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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§147)

2021-03-07 00:46:30 | SOTUS The other side
コングが完全に覚醒したのを見届けたグレーグライとプイメークは、アーティットにコングを託して部屋を出た。
閉めたドアを背にしたプイメークが、ほうっと大きく息を吐いて呟いた。
 「・・・ほんとに、よかった。 これでもう、きっと大丈夫ですよね」
ふと顔を上げ、自分を見てそう問いかける彼女に、グレーグライがしっかりと頷いた。
 「やはりアーティットくんじゃなきゃダメだったんだ。 コングポップには、アーティットくんという存在自体が生きる糧なんだということを、思い知ったよ」
感慨深げにそう話すグレーグライの言葉に深く頷いていたプイメークだったが、ふと何か思い出したように口を開いた。
 「でも、どうしてアーティットさんの居場所がわかったんですか? コングも知らなかったのに」
 「ヒースに調べさせたんだ。 市内のビジネスホテルにいたよ。 それもわかりづらい所にあるホテルだった」
そこまで言うと、なぜか苦笑いを浮かべたグレーグライが、やや自嘲気味に呟いた。
 「・・・きっとアーティットくんは、相当の覚悟でコングポップから離れたんだろう。 だが息子を助けたい一心で、私はそんな彼の気持ちを押さえつけて無理やりここへ引っ張ってきてしまった」
 「あなた・・・」
独り言のようにそう呟いていたグレーグライが、ふと顔を上げた。
 「・・・だが、アーティットくんもまた、コングポップなしではいられないとわかった。 ホテルを訪ねた時には憔悴しきっていた彼が、今は別人のように生き生きとしている。 きみも見ただろう」
 「あ・・・」
 「自分の強引な行いを正当化するわけではないが、結果的に連れてきて良かったと思ってる」
先ほどからのグレーグライの言葉を聞いているうち、プイメークの中で何かが覚醒した。
 「あなた・・・もしかして、コングとアーティットさんのことを・・・」
どこか信じられないような目をして自分を見上げている妻に、グレーグライがゆっくりと、だがしっかりと頷いてみせた。
 「ああ。 コングポップとアーティットくんのことは、もうとっくに認めている。 いや、認めていた。 だが私の中の見栄やこだわりが、それをずっと邪魔していたんだ」
 「あなた・・・」
 「だがここまで深い二人の絆を見せつけられたら、もうそんなくだらない気持ちも完全に失せた。 今はただ、二人の幸せだけを願う私がいる」
 「あなた・・・うぅ・・・」
プイメークの目から、大粒の涙がこぼれた。 あんなに二人を受け入れるのに難色を示していたグレーグライの、この言葉。
ようやくコングたちの想いが真に成就したのを感じて、プイメークの感情が一気に溢れだした。
 「あなた、あなた・・・ありがとうございます! ようやくわかってくれたのですね・・・!」
感涙にむせぶ妻を、グレーグライがそっと抱き寄せる。
 「・・・きみにも、色々と苦労をかけた。 すまなかった」
 「いいえ、いいえ・・・」
涙に頬を濡らしながら、プイメークが何度も首を左右に振る。 そんな妻を愛しそうに見つめていたグレーグライが、彼女を抱いたまま一歩足を踏み出した。
 「さ、行こう。 あとはアーティットくんに任せよう」
 「ええ・・・」
同意したプイメークが、グレーグライとともにゆっくりと歩き出した。


二人だけになった部屋で、アーティットがコングに問いかけた。
 「具合はどうなんだ」
 「ずっと、夢の中にいた気分でした。 現実なのか、夢なのか・・・。 とにかく、何も感じませんでした。 あなたの顔を見るまでは」
 「おまえ・・・」
困惑した表情を浮かべるアーティットの手を、コングがぎゅっと握りしめた。
 「もう・・・会えないかと思いました。 怖くて悲しくて、胸が搔き乱されて・・・。 自分でも半狂乱になってたと思います」
 「・・・・・・・・・」
 「でも・・・」
そこまで言うと、不意にコングがアーティットの頬に手を伸ばして触れた。
 「あなたも、辛い思いをしてたんですね。 こんなにやつれてしまって・・・」
愛おしそうに頬を撫でる乾いた手を、そっとアーティットが掴んだ。
 「俺だって、辛かったんだ。 おまえの未来に傷をつけてしまった。 一番してはならないことだったのに」
 「先輩・・・」
 「俺が存在することでおまえに迷惑をかけてしまう・・・。 俺は生まれて初めて、自分自身を呪わしく思ったよ」
 「そんな、先輩・・・!」
いやいやをするように強く首を左右に振るコングに、ふっと表情を緩めたアーティットが語りかける。
 「でも、グレーグライさんが言ってくれたんだ。 今はただ経験を積んでるだけにすぎない。 中国行きがなくなったからって、コングポップの未来には何の影響もないと」
 「え・・・」
 「だから君が気に病む必要はまったくない。 どうかコングポップのもとへ戻ってきてくれ、って言ってくれた」
 「父さんが・・・」
驚いた表情で言葉に耳を傾けるコングに、そっと身を近づけたアーティットが囁いた。
 「グレーグライさんは、認めてくれたよ。 俺たちのことを」
 「え」
すぐにはその言葉の意味がわからなかったのか、キョトンとしたように目を見開いたコングへ、さらにアーティットが続ける。
 「俺たちの関係を、正式に認めてくれたんだ。 俺を、おまえのパートナーとして」
 「あ・・・」
ようやく意味を理解したコングが、一瞬呆けたようにアーティットを見た。 その目に、みるみる歓喜の色が浮かぶ。
 「父さんが・・・父さんが、俺たちを・・・とうとう・・・」
 「そうだ。 だからこうして俺をここへ連れて来てくれた」
 「父さんが・・・!」
ついに感極まったのか、コングが言葉を震わせた。 ばっと顔を伏せて、溢れだす涙を隠す。 が、無意識に震える肩は隠せなかった。
そんなコングを、微笑みを浮かべたアーティットがそっと抱きしめた。
 「何も言わず消えて、おまえをこんなに苦しめてごめん。 おまえが回復するまで、俺に世話をさせてくれ」
耳元へ囁きかけるその言葉に、涙に濡れた目でコングが顔を上げた。
 「もう・・・、離れないから」
じっとコングの目を見つめてそう呟くと、アーティットがコングへそっと口づけた。
一瞬だけ触れて離れようとしたアーティットを、コングがとっさに引き留めた。 両手でアーティットの頬をつかみ、再び唇を重ねる。
久々に味わう愛しい人の唇は、甘くて蕩けそうだった。 それはまるで、乾ききった心にみるみる沁み込んでいくオアシスの水のごとく。
そしてそれは、やがて生きる原動力へと繋がっていく。
ひとしきり互いの唇を味わった二人は、しっかりと抱き合ったまま、お互いの胸の鼓動を確かめ合っていた。
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SOTUS・Season3(§146)

2021-03-07 00:45:49 | SOTUS The other side
玄関のドアが開く音を耳にしたプイメークが、慌ててリビングから飛び出した。
ドアをくぐって入ってくるグレーグライの姿を確認して、素早く駆け寄る。
 「あなた、どこへ行ってたんですか!? いきなり行き先も言わないで出かけてしまって・・・」
普段なら必ず行き先を告げていくのに、今日は何も告げずに出て行ってしまった。 怪訝に思ったプイメークがグレーグライの携帯に連絡したものの、一向に繋がらない。
いつもとは違う様子と、繋がらない携帯が俄かにプイメークの不安を駆り立てた。
コングが今こんな状態なのに、グレーグライまでもが不可解な行動をとったことで、プイメークは胸を掻きむしられるような焦燥感に襲われていたのだった。
ようやく帰宅してきたことで少しホッとしたものの、グレーグライはプイメークの問いかけに答えない。
 「あなた、いったい・・・」
重ねて尋ねようとしたとき、グレーグライの背後から誰かの影が見えた。
 「え・・・、アーティットさん・・・?」
おずおず、といった感じで姿を現したアーティットを見て、プイメークがひどく驚いた。 なぜここに彼がいるのか、一瞬頭が混乱しそうになる。
だがすぐに、渡りに船とばかりにアーティットに歩み寄る。
 「アーティットさん、よく来てくれました! コングがあなたに会いたがってるんです。 どうかコングに・・・」
必死に懇願しながら腕を掴むプイメークを、アーティットが戸惑いながら見つめる。 こんなに彼女が取り乱すところは初めて見た。
グレーグライの土下座、そしてプイメークのこの様子。 やはりコングの容体はかなり悪いようだ。
足元から何か冷たいものが這い上がってくるような感覚が、アーティットを襲う。 それでも何とか気持ちを落ち着かせ、プイメークに向かって口を開いた。 
 「・・・コングポップに、会わせてください」
アーティットのその言葉を聞いて、プイメークの表情がわっと崩れた。 目に涙を浮かべながら何度も頷くプイメークの肩を、グレーグライがおもむろに抱いた。
そのまま二人に案内され、二階にあるコングの部屋へと向かう。
 「コング、アーティットさんが来てくれたわよ」
そう話しかけながらドアをノックするが、返事はない。 しかし構わずプイメークがドアを開けた。
 「さ、入ってください」
軋みながら開いたドアから覗く部屋の中は、薄暗かった。 一歩中へ足を踏み入れると、広い部屋の真ん中に置かれたベッドだけが、ベッドサイドに置かれたテーブルのナイトライトに照らされてぼんやりと浮かび上がっている。
そのベッドに横たわるコングの変わり果てた姿を見た瞬間、アーティットの胸がきつく締め付けられた。
 「コングポップ・・・!」
コングの名を呼びながら、思わずベッドへ駆け寄りコングの顔を覗き込む。 プイメークが部屋の照明をつけて明るくなった室内で、コングの姿がよりはっきりと映し出される。
落ちくぼんだ眼と、こけた頬。 血色のない顔色。 乾いてカサカサになっている唇・・・。
それはまるで、荼毘に付された死者のようだった。 いや死化粧をしている分だけ、まだ死者の方が生気ある顔をしているかも知れない。
たまらず、布団の中からコングの手を取り出して握りしめる。 その手はやはり乾燥していて、冷たかった。
アーティットは両手でその手を握りしめ、自分の体温を分け与えるように包み込んだ。
 「コングポップ・・・コングポップ・・・!」
うわ言のように何度も名を呼ぶ。 それはまるで、体から抜け出てしまった魂を呼び寄せるがごとく。
そんな様子をじっと見守るグレーグライとプイメークの顔が、苦し気に歪む。 アーティットの慟哭がダイレクトに伝わってきて、二人の胸に鋭く爪痕を残した。
そうしてどれほど名を呼び続けただろうか。 もう幾度目かわからないほど、そしてアーティットの声も枯れかけた頃。
かすかに、コングの瞼が震えた。 同時に、閉ざされていた唇も小さく震える。
 「コング・・・!」
それに気づいたアーティットが、コングへと顔を近づけた。 ゆっくりと、瞼より先に唇が開いた。
 「・・・ぱ・・・い・・・」
掠れた小さな声が、唇から漏れる。 アーティットはさらに顔を近づけ、その声に耳を傾けた。
 「アー・・・ット・・・んぱい・・・」
それが自分を呼ぶ声だと気付いた時、アーティットはひときわ握りしめる両手に力を込めた。
 「コングポップ、俺だよ、アーティットだ。 目を覚ませよ!」
その言葉に触発され、グレーグライとプイメークが素早く駆け寄る。 三人に見守られたコングの瞼が、とうとう開いた。
 「コングポップ!」
ほぼ同時に三人が叫ぶ。 固唾をのんで様子を見守る中、コングがゆっくりとあたりを見回した。
まだ焦点が定まっていないのか、しばらくは三人の顔をぼんやりと見比べているだけだった。 だがやがてその目が大きく見開かれると、みるみる驚愕の表情が浮かんだ。 
 「先輩・・・!?」
今度ははっきりと、言葉を発した。 
 「そうよ、アーティットさんよ! あなたに会いに来てくれたのよ!」
今ここにコングの魂が戻ってきたと実感したプイメークが、すかさず叫んだ。 隣に立つグレーグライも、大きく何度も頷いてみせた。
 「あ・・・!」
すると、いきなりコングが身を起こしてアーティットにしがみついた。 このやせ細ってしまった体のどこにそんな力があったのかと思うほど、それは強い力だった。
 「先輩・・・ほんとにアーティット先輩なんですね!?」
 「そうだ、俺だよ」
 「ああ・・・夢じゃないんですね・・・! 会いたかったんです・・・!」
そう声を上げるコングの語尾が震えた。 感極まって、乾いた頬に涙が落ちる。 しかしそれを拭うことも忘れたように、コングはアーティットを抱きしめ続けた。
もう二度と離さないとでも言うように。
そんな彼らを見つめるグレーグライたちの目にも、うっすらと涙が浮かんだ。 そして同時に思った。
この二人を引き裂くことなど、誰にもできはしないのだと。 魂が魂を呼び合うとは、こういうことなのだと思い知った。
必死に自分にしがみつくコングの背中を、アーティットが優しく撫でる。
そうしてアーティットは、コングの気が済むまでいつまでもその背を撫でていた。 
その顔には、安堵と愛しさの微笑が浮かんでいた。
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SOTUS・Season3(§145)

2021-03-07 00:45:14 | SOTUS The other side
突然の予期せぬ来訪客を前に、アーティットはその場に突っ立ったままグレーグライと対峙していた。
普段ならば、こんなふうにグレーグライを立たせたままにするなどありえない。 だが今のアーティットは混乱する思考を整理するのに必死で、そんな当たり前のことにも気が回らずにいた。
ただし腰を下ろしてもらうにも、この狭いビジネスホテルの一室にはソファどころか椅子の一脚もないのだが。
しかし当のグレーグライはそんなことなど全く意に介することなく、ずいとアーティットの前に身を乗り出した。
 「アーティットくん、突然押しかけて申し訳ない。 どうしても君に聞いてほしいことがあるんだ」
 「聞いてほしいこと・・・」
ほとんど反射的にアーティットが言葉を反芻したが、その意味は理解しかねているようだ。 だが構わずグレーグライは続ける。
 「単刀直入に言う。 コングポップのもとへ帰ってきてほしい」
 「え・・・」
何のてらいもなくストレートにぶつけてくるグレーグライの言葉が、ダイレクトにアーティットの胸に突き刺さった。
まるで見えない傷口をかばうように、無意識にアーティットが胸に手を当てる。
 「君と会えなくなってから、コングポップは日に日に弱っていってる」
 「・・・・・・・・・」
 「このままでは、取り返しのつかないことになってしまうかも知れない」
苦い思いを噛みしめたグレーグライの表情が、苦し気に歪んだ。 
コングが倒れたことはサットから聞いていた。 だが点滴で快方に向かっていたはずでは。
 「・・・点滴をしてるんじゃ・・・」
 「もちろん必要な栄養は点滴で補ってる。 だがそれでもコングポップは確実に弱ってるんだ。 ドクターが言うには、心の問題らしい」
 「心の問題・・・」
衝撃的な事実を告げられて、アーティットが激しく狼狽する。 すると突然、グレーグライがアーティットの足元に身を伏せた。
 「頼む、アーティットくん。 どうかコングポップを助けてほしい。 君にしか助けることはできないんだ」
仕立ての良いスラックスが皺になるのも構わず土下座するグレーグライを、アーティットが呆然と見つめた。
まさに平身低頭の字のごとく、床に頭を擦り付けんばかりに懇願している。 
大企業の社長という肩書やプライドなどすべて投げ打って、ただひたすらに息子のために頭を下げ続けるグレーグライを見ているうち、次第にアーティットの胸が苦しくなってきた。
たまらずしゃがみ込み、グレーグライの肩に手をやる。
 「頭を上げてくださいグレーグライさん。 あなたが土下座なんて、そんなことしないでください」
グレーグライの両肩を掴んで身を起こそうとするが、グレーグライは頭を床に付けたまま微動だにしない。
アーティットがうんと言うまで、てこでも動ない覚悟のようだ。
 「・・・・・・・・・」
しばらく二人はそのまま時が止まったように動きを封じた。 長い静寂の後、ぽつりとアーティットが呟いた。
 「・・・・・・グレーグライさん。 コングポップと僕の間に何があったのか、知っているんですか」
静かに紡がれたその言葉に、グレーグライがわずかに頭を上げた。
 「・・・おおよそのことは」
絞り出すような低い声でグレーグライが答える。 すると堰を切ったように、アーティットが激しく感情を吐き出した。
 「ならわかりますよね!? なぜ僕がコングポップから離れたのか。 僕のせいでコングポップの未来を台無しにするわけにはいかないんです!」
渾身の思いを込めて、アーティットが強く叫ぶ。 グレーグライに対してこんなに声を荒げることなど、これまで一度もなかった。
それだけに、アーティットの悲痛な胸の内がひしひしと伝わってくる。 無論、アーティットの気持ちも痛いほどわかった。
だがそれでも、グレーグライはここで挫けるわけにはいかなかった。 何といっても、コングの命がかかっているのだ。
はあはあと息を乱して自分を凝視しているアーティットに、グレーグライが重く言葉を発した。
 「・・・未来や将来、それらは命あってこそ。 今ここでコングポップが命を落としてしまえば、すべて泡沫になるんだ」
 「え・・・」
 「もう一度言う。 コングポップの命を救えるのは、君しかいないんだ。 わたしやプイメークではダメなんだよ!」
 「!」
 「親であるわたしたちですら、コングポップを救うことはできない・・・。 それがどんなに口惜しいことか、わかるかね!?」
今度こそ、本当に胸に激痛が走った。 その衝撃に、アーティットの息が止まりそうになる。
親でありながら、子供の命が消え細っていくのを止めることができない。 ただ見つめていることしかできない。
その悲しみや苦しみ、悔しさは如何ばかりのものか。 親になったことのないアーティットにも、その痛みは容易に想像できた。
そして先ほどグレーグライが言った言葉。 命あってこその、将来であり未来。
目から鱗が落ちたようだった。
激しく胸の中を様々な感情が駆け巡っているアーティットに、今度は静かな口調でグレーグライが語りかけた。
 「・・・それに、ネオジェネシス社はあと1年ほどで退社する予定なんだ。 だから中国行きがなくなったことを気に病む必要はない」
 「え?」
意外な言葉に、虚を突かれたようにアーティットが目を見開いた。
 「数年後にはコングポップがサイアムポリマー社を継ぐことになる。 その時が来るまで、今は他の企業で様々な経験を積んでいるだけにすぎない」
 「あ・・・」
灯台下暗し、とはこのことだろうか。 
そうだ、コングポップはサイアムポリマー社の次期社長になる人物だ。 今はネオジェネシス社に籍を置いているが、いずれはサイアムポリマー社へと戻ってくるのだ。
そんな当たり前のことすら失念していた自分が、馬鹿々々しくて笑えてくる。 同時に、肩の荷がすぅっと軽くなった気がした。
わずかに表情を緩ませたアーティットに、グレーグライが念を押した。
 「もうわかったね? 君が今すべきことは、コングポップのもとへ戻ることだ。 それに」
そこで言葉を区切ったグレーグライが、じっとアーティットの目を見た。
 「わたしはもう、君とコングポップのことを認めている。 君がコングポップの良きパートナーだということは、動かしがたい事実なのだから」
 「え・・・」
グレーグライの言葉の意味が、すぐには理解できなかった。 心の中で何度か反芻すると、徐々にその奇蹟のような事実が明らかになってきた。 
 「あの、それって・・・」
 「そうだ。 どうかコングポップの傍にいてやってくれ。 これは父親としてのお願いだ」
土下座こそしなかったが、深く頭を下げてそう告げるグレーグライの姿を見て、アーティットの胸にじわりと温かな思いが広がった。
こんな自分を、コングのパートナーとして認めてくれた。 あんなに同性愛を嫌悪していたはずのグレーグライが。
長く険しかった日々が、今ようやく昇華したような気がした。
もう、迷うことはない。 無意識に、アーティットは何度も頷いた。
 「・・・コングポップのところへ、行きます。 連れて行ってください」
真っすぐ目を見てそう言うアーティットに、今度はグレーグライがしっかりと頷いてみせた。
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SOTUS・Season3(§144)

2021-03-07 00:44:34 | SOTUS The other side
年が明けて、一週間が過ぎた。
新年を迎えた祝賀モードがまだ冷めやらぬまま、世間では大半の会社が休暇を終え業務が再開となっている。
サイアムポリマー社の社長室では、グレーグライが新年最初の仕事に取りかかっていた。
書類にサインしていた手が、ふと止まる。 コングのことが気がかりだった。
あれからずっと傾眠傾向が続いており、意識は朦朧としたままだ。
数日おきに主治医が往診しに来るが、やはりバイタル的な数値に異常は認められないとのことだった。
 『心療内科を受診された方がよろしいかと・・・』
ためらいがちにそう告げた主治医の複雑な表情が、今もグレーグライの脳裏にこびりついている。
つまりは、心の問題ということだ。
コングがこんなになった理由は何なのかと主治医に聞かれたが、グレーグライは答えることが出来なかった。
同性の恋人が去ってしまったからだとは。
 「・・・・・・・・・」
手にしたペンをじっと眺めなから、胸の中に広がる苦い思いを噛みしめる。
心の中では、もうとっくに二人のことは認めていた。 アーティットがコングを想う気持ちの強さと深さを知り、これ以上ないほどのパートナーだと思った。
まだ彼らには直接伝えてはいないが、いずれ折を見て話すつもりでいた。
だが反面、アーティットをコングの恋人だと世間に公表することには抵抗があるのも事実だ。
ふと、苦笑いが漏れる。 息子にとって本当の幸せは何なのかはわかっているのに、己の建前を言い訳にしてそれに蓋をしようとする姑息さに我ながら呆れた。
世間に蔓延る根強い偏見こそがコングをこんな窮地に陥れている元凶だというのに、自分の中に未だそれに似た感情がくすぶっていることにも憤りを感じる。
そうして自己嫌悪にも似たネガティブな気持ちに捉われていると、静かな室内にドアをノックする音が響いた。
 「入りなさい」
ノックの主に誰何することもなく、グレーグライが入室を促す。 静かに開いたドアからは、グレーグライの秘中の駒である青年が一礼して入室してきた。
いつか極秘にアーティットの身辺調査を命じた、あの青年だ。
 「ヒース、彼は見つかったか」
グレーグライの前までやってきたヒースに、単刀直入に問いかける。 頷きながらはい、と答えたヒースが、ポケットから一枚の写真を取り出してグレーグライの前へ差し出した。
 「自宅から離れ、バンコク市内のビジネスホテルに長期滞在しているようです。 これがそのホテルと彼の写真です」
写真には、ホテルの玄関から中へ入ろうとしているアーティットの姿が映し出されていた。 玄関ドアの横には、シャンピアというホテルの名前が見て取れる。
 「シャンピアホテル・・・」
聞いたことのない名前に首をかしげるグレーグライを見て、ヒースが説明を加えた。
 「ここから車で15分ほど南に向かったところにあります。 大通りからいくつか路地を入ったところにあるので、少々わかりにくいかも知れません」
 「・・・あえてこんな場所を選んだのか・・・」
ぽつりと小さな呟きが漏れた。 きっとコングに見つかりにくいところを選んだのだろう。 アーティットの覚悟の深さを垣間見たような気がした。
 「それで、今後はどのようにすればよろしいでしょうか。 彼の偵察をこのまま続けますか?」
次の指示を仰ぐヒースに、グレーグライがはっとしたように顔を上げた。
 「いや、もういい。 ご苦労だった。 報酬はいつもどおり君の口座に振り込んでおく」
 「ありがとうございます。 では、失礼いたします」
深く一礼を残して、ヒースが音もなく立ち去って行った。
一人になったグレーグライは、手にある写真を再度見つめた。 ドアへ足を踏み出そうとしているアーティットの姿は、心なしかシルエットが細くなっているように見える。
コングと同じように、彼もまた傷ついた心を抱えて身をすり減らしているのだろうか。
二人の様子を見れば、お互いがお互いを思い合っているのは明らかなのに、なぜ周囲はこうも彼らの行く手を阻むのだろう。
 「・・・・・・・・・」
しばしじっと写真を見つめていたグレーグライだったが、ふと何かを振り切るように顔を上げると、おもむろに椅子から立ち上がった。


大学を後にし、疲れた足取りでホテルに戻ってきたアーティットは、部屋に入るなりベッドへと倒れ込んだ。
そのはずみで、胸ポケットに入れていた携帯がシーツの上に落ちた。
それを手に取り、暗いままの画面を見つめる。 今日も一日、コングからの連絡はなかった。 これでもう、丸4日連絡がない。
はじめは小さな不安だったが、今は不安と心配がアーティットの胸を広く支配していた。
本当に、点滴で回復したのだろうか。 だとしたら、なぜ連絡がないままなのか。
一向に返事をよこさないアーティットに業を煮やし、もう諦めてしまったのだろうか。
 「・・・・・・・・・」
ゆっくりと、携帯のメモリーを開く。 その中から、コングの名を呼び出す。
通話ボタンへと、おもむろに人差し指を近づける。 あと数センチで触れるというところで、そのままアーティットが動きを止めた。
何かを堪えるように唇を噛みしめ、苦し気な眼差しでじっと画面を凝視する。
不意に、手から力が抜けた。 そのまま手から滑り落ちた携帯が、ベッドの上で小さくバウンドした。
それと同時に、アーティットも体をシーツの上に投げ出し、仰向けになって天井を仰いだ。
コングが心配でたまらない気持ちと、今ここで禁を破ってしまうことの怖さが心の中でひしめき合い、思わずアーティットが呻いた。
もうコングの未来をこれ以上邪魔してはならない。 彼の足枷になるわけにいかない。
そのためには、どんなに辛くても心を鬼にして彼から離れなければならないのだ。
ぎゅっと閉じた眼尻に、じわりと涙が滲んだ。
するとその時、不意に部屋のドアをノックする音が響いた。 反射的にベッドから身を起こしたアーティットが、とっさにドアを見る。
ここを訪ねてくる人物など、いるはずはない。 いったい誰が・・・。
しかしそんな疑問はすぐ消えた。 長期滞在していると、リネンの追加などで時々部屋にスタッフがくることがある。 おそらく今回もそうだろう。
なぜかホッとしたアーティットが、素早くドアへと向かう。
 「はい」
返事を返しながら開錠し、ドアを開ける。 だが、そこに立っていたのはスタッフではなかった。
 「あ・・・」
あまりの驚きに、それ以上の言葉が出てこない。 無言で自分を凝視するアーティットを横目に、グレーグライがぐいっとドアを大きく開けた。
 「アーティットくん、頼みがあって来た。 中へ入れてくれないか」
そう言うが早いか、グレーグライが一歩室内へと足を踏み入れた。 それに気圧されるように、アーティットが一歩後ろへ下がる。
すかさず、グレーグライが後ろ手にドアを閉めた。
おもむろにアーティットを見たグレーグライの目は、ひどく真摯だった。

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SOTUS・Season3(§143)

2021-03-07 00:43:55 | SOTUS The other side
コングの部屋の前で立ち止まったグレーグライは、ひとつ深呼吸をしてドアをノックした。
しばらくそのままで待つが、やはり返事はない。
あらかじめ予想していたこととはいえ、無意識にため息を漏らしたグレーグライが、静かにドアを開ける。
 「・・・コングポップ」
後ろ手にドアを閉め、ベッドに近づきながら名を呼ぶ。 だがベッド上のコングからの返事はない。 それどころか、身動きひとつもしない。
ベッドのすぐそばまでやってきたグレーグライが、横たわるコングの顔を覗き込む。
 「コングポップ」
再度名を呼ぶが、やはり反応はない。 青白くこけた頬をさらして目を閉じる息子を、グレーグライが息をのんで見据える。
腕には点滴が施され、生きるために必要な栄養素は充分補給しているというのに、目の前に横たわるコングは今にも息を引き取りそうなほど生気がない。
思わず、生唾をのんだ。
 「―――コングポップ! 目を開けなさい!」
衝撃的な息子の様子を目にして、グレーグライの理性が弾け飛んだ。 すっかり薄くなってしまったコングの肩を両手で掴み、強く揺さぶる。
すると薄く眉間にしわを寄せたコングが、目を閉じたまま唇を震わせた。 ゆっくりと開かれた唇から、小さく微かな声が漏れる。
 「・・・ット・・・ぱい・・・」
 「なんだ? 何と言ってるんだ」
コングの口元に耳を寄せ、紡がれるわずかな言葉に意識を集中する。 
 「・・・ティット・・・んぱい・・・どこに・・・」
まるで老人のようにしゃがれた声で、必死にアーティットの名を呼んでいる。 点滴が埋め込まれている腕が、わずかに動いた。
ほんの少し腕を持ち上げ、まるで何かを掴むように指先を泳がせる。 ふたたび、コングの口からアーティットの名が聞こえた。
 「コングポップ・・・!」
たまらずしゃがみ込み、その手をグレーグライが強く握った。 だがそれでも、まるでうわ言のようにコングの口から何度もアーティットの名前が漏れる。
意識が朦朧としているこんな時にさえ、アーティットを求めてやまないコングの様子に衝撃を受ける。
そして同時に、アーティットがいなければ生きていくことさえままならないコングが、哀れで不憫だった。
コングがコングらしく生きていくには、アーティットという人間が必要不可欠ということを思い知らされた。
それはもう恋とか友情とかそういうものではなく、魂の片割れと言っても良いのかもしれない。
 「・・・・・・・・・」
コングの手を握りしめ、じっと彼の顔を見つめていたグレーグライの心に、ひとつの決心が生まれた。
そっとコングの手を布団の中に戻し、静かに立ち上がったグレーグライが、ひととき目を細めてコングを見つめる。
やがておもむろにポケットから携帯を取り出し、メモリーからある人物のナンバーを呼び出すと、ゆっくりとドアに向かって歩き出した。


その頃アーティットは、大学のキャンパスをあてどなく歩いていた。
年末年始の休暇中とあって、キャンパスには学生の姿はない。 がらんとした構内を、アーティットは一人目的もなく歩いている。
建物の間を抜けると、広々としたグラウンドが目に飛び込んできた。 そしてグラウンドの片隅には、古ぼけたベンチとテーブルがぽつんと置かれている。
ベンチの砂ぼこりを払って、ゆっくりと腰を下ろす。
テーブルを挟んで向こう側にあるベンチに目をやったアーティットが、ふと目を細めた。
あれは去年の春。 ここで卒業したばかりのコングと向かい合って座り、他愛無いことを無邪気に話した。
自分のためにコングが買ってきてくれたピンクミルクをすすりながら、時折感じる彼の熱い視線に鼓動が高鳴るのを必死に隠した。
だが隠そうとすればするほど今度は顔がほてり、はては耳まで赤く染まるのをコングに見つかって、悪戯っぽく揶揄われた。
(先輩、耳まで真っ赤ですよ)
わざと顔を近づけ、耳に息を吹きかけながら挑発的に囁く。 あの時の彼の熱い息吹が甦り、思わず手で耳元を押さえる。
 「バカ・・・!」
無意識に声を上げ、向かい側のベンチに目をやるが、そこには誰もいない。
上がりかけた体温が、すうっと冷えていく。 あの頃の二人は、もうどこにもいないのだ。
 「・・・・・・・・・」
今頃、コングはどうしているだろう。 ふと、ポケットの携帯を手でさぐる。 
そういえば、サットから連絡がつくようにしておいてくれと言われていたことを思い出す。
ためらいながらも、ずっと切ったままだった電源を入れてみる。 すると、おびただしい数のメッセージや着信履歴が画面いっぱいに映し出された。
痛みをこらえるようにそれらを見ていたアーティットの目が、不意に細められた。
ここ数日のコングからの着信が見当たらない。
休暇に入ってすぐには、一日十数件の着信やメッセージがあった。 それが、3日前からは全くなくなっている。
 「・・・・・・・・・」
3日前といえば、ちょうどサットと偶然ラマ8世橋で会った日だ。 そういえば、あの時サットが気になることを言っていた。
(コングさん、急に倒れてしまって。 俺とトード先輩とで、コングさんの家まで運んだんです)
そうだ、コングが倒れたと言っていた。 だが確か、点滴で回復したとも言っていた気がする。
しかし反面、同じタイミングでコングからのアクセスがぷっつりと途絶えたことが気にかかる。
何か、非常に嫌な予感がした。
 「コングポップ・・・!」
じわりと手に汗が滲む。 携帯を握りしめたまま、アーティットはしばらく身動きできずその場に佇んでいた。

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