noriba-ba's garden

ノラにゃんこ物語~最終章~後編

ノラにゃんこ物語~最終章~中編の続きです。

 

たった15分間、夫が留守をしている間に

忽然と姿を消したノラにゃんこ。

ほぼ3日間、飲まず食わずの断食状態で体力の無い中

一体どこへ行ってしまったのか…。

もしかして、ねぐらに帰って行ったのかも知れない。

そう思って、夫はNさんと二人で

以前ノラの後をついて行って見つけたねぐらと思しき場所や

その近辺を探し回ったらしいが、やはり見つからない。

猫は最期の姿を人には見せないと聞いたが

そういうことなのか…。

 

ノラが居なくなり、どこを探しても見つからないので

夫はどうにもいたたまれない気持ちになり

しばらくして気分転換に車で買い物に出かけたらしい。

そして、帰ってくるなり「もしや…」と、一縷の望みをかけて

テラスを覗いたが、やっぱり猫ベッドはもぬけの殻…

ノラは戻って来てはいなかった。

 

朝からず~っとノラの捜索で東奔西走し

気がつけばいつの間にか夕方の5時近くになっていた。

夫はがっくりと意気消沈しながらも

スーパーで買って来た夕食用の二人分のお弁当を

Nさんと一緒に食べることにしたらしい。

こんな時に思いを共有してくれる隣人の存在はありがたい。

しかし、夫はどうにも食べる気分になれなくて

とりあえず買って来た冷凍讃岐うどんを

ミニログの冷蔵庫に入れに行くことにした。

 

その時、事態が大きく動いた。

何と、ミニログのドアの前にノラが居たのだ。

テラスにちょこんとうずくまっているではないか!

「ノラ~、こんなとこにおったんかぁ~!」

夫は嬉しさのあまり興奮した声で電話をかけてきた。

その時ちょうど私は、実家で98歳の母の入浴介助の最中だった。

「ノラが見つかった!ミニログにおった!」

朝からかなり遠くの方まで探しに行っていたのに

何のこっちゃ、ノラにゃんこはすぐ近くに居たのだ。(笑)

灯台下暗し…とはよく言ったものだ。

その時、送られてきた動画の中の

感極まった夫の声からはホッとした安堵感が伝わってきた。

動画で見るノラはかなり消耗しているように見えたが

もう会えないものと諦めていただけに

どんな状態でも、居てくれただけで私たちは嬉しかった。

その後、猫ベッドを持って来て横に置いてやると

自力で中に入って体を丸めて休むノラ。

ようやく安心できる場所で落ち着くことができたようだ。

ノラが見つかったという知らせを聞いて

ホッと胸をなでおろしたのも束の間

「でも、かなり容体が悪そうだ。今夜がヤマかも…」

続けて…「来るか?」と夫。

あまりにも急な展開に気持ちが追いつかない私。

とっさに口から出た言葉は

「よう行かんわ…最期を見るのは辛いから…」だった。

「そうか、辛いか…。わかった。ボクが看てやるわ。」

そう言って夫は電話を切った。

しかし、私は迷っていた。

もし、ホントにこれが最後だったら…どうしよう。

昨日の朝、山から帰る時に見たノラの姿や

元気だった頃の旺盛な食べっぷり

何度もケガをしながら逞しく生きていた姿。

見るに堪えない傷だらけの顔。

時折見せる何とも愛嬌のある仕草や表情。

そして、お宮の森を抜けて一人でどこかに帰って行く

いかにも野良猫らしい凛とした後ろ姿。

それを見送りながらいつも感じていた切なさ…。

そんな光景が走馬灯のように次々と思い出されてきた。

ノラは人に甘えることを知らなかった。

常に人との距離を一定に保ち警戒していた。

最初の頃は鳴き声も聞いたことがなく

近づき過ぎると身構えて「シャー!」と威嚇してきた。

そのせいで何度もオジサンと険悪になり

時には大声で怒鳴られたり、箸を投げられたり

しばらくは食器を格下げされたりしたものだ。(笑)

それが今ではどうだ。

いつしか、「ニャ~」と鳴くようになり

オジサンが傍に居ても平気でご飯を食べるようになった。

それどころか、まるでストーカーのように

家の中のオジサンの姿を覗き見たり

「ノラ、ご飯だよ~」と呼ぶ声が聞こえると

遠くから鳴き声をあげながらやって来るようにもなった。

相変わらず、体は触らせてくれないけど…。(笑)

でも、この変化は凄いことだと思う。

2年間かけて築き上げたオジサンとノラの絆だ。

そんなことをアレコレ思い出していると

私は居ても立っても居られず

急遽、車を走らせ山に行くことにした。

ノラのこともだが、実は夫のことも心配だった。

辛い看取りを夫だけに背負わせるわけにはいかない。

ここは夫婦二人でノラの最期を見届けてやりたい。

いや、そうすべきだ、と心から思ったのだ。

それに、私のミニログの前に居たことも大きかった。

最期の場所にそこを選んだノラの気持ちに

応えてやらなければ、きっと後悔する…そう思った。

それも、命が消えてしまわないうちに…。

私が山荘に到着したのが夜8時頃。

すでに辺りは真っ暗闇だったが

ミニログのテラスには灯りがともっていて

私の到着に気づいた夫がそこから迎えに出てきた。

「やっぱり、来たんじゃな!」と夫。

「うん、やっぱり来たよ…」と私。

すぐさま、二人でミニログのテラスに向かった。

そこには猫ベッドに丸まったノラが居た。

私の寝室があるミニログのドアの前だ。

ノラはじっとうずくまったまま目だけ動かして私を見た。

「ノラ、来たよ」と声をかけると微かに鳴いた。

でもほとんど声になっていない。

見るからに衰弱して、とてもしんどそうだ。

 

すぐ傍にはノラのために用意した蚊取り線香や

牛乳がほんの少し入った小さなお皿

キャンプ用の折りたたみ椅子も2脚置いてあった。

つい30分前までNさんもここに居て

夫と一緒にノラを見守ってくれていたらしい。

本当にありがたいことだ。

夫と私はノラの傍で容体を見守りながら

今日の出来事やここ数日のノラの様子について話した。

夜の山の静寂の中で私たちの声だけが大きく響き

ノラはさぞ迷惑だったかも知れないが…

時折り自分で体位を変えながら

ただひたすら黙って

私たちの会話を聞いているように思えた。

ある意味、この時間は至福のひとときだったかも…。

しばらくそうやって過ごしたのち

ノラの様子も落ち着いていたので寝ることにした。

9時過ぎに夫が母屋の寝室に行ったあと

私はミニログの寝室から外のテラスに居るノラを

窓越しに時々覗いて見守ることにした。

ノラが最後にこの場所を選んだわけは

あ、なるほど…そういうことか、と妙に腑に落ちた。

ノラがすぐ外に居ると思うと

気になってなかなか寝つけない私は

小さな音量でテレビをつけたまま、電気だけ消して

ベッドに横になりながら

時々窓から外のノラの様子を見ていた。

すると相変わらず、猫ベッドの中に丸くなって

時々体の向きを変えているのがわかる。

それを見ては、ああ、まだ生きてる、良かった…と

ホッと胸をなでおろし安心していた。

そんなことが何回か続き

つい、ウトウトしていた矢先のこと。

「ガタン!」という物音が外から聞こえてきた。

時計を見ると午前0時半だった。

私はすぐにベッドから飛び起き、部屋の明かりをつけて

窓から外を見ると、ノラが猫ベッドから出て

テラスの角に置いてある木製椅子の下で

うずくまるようにしていた。

さっきの物音はノラがベッドから出た時の音のようだ。

猫ベッドより床の方が楽なのかも…。

そう思いながら、なおも様子を見続けていたら

私に気づいたノラが一瞬身構えたように見えたので

慌てて部屋の電気を消して見守ることにした。

しばらくすると容体が急変し始めた。

ノラの体がビクッ、ビクッと間欠的に痙攣し始めたのだ。

最初は手足が時たまビクッと動く感じで

その度にノラは自分で手足を元の位置に戻していた。

この時はまだ頭をもたげることができていて

意識もしっかりしていたように思う。

 

そんな状態が20分ほど続き

次第に手足だけでなく体全体が大きく痙攣し始めた。

そしてその度に痙攣の反動で体が移動し

まさに、のたうち回る…という感じだった。

あまりにもその様子が痛ましいので

思わず私はドアを開けてノラに近づき声をかけた。

「ノラくん、大丈夫?苦しいよね…」

ノラは、もうその時には頭ももたげられず

体は横向きに長く横たわるしかできなかったのだが

私に気づくと頭をもたげ身構えようとした。

この期に及んでも、警戒心を忘れない。

野良猫に身についた本能がそうさせているのだろうけど

実に見事な、だが何と悲しい習性だろう。

でもノラの心身に負担をかけるわけにはいかない。

「ノラくん、ゴメンゴメン。わかったから…」と言いながら

慌てて私は部屋の中に引っ込んだ。

そして再び窓越しに見守ることにした。

 

それから10分ほど経っただろうか

次第に痙攣の間隔が短くなってきたので

私は意を決して外に出ることにした。

ノラはもう身構える余裕もなく苦しさに喘いでいた。

私はノラのすぐ傍で、なす術もなく

しばらく茫然とその痛ましい姿を見ていた。

(いよいよ最期が近いかもしれない…)

そして午前1時19分、電話で夫を呼んだ。

「ノラがもうすぐ逝きそう…」

すぐに事情を悟った夫が慌ててやって来て

「ノ~ラ!ノ~ラ!」と必死に何度も声をかけ続けた。

でももうノラには返事をするだけの力は残ってなかった。

だが、夫の声は聞こえていたようで

苦しい中、どうにかして頭を持ち上げようと

健気にも一生懸命の努力をしているように見て取れた。

 

そんなノラの、断末魔と闘う凄まじい姿を目の前にして

私たちにはどうしてやることもできなかった。

「ノラ、もう頑張らなくてもいいんだよ!」

「もうすぐ楽になるからね!」

そう声をかけるのが私にできる精一杯だった。

そのような状態がしばらく続き

さらに呼吸は速く荒く、痙攣も小刻みになってきた。

そして夫が来てから30分ほど経った頃

突然ノラが最後の力を振り絞るようにして

私の方へ顔を向けて、それまでとは明らかに違う

黒くてまん丸い目を大きく見開いて

じっと黙って、何かを訴えるように私を見た。

ほんの一瞬、ノラと私は見つめ合った。

おそらくそれが別れのあいさつだったのだろう。

「オバサン、今までありがとう…バイバイ!」

ノラがそんなふうに言っているように私は感じた。

 

そして次にノラは夫の方へ顔を向けた。

「ノラ!ノラ!」と胸を詰まらせ、嗚咽をこらえながら

必死に声をかけ続けるオジサン。

その姿をじっと見つめるノラの表情からは

「優しいオジサン、今までご飯をいっぱ~いありがとう!」

「ボクの大好きなオジサン、さようなら!」

そんな声が聞こえてくるようだった。

 

すでにこの時には苦しみの極限を過ぎたのか

ノラの表情は穏やかになっていた。

それに引き替えオジサンは堪え切れずに男泣きしていた。

まもなくノラは喉の奥から声を絞り出すように

鳴き声とも吐息とも取れるような

「グホッ、グホッ…」という大きな声を2度3度あげた。

そして、静かに動かなくなった。

それがノラの命が燃え尽きた瞬間だった。

6月2日午前2時、ノラにゃんこは

壮絶な野良猫人生を終え、天国に旅立って行った。

 

たかが野良猫、されど野良猫…。

ノラにゃんこの野良猫としての

この壮絶にして見事な生き様、そして死に様は

老いを生きる70歳の私たち老夫婦に

最期の最後まで

多くのことを教えてくれたような気がする。

 

この2年間、数々の思い出を残し

たくさん笑わせてくれたノラくん、ありがとう!

どうか、天国で安らかに眠るんだよ!

 

このブログのノラにゃんこ物語を

楽しみにして下さったノラにゃんこファンの皆さま

今まで応援ありがとうございました。

ノラに成り代わって、お礼申し上げます。

 

今はまだ、喪失感と悲しみの中で

気持ちの整理がつかず無理なのですが

何れそのうち落ち着いたら

ノラが残してくれたメッセージの意味について考え

このブログに書いてみたいと思います。


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コメント一覧

noriba-ba
ミ―ちゃんへ
コメントありがとうございます。
ノラはついに天国に逝ってしまいました。今までミ―ちゃんには、いろいろなアドバイスや応援をしていただき、ノラを温かく見守って下さって感謝しています。
精一杯、野良猫人生を生きたノラに笑われないように、私も頑張らないとダメですね。
ノラが繋げてくれたご縁を大切に、これからもミ―ちゃん、よろしくお願いしますね!
ミーちゃん
外猫は誰にも看取られることなくひっそりと逝ってしまう子もたくさんいる中、人の優しさに触れ、2年間お腹いっぱい食べさせてもらい、ノラ君は幸せな最期だったと思います。
大好きなお父さんとnoriさんに看取ってもらえたこと。
悲しんでくれる人たちがいること。
ノラ君にとってこの2年間は幸せだったと思います。
涙で文字がぼやけてしまいうまく言えませんが、
noriさんと知り合えたのもノラ君のおかげでできたご縁だと思うし大切にしていきたいと思います。
noriさんありがとう。
ノラ君、お疲れ様でした。
noriba-ba
cotobuki-hさんへ
コメントありがとうございます。
cotobuki-hさんも、同じような体験をされたとか…。
私はノラ猫と接するのは初めてだったので、こんなにも深い絆が生まれるなんて知りませんでした。
もちろん、人間が一方的に思いを寄せていただけかも知れませんが…。
でも、ノラくんが最期の場所を私たちの所と決めて、看取らせてくれたのは、私たちの思いに応えてくれたのだと思います。
ホントに可愛いノラ猫でした。
温かい励ましの言葉、ありがとうございました。
cotobuki-h
私も先日、世話していたノラの高齢猫を看取りました。
「最期を看取る」
それが出来る人が本当の飼い主なんだそうです。
ノラちゃんとは、飼い主と猫という関係ではなかったと思いますが、それでもノラちゃんが最期の場所をご夫婦のそばと決めたのなら、やはり特別な存在だったのだと思います。
看取っていただけて良かった。
私も我が事のように哀しく切なくも温かい気持ちで読ませていただきました。
noriba-ba
クロネコ飼いのおばちゃんへ
昨日は温かい励ましのメッセージをありがとうございました。
「猫は安心できる場所で最後を迎える…」「ノラちゃんは『ここにいれば安心だ』と思って、お二人の近くを選んだんだと思います。」そう仰っていただいて、何だか少し気持ちが楽になりました。
ノラが安心して旅立つことができたのなら、これ以上、何も言うことはありません。
本当に、ありがとうございました。
この場を借りて、お礼申し上げます。
noriba-ba
くりまんじゅうさんへ
先程は失礼しました。
確かめましたら、なぜかコメント欄を閉じていたようです。自分でした覚えはないのですが…不思議です。
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