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「場当たり的」という恐ろしさ

2005-09-09 22:01:07 | 社会
受信料不払い 法的措置に前向き NHKが方針転換 (産経新聞) - goo ニュース


NHKの(主に)受信料不払い問題については4/23の記事で既に述べているんだが、何やら動きがあったので再度取り上げてみたい。

・・はいいんだが、冒頭のニュース、更に事態を泥沼化にしかねないニュースだ。約117万件にも及ぶ受信料不払い者達と彼らを放置しているNHKに対して、受信料払ってる人間からのクレームが結構多く集まっているようで、NHKも仕方なく・・かどうかは分からないが、不払いの人間に対して強制徴収の法的措置に前向きな姿勢、というのがニュースの内容。

で、なんで泥沼化の危険性があるのか。それは放送法自体やNHKのこれまでの行動などが自家撞着しているからに他ならない。


4/23の記事にも書いたことだしこの問題に関心のある人は殆ど知っていることではあるが、放送法の第32条、《協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。》と、契約があたかも「(法的な)義務」であるかのような文面になっているものの、これは憲法第19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」に抵触するおそれがある。

そもそも、契約"しなければならない"なんて「契約自由の原則」にも反しているし、消費者契約法にも思い切り抵触している筈で・・と現代の常識を語っても、放送法ができたのは昭和25年、今から半世紀以上前のことだ。(少なくとも32条はこれまで改正されていない)
憲法に抵触するおそれがあるから、32条の上の文章の続きに但し書きとして「放送の受信を目的としない受信設備のみを設置した者についてはこの限りでない(*途中は省略・要約してあります)」としてあるし、ついでに罰則規定もないなんていう半端なことになっている訳だ。

NHKは昭和39年の「臨時放送関係法制調査会答申」を根拠に受信料を払えと主張しているのだが、その答申では、『受信料は、NHKの維持運営のため、法律によってNHKに徴収権の認められた、受信料という名の特殊な負担金と考えるべきである』とされている。
公的な負担金だから見てなくても払えというならば、普通契約、カラー契約、衛星普通契約、衛星カラー契約と、契約の種類ごとに(=受信設備の種類ごとに)料金が異なっているというのはおかしい。(*注1)
そしてやはり、『受信料』という、如何にも「サービスの対価」と判断させるような呼び名だっておかしい。最初から『受信税』とでも謳っておいてくれてればこんな問題は起きなかっただろう。

ただ、NHKはタテマエとしては「国営放送」ではなく「公共放送」であり、でも独立行政法人ではなく『特殊法人』で、更に特殊法人にも関わらず国の出資は受けていないが納税はきちんと免除されているという奇怪さが事態をややこしくしていると言えるだろう。
タテマエは「公共放送」であるNHKだが、総務省の管轄下であり(特殊法人だから)、予算等の承認も国会における承認を必要とする。国から独立した組織だとは言っても十分に国の影響は受けているし、だからこそ今年の1月に安部晋三と中川昭一が事前に番組編集に圧力をかけたの何だのって捏造したのかどうかは知らないけど朝日新聞が報じて問題になった訳だ。

加えて、NHKは「全国遍く」放送が受信できるよう目指している、いや放送法で最初からそういう措置を取るよう第7条で規定されているし、その7条には「公共の福祉」という文言がしっかり入っており、民間でやると不採算な番組だってちゃんと作っている。
税金というのは、正に「公共の福祉」のために、必要なところに予算配分する原資を確保するのが役割なんだから、客観的に見てNHKが本当に必要だと判断できるなら税金だってかまわない筈である。(実際NHKは、昭和41年と昭和55年に、税としてではなくても受信料支払いを明確に義務づけるよう放送法の改正案を出したことがあったらしい。)受信料はきっちり払ってもらわないと困ると思ってる癖に、「受信者の方々の信頼感と理解を得て・・」なんて二枚舌使ってるから、根本的な矛盾がそのままでずっと来てしまったとしか考えられない。

そしてその矛盾だけでなく、「今更・・」ではあるが、特殊法人ゆえの腐敗構造はNHKも例外ではない。NHKの子会社・関連団体は30を超えるようで、NHKが集めた受信料から子会社に出資していたり、役員が殆どNHKから天下っていたり、著作権を独占して番組のビデオ・DVDを高額で販売し書籍なども売ってしっかり儲けていたり、"公共"放送が聞いて呆れるようなことをやっているのだ。(そういやNHKブックスの本は私も何冊か持っているが、確かに今値段確かめたら1割くらいは割高だな・・)


昨年からのNHK内部の数々の不祥事も皆さんご存知の通りで、公共放送は全く必要でないとは思わないが、少なくともこれだけ肥大化してあまたの利権が絡んでいるような、一方的に電波流しておきながら不備の法律をタテにしつこい徴収人向かわせて(2億円の受信料を徴収するのに7億円の費用をかけたなんてこともあったらしい)ヤクザまがいのことをするような組織に存在意義などない。
今回のニュースにしたって、不払い者に法的措置を取った場合は、少額訴訟制度を使って簡易裁判所から督促状を送る形になるが、これは最近問題になった架空請求詐欺と同じパターンで、一歩間違えば犯罪だ。(現時点ではまだ罰則規定ないのに、不払い者が出頭しなかった場合はNHKの自動的勝訴になってしまうから)

組織は独立行政法人にして、チャンネル数も地上波1つ衛星1つに絞って、放送法を改正して受信料は税金ではないけど支払いを一律に義務づけて、1人あたりの受信料は年間1,000円以下に抑えて、書籍で言えば辞書や辞典にあたるような部分、すなわち需要は少なくて不採算だけど文化的には必要な「教育」や「歴史」や「伝統文化」などの番組だけを制作して、どうしても制作費が高くついてしまう番組があればPPVにして・・・ってやった方がいいんじゃないだろうか。或いは、PPVを導入しなくても、今の時代、それこそ過去の番組をあらかたサーバに乗っけて、ストリーミングでもダウンロードでもさせてそこで幾らか取るようにすればいい。私も歴史関係の良質な番組なら金払ってみるのはやぶさかではない。
(まぁ、デジタル放送への移行に伴って又新たな利権が生まれているようだし多分こんな風に「マトモ」にはならないんだろうけど)

ちなみに、私は「不払い者」でなく既に「未契約者」である。口座からの引き落としを止めて、その後やっぱり徴収人がやってきたので、一応「TVは衛星放送用に設置しているだけ(CSはしっかり利用してるから半分はホントだ)」と言った後に放送法の話を持ち出したら、苦笑いはされたがすんなり引き下がってくれた。まぁこれは5月か6月だったか、もうこの受信料不払い問題とNHKの不祥事はとうに広く世に知れ渡っていてNHKへの信頼もほぼどん底のような時期だったので、向こうも揉めさせる訳にはいかなかったんだろう。
実際、今のNHKは民放と同じような番組も流しているし、でも私はNHKは本当に1年で10分も見ていない(地震の速報で一瞬付けるだけだから)から、良心も痛まない。

とりあえず、大本から大鉈を振るわない限りは、この問題は解決しないんじゃないだろうか。


*注:
(1)
「普通契約」というのは白黒テレビの場合の受信料契約のことで、現在では殆ど有り得ないケースなので、流石にNHKも今新規でこの契約は行っておらず、NHKのHPを見る限りでは、「カラー契約」か「衛星カラー契約」のどちらかしかないようだ。
ただ、以前から長期間払い続けている人の中には一番安い普通契約の人もいるようで、昨年度には約35万件が「普通契約」にあたったようだし、新規の契約でも、どうしても払ってもらいたい時は集金人が普通契約でも契約させちゃっている、なんて話もある。