#11 浦の星女学院
この時間がずっと続けばいいのに。誰しもがきっと、一度はそう想えるような大切な瞬間に出逢っていて、それでもやっぱり時間の流れが平等に流れていく事実をみんなが経験しているのだと思います。
いつだって時は一瞬で、過去には帰らない。夜が明ければ必ずまた違う朝がやってくるし、冬が終われば春が来る。それが花丸の言うとおり、「時が進んでいく」ということなのでしょう。
でも、それでいい。いえ、きっとそれだからいいのです。その毎日が、二度ない瞬間だから、「今日」という日が愛おしくて、そこに意味が生まれる。過去には帰れなくて、どんなに寂しくてもやり直すことは出来ないから、僕らはその一瞬のために泣いたり笑ったりすることが出来るのです。
泣いて、笑って、楽しんで。その「思い出」は、みんなが大切に想い続ける限り、永遠に消えることなく心の中でずっと残り続けるはずだから。
きちんと明日へ歩き出すために。彼女たちがその歌にこめた想いはいったいなんだったのでしょうか。
「いま」だからできること
学校の「みんな」が提案した閉校祭。卒業式が学校を巣立っていく者たちへのお祝いをする式典なら、閉校祭はこれまでの学校への感謝をこめたお祭りなのでしょう。
Aqoursがスクールアイドルとして浦の星女学院の名前を残すために頑張ってくれるように、自分たちも浦の星の生徒として学校のためになにかを残したい。
形として残せるものはやっぱりないけれど、現浦の星の生徒たちはもちろん、長い歴史の中で同じようにこの学校を愛した卒業生や近隣の人たちをも巻き込んで、この学校とともに楽しい「思い出」を残したい。それが浦の星に通う生徒たち全員の願いでした。
だから、彼女たちは他でもない自分たちの手で0からそのお祭りを作り上げていきます。どこまでも手作りで、しいたけが走り回っただけで、色々なものが壊れてしまうような儚いものだけれど、ひとつひとつに学校への感謝をこめてそのステージを作っていく。
誰もが、もうじきひとつの「終わり」が来ることをわかっていて、だから「いま」しかできないことを全力で楽しむ。やり残したことなどないとそう胸を張って言えるように。
"スクールアイドル部でーす! よろしくお願いしまーす!
あなたも あなたも スクールアイドルやってみませんかー?"
あなたも あなたも スクールアイドルやってみませんかー?"
きっと、曜も同じなのです。今年の入学式、千歌がそうしていたように、みかん箱の上に立って、勧誘の掛け声を叫ぶ曜。はじまりはここからでした。
あのころと同じ場所。あのころと同じ言葉。変わらないものもあって、でも、それと同じくらい変わったものもたくさんある。
あのころはスクールアイドルがこんなにも素敵なものであることを知らなかった。廃校の話が出なければ、学校やこの町が自分たちにとってかけがえのないものであることを改めて考えることもきっとなかった。そして、スクールアイドルをはじめなければ、千歌が「スクールアイドルは絶対曜ちゃんとやり遂げる」と想ってくれていたことを知ることも出来なかった。
Aqoursとして過ごしてきたこの1年という時間のなかで彼女たちはたくさんのことを知ってきました。
"わたしね 千歌ちゃんに憧れてたんだ
千歌ちゃんが見てるものが見たいんだって
ずっと同じ景色を見てたいんだって"
千歌ちゃんが見てるものが見たいんだって
ずっと同じ景色を見てたいんだって"
だから、あの日言えなかった想いも「いま」ならきちんと千歌に伝えられる。
ずっと曜は千歌に憧れていました。千歌が見てるものが見たかった。幼なじみとしてずっと一緒だった彼女たちです。いままでにも同じものを何度も見てきたでしょう。
でも、本当に同じものを見れているのか曜はずっと不安だったんですよね。本当の意味で同じ景色を見るというのは、同じ想いを持つということです。同じものを見ていても、その想いが違えば、見えている景色もやはり違う。
その曜の不安へのアンサーが描かれたのが、1期11話「友情ヨーソロー」です。曜が千歌の本当の想いを知ることで、彼女たちの想いはひとつになった。ずっと、自分が千歌と一緒になにかをやりたいと想っていたように、千歌も曜と一緒になにかをやり遂げたいと想っていました。
そして、いまもやっぱり想うことは同じなのです。「ずっとこのままだったらいいのにね 明日も明後日もずっと」。千歌の言うとおり、みんながそう想ってる。だから、曜も「このままみんなおばあちゃんになるまでやろっか」と笑顔で語り掛けます。
お祭りも学校も時間の流れとともにやがて「終わり」がくる。それはわかってる。わかってるからこそ、彼女たちは笑いながら「ずっと」を語り合える。
終わっても終わらないものがある。無くなっても無くならないものがある。そう信じるキモチは同じだから。その想いを抱き続ける限り、彼女たちの見ているものはきっといつまでも同じなのです。
変わっていく明日
ただ、こうしてみんなで過ごす時間が楽しい。彼女たちはその想いを「浦女ありがとう」という言葉にこめていました。この学校があったから、みんなで楽しい時間を過ごすことが出来た。
バルーンアーチのように、ひとりひとりがこの場所に集まって、ひとつの楽しい「思い出」を作り上げる。ここはそんな「みんな」をつないでくれた大切な場所です。
"楽しい時間というものはいつもあっという間で
そこにいる誰もが この時間がずっと続けばいいのにって思ってるのに
でもやっぱり終わりは来て"
そこにいる誰もが この時間がずっと続けばいいのにって思ってるのに
でもやっぱり終わりは来て"
それでも、やっぱり「終わり」の時はやってきて。ひとつにつながっていたその風船たちが空へと飛んでいき離ればなれになるように、「みんな」をつないでいた学校という形は失われ、やがてそれぞれがそれぞれの未来へと飛び立っていく。
みんなの学校への想いが「浦女ありがとう」というひとつの形になった。でも、形のあるものは残せない。だから「感謝」の気持ちを持ったまま飛び立っていこう。それがバルーンアーチにこめられた想い。
"いつか終わりが来ることを みんなが知っているから
終わりが来てもまた 明日が来ることを知っているから
未来に向けて歩き出さなきゃいけないから みんな笑うのだろう"
終わりが来てもまた 明日が来ることを知っているから
未来に向けて歩き出さなきゃいけないから みんな笑うのだろう"
だから、前に進まなくては。時が巻き戻らないこと。時間がどんなときも前にしか進まない一方通行の道であることを僕らは知っているから。
前に進むことしか許されていないその道をそれでも笑いながら歩き出していく。その勇気を「いま」の彼女たちは持っているのです。
"わたしね 普通なの わたしは普通星に生まれた 普通星人なんだって
どんなに変身しても普通なんだって そんなふうに思ってて
それでもなにかあるんじゃないかって 思ってたんだけど
気が付いたら高2になってた"
どんなに変身しても普通なんだって そんなふうに思ってて
それでもなにかあるんじゃないかって 思ってたんだけど
気が付いたら高2になってた"
かつて、千歌は先の見えない「明日」がどこか不安で、ずっと「このまま」でいることを恐れていました。それはきっとみんな同じなのです。千歌だけじゃない。誰もが、先のわからない未来に不安を抱えて生きている。
でも、その不安と同じくらい「明日」には希望があることも知った。「明日よ変われ! 希望に変われ!」その歌に背中を押され、あの日スクールアイドルという新しい「明日」へ踏み出したから、彼女たちの世界は変わっていったのです。
だから、彼女たちは変わっていく「明日」に向かって歩いていける。楽しかった時間をもう一度繰り返せないことが寂しくも思えるけど、どうなるかわからない「明日」も楽しみだと思えるから。
戻らない昨日と同じくらい、変わっていく「明日」が待ち遠しい。その答えが出せたこと。それは彼女たちが「いま」を大事にしてきた証なのです。
その歌は明日のために
閉校祭を通して、この学校がたくさんの人に愛されていたことを改めて実感した鞠莉。学校を守りきれなかったこと。楽しいお祭りがもうじき「終わり」を迎えようとしていること。その事実を前に、彼女は理事長として「ごめなさい...」と頭を下げます。
みんなに愛されているこの場所を守りたかった。もう少しで届きそうだった。でも、届かなかった。そして、時間はやっぱり巻き戻らないから。だから、彼女は理事長としてみんなに謝ることしか出来ない。
でも、この場に集まった人達の中に彼女を責める者はいないのです。むしろ、みんなが痛いほどわかってる。Aqoursが学校のために頑張ってくれたこと、一番悔しい想いをしてきたことを。
千歌が「みんな」がいたからここまで来れたと言ったように、「みんな」は常にAqoursのそばにいました。「みんなもまたAqoursの挑戦をずっとそばで支えてきた人たちなのです。
そして、彼女たちの挑戦はまだ終わってない。ラブライブ!の歴史に浦の星女学院とAqoursの名を刻みにいく。それは「みんな」の願い。だから、「みんな」がAqoursの名前を呼ぶのです。
"みんなありがとう! じゃあラストにみんなで一緒に歌おう!
最高に明るく 最高に楽しく 最高に声を出して!"
最高に明るく 最高に楽しく 最高に声を出して!"
そんな「みんな」の想いに応えるために鞠莉は「ありがとう」を叫びます。「こめんなさい...」では終われないから。だって、このお祭りは「感謝」を伝えるためのものだから。
ゆえに、その「終わり」を楽しい思い出として締めくくるために。昨日にお別れして、明日を歩いていくための歌を彼女たちはみんなで歌うのです。
"やり残したことなど ないそう言いたいね いつの日にか
そこまではまだ遠いよ だから僕らは 頑張って挑戦だよね"
そこまではまだ遠いよ だから僕らは 頑張って挑戦だよね"
やり残したことなどないと。いつの日にかそう胸を張って言えるように、僕らは頑張って挑戦していく。Aqoursの9人だけじゃない。みんなそれぞれが主人公の物語を、やり残したことはないといつの日にか言えるように生きていけたら、きっとそれは素敵な事だから。
キャンプファイアーの炎も、砂浜に書かれた文字も時間が経てば消えてしまう。でも、それを大切に想う人がいれば何度だって炎は灯せる。何度だってその砂浜に文字を書くことが出来るのです。
形としてずっと残るものではないけれど、みんなで灯した「思い出」が決して消えないように、みんながそれを大切に想う限り、その炎も砂浜の文字もいつまでも消えることはないから。
なにかの「終わり」はいつだって新しい「はじまり」。だから、僕らは終わらない「明日」を笑顔で歩いていくのです。