(「補助132号線」沿道、関根橋付近を散歩するアヒルさん。道路拡張で、こんなのどかな風景が見られなくなるのはいやだ!)
コロナ感染で人々の健康とくらしが脅かされ、いまだかつてない不安が広がっています。
こんな時期に平気で事業認可を下ろし、道路事業を進めようとしている行政のありかたに深い疑問を禁じ得ません。
そもそも、区や都には、住民の意見を聞く、共にまちづくりの中で考える、議論する、という姿勢はなく、すでに「決まっていること」として「説明」をする立場に終始しています。
私たちは、学習会で熊本一規明治学院大学名誉教授のお話しを聞き、初めてこの都市計画道路事業が、住民の意見を尊重するように改正された新都市計画法ではなく、100年も前の帝国憲法時代に決められた旧都市計画法で進められていること、そしてそれは「憲法違反である」ということを知りました。
以下、熊本一規先生の文書を転載しますので、お読みください。
「旧法下の都市計画決定→事業化」の違法性について 2020.2.17
熊本一規
1.「旧法下の都市計画決定→事業化」の不合理性
・新都市計画法(以下、「新法」)は昭和43(1968)年6月15日に制定、昭和44(1969)年6
月14日に施行された。
・旧都市計画法(以下、「旧法」)は大正8(1919)年4月5日制定、新法施行に伴い廃止。
旧法では、住民・利害関係者の意見を聴く手続きは皆無。
・都市計画道路の主な行政手続きは、「都市計画決定→事業認可」。
都市計画決定の際、新法では、住民・利害関係者の意見を聴いて計画を検討・修正する手続き(公聴会・意見書提出,都市計画審議会での審議等)が案の段階も含めて丁寧に設けられ、修正案作成の度毎に手続きが繰り返される(16条~20条)。
都市計画変更の際にも同様(21条で17~20条を準用)。
事業認可の際には、「事業の施行について周知させるための措置」(66条,説明会等)は
あるものの、住民・利害関係者の意見を聴いて計画を再検討する制度はない。
・そのため、旧法下で都市計画決定された道路が新法下で事業化される場合、住民・利害
関係者の意見を聴く機会が全く設けられないまま事業が進められている。
〇「旧法下の都市計画決定→事業化」の手続きは、あまりに不合理である。
2.「旧法下の都市計画決定→事業化」の違法性
2-1.適正手続きの欠如(憲法31条違反)
・憲法31条は「適正手続きの保障」と呼ばれ、刑事手続きのみならず、行政手続きにつ
いても適用される。
[参考:憲法31条] 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、
又はその他の刑罰を科せられない。
・条文に「財産」は含まれていないが、判例は「財産」も含まれると認めている。
・「適正」の内容として特に重要とされているのが「告知と聴聞」を受ける権利である。
これは、刑罰や不利益処分など、人権を制限する行為をする場合には、事前にその内容
を告知して、予測可能性を高めて国民の活動の自由を守ること、そして、実際に不利益
処分をする場合には、一方的になすのではなく十分に国民の言い分を聴取し、公正な判
断をなすべきこと、を保障するもの。
・新法に公聴会開催や意見書の提出等の「聴聞の機会」を設けて計画を検討する手続きが盛り込まれたのも憲法31条に基づいたもの。
・公権力の行使により私権を制限する代表的な法律である土地収用法(1951.6.9)も利害関係人からの「聴聞の機会」を丁寧に設けている。
・行政手続法の「聴聞」には「意見陳述」のみならず、「質問」及び「行政庁側との間でのやり取り」も含む、とされている。
〇「聴聞の機会」を全く設けていない「旧法下の都市計画決定→事業化」の手続きは、憲法31条違反である。
2-2.財産権の侵害(憲法29条違反)
・ 国交省都市計画運用指針(第10版,平成30年9月)には次のように記されている。
都市計画法上の手続は、国民の財産権が一方的に侵害されないよう担保するための最低限の
手続であることから、条例によって手続を簡素化することは許されない。
・これは、条例による新法上の手続きの簡素化(「聴聞の機会」の簡素化)が、憲法29条(財産権の保障)に違反し、財産権を侵害することを意味している。
[参考:憲法29条]
1項 財産権は、これを侵してはならない。
2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。
3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
ならば、「聴聞の機会」を一切設けていない「旧法下の都市計画決定→事業化」の手続きもまた違法な「手続きの簡素化」であり、財産権を侵害していることになる。
〇「旧法下の都市計画決定→事業化」の手続きは、憲法29条違反である。
2-3. 「旧法下の都市計画決定→事業化」の違法性の原因
・旧法は、旧憲法(大日本帝国憲法)下に制定された法律のため、「適正手続きの保障」も「財産権の保障」も含まれていなかった。
・新憲法施行に伴い、旧法は違憲の法律となり、早急に改められなければならなかった。
・ようやく昭和43年に新憲法に基づく新法が制定されたが、「旧法下の都市計画決定→事業化」の手続きが「旧法及び旧憲法の遺物」として残った。
しかし、この手続きは、新憲法29条及び31条に違反している違法な手続きである。
[
参考1:最高裁大法廷昭和37年11月28日判決]
所有者に告知、弁解、防禦の機会を与えることなく所有物を没収することは、適正手続きによらないで財産権を侵害することにほかならず、憲法31条及び29条違反である旨、判示している。
[
参考2: 公有水面埋立法(大正10年)も新憲法に違反する法律]
旧憲法下に制定された公有水面埋立法(大正10年)も許可漁業・自由漁業の権利等の財産権を無視している(新憲法29条,31条違反)。違憲の法律という欠陥を許可漁業・自由漁業の権利等の財産権にも補償する制度及びその制度に基づく運用でカバーしている。
[
参考3:旧都市計画法(抜粋)]
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル都市計画法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
……
第二条
1 都市計画区域ハ市又ハ前条ノ町村ノ区域ニ依リ主務大臣之ヲ決定ス
2 主務大臣必要ト認ムルトキハ関係市町村及都市計画審議会ノ意見ヲ聞キ前項ノ区域ニ拘ラズ都市計画区域ヲ決定スルコトヲ得
第三条 都市計画、都市計画事業及毎年度執行スヘキ都市計画事業ハ都市計画審議会ノ議ヲ経テ主務大臣之ヲ決定シ内閣ノ認可ヲ受クヘシ