日刊ミヤガワ

作家・表現教育者宮川俊彦によるニッポン唯一、論評専門マガジン。

1月24日 オバマ雑感

2009年01月24日 | Weblog
日刊ミヤガワ1850号 2008 1.24

「オバマ雑感」

就任演説の基本は理念言辞にあった。時間を掛けて練り込み過ぎている。選んだ挙句の抽象化に少し鼻白む。照れくさくなる。若々しい気負いがあった。当該既定言辞の連結。分かりやすいかは疑問だ。語感とそれをこの人が語るということに始めから酔い気分で言葉を受け止めている。
「父の子」の箇所と「寒い建国の進軍」の箇所は秀逸。つまりエピソードが場面化している。それらを意義付ける文脈にはしつこさがある。後世に残る演説を意識している。
この概念性が強い表現は目標・指針を指差し、鼓舞していく基本理念だから、建国理念・国是・宗教的基盤が、共通言語として把握されていないと浮く。米国民にそれはあり、それを聞いている日本人には、学習到達目標のように映る。きっとカッコいい言葉、カッコいい国と映るはずだ。正しい理念と目標を実際現場で耳にしているからだ。そして日本の政治家は・・と省みる。そしてきっと後進性を感じ取る。多くの国民はそうなのではないか。
既に何回か述べてきたが、これは起死回生の政治ショーとしてある。民選の王は世界に君臨しこえうとする時に、より広汎なコスモスを集約し、マイナスを一挙的にプラスに転化させる必要がある。
ここ一連のショーは世界が米国の属国になるかのような作用を実際の意識の面で引き起こした。PRの原理に忠実だ。
大ヒットする映画を見続けている。バーチャルはこういう軌跡を示していくのだと、これこそ研究テーマになる。9.11後の米国の憤慨と意思統一の昂揚感と同一の軌跡にある。
武を背後に隠しながら、統一できそうな理念言語、上昇していく概念を示していくことで、フアンの心理を鷲掴みにする。
武からの転進の一手法なのだが、それは人を酔わせていく。今日的な知的扇動者の典型をボクは見ている気になる。あるいはヒトラーの延長線上にある。皆が「正しい」と酔うことで、正しいファシズムは形成されていく。
米国を世界にPRしている。アフリカ系も有色人も反米国家もそこに進んで取り込まれていく。忘れてはいけない。米国の挙国一致は米国の国内事情にある。世界を一致させるものに錯覚してはならない。
環境問題で提唱してきた「主語上昇」。その典型は「We}にあることを見抜かなくてはいけない。私、でも我が国でもない。我々。そこに日本の国民はふと吸い込まれていく。特に無菌状態の人々はそうなる。
演説の中の主語を綿密に精査してみたらいい。言語戦略を把握することは出来るはずだ。表現と読解の絶好の教材だ。そこに国際情勢も国家論も心理もメディア論もほぼ全てか網羅されている。関連はそういうところに具現する。
何を語ったかをコメントしている人たちは低次元だ。どう語ろうとしたかを分析しないと評価は出来ない。その意味では深夜早朝の各番組の解説者の資質が露呈してそれもまたいい教材にはなった。
この演説に距離を置いてやや冷ややかに眺めている米国の具眼の知識層に対応していける日本人の層はどれだけあるか。興味深い。
日本も建国し続けている。ずっとそうだ。米国の何倍もの時を費やしている。ただ国についての考え方と基盤が違う。この国は理念を求めて作ったニュータウンではない。そこに立脚したときにどんな独自の理念や概念が語られるか。あるいはそうではない質の言葉になるのか。省みるならそれを自己に突きつけないとならない。
20分は要らない。半分でよかった。輪郭は一層鮮明になった気がする。

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