院長日記

ねむのき皮膚科院長の備忘録。たまに更新。

アトピー性皮膚炎の治療

2010-10-13 | アトピー性皮膚炎

今回はアトピー性皮膚炎の治療について、現時点で皮膚科専門医のコンセンサスを得られているものを説明したいと思います。

アトピー性皮膚炎は、湿疹を起こしやすい体質を持つ方が、汗、乾燥、環境因子などにより皮膚に炎症が引き起こされることで発症します。その病態には不明な点も多く、残念ながらいまはまだ体質を根本的に変える治療法は確立されておらず、対症療法が主となります。

治療のメインは外用療法、とくにステロイド外用薬です。その即効性と抗炎症作用で他に比類できる外用薬はありません。以前も述べたようにステロイド外用薬を怖がる患者さんも多いのですが、年齢、部位、症状に応じて、その都度適切な強さの薬剤を選択することで副作用のリスクはかなり低減されます。実際の外来でも、定期的に通院されている患者さんで永続的な副作用を経験することはほとんどありません。

また、ステロイド外用薬以外に、顔や首ではタクロリムス外用薬という免疫調整剤が有効です。使い始めの数日間は刺激感がありますが、それ以外の副作用はほとんどありません。あと、乾燥しやすい皮膚をしているので予防のための保湿剤の併用も大切です。

全身療法としては、症状が強いときに痒みを抑えて掻かないようにするために、抗アレルギー薬の内服を併用することがあります。

最近、ネオーラルという免疫抑制剤がアトピー性皮膚炎に認可されました。以前からあった薬で、皮膚科領域でも乾癬という病気に使っていました。適応は外用薬では十分な効果が得られない成人の重症アトピー性皮膚炎の患者さんです。薬価が高く定期的な採血が必要ですが、難治な皮疹に非常によく効きます。症状を見ながら、ときどき上手に使う薬剤と考えています。

現時点でのアトピー性皮膚炎の治療のゴールは、完治ではなく、症状を落ち着かせ皮疹やかゆみからできるだけ解放されて生活を楽しむことです。当院独自の特別な治療法ではなく、最新の医療水準に照らした適切な治療法により、患者さんとの信頼関係と築きたいと考えています。


アトピー性皮膚炎と食事

2007-12-26 | アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎のお子さんのお母さんに、食事との関連を聞かれることがあります。乳児でミルクを飲んでいたり、離乳食がはじまるとき、心配される方が多いです。

食事との関連が明らかなアレルギーは蕁麻疹であり、食後すぐに虫刺されみたいな皮疹がでてきます。アトピー性皮膚炎は蕁麻疹とアレルギーの型が異なるので、食後すぐに皮疹が悪くなることはありません。

食事との関連は採血でアレルギー反応が陽性になるだけでは不十分で、実際に食べてみて症状が悪くなるか、その後止めてどうなるかをみないとわかりません。その意味では、アトピー性皮膚炎と食事との関連を立証するのは簡単ではありません。

以前はアトピー性皮膚炎に食事制限を指導されていた先生もいましたが、近年は皮膚科はもちろん小児科でも食事制限をすることは一般的ではありません。ほとんどの患者さんは、外用薬にて改善するため、食事制限による偏食や成長障害のほうが心配です。

ただ、外用薬を的確に使用していないと皮疹がなかなか改善せず、普段食べているものまで原因に思えてくるのかもしれません。ぜひ、お近くの皮膚科専門医に相談してください。


ステロイドは怖い薬?

2007-12-17 | アトピー性皮膚炎

患者さんにステロイド外用薬を処方することを告げると、顔色が変わったり、副作用を心配される方が結構いらっしゃいます。ステロイドは怖い薬というイメージが出来上がっているんだなと感じる瞬間です。

実際のステロイド外用薬の副作用は主に、①外用部位の皮膚が薄くなる、②ニキビなどの表在感染症を起こしやすいなどです。いずれも症状や部位に合わない強い薬を、同じ部位に長期外用している場合に起こることがあります。

また、副作用として勘違されていることに外用部位の色が黒くなるというのがありますが、皮膚炎が治ると色素沈着を起こすので、それがステロイドの副作用と間違われるのです。日焼けや虫さされのあとが、黒くなるのと同じです。あと、ステロイドの内服薬にある副腎委縮や血糖上昇など全身的な副作用は、外用薬ではまず起こりえません。

上記のことを踏まえてステロイドを使うかどうかですが、現在の医薬品の中でステロイドに肩を並べる外用薬はありません。圧倒的に効き目が違います。現実的な選択としては、副作用を心配してあまり効かない外用薬を使うより、副作用を理解した上でステロイドを上手に使うほうがいいのではないかと思っています。

ステロイド外用薬は、strongest、very strong、strong、mild、weakと5段階に分かれています。また、外用する部位、年齢により吸収効率が異なります。

皮膚科専門医は、症状の強さ、発疹のある部位、年齢を勘案して、5段階ある外用薬の中から最適なものを選択します。症状がある間は基本的に朝晩2回外用し、発疹が消えたら外用を中止すれば、まず副作用をおこすことはありません。要はメリハリが大事です。

かぶれ、虫刺されなどの一過性の皮膚炎であれば、1週間前後で治りますので、たとえ一番強い外用薬でも副作用を起こす可能性はほとんどありません。アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性疾患でも、皮膚炎がある部位に、皮膚炎が治るまでの間、症状の強さにあった外用薬を使用し、皮膚科専門医に定期受診して外用剤の調整をしていれば、副作用を起こす可能性は極めて低くなります。

ステロイドを絶対に使いたくないという方に処方することはありませんが、皮膚炎に対して他に有効な薬剤がない現状の中で、その利点と副作用をご理解いただいた上で、治療方法を一緒に決めていきたいと考えています。


アトピー皮膚炎は治りますか?

2007-11-04 | アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の患者さんから、いつになったら治りますかとよく質問されます。皮疹が見えること、かゆみが続くことは、本当に辛いと思います。

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下しやすい体質の方に起こる病気です。体質は遺伝的に規定されているため、簡単にはかえられません。

その意味で、治りますかとの質問に対して、残念ながら完全になくなることはありませんが、年を重ねるたびに症状は軽くなることが一般的であり、その間はうまく付き合っていきましょうと説明しています。

実際、小児は、皮脂の分泌が盛んになる思春期頃までには軽快することが多いです。また、成人しても続いたり、就職・転居などで一時的に症状が再燃することはありますが、40代の患者さんは少なく、50代以降の患者さんはほとんどいません。


アトピー性皮膚炎の診断は?

2007-10-10 | アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の診断は、どうやってなされると思いますか。採血などのアレルギー値は診断に必要と思いますか。

実は、皮疹・症状・経過のみで診断できます。

日本皮膚科学会の診断基準では、①痒い、②特徴的な分布をしめす湿疹病変(目のまわり、首、肘の内側、ひざの裏など)、③慢性的な経過(乳児では2か月以上、その他では6か月以上)を満たすものを、アトピー性皮膚炎と診断します。参考項目として、喘息の有無、家族歴などがあります。

トレーニングを積んだ皮膚科専門医であれば、全身をよく診て、症状・経過などの問診することで、比較的容易に診断することができます。

また、上記のとおり採血は診断には必要ありませんが、過敏症を起こしやすい体質かあるかどうかの参考にはなります。