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Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

角田光代「ひそやかな花園」

2014-06-09 00:05:33 | 読書感想文(小説)


角田光代の「ひそやかな花園」を読みました。

先月、大阪に行った折に買って、その日のうちに読み終えました。しかしあれやこれやに忙殺されてなかなか感想を書けず…今頃になってようやく重い腰をあげました。

幼い頃、夏になると毎年家族ぐるみでサマーキャンプを共にしていた7人。
全員一人っ子の7人にとって、そのキャンプは天国のように楽しい日々だった。
しかし、ある年からキャンプは行われなくなり、彼らは別々の場所で、それぞれの心の中で、サマーキャンプの日々に思いを馳せながら大人になった。
ある日、ふとしたことがきっかけで7人は再会し、彼ら7人の出生の秘密を知ることになる。
7人の父親は誰なのか。たどり着いた答えから彼らが選んだ道は-



※ここから先はネタバレがあります。ご注意ください。








サマーキャンプに集まっていた7人(女4人、男3人)の視点で、並行して物語が進むので、読んでる最中は誰が誰だかわからなくなることがしばしばありました。トシのせいかしら。これからは登場人物の名前と設定をメモしながら読まないといけませんね。トホホ。

文庫の帯に“「父の証し」とはなにか”とあるように、この小説のテーマは「父親とは何か」ということでした。ただし、7人の子供たちの「父親」は、作中に一度も出てこないのですが。その一度も出てこない「父親」に、彼らは振り回され、うまくいかない人生を呪い、そして救いを求める。顔も知らない「父親」に。

7人はAID(非配偶者間人工授精)によって生まれた子供で、そのことが彼らにも彼らの家族にも影響を与えるわけですが、こういった問題は現実でも起きているそうで、「これはフィクションだから」と割り切って読むのは難しかったです。特に、ミュージシャンになった波留が失明の危機に陥り、生物学上の父親からの遺伝によるものかもしれない、と苦悩する場面は、これが現実に起きた場合、どう対処しているのだろうと疑問に思いました。そういえば、何年か前に人工受精で生まれた女性が妊娠・出産したというニュースを見たことがあります。人工授精で生まれた女性が子どもを産むことがそれほどニュースになるのかと衝撃を受けたのを覚えています。

波留だけでなく、不妊に悩む樹里、夫の束縛に怯えながらもそれをひた隠しに暮らす紀子、不安定な生活を送り、それをすべて自分の出生のせいにする紗有美。女性との関係が心もとない賢人、1人暮らしの部屋に家出少女たちを招き入れる雄一郎、サマーキャンプが行われなくなってからずっと、常に「理想の息子」を演じ続けなくては行けなくなった、弾。彼らのそれぞれの物語はどれも共感するところも同情するところも、むっとするところも「甘えるな」と毒づきたくなるところもありました。でも、さすがに7人は多い。入れ代わり立ち代わり身の上話を聞かされるみたいで落ち着かず、7人それぞれの人物像が浅く感じてしまいました。もっとも、これだけのバリエーションを用意しなければ、AIDで生まれた子供たちの苦悩を描くことはできないんでしょうけど。

本当の父親が誰かわからず、自分が何者なのか確信が持てなくて迷い悩む7人。でも、彼らが知りたいのは父親が誰かということではなく、この悩みから解放される術でした。結果、物語の最後にそれは見つかったのか見つからなかったのか、人によっては納得がいかなそうな終わり方でしたが、個人的にはまあなんというか…もやもやするけど「そういうものかな」と納得しました。

ところで、余談ですがエピローグで、紗有美が父親にあてて書いた手紙に出てくる波留のスピーチを読んで、なんとなく大島弓子の「バナナブレッドのプティング」のラストを思い出しました。主人公の姉が、夢の中で、「この世に生まれてくるのが恐い」と怯える我が子に、「まあ生まれてきてごらんなさい。最高に素晴らしいことが待ってるから」と諭すあのラストシーン。この場面以外、この小説を読んでてあのマンガを思い出す場面は全然全然ないのですが、エピローグの波留のスピーチを読んで、主人公の姉のセリフをさあっと思い出しました。なので、もしかしたら角田さんも昔「バナナブレッドのプティング」を読んでて、ちょびっと影響を受けたりしてるのかしら…などと妄想してしまいましたが、まあそんなこと考えるのは私だけですね。


最近は図書館でまとめて借りた本を駆け足で読むのに忙しくて、感想を書くのをさぼっていました。でもせっかく本を読んだのに感想を何もまとめないのももったいないので、これからはなるべく書くようにします。これも一種の貧乏性?


2 コメント

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私も読みました (ぱたぱたまま)
2014-06-09 20:11:55
もちきちさん、こんばんは。
つくづくもちきちきちさんと本の趣味がぴったりなのか、私もこの本読みました。感想が読めてとてもうれしかったです。
今まで、角田光代は終わり方があまりにも暗いものが多かったために、ちょっと苦手だったのですが、この本はなんとなく最後に希望が残る終わり方でほっとしました。
やはり7人の登場人物が多すぎて(てか私の記憶力がなさすぎて)、途中何度もだれがだれだったか読み返すはめになりましたが。7人の登場人物に加えてそれぞれの親まで登場するので、ついていくのが大変でした。
何年か前に、医師が自分のDNA検査をしてAIDでの出生がわかり、自分の父を知るための裁判を起こした記事がありましたが、それが本の内容のモデルになったのでしょうか。この頃年のせいか、新しいことにチャレンジする精神がめっきりなくなってしまっていたので、バナナブレッドのプディングも思い出しながら、頑張っていこうと思います。気候不順のおりくれぐれもご自愛ください。
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夏風邪にお気を付け下さい (もちきち)
2014-06-09 23:43:15
>ぱたぱたままさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
ぱたぱたままさんもこの本を読まれてるんですね。感想を共有してくれる人がいるのはうれしいです。

>新しいことにチャレンジする精神がめっきりなくなってしまっていたので、
私もここのところ、読む作家が偏ってきているので、若い作家の本や今まで読んだことないジャンルの本を読もうかと考えているところです。
とはいえ、内容があまりに自分と合わない場合はギブアップもやむなしですが…。
最近急に暑くなりましたね。冷房等で体を冷やして夏風邪をひかないようお気を付け下さいませ。
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