両吟半歌仙「水篶刈る」の巻・短評コメント
本日は両吟半歌仙「水篶刈る」の巻 矢崎硯水翁捌きの10句目からの短評コメントです。前回の9句目までをまず紹介しておきます。
水篶刈る信濃の宿の銀竹よ 矢崎硯水
寄る人ありて灯す埋火 桜田一平
出航の汽笛の音の聴こえきて 硯水
岡を登れば地の遥かなる 一平
月の輪をよぎる翼のきらめきに 硯水
欅の機(はた)に凛と新絹 一平
ウ エッシャーの騙し絵眺む美術展 硯水
階下へ誘うコーヒーの午後 一平
嬉しげに毛先の揃え気づくまで 同
以下、10句目からです。
- 典比古 ★翁
縄文顔のおもかげを抱き 硯水
●あわい恋心が、魅入ってしまったようなその縄文顏。この「縄文顔」で時間軸の深さを味わう
ドッグラン柴犬戯れて瓜二つ 一平
●二人してドッグランで犬を遊ばせていたが、なんだかもう一匹もまったく同じような似姿をしていて、その姿につい目を細めてしまった。ユーモラスがある。
魔法つぎつぎ宵のパリ祭 硯水
●外国に目を転じ、フランスの革命記念日の「パリ祭」の「魔法」のイベントに目を奪われる(なんだか童話的なワクワク感の雰囲気を感じる)(夏・晩)
★「縄文顔」恋。「ドッグラン」動物。「魔法」神祇。地名。時代外れな恋人の顔立ち。柴犬二匹ではなく、恋人と柴犬の顔が瓜二つ?まるで魔法だ。連句も魔法だ。三句の渡りは付け筋がやや乱暴だが面白味はある。
少将の外寝気ままにゆるす月 一平
●「少将」と「外寝(とのい)という措辞が、平安・中世あるいは近世を感じさせる語彙で、風雅な情景を醸し出す。そんな状況をゆるしている月の光がやさしい。ここは「パリ祭」に触発されて、対としての「日本的」な美を醸し出す(秋)
何はさておきAIの技 硯水
●ここで場面は現代の最先端の「AI」を詠む・・・・もうここまできたら「AIの技」を借りて、思う存分打って出てみよう!(残りの句へ向けてのギアチェンジか)
問い重ねようやく答え近づける 一平
●質問につぐ質問をして、「答え」らしきものをやっと手繰り寄せた。
★「少将」。「何はさておき」時事。IT「問い重ね」。前句に少将は付け筋あらわ、少将にAIは離れすぎ。AIに問い重ねは付け筋あらわ。この辺りは具体的な句意鮮明な題材で、ユーモア利かせて暴れたいところだった。
鐘撞き堂はこの辺りとか 硯水
●前句「近づける」が、「鐘の余韻」の響きを呼び込んだか・・・空間と音と記憶が微妙に混じる句(花を呼び込んでいるような気配)
酒あつめ無礼講なる花の下 一平
●大団円に向っての「無礼講」が効いています。どんちゃん騒ぎが聴こえる!(春晩)
暮るるも遅き山の頂 硯水
●庶民の素朴な、そして楽しみである宴会の場面が浮かびあがり、なおかつ満開の桜を囲みながらの人々の賑わいがよく聞こえ、またよく見えてきます。夜更けまで続く時間的な経過もみえます!めでたし、めでたし!
★「鐘撞き堂」釈教。「酒あつめ」飲食。「山の頂」山岳。「近づける」が「鐘の余韻」の響きを呼び込んだか」の短評の通り。場所を指し示す語の呼応。花の定座は無礼講がいいですが「酒あつめ」に一考の余地あり。挙句も「山の頂」に再考の余地ありです。
※典比古
ということで両吟半歌仙「水篶刈る」の巻の「短評コメント」でした。
尚、一平さんは去年の9月に連句会「石榴の会」(仙台)に入会され、月一回ほど連句を学んでいるそうですが、お仲間の年齢は男性80歳、女性80歳、女性50歳と一平さんの4人ということだそうです。そして「宮城県連句協会」という結社に今年1月から入会し、上の3人もその会員という由。
一平さんによると、「下記URLの連句新聞のお問い合わせに、連句をしたいということを送信したら、上の80歳の男性女性両方のアドレスを紹介していただいて、それで知り合いました。」ということです。
これだけの感性なので、もう随分とこなしているのかなと思いきや、まだ一年も経っていないのですね。
さて一平さんは、二巻目の挑戦ということで、硯水翁の胸を再びお借りしたいという、ご本人のなみなみならぬ意欲!さっそく翁に「メール」をさしあげましたら、快諾!
ということで次回は両吟半歌仙「蔵王の峰」の巻を記事にいたします。
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