goo blog サービス終了のお知らせ 

腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§157)

2021-06-16 00:11:39 | SOTUS The other side
その日の夕刻。
終業時刻も過ぎ、アースとソムオーが帰宅してからも、アーティットたちは帰る気配もなく仕事に没頭していた。
窓から差し込む西陽も弱まり、あたりが少しずつ宵闇へと覆われ始めた午後7時。 ふと顔を上げたトードが、腕時計を見て口を開いた。
 「お、もうこんな時間か」
その声に、アーティットとサットも顔を上げる。 するとトードが、何かを思いついたような顔をした。
 「そうだ、今日はアーティットの復帰初日だし、今からメシ食いに行こうぜ。 俺が奢ってやるからさ」
 「え、いいよそんな」
 「遠慮すんなよ。 快気祝いだと思えばいいから」
 「でも別に病気だったわけじゃ・・・」
なかなかうんと言わないアーティットに、業を煮やしたトードがああもう!と叫んだ。
 「せっかく俺が奢ってやるって言ってんだから、素直に好意を受け取れよな!」
そう言うと、やにわに立ち上がったトードがアーティットのデスクへとやってきて、強引にノートパソコンを閉じてしまった。
 「何すんだよ」
 「初日からブッ飛ばすと、後がもたないぜ。 ほらサットも、さっさと片付けろよ」
 「え、でも俺は・・・」
 「断るなよ。 おまえも強制参加だからな」
ニッと笑ったトードにつられ、思わず苦笑いを浮かべたサットが、諦めたように頷いた。 
 「さ、おまえも早く支度しろよ」
そう言って自分のデスクへ戻るトードの背中を見つめ、アーティットも小さくため息を零しながらも、おもむろにデスクを片付けだした。
 「店はいつものアジアンでいいよな? あそこなら今から行っても席空いてるだろうし」
 「ああ、任せるよ」
デスクの上を綺麗にしたアーティットが、そう答えながらポケットから携帯を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
 「・・・あ、アーティットです。 今夜はトードが夕飯をご馳走してくれるので、食事はいりません。 帰りは少し遅くなります」
丁寧な口調で話すアーティットを、トードとサットが不思議そうに眺める。 やがて電話を切ったアーティットが、二人のそんな様子に気付いた。
 「・・・なんだ? 変な顔してどうかしたか」
 「おまえ、今どこに電話してたんだ?」
 「え、コングポップの家だけど・・・」
そこまで言って、ふと気づく。 そういえば、トードたちはアーティットがコングの家にいることを知らないのだった。
しまったと思った時にはすでに遅く、トードの顔が興味津々な表情に変わっていた。
 「おいおい、それはどういうことだ? もうコングの家で同居してるってことか?」
 「いや、そうじゃない。 コングポップが仕事に復帰するまでの間、いさせてもらってるだけだ」
 「でももう両親も公認なんだし、このまま一緒に住んじゃえばいいのに」
 「そんなことできるわけないよ。 あいつが仕事に復帰したら、またチェンマイへ戻るんだ。 俺一人が自宅に残るなんておかしいだろ」
 「まあそれもそうだけどさ。 でもさっきの口調、まるで旦那の実家へ電話してる嫁みたいだったぜ」
 「おまえな!」
楽しそうにからかうトードへ拳を振り上げたアーティットの目に、ふとサットの姿が映る。 かすかに笑っているようだが、どこか寂しそうにも見えた。
昼間彼から聞いたことを思い出して、アーティットの表情も沈む。
結婚に大きく立ちはだかる障害を抱える今の彼にとって、こんな幸せそうなアーティットの様子を見るのは、やはり複雑な気分なのだろう。
振り上げていた拳を静かに下ろし、かわりにその手をサットの肩にそっと置く。 反射的に見上げたサットを、アーティットが優しく見つめた。
 「おいおい、おまえら何見つめ合ってんだ? 用意できたんなら、早く行こうぜ」
事情を知らないトードが、からかうような口調で無邪気に二人を急かす。 そんな彼とアーティットを見比べたサットが、ふっと笑みをこぼした。
 「・・・ええ、行きましょうか」
自分の肩に置かれたアーティットの手を一瞬だけ握ったサットが、ゆっくりと立ち上がった。 アーティットには、それがサットの気持ちを暗示しているように思えた。
自分を気遣ってくれてありがとう、という彼の心の言葉が聞こえたような気がして、アーティットは再びサットを見た。
だがそこには先ほど垣間見えた寂しげな表情はもう消え、穏やかな微笑みを浮かべた彼がいるだけだ。
苦しい悩みを抱えていながら、それでもこうして平静を装う彼の心中を思い、アーティットの胸がかすかに痛んだ。


行きつけのアジアンレストランで料理と酒を堪能した三人が店を出たのは、23時を過ぎた頃だった。
まだ週の始まりであり、復帰初日ということもあって、酒は飲まないつもりだった。 しかし口達者なトードにうまく丸め込まれ、結局飲まされてしまった。
そして当のトードは、もう完全に泥酔状態だ。 足取りはかなり怪しく、何を言ってもヘラヘラと笑っている様は、もはや異様でもある。
 「トード先輩、もう歩いて帰るのは無理ですよ。 タクシー呼びますから、ちょっとそこに座っててください」
酒の飲めないサットは、一人で酔っ払い二人の面倒を見る羽目になっている。 だがそれもいつものことで、もうすっかり慣れてしまった。
舗道の縁石にどうにかトードを座らせたサットが、車道へと向かいタクシーを呼び込む。
座り込んだトードの隣に、アーティットも腰を下ろした。 足に力が入らず、立っていることがままならない。
酒量は、大したことはなかった。 だが久々に飲んだからか、予想以上にアルコールの回りが早かった。
しかし言うことをきかないのは体だけで、頭は完全にシラフだった。 いっそ記憶を失うほど酔ってしまう方がまだ良かったかも知れない。
これから迷惑をかけてしまうだろうサットに、申し訳ない気持ちになる。
 「タクシー捕まりましたよ。 さ、立てますか? 俺に掴まって・・・」
そう言ってトードの腕を掴み、自分の肩へとまわす。 手伝うために立ち上がろうとしたアーティットを、サットが制止した。
 「先輩はそのまま座っててください。 足元危ないですから」
そう注意して、トードを抱えたサットが車道へと向かう。 停車しているタクシーの後部座席にトードを押し込み、運転手に行き先を告げたサットが、素早くドアを閉める。
タクシーが走り去るのを見届けたサットが、アーティットのもとへと戻ってきた。
 「先輩は俺が送っていきますので」
 「え? でもおまえ、別方向だろ」
 「こんな状態の先輩を一人で帰すわけにはいきませんよ」
そう言うが早いか、再びサットが車道へと向かった。 もう一度タクシーを捕まえるためらしい。
これ以上サットに迷惑をかけるわけにはいかないと思ったアーティットが、慌てて彼の後を追おうとした。 が、依然として体が言うことを聞かない。
これ以上無理に動こうとすると無様に転んでしまう気がして、アーティットはやむなく動くのを諦めた。
軽く自己嫌悪に陥るアーティットの目に、タクシーを呼び止めたサットの姿がぼんやり見えた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SOTUS・Season3(§156)

2021-06-02 01:59:29 | SOTUS The other side
朝のミーティングが終わった後、アーティットとトード、そしてサットの3人は、隣の会議室で引き継ぎを始めた。
アーティットが休職していた約一ヶ月間の、プロジェクトの進捗状況を確認するためだ。
 「部材の入札ももう終わったんだな」
入札結果の書類に目を通しながら、アーティットがふと呟く。 すると、何かを思い出したのかアーティットがそういえば、と声を上げた。
 「前にリーザさんが協力してくれるって話してたよな。 なんか仕事で恩を返したいって」
 「そうなんだよ。 この入札の案件も、彼女がみんな段取りしてくれて。 俺もサットも入札したことなかったから、マジ助かったよ」
 「へえ・・・」
 「彼女を助けたのはおまえとサットだから、俺はまぁ完全にタナボタだけどな」
ラッキーとでも言わんばかりに親指を立てて笑ったトードに、アーティットも苦笑いを浮かべる。 
それにしても、あのリーザがこうして協力してくれるとは、かなり予想外だった。
だが裏を返してみれば、それだけ彼女の受けたショックと傷は大きかったということだろうか。
いずれにしても、意外と律儀な彼女の側面を見た気がして、リーザに対する認識が変わりつつあるのを感じた。
 「この分だと、4月からの稼働は大丈夫そうだな」
 「ああ、予定どおりいけそうだ。 今サットが原材料や部品の細かな仕様をチェックしてる。 こちらも今のところ順調に進んでるんだよな?」
話の矛先を振られたサットが、手元の書類をアーティットに差し出して告げた。
 「ええ、おおむね希望どおりの物品が揃ってます。 若干下級品もありますが、まぁ許容範囲内だと思います。 トード先輩にも見てもらったんですが、アーティット先輩も目を通してもらえますか」
 「ん、どれ・・・」
差し出された書類に目を落とすアーティットの横顔を見たサットが、ふと呟いた。
 「・・・先輩、ちょっと痩せましたね。 本当にもう体調は良いんですか?」
しげしげと顔を見つめられて、アーティットが戸惑いながら頬を手で撫でた。
 「体調は悪くないよ。 そんなに痩せたか? 自覚ないけど」
 「久しぶりに見たからかな。 全体的に線が細くなった感じがします」
 「マジか。 また情けない体格になっちまったな・・・」
はぁ、とため息を吐いたアーティットが、自分の腕や胸元を見てさめざめと呟く。 社会人になって、ささやかに残っていた筋肉も今はどこにも見当たらない。
そうして肉体の退化に虚しさを感じているアーティットの耳に、トードの意外な言葉が聞こえた。
 「体調悪いのは、むしろサットの方じゃないのか? おまえ最近あんまり元気ないよな」
そう指摘され、サットが一瞬目を見開いた。 だが瞬時に笑顔を貼り付け、言葉を切り返す。
 「え、そんなことないですよ。 先輩の気のせいです」
 「いや、絶対気のせいじゃない。 体調が悪いっていうより、何か心配ごとでもあるんじゃないか? 時々ボーッとしてたり、不意に考え込んだりしてるだろ」
 「え・・・」
思わず言葉に詰まるところをみると、トードの指摘はなかなか鋭いところを突いているようだ。 図星をさされたのか、それきりサットが黙り込んだ。
 「・・・そうなのか? 何かあったのか」
それまで二人のやり取りを見つめていたアーティットが、慎重にサットへ尋ねた。 ちらりとアーティットを見たサットだが、すぐに視線を逸らしてしまった。
こんな彼の様子は初めてだった。 いつも明快な態度と言葉で何でも話していた彼を思うと、トードの指摘が間違っていないことを確信する。
言葉が途切れ、三人の間に何とも言えない空気が流れた。 すると、その緊迫した静寂を破るように、ドアをノックする音が室内に響いた。
 「トード、ダナイさんが呼んでるわよ。 すぐ来てほしいって」
開いたドアから顔だけ覗かせたアースが短くそう告げた。 自分の名を呼ばれてはっとしたトードが、ちらりとサットたちを見た。
こんな状態のまま席を外すのは心残りだが、急ぎの呼び出しを無視するわけにはいかない。
後ろ髪を引かれる思いで、トードは部屋を出て行った。
 「・・・俺に、話せるか?」
二人きりになったところで、アーティットがおもむろに声をかけた。 反射的に顔を上げてアーティットを見たサットが、しばしどうすべきかと目を泳がせる。
だがこのままでは何も解決しないと悟ったサットが、小さく息を吐いて口を開いた。
 「・・・実は、俺の彼女のことなんです」
 「彼女って、留学してるって言ってた人か?」
 「そうです。 確か前に少し話しましたよね」
いつだったか定かではないが、確かにそんな話を聞いた記憶がある。 お互いに遠距離の恋人がいるという話をしていた時のことかもしれない。
 「・・・彼女が、もうすぐ留学を終えて帰国するんです。 帰国したら結婚を申し込もうと、前から考えてて」
 「そうなのか。 で、何か問題があるのか?」
 「・・・・・・・・・」
アーティットの問いかけに、表情を険しくしたサットが一瞬口をつぐんだ。 だがすぐに気持ちを切り替えて、続きを語り出す。
 「・・・彼女の両親が、俺の母を認めてくれなくて」
 「え? それはどういうことだ」
 「これも前に話したと思いますが、俺の母はシングルマザーで、結婚せずに俺を産んだんです。 だから俺には産まれた時から父親がいません」
 「・・・・・・・・・」
 「彼女の両親は、そんな母のことを軽蔑してるんです。 そんな母親の息子なんか、認めないって・・・」
 「・・・・・・・・・」
凍り付くような目で、アーティットがサットを見た。 目を伏せ、苦し気な表情できつく拳を握りしめている。
こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。 生い立ちのことなど、サットには何の責任もないのに。
いや、それよりも。 シングルマザーというだけで偏見の目で見る人間が、まだまだいるという厳しい現実。
ふと、脳裏にグレーグライのことが蘇る。
もしグレーグライがこのことを知ったら、どうするだろうか。 自分の息子が、ある意味自分のせいでこんな目に遭っていると知ったら。
 「・・・・・・・・・」
思わず、生唾を呑む。 何か予想もしない事態になりそうな気がして、アーティットは身震いした。
かける言葉も失って呆然とするアーティットを、サットが見た。 そして明らかに作り笑いを浮かべて、無理やりこの話にピリオドを打った。
 「・・・聞いてくれて、ありがとうございました。 少しだけ、気が楽になりました。 仕事中にこんな私的なこと言ってすみません。 本題に戻りましょう」
そう言ってせわしなく書類をめくり始めるサットを、アーティットが痛みを堪えるような目で見つめた。




コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SOTUS・Season3(§155)

2021-05-18 00:29:46 | SOTUS The other side
約一か月ぶりに出勤してきたアーティットは、まだ誰もいないオフィスで一人デスクに向かっていた。
長期間不在にしていたにも関わらず、デスクの上には埃ひとつない。 きっとアースかソムオーがいつも掃除してくれているのだろう。
ふだん何気なく過ごしていた時には気づかなかった。 目に見えないところでこうして気遣いしてくれていることに、改めて心の中で感謝する。
思えば、購買部は人材に恵まれている気がする。 不祥事を起こして解雇になったジョーンは別だが、今いるメンバーはみんな人柄も良く、協調性に優れていると思う。
特にサットは、そこにいるだけで場を和ませる雰囲気を持っており、気持ちを穏やかにさせてくれる。 それになぜかわからないが、不思議と安心できるのだ。
どちらかといえば人見知りがちなアーティットが、なぜかサットだけは最初から抵抗なくすんなりと受け入れることができた。
だが今思えば、それはコングと血の繋がりがあったからなのかも知れない。
 「・・・・・・・・・」
グレーグライから聞かされた衝撃的な告白。 サットがコングの異母兄だという、予想もしなかった事実。
グレーグライはこの事実を打ち明けると言っていたが、いつ、どんなふうに打ち明けるつもりなのだろうか。
 「おっ、来たのか!」
思案に暮れていたアーティットの耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。 顔を上げると、満面の笑顔のトードと目が合った。
 「ああ、長いこと休んですまなかったな」
 「いや、気にすんな。 それより、コングはもういいのか? おまえも調子悪かったって聞いたけど、どうなんだ?」
 「もうコングポップはすっかり良くなったよ。 俺はもともと大したことなかったし」
 「そうか、そりゃ良かった」
心の底から安堵したのが伝わってくるようなトードの笑顔を見て、アーティットも微笑みを浮かべる。 だが、そんなトードの表情がふと沈んだ。
自分のデスクに鞄を置いたトードが、ゆっくりと椅子に腰を下ろしながら問いかける。
 「・・・でも、おまえが長期休暇とるなんてただごとじゃないよな。 いったい何があったんだ。 コングがあんなになっちまったのも、きっと関係あるんだろ」
 「・・・・・・・・・」
心配そうに見つめてくるトードの視線がアーティットの胸に小さく刺さって、思わず目を伏せる。 
正直、コングの中国行きがなくなったことは、今もまだ心のどこかで引っかかっている。 グレーグライは気にするなと言ってくれたが、コングとアーティットの心に少なからず傷を付けたのは確かだ。
時折ジェーンの邪悪な目が脳裏に蘇っては、アーティットの胸に不穏な風を呼び起こす。
だがこのことが原因で長期にわたり仕事を休み、トードたちに多大な迷惑をかけてしまったことについては、本当に申し訳なく思う。
彼らには本当のことを話すべきだと思ったアーティットは、伏せていた目を上げて口を開いた
 「・・・コングポップの出世がかかった海外出張が、取り消されたんだ」
 「海外出張?」
 「コングポップの会社の支社が中国に建設されることになって、その建設プロジェクトにコングポップも抜擢されたんだけど、急にそれが取り消しになったんだ」
 「なんでまた・・・」
そこで言葉を途切れさせたアーティットの表情が、ふと苦し気に歪んだ。 
 「・・・中国は、同性愛に対して偏見が強い。 同性の恋人がいるコングポップは、中国派遣にふさわしくないと上層部が判断したからだ」
 「え・・・」
 「俺の存在が、あいつの足枷になっちまった。 それでもうどうしていいかわからなくなって、あいつの前から姿を消した・・・」
あの時のことが思い出されて、アーティットの眉間に深い皺が刻まれる。 そんな彼を見て、トードも痛みを堪えるような目をした。
 「・・・そうだったのか・・・。 それでコングは、ぶっ倒れるほどおまえを探してたんだな」
 「ああ・・・」
 「でも急に取り消されたってどういうことだ? 派遣が決まった時には、おまえの存在はまだ会社に知られてなかったってことか?」
 「・・・・・・・・・」
脳裏に、再びジェーンの顔が蘇る。 無意識にきつく目を閉じたアーティットだったが、どうにか瞼を開けて告げた。
 「・・・コングポップの先輩が、俺のことを上層部に密告したんだ」
 「密告って、そいつコングに何か恨みでもあったのか?」
 「逆さ。 コングポップのことが好きだったんだ。 でも俺の存在を知って、逆恨みしたんだろうな。 可愛さ余って・・・ってやつ。 さらに、ゲイが大嫌いってオマケまでついてた」
 「・・・ひどい話だな」
 「ああ、ほんとに。 でも、いいこともあった」
 「いいこと?」
 「グレーグライさんが、俺たちのことをとうとう認めてくれたんだ。 それに、中国行きのことも気にするなって。 もともとサイアムポリマー社を継ぐまでの数年間だけ勤務する会社だからって言ってくれて」
 「そうなのか! ついに認めてくれたか!」
ぱっと明るい表情になったトードが、ガッツポーズをして見せる。 まるで自分のことのように喜んでくれるのが、アーティットは嬉しかった。
 「俺のことを、もう一人息子ができたと思ってるって言ってくれたんだ」
 「うわ、すげぇな! それって、もう家族として認めてくれたってことじゃん」
 「うん・・・」
少し照れ臭そうに、でも嬉しさが隠せないようなはにかんだ笑顔を浮かべるアーティットを見て、何度もトードが頷く。
 「うんうん、本当に良かったな。 辛い目に遭ったけど、まさに災い転じて福となすってやつだ」
 「そうだな」
 「実は俺も、良い報告があるんだ」
 「ん? なんだ?」
アーティットが訊き返すと、居住まいを正し、なぜかひとつ咳払いをしたトードが、やけに改まって口を開いた。
 「・・・アース先輩との結婚式の日取りが決まったんだ」
 「え、そうなのか? やったなトード! ようやく夢が叶ったな」
今度はアーティットが喜ぶ番だった。 トードがアースにプロポーズしたらしいと、いつかコングから聞いた。 やはりプロポーズは成功していたようだ。
 「ありがとう。 式は6月6日なんだ。 おまえも出席してくれよな」
 「ああ、もちろん。 ジューンブライドだな」
 「うん、それもあるけど、その日はアース先輩の誕生日なんだよ。 だからその日に決めたんだ」
 「そうだったのか。 とにかく、幸せになれよ」
 「ああ、おまえもな」
ひととき、視線が合う。 互いにニッと笑って、頷き合った。
 「おはよー。 あら!? アーティットじゃない! 久しぶり~、おかえり~!」
ドアが開く音とともに、ソムオーの元気な声が室内に響き渡った。 彼女の後ろには、アースが続いている。
 「来たわね、アーティット。 待ってたわよ」
 「はい、長い間すみませんでした。 今日からまたよろしくお願いします」
ソムオーとアースに囲まれて談笑していると、サットが姿を現した。
 「あ、アーティット先輩! おはようございます。 今日から復帰ですか」
 「ああ、おまえにも迷惑かけたな。 それにコングポップのことでも色々世話になった。 ありがとう」
 「え、なになに~! コングのことってなに~!? こないだの電話のこと?」
すかさず口をはさんできたソムオーを何とか宥めていると、部長のダナイが入室してきた。 アーティットを見ると、少し驚いた顔をして口を開いた。
 「アーティットじゃないか。 今日から復帰か?」
 「はい、長期にわたって休暇をいただいてすみませんでした。 ありがとうございました」
 「きみがいない間、トードとサットがよく頑張ってくれたよ。 あとで引き継ぎしておくといい」
 「はい、わかりました」
アーティットの返事を聞くと、ダナイが満足したように頷いた。
 「よし、久しぶりに全員が揃ったところで、朝のミーティングを始めよう」
ダナイのその声で、購買部にいつもの日常が戻ってきた。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SOTUS・Season3(§154)

2021-04-30 16:57:44 | SOTUS The other side
およそ一か月ぶりに、アーティットは仕事に復帰することになった。
洗面所の鏡で、久しぶりのYシャツ姿の自分を見る。 きっちりアイロンがけされたシャツは、身に着けるだけで気分までシャキッとさせてくれる。
だが、アーティットにはほんの少しサイズが大きい。 余った袖先が、手の甲で遊んでいる。
これは、コングのYシャツだった。
仕事に復帰すると決め、アーティットは自分のアパートに戻るつもりでいた。 だが、プイメークがそれを許さなかったのだ。
もうすっかり回復したコングにこれ以上付き添う必要もないし、出勤するための準備もあるからと丁重に引き留めるのを辞退していたのだが・・・。
 「コングがここにいる間は、アーティットさんを帰しませんから」
ついには殺し文句のような言葉を突き付けられ、とうとうアーティットは根負けしてしまった。
アーティットが帰るのを諦めたと知るや、ぱっと笑顔になったプイメークが、あっという間に出勤用の洋服や鞄、果ては靴まで一式揃えて持ってきた。
 「コングとほとんどサイズ変わらないから、ちょうど良かったわ」
にこにこしながら差し出すプイメークに、思わずアーティットが苦笑いを浮かべながら手を伸ばす。
 「あ・・・ありがとうございます」
アーティットがおずおずと受け取ると、プイメークは満足したように頷いた。
これが、昨夜の出来事だった。
 「・・・・・・・・・」
だぶついている袖を持て余していたアーティットが、不意に袖先のボタンを外した。 そのまま肘のあたりまで一気にめくりあげる。
しかし身ごろが緩いのは、どうしようもない。
コングとの体格差を見せつけられているようで、どうにも複雑な気分だった。 大学時代は、コングよりも体格は良かったのに。
いつの間にか、追い越されてしまった。
ふっと、笑みが漏れた。 
それだけ、コングが成長しているということだ。 身体的な部分だけではない。 精神的にも、学生時代よりひとまわり大きくなったと思う。
だが同時に、自分の停滞も思い知らされた。
無駄に歳をとるだけで、何も成長できていない。 今回の一件で、それを厭というほど思い知らされた。
一番しなければならないことは何なのかを、見極めることができなかった。 コングと話し合うことこそが、最も大切なことだったのに。
己の導き出した一方的な答えを頑なに信じ、意固地になっていた。 そしてその結果、コングをひどく傷つけてしまうことになった。
 「・・・・・・・・・」
鏡に映る自分を見据えて、ぎゅっと拳を握る。 もう同じ過ちは二度と繰り返さない。 そう肝に銘じる。
どんな困難な問題も、二人で力を合わせればきっと乗り越えられるはず。 お互いを信頼し合う気持ちこそが、何よりも強い力になると信じて。
決意も新たに、アーティットは洗面所を後にした。


出勤する前に、アーティットはコングの部屋に立ち寄った。 ドアを開けると、ベッドに身を起こして寛ぐコングが目に入る。
Yシャツにスラックス姿のアーティットを見て、コングが眩しそうに目を細めた。
 「先輩の仕事着、久しぶりに見ました。 やっぱカッコいいです」
 「何を今さら」
フン、と鼻を鳴らしてドヤ顔をしてみせるアーティットに、コングがいたずらっぽく笑いかける。
 「ま、俺の服がカッコいいんですけどね」
 「おまえな!」
拳を振り上げて威嚇する素振りをしたアーティットだったが、ふとその手を下ろし、表情を緩めた。
 「・・・もうすっかり、元のおまえに戻ったな。 本当によかった」
 「先輩・・・」
アーティットの呟きを聞いて、コングがそっと立ち上がる。 そのまま、アーティットのところへと近づく。
アーティットの前に立つと、彼の両手を取ってぎゅっと握った。
 「・・・先輩のおかげです。 あなたが戻ってきてくれたから、俺は生き返ることができました。 もう二度と、いなくならないでくださいね」
 「コングポップ・・・」
 「あなたがいないと、俺は生きていけません。 これは嘘でも誇張でもない。 あなたこそが、俺の生きる原動力なんです」
 「・・・・・・・・・」
じっと目を見つめて真剣な眼差しでそう告げるコングが、アーティットには眩しく見えた。
いつだってコングは、思ったことを素直に口に出す。 彼にしてみれば当たり前のことなのだろうが、どうしてもそれができない人間もいる。
アーティットもまた、その一人だ。
コングがいなければ生きていけないのは、アーティットも同じだ。 だが心の中の何かが邪魔をして、それを口にすることができない。
コングの真っすぐな視線を受け止めかねて戸惑うアーティットの心を知ってか、ふっと微笑んだコングがゆっくり呟いた。
 「・・・いいんですよ先輩。 何も言わなくても、あなたの気持ちはちゃんと俺に届いてます。 あなたも、俺と同じ気持ちでいてくれてると」
 「コングポップ・・・」
握られた手から、じわりとコングの体温が伝わってくる。 温かい手。 いつだってコングは、大きな愛で包み込んでくれる・・・。
 「・・・俺も、おまえがいないとダメなんだ。 もう、離れられない・・・」
握られていた手をそっとほどき、今度はアーティットがコングの手を包み込む。
 「ありがとう、先輩。 言葉にするのが苦手なのに、俺のために言ってくれて」
そう言って、コングがアーティットを抱きしめた。 アーティットも、コングの背に手を回して抱きしめ返す。
 「・・・じゃ、行ってくるよ」
背中をポンポンと叩いて、アーティットが離れようとした。 すると、すかさずコングがアーティットにキスをした。
驚いたアーティットが目を見開くと、にっこり微笑みを湛えたコングが告げた。
 「行ってらっしゃいのキスです。 ずっと、こうしてあなたを送り出したかったんです」
 「おまえ・・・」
唇に手を当て、突然のことに呆然としていたアーティットだったが、急に恥ずかしさが襲ってきたのか、ばっと顔を背けて叫んだ。
 「し、新婚カップルじゃあるまいし、そういうのはやめろ!」
 「なんでですか? 俺の夢なんですよ、愛する人をこうして送り出すのが」
 「あ~もういい、とにかく行ってくる!」
一刻も早くここから立ち去りたいとばかりに、顔を背けたままアーティットがそう叫んで強制的にコングの手から離れた。
だが、ちらりと見えたアーティットの耳が真っ赤に染まっているのを見たコングが、満足そうに笑った。
 「帰ったら、おかえりのキスが待ってますよ」
 「うるさい! じゃあな!」
とどめの一言を投げかけられ、もうアーティットの平常心はガタガタに崩れ落ちた。 慌てて部屋を飛び出し、勢いよくドアを閉める。
絵に描いたような慌てふためく様子がおかしくて、一人になった後もコングはクスクスと笑い続けていた。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SOTUS・Season3(§153)

2021-04-19 22:28:27 | SOTUS The other side
 「・・・先輩。 先輩?」
 「えっ」
グレーグライから衝撃の告白を聞かされた後、コングの部屋へ戻ってきたアーティットは、先ほどから何度も名前を呼ばれていることに気付かなかった。
幾度目かでようやく我に返ったアーティットを、ベッド上のコングが怪訝そうに見る。
 「さっきから何度も呼んでるのに、どうしたんですか? なんだか上の空って感じですよ」
 「あ・・・悪い。 ちょっと考え事・・・」
 「何か心配事でもあるんですか? よかったら話してください」
 「いや・・・」
苦笑いを浮かべて曖昧に口を濁したアーティットが、絵に描いたような不自然さで話題を変えた。
 「それより、見ろよ。 虹が出てる」
そう言って窓際へ歩いて行こうとしたアーティットの手首を、コングが掴んだ。 驚いて振り返ったアーティットに、真剣な目をしたコングが迫る。
 「話をそらさないでください。 俺に言えないようなことなんですか」
 「そんなことは・・・」
 「だったら、話してください。 あなたは嘘つくのが下手なんだから、さっさと白状した方がいいですよ」
 「白状って」
コングは完全に疑惑の目になっている。 じっと目を見据え答えを要求するそのさまを見て、アーティットがこれ見よがしに大きくため息を吐く。
 「あーもう。 仕事のことだよ。 おまえもだいぶ回復したし、そろそろ休暇を切り上げようか考えてたんだ」
とっさに考え付いたそれらしい理由を並べてみると、コングが殊勝な顔をした。
 「・・・そうだったんですね。 すいません、俺のためにいっぱい迷惑かけてしまって」
目を伏せて申し訳なさそうに呟くコングを見て、しまったと思った。 聞きようによってはコングを責めているようにも取られる内容だったと悟り、発言を激しく後悔する。
 「いや、そうじゃない。 おまえのことがなくても、もともと一か月ほど休暇を取るつもりだったんだ」
 「でも・・・」
 「おまえの世話をしたいと言ったのは俺だ。 おまえが気に病む必要は全くない。 悪い、さっきのことは忘れてくれ」
必死に取り繕うアーティットを見て、なぜかコングがふっと微笑んだ。 そして掴んでいた手をぐっと引き寄せた。
 「あっ」
バランスを崩したアーティットが、コングの体の上に倒れ込む。 そのまま、コングがその体を抱きしめた。
 「先輩、こんなこと言ったら叱られるかもしれないけど・・・。 あなたがこうして俺のそばにいてくれて、俺は今とっても幸せです」
 「おまえ・・・」
突然のことに戸惑いが隠せないアーティットを、コングがさらに強く抱きしめる。
 「先輩、なんだか夢みたいです。 つい数週間前には、いなくなったあなたを探して探して、もう気が狂いそうだった。 それが今こうして、俺の腕の中にいるなんて・・・」
 「・・・・・・・・・」
コングの温もりと匂いに包まれているうちに、アーティットの心にもじわりと切ない想いが沸き上がってきた。 コングの背へと両手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめ返す。
ここへやってきたときには骨と皮だけのような痩躯だったコングも、今は再び筋肉が戻りつつある。 その感触をしっかりと確認したアーティットは、心から安堵した。
 「・・・ここへきてベッドで死んだように目を閉じてるおまえを見た時、俺の心臓が止まりそうだった。 もう二度と目を開けないんじゃないかって思って、いてもたってもいられなくなって」
 「先輩・・・」
 「でも、良かった・・・。 こうして、元のおまえに戻ってくれて。 もう、馬鹿な真似はするなよ」
コングの胸に抱かれてそう呟くアーティットを、なぜかコングが胸から離した。 両手でアーティットの腕を掴み、目と目を合わせてコングが告げる。
 「それは、あなた次第ですよ。 もしまたあなたが何も言わずいなくなってしまったら、俺はまた倒れるまであなたを探しまくるでしょう」
 「おまえ・・・」
 「だから、もう絶対にいなくならないでください。 今ここで約束してください」
ずい、と息がかかるほど顔を近づけて詰め寄るコングに、思わずアーティットが狼狽えた。 だがコングの目は、約束するまでこのまま離さないと無言で訴えている。
密かにため息を漏らしたアーティットは、仕方なく観念した。
 「・・・わかったよ。 もう二度と、無言でいなくなったりしない。 おまえのそばにいるから」
 「本当ですね? 絶対ですよ」
 「ああ」
頷くアーティットへ、コングが小指を差し出して指切りを要求する。 おずおずと差し出したアーティットの小指にぐっと力強く指を絡めたコングが、満足そうにニッと笑った。
 「・・・もういいだろ、離せよ」
いつまでも指を絡めたままでいるコングに、居心地悪そうにアーティットがごちる。 本当はこのままずっと離したくない気分だが、そういうわけにもいかず、仕方なくコングが指を離した。
素早く指をしまったアーティットを、再び背後からコングが抱きしめる。 そして、耳元へ小さく囁いた。
 「先輩・・・。 あなたが、欲しい・・・」
熱い吐息とともに耳へ流し込まれる官能的な言葉が、アーティットの背筋をゾクリと粟立てた。 やがて抱きしめていた手がほどかれ、アーティットの胸をまさぐり始める。
 「や、やめろ・・・。 ここには両親もいるし、おまえ病み上がりだろ・・・」
 「父さんはさっき出かけました。 母さんは、こんな時間は夕飯の支度で手が離せませんよ」
 「コ、コングポップ・・・!」
そうこうしている間にも、コングの手がTシャツの中へと侵入してくる。 敏感になった肌が、コングの手の微妙な動きに鋭く反応して、そのたびに声が出そうになるのをアーティットは必死に堪えた。
唇を噛みしめて耐えているアーティットへ、コングが挑発的に語りかける。
 「先輩の声、聴かせて・・・。 あなたの甘い声が聴きたい」
 「コング・・・」
次第に息が妖しく乱れ始め、食いしばる歯の隙間から漏れる声が上ずっていく。 全身にしっとりと汗が滲みだす。
目の前で赤く染まっていく耳朶を、コングが軽く噛んだ。 その瞬間、まるで電流が走ったようにアーティットの体がビクリと反応する。
 「は・・・ぁ・・・ッ」
とうとう、堪えきれずに甘い声が零れた。 その声を聴いて、コングの体にも完全に火がついた。
 「先輩、もう・・・もう、我慢できません・・・!」
それまで背後から攻めていたコングが、ばっとアーティットの体を振り向かせた。 すかさず、唇を貪る。
 「ん・・・!」
ちゅっ、ちゅっと音を立てて二人の唇が激しく絡み合う。 思うさま熱い唇と舌を味わった後、コングの唇がアーティットの頬、顎、喉へと移動していく。
やがて二人の体がベッドの上へもつれながら倒れた時。 不意に、部屋のドアがノックされた。
 「!!」
心底驚いた二人がとっさに離れ、瞬時に乱れた衣服を整える。 ひっくり返りそうになる声をこらえ、コングが返事をした。
 「お買い物してたら遅くなっちゃったわ。 今夜はステーキかハンバーグにしようと思うんだけど、二人ともどっちがいい?」
ドアから顔をのぞかせてそう尋ねるプイメークを、意味もなく苦笑いを浮かべた二人が見つめる。 その不自然な雰囲気に、プイメークが不思議そうな顔をした。
 「・・・あら、なんだか変? 二人とも、何かあった?」
 「いや、何でもないですよ。 ちょっと暑いから、着替えようかと思ってたとこで」
そう言いながら、まだ少し乱れていた服をぱたぱたとさせてコングがうまく誤魔化す。 まだどこか怪訝そうな表情ながらも、プイメークがそうなの?と答える。
 「あ、僕ハンバーグが食べたいです」
続いてアーティットが明るく提案する。 これにはプイメークもぱっと笑顔になって、うんうんと頷いた。
 「ハンバーグね、わかったわ。 美味しく作るから、待っててね」
そうして、ようやくプイメークがドアを閉めた。 同時に、アーティットとコングの体から力が抜ける。
 「・・・ほら、やっぱり家はダメだって。 いつまたこんなことが起こるかわからないし」
 「うぅ・・・仕方ないですね・・・」
美味しそうなエサを目前にしておあずけを喰らったような顔で、コングが恨めしそうに呟いた。 そんな彼を横目に見て、ニッと笑ったアーティットが思わせぶりに言う。
 「おまえが完全に回復したら、俺の部屋に来いよ。 さっきの続きは、またその時にな」
それまでひたすら物欲しそうな顔をしていたコングが、この言葉を聞いて瞬時に目を輝かせた。
 「今の言葉、忘れないでくださいよ。 その時には一晩中あなたを良い声で鳴かせますからね」
 「おまえなぁ!」
顔から火が出る、とはこのことだ。 一瞬で耳まで真っ赤に染めたアーティットが、拳を振り上げてコングに向き直る。 
そうやって素直に反応する彼を、コングが楽しそうに見つめていた。


コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする