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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§191・最終話)

2025-02-04 23:06:00 | SOTUS The other side
午前中から開催されたパーティーは、日も沈みかけた夕刻になってようやく終焉を迎えた。
参加客や来賓などすべての人々が帰路につき、会場にはグレーグライとコング、そしてアーティットの3人が残った。
「ーー今日は大成功だったな」
後片付けに勤しむホテルのスタッフたちを見つめながら、感慨深げにグレーグライが呟く。
「はい、ほんとに。 すべてがうまくいって、最高のパーティーでしたね」
相槌を打ったコングが笑みを深めて同調する。 隣に佇むアーティットも、深く頷いた。
「だがこれに浮かれていてはいけない。 これからの展開がどうなるかで、この合併の成果は大きく左右される。 そのことを肝に銘じて、これからしっかりと取り組みなさい」
「はい!」
檄を飛ばすグレーグライに、ひときわしっかりとコングが頷く。 そんな彼を目を細めて満足げに見たグレーグライが、隣のアーティットへ視線を移して告げた。
「ーーアーティット君も、これまで以上にコングポップの補佐について助力をお願いしたい。 新年度からはコングポップの側近部署へ異動になるから、よろしく頼むよ」
「はい、わかりました」
コングと同じくしっかり頷くアーティットを見て、グレーグライも小さく頷く。
「ーーもうこんな時間だ。 わたしは一旦帰宅して着替えてくる。 そのあと個人的に話したい役員のところへ出向くが、おまえたちはどうする?」
「このあと俺たちは自由に過ごしていいんですか?」
「ああ、今日のところはもう予定はない。 家で夕食をとるならプイメークに準備するよう伝えるが」
グレーグライの言葉を聞いて、コングとアーティットがしばし顔を見合わせる。 が、すぐにコングが首を左右に振った。
「いえ、俺たちはこれからちょっと出かけてきます。 食事も外で済ませてくるので、母さんにはそう伝えてください」
「そうか、わかった。 じゃあわたしはこれで」
ジャケットの襟を正したグレーグライが、そう告げて立ち去って行った。
「ーー出かけるって、どこへ行くんだ?」
出かけることを聞いていなかったアーティットが、何気なく尋ねる。 そんな彼の肩を軽く抱いたコングが、歩き出すよう促しながら答えた。
「今日、あなたと行きたいところがあるんです。 ちょっと歩きますが、いいですか?」
「それはかまわないけど・・・この格好でか?」
両腕を広げて、スーツ姿をアピールする。 普通のビジネススーツではなく、パーティー用のドレスアップしたスーツ。 それはコングも同じだ。
こんな二人が外を歩けば、きっと人々の注目を浴びるだろう。 だがコングは意に介していないようだ。
「たまにはいいじゃないですか。 先輩すごくカッコいいですよ」
「それは、おまえだって・・・。 って、なに歯の浮くようなことを」
「あ、でもこんな先輩が街を歩いたらきっとみんな振り返るな。 先輩、ダメですよ。 先輩は俺だけのものなんだから、それを絶対忘れないでください」
最初は独り言のように呟いていたが、後半はぐっとアーティットの耳元に口を寄せ、言い聞かせるように囁く。
「お、おまえ・・・!」
とっさに近づきすぎのコングの体を引き離し、耳に手を当ててあたふたする。 そんなアーティットの様子を見て、満足そうな顔をしたコングが一歩踏み出す。
「さ、行きましょう」
赤くなりかけた顔と耳を手で隠しながら、促されるままアーティットも足を踏み出した。
ホテルの外はすでに傾きかけた太陽のオレンジ色に染められて、時折吹き渡る風も昼間のような熱風ではなく、少しだけ冷気を孕んで夜の訪れを予告している。
大通り沿いをゆっくりと歩き、大都会バンコクの喧騒に揉まれる。 しばらくそんな風景を眺めつつ談笑しながら歩を進めていく。
30分ほども歩くと周囲の景色もだいぶ変わり、あたりには水音が漂ってきた。 チャオプラヤー川を行く船が波を切る音が心地良く耳に響く。
やがて大きな吊り橋が壮大な姿を現した。
「ここは・・・」
「そうです、ラマ8世橋です。 俺にとっては思い出深い場所なんです。 だから今日あなたと来たかった」
橋の欄干から川の全景を見渡しながら、コングが呟く。 アーティットもその隣に並び、同じく遠くを見つめる。
「・・・そうだな。 俺にとっても、思い出のある場所だ」
「あなたに、ここで初めてキスをしてもらいましたよね」
アーティットに告白し、その答えだと言ってアーティットがくれたキス。 ネクタイを引き寄せてされたやや武骨なキスは、アーティットらしくもあり、今思い出しても微笑ましくなる。
あの時から、ふたりの物語は始まったのだった。
「・・・もう一度、キスをくれませんか」
「な・・・何言ってる、人がいるだろ」
「あんな遠くだし大丈夫ですよ。 ね、お願いします」
「ほら、く・車だって通るし、また後でな」
必死で抵抗する姿を見ていると、つい頬が緩む。 いつまでたっても、本当にこの人は出会った頃のまま何も変わらないと、あらためてコングは思った。
「わかりましたよ、仕方ありませんね。 あなたは恥ずかしがり屋だから」
「その、ま・・・そういうことだ」
頬を赤らめながらぼそりと零す。 そんな彼が今また愛おしくなり、思わずその肩を抱き寄せた。
「でも、なんだか夢を見てるみたいです。 あなたを俺のパートナーとして父さんが正式に認めてくれて、さらに社員にも盛大に紹介してくれるなんて。 こんな日がくるなんて、本当に信じられないくらい嬉しい」
肩を抱く手に力をこめ、そう熱く語るコングの横顔をじっと見つめたアーティットが頷く。
「ーーそれは俺も同じ気持ちだ。 俺の存在がおまえの足枷になっちまうってずっと怖かったから・・・」
ひとときコングから視線を外し、川面を見下ろしながらそう呟くアーティット。 その横顔が、なぜか寂しげに見えた。
肩を抱いていた手をはずし、両手をアーティットの両肩に置いて、アーティットを正面に向かせる。
「あなたが自分を責めたり、責任を感じたりして随分苦しんだことを思うと、今でも胸が痛いです。 だからその分、これからは二人で幸せになりましょう。 いや、俺があなたを絶対幸せにする」
じっと目を見つめてそう告げるコングの瞳に映る自分を見て、アーティットの胸がぎゅっと締め付けられ、だがそれはすぐに温かで甘い波紋となって、全身を満たしていく。
これが幸せということなのか、とアーティットが心の中で思う。
しばし二人は無言で見つめ合っていたが、やがてアーティットが手を伸ばし、コングのネクタイをぐっと掴んだ。 そしてそのまま静かに引き寄せ、唇を重ねた。
初めてキスをした時と同じシチュエーションで、だが想いを重ねた分甘く蕩けるようなキス。 たまらなくなったコングが、アーティットの背中に手をまわし、強く抱きしめた。
すると急に我に返ったのか、アーティットがぐいっとコングの体を引き離した。
「こ、こんなとこじゃダメだ」
「なぜ? あなたからキスしてくれたんですよ。 抱きしめるくらいいいでしょう」
そう言って再び腕を伸ばすコングから逃げるように、アーティットがひらりと身をかわす。
やれやれとでもいうように、コングが両手を上にあげて苦笑いをこぼす。
「わかりましたよ。 じゃあ早く帰りましょう。 俺たちの部屋で、誰にも邪魔されずたっぷりと・・・」
「あ~わかったわかった! それ以上言うな!」
コングの言葉を遮り、行くぞ!と吐き捨ててくるりと背を向けるアーティット。 きっと赤くなった顔を見られるのが恥ずかしいのだろう。
速足で歩き出すアーティットを、コングもまた足早に追いかけていく。 
やがて二人の姿が雑踏に消え、あとには沈みかけた黄昏の太陽の残光が、静かに街を照らしていた。
 

【後記】
とうとうアーティットとコングの物語も、エンディングを迎えました。
最初はSOTUSファンの方々のお叱りを受けるんじゃないかとヒヤヒヤしながら書き始めましたが、そんな心配は杞憂に過ぎず、皆さまの温かい思いに励まされて、物語を全うすることができました。
長い間ご愛読くださり、本当にありがとうございました!

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SOTUS・Season3(§190)

2024-12-16 22:35:27 | SOTUS The other side
パーティーはその後も恙なく進み、大成功のうちに終了した。
大勢の参加客は、みな満足そうな笑顔を湛えて各々帰路についていく。 中には祝い酒を少々やりすぎて足元が怪しい者もいる。
「合併万歳!」「新社長万歳!」「未来は明るいぞー!」
酔いがまわり呂律のおかしい口調で声高にそう叫ぶ者もいたりして、あたりはどこもかしこも祝福ムードに包まれていた。
「ダナイさん、大丈夫ですか?」
酒が体じゅうに染み渡り赤い顔をしてフラフラ歩くダナイを、ハラハラしながら隣でトードが見守っている。 
時折つまづきそうになるたびにとっさに手を差し出すが、 しかし転びそうでなかなか転ばないダナイの様子が妙におかしく、まわりで見つめるアースとソムオーがくすくすと笑う。
「もう、笑いごとじゃないよ。 ほらダナイさん、俺につかまってください」
「わしは大丈夫だよ、問題ない!」
「ぜんぜん大丈夫じゃないですよー。 転んで怪我したらどうするんですか。 ほら!」
見かねたトードがダナイの腕を取って強引に肩にかけると、不服そうにダナイががなる。
「年寄り扱いするな! わしはまだまだ若い、人の手を借りんでも歩けるわ」
「誰も年寄り扱いなんかしてませんって。 いいから黙って歩いて下さいよ」
耳元で喚くダナイを少々うんざりしながら宥めつつ、どうにか連れ立って歩き出す。 そんな様子を黙ってじっと見守っていたサットが、すっとトードに近づいて囁きかけた。
「ーーあの、すいませんが俺ちょっと用があるので」
短くそう告げると、トードの返事を待たずにそのまま踵を返して歩き出す。 
「おいサット、どこ行くんだよー? ダナイさんの世話俺一人かよ~」
恨みっぽくそう叫ぶが、あっという間にサットの姿が人込みに吞まれていく。 相変わらずぐにゃぐにゃと力の入らないダナイの体を抱え、諦めモードになったトードがため息を零してのろのろと足を進めた。
トードたちから離れたサットは、あたりをキョロキョロしながら歩いていた。 すると十数人の人だかりが目に入り、その中心にいるのがグレーグライとコングだとわかると、足早にそちらへ向かった。
グレーグライたちを囲んでいるのは役員や理事など要職にある者が多いようで、そんな人々を押しのけて彼らに近づくのはどうにも気が引ける。
少し離れたところで足を止め、どうしたものかと考えていると、そんなサットにグレーグライが気づいた。
「ーーコングポップ、ちょっと皆さんの対応を頼む」
隣のコングにそう囁きかけると、人だかりの中から抜け出してサットのところへ向かった。
「ーーサット君、何かわたしに話したいことがあるんだろう? ちょっとこちらへ」
そう言いながら、サットの肩を抱いて人の少ない場所へと誘う。 一方的ではあったが、サットとしても人に聞かれる心配のない場所はありがたいため、素直に従った。
「ーーすみません、お忙しいのに」
あたりに人気がないのを確認してから、申し訳なさそうにサットが詫びた。
「いや、ちょうどいい機会だ。 わたしも君と話したかったんだ」
「あの・・・招待状に書かれていたことなんですが・・・」
戸惑いながらそう告げるサットに、ふっと笑ったグレーグライが頷く。
「そうだろうと思ったよ。 わたしの気持ちを受け入れてもらえるだろうか」
「その・・・」
先ほどのマイクを通してのグレーグライの『かなり以前から合併のことは考えていた』という言葉を思い出す。 
確かにそうなのかも知れないが、それでも自分とのことがなければこういう結果にはならなかったのでは、という思いがどうしても払拭できない。
そんな気持ちが顔に現れていたのだろうか。 きみの気持ちもわかる、と言いながらグレーグライが口を開いた。
「だがさっきも言ったように、このことは以前から考えていたことで、きみの存在が明らかにならなかったとしても結果は同じだったと思う」
「・・・・・・・・・」
「ただ、きみがわたしの英断の起爆剤になったのは少なからずある。 長い間考え続け、最後のひと押しの決断をさせてくれたのは、きみだったと言えるだろう」
「それは・・・」
やはり自分の存在が影響を与えていた。 そうわかり、再び胸に何とも言えない不穏さが広がる。 だがそんなサットの心中を宥めるように、グレーグライが続ける。
「さっきの会場の反応を思い出してほしい。 この決断を、皆さんは快く受け入れてくれたし、喜んでくれたと確信している」
「・・・・・・・・・」
脳裏に、先ほどの高揚感に包まれた場内の雰囲気が蘇る。 誰もが皆笑顔で、惜しみない拍手を贈っていた。 少なくとも、不満や反意の声は全く聞こえなかった。
それはつまり、グレーグライの決断が間違っていなかったということの証でもある。
「本当に・・・、良かったんですかね」
「わたしは大成功だと思っているよ。 それにきみが気に病む必要も全くない。 わたしはきみとコングポップ、そしてアーティットくんが互いに協力していける環境を作りたかったんだ。 そしてそれは、わが社とオーシャンエレクトリック社のさらなる発展にもつながると信じている」
「グレーグライさん・・・」
信念に彩られた強い瞳でそう語るグレーグライを前に、サットはもう何も言えなかった。 あのグレーグライがそこまで言うなら、それはきっと間違いないのだろうという思いが胸に広がっていく。
「ーーわかりました。 あなたからの気持ち、しっかりと受け取らせていただきます」
雑念がなくなり、すっきりとした顔になったサットのこの言葉を聞いて、グレーグライが満面の笑顔になった。
「そうか、ありがとう。 嬉しいよ。 これからは、ともに手を取り合って頑張っていこう」
「はい」
グレーグライが差し出した手を、サットがしっかりと握る。 どちらからともなく頷き合い、ひととき互いの思いを通わせた。
「ーーそれじゃ、わたしはまだ用があるからこれで。 気を付けて帰りなさい」
「はい、失礼します」
踵を返し歩き出すグレーグライの背に向かい、サットは感謝の意を込めていつまでも深々と頭を下げ続けた。
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SOTUS・Season3(§189)

2024-11-12 14:53:23 | SOTUS The other side
しばしサットを見つめていたグレーグライが、今度は会場全体を見渡した。 数多の社員や関係者が、グレーグライの次の言葉をみなじっと耳を澄ませて待っている。
ひととき目を閉じ、小さく深呼吸して気持ちを整えたグレーグライが、おもむろに口を開く。
「・・・我が社、サイアムポリマー社とオーシャンエレクトリック社が、完全合併することとなりました」
一言一言嚙みしめるように、そしてはっきりとそう告げたグレーグライの表情は凛として、強い意志を表していた。
だがこの重大な発表を初めて耳にした多くの面子は、想像もしてみなかったことに驚き、みな口々にそれぞれの胸の内を語り合っている。
無理もないだろう。 製造業を生業とする大手企業同士の合併ともなれば、とてもセンセーショナルなことだからだ。
それはダナイをはじめとする購買部のメンバーも例外ではなかった。 互いに顔を見合わせて、この想定外の出来事に言葉を失ったままだ。
だがそんな中トードだけは、なぜか一人思いつめたような顔で両手を握りしめていた。
(まさか・・・まさか、グレーグライさんが書いてたことって、このことだったのか!?)
一気に動悸が激しくなり、体じゅうの血が頭に昇ったような気がした。 何千人という社員を抱えた大企業同士の合併の発端が、たった一人の、しかもきわめて個人的な理由から行われるなど、あっていいはずはない。
あまりに大それたことに、思わずサットの気が遠くなりかけた。 だがそんな彼の心中を察したかのようにグレーグライが再びマイクに近づき、詳細な説明を始めた。
「ーーこれまでもすでに一部の部門について業務提携しておりましたが、互いに利益となる項目が多数あり、オーシャンエレクトリック社側とも幾度となく慎重に協議を重ねたうえ、この決断に至りました」
静かな口調でそう語り、ひと呼吸おいてさらに続ける。
「オーシャンエレクトリック社の合意は得ましたので、今後は互いの株主総会で筆頭株主の承諾を経たのち、具体的な手続きに入ります。 社員の方々には本件で不都合や不利益が生じぬよう最大の配慮をいたしますので、ご安心ください」
場内のどよめきの中に、安堵の声が混じる。 いわゆる統廃合という形になるのではと危惧した社員は多かったのだろう。 統廃合となれば、人員削減による大幅なリストラは不可避だからだ。
そのあたりをグレーグライもよくわかっていたので、彼らの心配の種を取り除くためにしっかりと説明を果たした。
「・・・今後各部署ごとに合併を進めていき、3年後には完全合併となるよう進めてまいりたいと考えております。 皆様方にはこれから合併に向けて多忙な日々になるかと存じますが、どうかご理解ご協力をよろしくお願いいたします」
そう締めくくると、マイクから一歩下がったグレーグライが深々と頭を下げた。
するとどこからか、誰かが手を叩く音が聞こえた。 やがてそれはあたり一面に広がっていき、あっという間に盛大な拍手の渦へと成長した。
次々と皆席から立ち上がり、スタンディングオベーションが生まれる。
再び顔を上げたグレーグライの目に、眩しい光に照らされた人々の笑顔と拍手の様子が映る。 思わず、目頭が熱くなりそうだった。
そんな彼と場内のサットを、舞台袖から静かにアーティットが見つめていた。
数日前にグレーグライからこの話を打ち明けられた時、驚きと同時にサットに対する愛情の深さを思い知った。
直接的な援助を固辞するサットに、しかしどうしてもこの20数年の償いをしたいグレーグライの強い意志が交錯した結果、この壮大な合併劇となった。
サットとグレーグライの間の秘密を知る者にすれば、そこに父親から子への愛情を感じずにはいられない。
だがグレーグライはそんな個人的なことでこのような重大な決定はしない人間だ。 合併の骨子案を作った時点で、あらゆる利益や不利益、不合理、不具合を想定し、互いの社員がこれまでどおり働いていける環境を構築しているはずだ。
しかし、サットはどう思っているだろう。
自分が原因でこのような決定がなされたとすれば、おそらく耐え難い思いに苛まれているのではないか。 たった一人の社員のために、数千人の運命を左右してしまうことの重大さとプレッシャーは、アーティットにも容易に想像できた。
あらためて席のサットを見る。 ここからでは遠くて細かな表情まではわからないが、それでもやや俯き加減で首をうなだれている様子が見て取れる。 やはり心中は穏やかではないのだろう。
未だ拍手が鳴りやまず明るい祝福ムードの場内とは裏腹に、複雑な表情でグレーグライを見つめるアーティットとサット。
そんなアーティットに、壇上のグレーグライが気づいた。 とっさに笑顔を張り付けて取り繕ったが、グレーグライにはそんな小細工は無駄だった。
ゆっくりとマイクに向き直り、ふたたびグレーグライが語り始める。
「・・・皆様の中には、このような重大なことを一朝一夕で決めたと思われている方もおられるかも知れません。 そのため不安を抱かれている方も、きっとおられると思います。 ですがこの合併につきましては、数年前より私の中で模索していたことでもあるのです」
それまでの拍手が止み、皆の目が一斉にグレーグライに注がれ、場内は彼の声を聞くため静寂に包まれた。
「私と、きわめて近しい関係者のみで、長い間協議を重ねてまいりました。 正直、私の中に迷いや葛藤などもなかったわけではありません。 しかし社員の皆様、関係者の方々の輝かしい未来のためにも、この合併は不可欠であるとの考えに至り、こうして本日皆様にご報告する運びとなったわけでございます」
真っすぐ前を見据えてグレーグライがそう言い切ると、場内はふたたび大きな拍手に包まれた。
それを感無量の眼差しで見つめるグレーグライの目が、サットを捉える。 先ほどまでの不安げな表情は消え、口元には笑みが浮かんでいるのが見えた。
やはり自分のせいという心苦しさがあったのだろう。 今のグレーグライの説明を聞いて、心の重荷が取れたようだ。
その思いはアーティットも同じだった。 やはりグレーグライはトップに立つ人間に相応しい、深慮に富んだ人物なのだと改めて思う。
そしてそんな父親の背中を見つめ、優秀なCEOとなるべく日々努力しているコング。 隣に立つそんな彼を見て、サイアムポリマー社の未来はきっと輝かしいものになるという確信が沸く。
ふと、コングと目が合った。 言葉はなかったが、それでも互いの目を通して同じ思いを抱いていると感じ、二人ゆっくりと頷く。
やがて壇上のグレーグライが、コングとアーティットを呼んだ。 二人はグレーグライとともに最後の挨拶をすべく、肩を叩き合って足を踏み出した。
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SOTUS・Season3(§188)

2024-09-13 00:57:07 | SOTUS The other side
パーティー開始時刻になりアナウンスが流れると、それまでざわめきが広がっていた広い空間が水を打ったように静かになる。
司会者が挨拶をし、式次第をひととおり説明し終えると、現社長であるグレーグライが壇上に登壇した。
「みなさま、本日は何かとご多忙の中このようにたくさんの方々にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
濃紺のスーツに身を包み、胸に深紅のバラを差したグレーグライが、大勢の参列客を前に深々とお辞儀をした。
「わたくしグレーグライは、これまで皆様方のご理解ご協力のもと弊社代表取締役を務めてまいりました。 そしてわたくしの愚息であるコングポップも、皆様方のご指導ご鞭撻により、ともに成長することができました。 ここに深く感謝いたします」
そこまで言うと、グレーグライが感謝の意味を込めて再び深く頭を下げた。 それに応えるように、場内から静かな拍手が贈られる。
「まだまだ未熟なところはございますが、それでもコングポップはずいぶん逞しく、頼もしく成長したと確信いたしております。 今後は我がサイアムポリマー社を牽引していく立場として、コングポップ・スチラクをわたくしの後任とすることをここに宣言いたします」
力強くグレーグライがそう宣言して右手を上げると、それを合図に舞台袖で控えていたコングが壇上へ上がり、グレーグライの隣に立った。
まばゆいスポットライトの光に照らし出されたコングは、緊張しながらも誇らしげな表情を浮かべているのがわかる。
「コングポップ・スチラクでございます。 まだまだ若輩者であり至らぬ部分もございますが、皆様方のご指導のもと精進してまいります。 どうぞよろしくお願いいたします」
一言一言はっきりとそう告げ、会場全体を見渡したのちに、最敬礼のお辞儀をする。 すると会場内から盛大な拍手が沸き起こった。
立派に宣言した息子を、隣でグレーグライが感無量な目で見つめる。
ここまで来るのに、様々なことがあった。 決して順風満帆な道のりではなかった。 だがそれでもこうして今日という日を迎えられたことは、グレーグライにとって非常に感慨深いものだった。
長い拍手の波がまだ止まぬ中、グレーグライがゆっくりと一歩前へ出て、再びマイクの前に立った。
「・・・本日は、もうひとつ皆様にご報告したいことがございます」
グレーグライの言葉で、拍手に包まれていた場内が静まった。 皆の目がグレーグライに集中する。 それをひととおり見渡してから、ゆっくりと口を開いた。
「ーーまだまだ未熟者のコングポップには、公私ともにサポートしてくれる人物の存在が不可欠であります。 しかしそれはコングポップ自身が最も信頼し、またコングポップを最も理解する人物でなければならないと考えます」
参列客たちに小さなざわめきが広がる。 グレーグライの意図がまだよくわからないという感じだ。
そんな中、ダナイたちのテーブルだけは、その次に続く言葉を固唾をのんで待っていた。 いよいよその時がきたとでも言うように、期待に目を輝かせながら。
「熟考を重ねたうえで最適な人物を選定いたしましたので、ここで皆様にご紹介したいと思います」
そう言ってグレーグライが手を差し伸べ、舞台袖から一人の人物が登壇してきた。 スポットライトが彼を照らし出すと、場内からどよめきが沸き起こった。
中にはすでにコングとアーティットのことを知っている人間もいるが、大半の人間は何も知らなかったはずだ。 驚嘆の声に包まれる中、グレーグライがひときわ大きく告げた。
「すでにお見知りおきの方も多いと思いますが、改めてご紹介いたします。 総務部在籍のアーティット君です」
そう言いながら、グレーグライがアーティットの背中をぐっと押す。 一歩前へ出る形になったアーティットが、意を決したようにマイクに向かった。
「ーーただいまご紹介いただきましたアーティットです。 入社してまだ間もない僕にこのような大役が務まるか不安は尽きませんが、それでもご期待に沿えるよう精一杯努力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします」
緊張で声が上ずりそうになるのを必死でこらえ、どうにかそう言い終えて深々と頭を下げる。
そんな彼をコングが優しい目でじっと見守っており、チラリとコングを見たアーティットが、小さく頷いて見せた。
そんな二人の様子を目を細めて見つめていたグレーグライが、再びマイクの前に立つ。
「・・・先ほども申し上げましたが、アーティット君がサポートするのはコングポップの仕事面だけではありません。 プライベートでも常にコングポップに寄り添い、生涯にわたりそばで支えていく唯一無二の存在なのです」
グレーグライの言葉が、会場内にひときわ大きなざわめきを作った。 みな顔を見合わせて、言葉の意味を確かめ合っているようにも見える。
そしてグレーグライが、さらに付け加えた。
「ーーアーティット君は、コングポップの生涯のパートナーであり、また伴侶であることを申し添えます」
グレーグライがはっきりとそう告げると、おお~!という声があちこちから湧き起こる。 それは感嘆であったり、衝撃であったり、この場にいる人々の多種多様の気持ちの表れだった。
しばらく会場内に様々な声が充満していたが、やがてどこからともなく拍手が聞こえてきた。
それは、オーシャンエレクトロニック社購買部のテーブルから発生したものだった。
ダナイをはじめ購買部の全員が、椅子から立ち上がりステージ上のアーティットたちに拍手を贈り続ける。
するとそれに感化されたように次第に周囲からも拍手の連鎖が生まれ、あっという間に場内は割れんばかりの大きな拍手の渦に呑み込まれた。
ソムオーは顔中涙まみれになり、アースとトードの目にも光るものが見え、サットは感無量な表情で拍手を捧げる。
「ーーみなさま、コングポップとアーティット君にこのような温かい拍手をいただきありがとうございます。 皆さまのご厚情に報いるべく、二人にはこれから互いに協力しあって精進していくことを期待します」
そう言ってコングとアーティットを見つめていたグレーグライが、ふと正面に向き直った。
「・・・そして、皆さまにお伝えしたいことがもうひとつございます」
壇上から、オーシャンエレクトロニック社購買部のテーブルに目を移したグレーグライがそう告げる。 その目が、サットを捉えた。 そしてサットも、グレーグライと目が合ったことに気付く。
招待状に書かれた直筆のメッセージが不意にサットの脳裏に蘇り、無意識に生唾を呑み込んだ。
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SOTUS・Season3(§187)

2024-08-02 21:08:55 | SOTUS The other side
「先輩~、ちょっと地味だったかなぁ?」
黄色いエナメル素材のドレスというかなり派手ないでたちをしているソムオーが、しれっとそんなことを言う。 
普通の人間ならただの冗談と笑い飛ばすところだが、ソムオーは本気でそう思っているフシがあるから油断できない。
「・・・あんまり目立つようなことはしないでおきなさいよ。 ただでさえ凄く目立つ格好してるんだから」
「え~? そんなことないでしょ。 ほんとは真っ赤なドレスにしようかと思ったんだけど、今日は私のじゃなくコングの就任披露パーティーだから、ちょっと控えめにしたつもりなんですよ~」
よほど気になるのか、バッグからミラーを取り出してしきりに自分の姿を見ている彼女を尻目に、馬耳東風と言わんばかりにアースが大きなため息を吐いた。
「ーー先輩、もう来てたんですね」
「ねねっトード、やっぱりこのドレスじゃ地味よねぇ? まだ時間あるし着替えて来ようかな?」
「え、地味って・・・?」
真っ黄色のテカテカ光るドレスに身を包んだソムオーを凝視したトードが、目を丸くしてそのまま言葉を失う。 そんな彼の袖口をツンツンと引っ張ったアースが、相手をするだけムダとでも言うように首を左右に振って見せる。
思わず苦笑いを浮かべたトードの背後から、おはようございますと声がかかった。
「あ、サット~! あのさぁ、このドレス・・・」
またもや同じことを言おうとしたソムオーの口を大胆に押さえたアースが、ぐいっとそのまま彼女の体を後ろに押した。
「何するんですかぁ~」
口元を押さえられたままモゴモゴと不服そうに訴えるのを横目に、アースがいい加減にしなさいと窘める。
「主役はあくまでコング。 私たちはただのゲストなんだから、地味なくらいがちょうどいいのよ」
手を離したアースが、手のひらにべっとりついた口紅の痕を見て眉を顰める。 同じく不満顔のソムオーに、サットがやんわりと話しかけた。
「ソムオー先輩、せっかくのハレの日なんだから、そんな顔してちゃコングさんに悪いですよ。 ほら、いつもの笑顔で!」
言いながらニッと笑って見せるトードに、そうそうと同調したアースがハンカチで手を拭きながら口添えする。
「今日はおめでたい日なんだから、仏頂面はダメよ。 あなたは笑顔が可愛いんだから、さあ笑って!」
最後の方は明らかにおべんちゃらが込められていたが、単純明快なソムオーはアースのこの言葉にぱぁっと晴れやかな笑顔を浮かべた。
「ですよねー! よく言われるんです、笑顔がチャーミングって♡ そうだ、今日はもしかしたら素敵な出会いがあるかもしれないから、うんと笑顔を振りまかなきゃ!」
さっきまでのふくれっ面はどこへやら、一気に上機嫌になったソムオーは、急にあたりをキョロキョロしながらイケメンを物色し始めた。
「・・・行きましょ」
心底呆れたアースがそう零すと、トードとサットも頷いて浮かれまくっているソムオーを置き去りに歩き出した。
会場のホテルはバンコクでも屈指の高級ホテルで、先ほどまでアースたちがいたホワイエもかなりの広さを誇っていたが、メイン会場のコンベンションホールへ入ると、その豪華さに圧倒された。
高い天井から伸びるシャンデリアは、無数のダイヤを散りばめたような煌めきを放ち、毛足の長い絨毯は踏み出した足を包み込むような心地よさで、室内に飾られたインテリアは落ち着きながらも高級感漂う上質のものばかりだ。
普段目にすることのないものばかりに囲まれ、知らず知らずおのぼりさんのようにあちこちに目を泳がせていると、遠くの方からアースたちを呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、こっちだ」
声のする方を見ると、無数の丸いテーブルの群れの中のひとつに座り、こちらに向かって手を振るダナイの姿を確認できた。
「購買部の席はここだよ」
白いクロスが掛けられたテーブルの中央に、【オーシャンエレクトリック社 購買部様】と書かれたプレートが置かれている。 それを確認したアースたちがそれぞれ腰を下ろした。
「おや、ソムオーはどうした? 一緒に来なかったのかね?」
「来てますよ。 でもちょっとはしゃいじゃってて。 そのうち来ると思います」
「?」
アースのわかるようなわからないような説明を聞いて、ダナイが首をかしげた。
「ま、来てるならいいが。 それにしても、立派なパーティーだな」
「ほんとですね。 内輪だけのパーティーみたいなこと書いてあったけど、めちゃくちゃ大規模だし豪華ですよ」
「ざっと見ただけで来客は300人以上いそうですね」
口々に感嘆の言葉を言い合っていると、ようやくソムオーがやってきた。 若干息を切らして駆けてきた彼女は、テーブルに着席しているアースたちを見るなり恨めしそうに訴えた。
「もう! いきなりいなくなっちゃったから、焦ってそこらじゅう探しましたよ~」
「そこらじゅうのイケメンを物色してただけでしょ」
「そんなことないですよ! そりゃ少しはモゴモゴ・・・。 でも焦ったのはホントですからぁ!」
図星を素直に認めるのはちょっと気が引ける、でも完全否定もできない正直者のソムオーの言葉に、全員が声を出して笑った。
「そんなに笑わなくっても・・・」
「いいから、とにかく座りなさいな。 もうじきパーティーが始まる時間よ」
アースの言葉を聞いて、ダナイが腕時計を見る。
「開始時間の11時まであと15分だ。 さっきまでホワイエで来賓に挨拶してたコングたち主賓も、そろそろこっちに来る頃だな」
「ダナイさんはコングに会ったんですか?」
「いや、チラッと遠くから姿を見ただけだ。 挨拶に忙しそうだったから、声はかけなかった」
「そうですか。 いよいよコングがサイアムポリマー社の社長かぁ。 なんだかもう気安くコングなんて呼べない気がするなぁ」
少し寂しそうにそう呟くトードの腕に、そっとアースが手を置いて語りかけた。
「コングはコングよ。 私たちのよく知ってる彼は、立場が変わっても以前と変わらず接してくれるはずだし、きっと彼も特別視なんてしてほしくないと思ってるわよ」
隣で頷きながら聞いていたダナイも、そのとおりだと同調する。
「あとでみんなで挨拶しに行こう。 彼もみんなの顔を見ればきっと喜ぶだろう」
穏やかな雰囲気に包まれているダナイたちのテーブルで、サットだけが黙ったまま硬い表情でいることに、ダナイが気付いた。
「――サット? どうかしたのか? 何だか浮かない顔に見えるが」
自分の顔を覗き込むようにそう話しかけてきたダナイに、慌てたサットが首を左右に振って口角だけを上げた笑顔で答える。
「あ、いえ何でもないです。 ちょっと、緊張してるだけで」
「だよなー。 こんなすごいパーティー初めてで、俺もなんか緊張してきたよ」
サットの言葉を素直に受け取ったトードが、大きく頷きながら同意した。 それを見て、思わずサットがホッと小さく息を吐く。
「――あ、そろそろ時間ね。 いよいよ始まるのね」
腕時計に目を落としたアースがそう呟くと、一同が無意識に居住まいを正して間もなく訪れるその時を待った。
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