうやら原因はそう云った周囲の環境だけではなく、俺自身に在るような気もする。

 例えば、此の随筆や詩といった文学延いては絵画を含めた芸術の創作活動が駄目なのである。昨今、芸術家がもてるという話は聞いた事が無く、どころか不審がられる気が為るのであって、思えば当然であるのかも知れないというのは俺がシュルレアリスムを謳ってえがいた絵画、「人間牧場」というタイトルを付けた禍禍しき詩集をみれば分り、こう云うのは世間一般的な目からすれば全く以て意味不明であって、仮に俺が女であったなら「彼岸花を茶漬けにして食う」「新たな生命を磨り潰して何事も無かった顔でフラメンコ」などといった俗悪な詩を書く男とは刹那的に別れるのである。

 更に言えばこの服装も駄目である。寝間着として着用していたズボンに寝間着として着用していた怪獣の写真がプリントされたTシャツをインして、上着を羽織っただけの恰好で外出する事が良くない。又、この髪型も駄目である。もてる男というのは身嗜みを常に気にしてヘアワックスなどを用いて整髪して居るのだ。それに比して俺のパーマの掛かった無防備なヘアが風に吹かれて右左右左左右右。

 此の身長も駄目である。俺の身長は一七九センチメートルで、これは周囲の人間に比して高い方と思われるが、その所為で人に身長を聞かれた際に「一七九」と答えればかならず「一八〇は無いんだぁ」などと嘲るように云われ、毎度不愉快な気持を蒙りこの中途半端な数値を詛うのであるが、一センチメートルくらい高めに見て一八〇センチメートルと答えれば良いものを、態態一七九と答える生真面目な性格が又駄目なのであって、それに付随して車を運転する際に態態手套を着用したり、洗顔の際に水を顔に掛ける回数を十八回と定めたり、そう云った妙なこだわりを忠実に全うするあたりも駄目で、以降も考えてみたら駄目な所ばかりで今の俺は此のつたない随筆が御似合いの穀潰し、と云った結論に至り自棄になって周囲の知人全員に金を借りて未来の栄光の為に新宿の占い師から世界に一つしか無い幸福を呼び寄せる壺と必ず願いがかなう魔法の石と註文から五年待ちの南アフリカあたりでしか採れ無い植物エキスをあらゆる昆虫の尿と配合したうどん粉ペーストの歯磨き粉を購買して踊って現在を楽しんだ。



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