Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

高野和明「K.Nの悲劇」再読

2011-09-05 23:32:38 | 読書感想文(小説)



フリーライターの修平は、自著がヒットして収入が増えたことをきっかけに
マンションを購入し、妻と新しい生活を始めようとしていた。
だが、その後の経済状況は予想したほど芳しくなく、修平は予期せぬ妻の妊娠に
中絶という答えを出そうとした。
ところが、2人が中絶を決めた時から、妻の果波に異変が起き始める。
果波の中にいる、もう一人の女。はたしてそれは果波の別人格なのか、それとも死霊の憑依なのか。
修平は、産科医に紹介された休職中の精神科医・磯貝とともに果波を治療しようとするが…


この本を最初に読んだのは、多分5年くらい前だと思うのですが、恐ろしいことに

内容をほっとんど忘れてしまっておりました。

しかも、修平の書いた本の内容とか細かい設定だけならまだしも、肝心の
果波に起きた異変が心因性のものなのかオカルティックな原因のものなのかということを
きれいさっぱり頭の中から消去しておりました。いや、そこ忘れないだろ普通。
ミステリー小説読んで犯人忘れるようなものです。
ほんに、歳月は人の記憶をうつろいやすくするものですなぁ…(それちょっと違う)。

でもまあそのおかげで、一度読んだことのある本をまるで初めて読む本のように楽しめたのだから、
ある意味お得っちゃお得ですよね。1粒で2度おいしいっていうか(←古い)。

ストーリー自体は、フリーライターの夫が1本当てたことで舞い上がっちゃった若い夫婦が
うっかり子供作っちゃって、子供を産むのと今の快適な生活(つってもマンションのローンで
カツカツなんですが)のどちらを取るかで降車を択んじゃったことから起きる悲劇、という
何やってんだお前らと突っ込みたくなるような
情けない内容なのですが、産婦人科や精神科の専門知識や人工中絶に対する作者のメッセージが
盛り込まれていて、とても面白かったしいろいろ考えさせられもしました。

例えば、この小説のヒロイン・果波のような「守ってあげたくなるようなか弱い女性」なんて
実際にいるのかね、とか。30数年生きてきて、一度も見たことないよ私。
それと、妊娠・出産という女性が主人公になるイベントがテーマなのに、男性のみの目線で
描かれていることが気になりました。作者が男性だから仕方ないんだろうけど、なんかちょっと
妊娠・出産を持ち上げすぎている気が。いや、軽視されるよりはよっぽどいいんだけど。

果波の妊娠と治療を通じて、修平に父親としての自覚が芽生えていく過程はよかったです。
最初はお腹の子供のことより自分のことばかりで非常にむかつく男でしたが、それが自分の中の
醜い感情を認めて、果波とお腹の子供を守るために立ち上がるまでに成長したのには感動しました。
なので余計に、果波が母親としてたくましく成長する過程も描かれていればよかったのになと
残念に思います。

…とここまでは散々書いてしまいましたが、果波が別人格にとりつかれる場面やその他の
オカルティックな場面の描写はものすご~く怖くて、読んでてハラハラドキドキ、ページを
めくる手がとめられなかったです。早く続きを読まないと怖くてトイレにいけないから…じゃなくて
臨場感たっぷりで引き込まれたから。

とくに、一番「ひぃぃぃ~」だったのは、修平が浴室で髪を洗う場面。シャンプーを泡立てて
両手で頭皮をしゃかしゃかやってる時に、気がついたら頭に触れている手が1本多かった…って、
怖い!怖すぎる!!あまりの怖さに「しばらくシャンプーやめようか…」って思ったくらいです。
夏場だからそういうわけにはいかないけど。

そういうわけで、仙台駅での突拍子もないクライマックスと、エピローグの「なんだかなぁ」な
上手く行きすぎ展開には肩透かしをくらいましたが、身の毛もよだつ恐怖描写のおかげで
小説の世界を充分に楽しむことができました。やれやれ。

それにしても、小説の中の仙台っていろんなことが起きるよなぁ。
パレード中に首相が暗殺されたり、駅で女性が○○したり。
そうさせる「なにか」があるんだろうな、きっと。一度行ってみようかな。



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