合併で生まれた東北の地方都市・ゆめので暮らす、立場も年齢も異なる5人の男女。彼らに共通しているのは、どんよりとした
灰色の冬空のような、憂鬱な日常のみ。仕事に嫌気がさしているケースワーカー、地元を嫌い東京に憧れる女子高生、
暴走族あがりのセールスマン、スーパーの保安員をしながら新興宗教にはまる中年女性、県議会に打って出ようとしている
2世市議会議員。けして重なることのなかった彼らの人生は、ひょんなことから錯綜し、思いがけない事態を引き起こす…
※ややネタバレあり。要注意!
奥田英朗の「無理」を読みました。「邪魔」「最悪」のような、“とことん救いのない人たちの群像劇”が好きなので
そういったのを期待して読んだのですが、期待通りの“とことん救いのない人たちの群像劇”でした。
あとがきによると、この小説の単行本は2009年に発行されたそうですが、生活保護問題や産廃処理場問題など
最近メディアでよく耳にするホットな話題が出てくるので、「おお、タイムリーだな」と思う反面、この小説が
書かれた当時からそういった問題の解決は全然進んでないんだなとがっかりもしました。メディアでとりあげられる
ようになった分、2009年当時よりも世間の関心が高くなったのだと考えることもできますが。
この小説の登場人物は、公務員も市議会議員もヤクザも高校生もヤンキーも、誰もが「おいおい」と突っ込みたくなる
イラッとする成分を持っているのですが、その分人間臭くてどこか憎めないところもあります。認めたくないけど
共感できる部分もあるし。なので、ブレーキのきかない自転車で坂道を滑り落ちていく彼らのことを「馬鹿な奴ら」と
嘲ることができません。それどころか、彼らを襲った火の粉が明日は我が身に降りかかるのではと怖くなって、
自分と彼らの相違点を探して「私は彼らとは違うから大丈夫、きっと」と自分に言い聞かせたりしました。いや、違うと
思っているのは錯覚で、ほんとは変わりないのかもしれないけど。
ただ、「自業自得じゃないの?」と思える登場人物が多い中で、唯一純粋に「どうしてこんな目に遭わされるんだ」と
心底同情し怒りを覚えたのが、女子高生の久保史恵。逃げ出したくても逃げ出せない、助けを呼びたいのに呼べない
彼女の心境が、「それじゃダメだ、もっとしっかりしなきゃ!」と叱咤できないほどわかるから。それと、ゆめのという
何もない地方都市に暮らし、東京の生活に過剰に憧れている彼女の姿が、遠い昔の自分と重なるというのもあります。
若くて、まだ何者でもない彼女が、彼女を襲った不幸が貼ったレッテルに負けませんように。もっとも、今の私は女子高生の
史恵よりも、新興宗教にはまる48歳の堀部妙子のほうにわが身を重ねなくてはならないのですが。妙子の抱える孤独と
不安の描写は、今の私には重すぎて、直視できないのですが。
小説全体を覆う、東京から遠く離れた地方都市の持つ行き場のない閉塞感が強烈過ぎて、読んでるこちらも気持ちが
凹んで、「読まなきゃよかったかな」と後悔することもありました。なので、それだけストレスがたまった分、ラストで
どーんとカタルシスを期待していたのですが…私が甘かった。確かに、あのクライマックスは某アカデミー賞作品賞
受賞映画と被るところはあるけれど、あそこまですっきりとはいきませんでした。まあ、文庫のオビにも
「この物語には、夢も希望もありません」
ってあるんだから、期待するほうが間違ってるんでしょうけどね。
文庫本で上下2巻もあって長い割には、読み終わったときに尻切れトンボな感じがしました。それこそが現実、それこそが
リアリティなのかもしれませんが、できれば私はこの続きが読みたいです。この小説が世に出たのは2009年だから。
不謹慎かもしれませんが、震災を経験したゆめの市が、史恵や妙子ら5人が、いまどうなってるのかが知りたいからです。
すべてが灰色に見えたこの街が、今は何色なのかが見たいから。
なんとかなりませんかねぇ、奥田さん。
はじめまして。コメントありがとうございます。
いや~、ほんとにこの小説に出てくる人たちって生々しいほどリアルでしたよね。
>、(沈黙の町で)のいじめられてなくなった中学生がいきのびていたらこうなる、なれの果て
あ~、なるほど。確かにあの中学生とあの母親ならこうなってたかもしれませんね。
もしかしたら作者の奥田さんの中では中学生とひきこもりの男はリンクしているのかも。
コメントを読んで、両方の作品を読み返してみたくなりました。
こんばんは。「噂の女」をもう読まれたんですね。
この本は私も気になってるんですが、ハードカバーはなかなか手が届かなくて…。
「無理」は、夢も希望もない小説なので、精神的に余裕があるときに読んだほうがよさそうです。
登場人物の誰かに感情移入すると、後で凹むかもしれませんのでご注意を。
リンク先のサイトにある、「作風に清潔さはない」は、まさにこの「無理」にあてはまります。
毒のある作家さんですが、「ガール」や「マドンナ」のようなほんわかした短編も書けるところが、
作家として大御所になれるといわれる理由なのかな。
まぁ物語も帯通りと言うことなら、ちょっと納得??。
ちょっと長そうですけど、読んでみようかと思います。
タイトル通り「無理」と言ってしまう可能性もありますが。
新作「噂の女」を読んだのですが、こちらは面白かったですよ。
超有名な作家さんだけに、いろいろなサイトで
取り上げられていますが、かなり掘り下げてるサイトを
見つけました。
http://www.birthday-energy.co.jp/
毒っぽい感じが上手く作風に現れていて、それが魅力
でもあるとか。
大御所になる感もあるそうで、これからも期待!
こんばんは。今週の清盛も濃かったですね。
>伊良部シリーズも奥田さんの作品だったんだ!?
そうなんですよ~。「無理」とはギャップがありますよね。
黒木瞳がモデルの話もそうですが、伊良部シリーズの「町長選挙」は
モデルになってる有名人がいる話が多かったですね。ネタ切れだったんでしょうか。
松尾スズキ主演の映画は見てないんですが、確かオダギリジョーが“ナニがずっとアレの状態になってる役”だったんですよね。そこだけ覚えてます。
私と読書傾向が似てるなんておっしゃっていただいて恐縮です。我ながら結構偏っていると思うのですが…。
最近は本を読む時間がとれなくてあまり数をこなせてませんが、何かお勧めの本があったら教えて下さいませね。
>
伊良部シリーズも奥田さんの作品だったんだ!?
これは娘に勧められて読んですごく面白かったのですが(誰が読んでも黒木瞳がモデルとわかる作品もあって、こんなん書いて大丈夫なのかと思いながら読んだ:笑)、娘が松尾スズキの大ファンなので、松尾スズキ作と勘違いしてました。
スズキさんは原作者じゃなくて映画の主演でしたね~
昔の記事へのコメントをきっかけに近藤史恵の「サクリファイス」も一気読みしたところです。もちきちさんとは読書傾向が似てるみたいで嬉しいです(もちきちさんのほうは別に嬉しくないと思いますが、私のほうは、こちらの過去ログから、いろいろ未読の本を探せるので)
こんばんは。コメントありがとうございます。
今年の大河もあとちょっとで終わっちゃいますね~寂しいです。
朝日新聞に連載されていた小説は未読ですが、気になりますね。結末が尻切れトンボというのが残念です。
でも前に読んだ「サウスバウンド」も、後味は悪くないものの唐突な終わり方だったから、
奥田さんの長編はそういうものなのかもしれませんね。
「サウスバウンド」はともかく、奥田さんの長編小説は救いのない話が多いですね。
しかも、「悪の教典」みたいに現実離れしたサイコパスが出てくるんじゃなくて、
身近にいそうな人たちがあり得そうな理由でどん詰まりの不幸になるのがリアリティありすぎて怖いです。
逆に短編は伊良部シリーズとかほのぼのしてるのが多いのに。エッセイも然り。
次はほのぼの系を読みたいと思います。
それよりも驚いたのは、ちょうどこの連載が終わるか終わらないかの頃に大津の事件があって、まるで予言者のような作家だとビックリしました。まだ単行本化はされていないようですが、刊行されたらかなり話題になるのではないでしょうか。
奥田英朗さんって、確かほのぼの系の小説も書いていたんじゃないかと思いますが、最近はこうした救いのない系が中心なのでしょうかね。すごく悪い奴が出てくるわけではなく、誰もが持っている「イラっとする感」がお互いに積もりからまり、どんどん救いが無くなっていく経緯がリアルで、ああ~嫌な小説だ~と思いながら引き込まれてしまう(作者の思う壺)
長くなってしまってすみません。口直しに嬉しい話題を。NHKのうどん県のHPは、崇徳院エピが終了した後も、屋島に向けてますますの充実ぶりですごいですね。本体HPが終わった後もうどん県部分は永久保存してほしい。