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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§161)

2021-08-10 17:07:44 | SOTUS The other side
サット宅から自宅へ戻ってきたのは、夜中の1時をまわった頃だった。
静かに玄関のドアを開けたグレーグライは、もう眠っているであろう家族を起こしてしまわないよう、そっとドアを閉めた。
暗い廊下を進み、リビングへと向かう。 するとリビングのドアの隙間から、うっすらと明かりが漏れていることに気づいた。
不思議に思いながらドアを開けると、ナイトウェア姿のプイメークが佇んでいた。
 「おかえりなさい。 ずいぶん遅かったですね」
 「ああ、ちょっとな。 それより、こんな時間にリビングにいるなんて珍しいな。 もう眠ってると思ってたよ」
 「ちょっと、眠れなくて。 お酒でもいただこうかと」
そう言って、手に持ったワイングラスを掲げて見せる。 彼女が酒を口にするのも、かなり珍しいことだった。
 「珍しいな、きみが酒を飲むなんて。 せっかくだから、わたしも一緒に飲もう」
 「じゃあ用意しますね。 いつものワインでいいですか」
 「ああ、たのむよ」
着ていた上着を脱いでソファにかけたグレーグライが、そのままソファへと腰を下ろす。 ワインをグラスに注ぐ涼やかな音を耳にしながら、そっと目を閉じる。
瞼に、マリアンの顔が浮かんでは消えた。 
あの頃のような激しい情熱はないが、それでも懐かしいひとに再会できた感慨が、グレーグライの胸を甘く浸した。
 「・・・どうぞ」
プイメークの呼びかけに、はっとして目を開ける。 いつの間にかそばにやってきた彼女に対し不意に後ろめたい気持ちになり、とっさに目をそらしてしまった。
短く礼を言って、すばやくグラスを受け取る。 そして一気に飲み干した。
そんな彼の様子を見つめながら、静かにプイメークが隣に腰を下ろした。 彼女の視線がやけに気になるのは、胸にマリアンの面影を抱いているからだろうか。
 「・・・・・・・・・」
空になったグラスに目を落として、しばし逡巡する。 何も言わず隣に座るプイメークが、なぜか自分の言葉を待っているような気がした。
ゆっくりと、視線を彼女へ向ける。 彼女の瞳が、かすかに揺れた。
 「・・・きみに、大事な話がある」
そう告げた瞬間、膝の上に置かれた彼女の両手が、ぎゅっと握りしめられた。 だがグレーグライは、そんな彼女の小さな変化に気づかなかった。
ひと呼吸置いたあと、おもむろにグレーグライが語り始めた。
 「きみと結婚する前、わたしには付き合っていたひとがいた」
 「・・・・・・・・・」
 「その彼女に、子供がいることを知った。 つい最近のことだ」
 「・・・・・・・・・」
何も言わず、ただじっとグレーグライの言葉に耳を傾けていたプイメークが、不意にすっと手を上げた。 それはまるで、もうそれ以上言わなくていいと告げるように。
 「・・・それは、サットさんですよね」
その言葉に、グレーグライが目を見開く。 そんな彼の様子を見守りながら、さらにプイメークが続けた。
 「そしてサットさんの父親は、あなた・・・」
驚きのあまり、ストップモーションにかかったように動きが止まる。 全身を雷に打たれたような、激しい衝撃が身を襲う。
 「・・・どうして、それを・・・」
それだけ言うのが精いっぱいだった。 震える指先で自分を指さすグレーグライへ、かすかに寂しそうな笑みを浮かべたプイメークが告げた。
 「サットさんのブレスレット・・・。 ごめんなさい、私聞いてしまったんです」
 「聞いたって・・・」
 「いつか、あなたとサットさんが交わしてた会話。 サットさんが、お母さんからいただいたという手作りの大切なブレスレット。 それと同じものを、あなたも持ってた・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「時折引き出しから取り出しては、愛しそうに見つめてましたね」
 「・・・・・・・・・」
言葉を忘れた痴れ者のように、ただ口を開いて呆然とプイメークを見つめる。 あまりの衝撃を受けると、人はすべての動きが止まってしまうらしい。
 「・・・いつか、あなたから話してくれるのを待ってました。 あなたの口から、はっきり聞きたかったんです」
 「プイメーク・・・」
予想もしなかった事態に、しばらくグレーグライは言葉が見つからなかった。 まさかプイメークが、あの時の自分とサットとの会話を聞いていたとは。
あれから今まで、きっとプイメークは心中穏やかではなかったことだろう。 それでも表面上は何もなかったように、ごく普通に振舞っていた。
それはきっと、コングへの配慮に他ならない。 このことをコングが知れば、多かれ少なかれショックを受けるのは間違いないだろう。
子どもを傷つけたくないという親心で、これまでずっと一人耐えてきたに違いない。
 「・・・すまなかった」
絞り出すように低く告げたグレーグライが、プイメークの肩に手を置いた。 見上げる彼女の目が、グレーグライの胸に深く染み入る。
どこか痛みにも似たその感覚を感じながら、やがてグレーグライが静かに過去を語り出した。
 「彼女・・・マリアンと言うんだが、わたしが学生時代に付き合っていた相手だ。 2年あまり付き合ってただろうか・・・。 でもきみとの見合い話が浮上して、マリアンとは別れたんだ」
 「・・・・・・・・・」
 「それきり彼女とは会ったことはなかった。 むろん、彼女に子どもがいたことも全く知らなかった。 だがサット君の手首に見覚えのあるブレスレットを見つけて、そこから予想もしなかった事実を知って・・・」
プイメークの肩に置かれたグレーグライの手に、力がこもる。 心の中で何かと葛藤しているような苦し気な表情を浮かべる彼を、プイメークはただじっと見つめている。
 「・・・だが、これだけは言える。 きみを裏切るようなことは何もしていない。 過去はどうであれ、今はきみだけを愛してる。 この気持ちに嘘偽りはない」
真正面から自分の目を見つめて強く訴えかけるグレーグライを、プイメークが真摯な目で見つめ返す。
 「マリアンも、一生わたしに告げるつもりはなかったと言っていた。 わたしと別れた後、子どもを身籠っていることに気づいたが、一人で産んで育てる決意をしたと」
 「・・・・・・・・・」
 「だがわたしにしてみれば、自分の血を引いた子どもがいると知って、今さらではあるが何かできないかと模索したんだ。 これまで二十数年、たった一人で子どもを育ててきた彼女への、せめてもの代償をと」
 「・・・それで、マリアンさんは何と・・・」
ふっと笑ったグレーグライが、静かに首を左右に振った。
 「何もいらないと。 今になってわたしの手を借りるくらいなら、はじめからこの道を選んだりしないと言われたよ」
やや自嘲ぎみにそう呟くグレーグライに、かすかに微笑みを浮かべたプイメークが答えた。
 「・・・素敵な方ですね。 強くて、芯がある方。 サットさんを見れば、マリアンさんが立派な方だということがよくわかります」
 「プイメーク・・・」
 「そして何より、あなたが愛したひとですから」
そう言ってニッコリと笑ったプイメークを、驚いた表情でグレーグライが見つめる。
 「きみ・・・きみは、怒らないのか? こんなことを聞かされて、何とも思わないのか?」
戸惑いと混乱で焦るグレーグライに、首を左右に振ったプイメークが告げる。
 「だってあなたは何も悪いことしてないじゃないですか。 それに、こうして私にきちんと説明してくれました。 それだけでもう充分です」
 「プイメーク・・・きみは、なんて・・・」
 「それにもしマリアンさんがあなたの申し出を受け入れたとしても、私はあなたを咎めたりはしません。 親としての責任を果たしたいというあなたの気持ちもわかりますから」
 「・・・・・・・・・」
もう、グレーグライは言葉が出なかった。 プイメークという稀有な女性を伴侶とできたことに、いま心から感謝したくなった。
彼女の肩に置いていた手を、そのままぐっと引き寄せる。 小柄で華奢な体が、すっぽりとグレーグライの腕に収まった。
 「・・・ありがとう」
彼女をしっかりと抱きしめ、耳元に小さく呟く。 そっと目を閉じたプイメークが、返事の代わりに背中へと優しく手を添えた。
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SOTUS・Season3(§160)

2021-07-24 03:12:08 | SOTUS The other side
前を行くサットの背中を見つめながら、徐々にグレーグライは全身に緊張が漲ってくるのを感じていた。
二階へ続く階段を昇りきり、ずらりと並ぶドアをいくつか通りすぎたところで、とうとうサットの足が止まった。
慣れた手つきで鍵を開けると、母さん、と声をかけながら玄関へ足を踏み入れる。
そんな彼の背後で覚悟を決めたグレーグライは、数回深呼吸して密かに気持ちを整えた。
 「母さん、お客さんだよ」
リビングで寛いでいたマリアンが、息子のその言葉に反応した。
 「お客さん? どなた?」
パタパタとスリッパを鳴らして近づいてくる彼女の気配を感じて、グレーグライが真っ直ぐ前を見る。
そしてついに、彼女が視界に入った。
 「前から話してただろ、グレーグライさんだよ」
遅い時間の来客とあって少し緊張したような表情をしていたマリアンが、グレーグライという名前を聞いて目を見開いた。
 「・・・こんばんは」
サットが体をずらしてグレーグライを前へと促し、一歩前へ出たグレーグライが、しっかりとマリアンの目を見て挨拶をした。
表面上何気ない体を装ってはいるが、内心グレーグライは押し寄せてくる深い感慨の波に浚われそうになっていた。
およそ二十数年ぶりに会う彼女は、全体的に少しだけシルエットは細くなってはいるが、優しい面影はそのままだ。
数秒、二人は見つめ合った。 その瞬間だけは、二人を取り巻く世界が当時に戻ったかのように。
黙ったままの二人を、サットが不思議そうに見たその時。 マリアンから視線を外したグレーグライが、にこやかな笑顔を浮かべてサットに話しかけた。
 「・・・君のお母さんは、マリアンだったんだね。 実は、私たちは同じ学校の同級生なんだ」
 「え、そうなんですか?」
意外な事実に驚いたサットが、目を丸くしてマリアンとグレーグライを見比べる。
 「久しぶりだなマリアン。 元気そうで何よりだ」
 「え・・・ええ、元気よ。 あなたも元気そうね」
突然の再会に戸惑いながらも、サットの手前敢えて何でもないように答えるマリアンだったが、微かに語尾が震えた。
役者としては、グレーグライの方が一枚上手だった。
 「まさかサット君がきみの息子だなんて、世の中はほんとに狭いな」
 「そうね、ほんとに」
しばし二人のやり取りを見守っていたサットが、パッと笑顔になって告げた。
 「母さんとグレーグライさんが同級生だったなんて、すごい偶然ですね! 驚きました」
 「ああ、私も驚いたよ。 でも思いがけず懐かしい顔が見れて、とても嬉しく思うよ」
そう言って、言葉どおり懐かしそうに目を細めてマリアンを見つめるグレーグライに、サットが言葉をかける。
 「久しぶりの再会なんですよね。 積もる話もあるでしょう。 僕、ちょっとコンビニへ行ってきますので、少しの間ですが二人で話してください」
そう告げると、二人の返事を待つより先にサットがドアを出て行った。
思いがけず二人きりになったグレーグライとマリアンは、しばしゆっくりと閉まるドアを見つめていたが、やがてお互い正面を向いた。
 「・・・どうして、ここに・・・」
ぽつりと、マリアンが呟いた。 それは驚きと戸惑いが入り混じったような声だった。
 「うちに同居してる息子の恋人を、サット君が送り届けてくれてね。 サット君はタクシーで帰ると言ったんだが、もう遅いから私が送ってきたんだ」
 「そうだったの・・・」
やや伏し目がちにグレーグライの話を聞いているマリアンは、どこか落ち着かない様子に見える。 グレーグライには、その心境がわかった。
サットがグレーグライとの子供だと知られてしまわないか心配なのだろう。 彼女にしてみれば、一生胸に秘めておくべき真実だからだ。
一歩、彼女へと近づく。 その気配に顔を上げたマリアンと、真摯な眼差しをしたグレーグライの目が合う。
 「・・・サット君は、良い青年だね。 とても素直で、誠実だ」
 「ええ、私の自慢の息子なの。 ありがとう、褒めてくれて」
そう言って、ふわりとマリアンが微笑んだ。 それを見たグレーグライの胸に、忘れていた甘い感情が静かに蘇る。
彼女の笑顔が好きだった。 辛いことや苦しいことがあっても、彼女の笑顔を見ると心が癒されたものだ。
だが運命は二人につれない仕打ちを残し、ともに歩ませてはくれなかった。
それが数十年の時を経て、今度は運命のいたずらで再び巡り会うことになろうとは。
 「・・・ありがとう。 あんな立派な青年に育ててくれて」
 「え?」
マリアンの顔から、ふっと笑顔が消えた。 そんな彼女をじっと見つめ、グレーグライがゆっくりとポケットから何かを取り出した。
 「あ・・・」
グレーグライの手に乗せられたブレスレットを見たマリアンが、小さく声を上げた。
 「君が作ってくれたこのブレスレット。 サット君の手首に同じものを見つけて、確信したんだ」
しばらく無言でブレスレットを凝視していたマリアンが、顔を上げてグレーグライを見た。 瞳が静かに揺れている。 
 「・・・まだ、持っててくれたのね」
その呟きに、グレーグライが小さく頷く。
 「君こそ、今も大事にしてくれてるんだな。 サット君が言ってたよ、お母さんが大事にしてたものを自分にくれたんだって」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・なぜ、とは言わない。 おそらく君が考え抜いて選んだ道だと思うから」
 「・・・・・・・・・」
 「せめて、これからは私にも力にならせてくれないか」
それまでブレスレットに目を落としていたマリアンが、ふとグレーグライを見る。 しばし二人の視線が重なり合ったが、やがて目を伏せたマリアンが、そっと首を左右に振った。
 「・・・気持ちだけ、いただいておくわ」
 「マリアン・・・」
 「あなたの力を借りるなら、はじめからこの道を選んだりしない。 それにあなたにはあなたの家庭があるでしょう」
 「しかし・・・」
 「それにサットだってもう大人。 誰かの力を借りなくても、私たち二人でちゃんとやっていけるわ」
 「・・・・・・・・・」
マリアンの目には、強い意志が見て取れた。 それは強がりでもなんでもなく、心からそう思っている証拠のように思えた。
 「・・・君の気持ちももちろんわかるが、私にも私の気持ちがある。 自分の息子とわかった以上、何かしてあげたいんだ」
頑ななマリアンの気持ちに必死に訴えるが、どうしても彼女は首を縦に振らない。 さらにもう一歩足を踏み出そうとした時、不意にドアが開き、グレーグライの背中を直撃した。
 「あ、すみません、大丈夫ですか?」
慌てたサットがすかさずグレーグライの背中に手をやる。 大丈夫だと言わんばかりにグレーグライがそれを手で制した。
 「母さん、なんでこんなとこで立ち話してるんだよ。 上がってもらいなよ」
 「いや、いいんだ。 もう遅いし、私はこれで失礼するよ」
 「でも・・・」
 「いや、本当に。 今日はマリアンの顔が見れて良かったよ。 じゃあ、また」
まだ何か言いたそうにしているサットに構わず、グレーグライがドアノブに手をかける。 一瞬、背後のマリアンを振り返った。
思い詰めたように口を結び、じっとこちらを見ている。 微かに苦笑いを浮かべたグレーグライは、ぐっと手に力を込めてドアを開けた。
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SOTUS・Season3(§159)

2021-07-12 14:44:43 | SOTUS The other side
グレーグライとサットを乗せた高級車が、音もなくガレージから発進した。
窓の外をチラチラと眺めるサットの様子を見て、少し緊張していると感じたグレーグライが、静かに語りかけた。
 「・・・家まで道案内を頼むよ。 ここからそんなに遠くないのかね?」
 「あ、はい。 車で10分もかからないと思います。 すぐ近くに大きな公園があるので、わかりやすいですよ」
次の信号を右折してください、というサットの言葉を受けて、グレーグライがウインカーを出す。 ゆっくりと右車線へ入りながら、グレーグライが何気なく呟いた。
 「・・・きみは確か、お母さんと二人暮らしだったね」
 「はい。 父も兄弟もいません」
その言葉に、ステアリングを握る手がピクリと動く。 だがじっと前を見据えたグレーグライは、慎重に言葉を選んでさらに深く切り込んだ。
 「・・・お父さんは、どうされたんだね」
 「父は最初からいません。 母は、結婚せずに僕を産んだんです」
予想どおりの答えを聞いて、グレーグライの目が細められる。 ちらりとサットの表情を窺い見るが、特に何も変化は見られない。
 「お父さんがいなくて、寂しいと思ったことは?」
 「最初からいないので、寂しいとかそういう感覚はないです。 その分母がたくさん愛情を注いでくれたし」
にこやかにそう話していたサットの表情がふと曇ったのを、グレーグライは見逃さなかった。
 「どうした?」
そう問われ、はっとしてグレーグライを見たサットが、すぐ視線を戻して目を伏せた。 何かを堪えているようなその様子に、グレーグライが静かに語りかける。
 「・・・何か、悩みでもあるのかね。 わたしで良ければ、話してみないか」
 「・・・・・・・・・」
 「人生の先輩として、何かアドバイスができるかも知れない」
諭すようにそう言われて、サットの心が大きく揺らいだ。 覚悟を決めたサットは、つぐんでいた口をおもむろに開いた。
 「・・・グレーグライさんは、シングルマザーの母をどう思いますか。 やはり、軽蔑しますか?」
 「軽蔑? なぜ」
予想もしなかった言葉に驚いたグレーグライが、思わずサットを見た。 やや俯き加減で、唇を嚙みしめている。 
これは性根を据えて話を聞くべきだと判断したグレーグライは、ハザードランプを点滅させて静かに車を路側帯に停車させた。
 「・・・僕には結婚を前提に付き合ってる恋人がいるんですが、彼女のご両親が、シングルマザーの母のことを軽蔑してるんです」
 「なんだって」
 「それが原因で、僕たちの結婚に反対してて」
 「そんな・・・」
さらにきつく唇を噛みしめ、膝の上で拳を強く握りしめる彼を目前にして、グレーグライが思わず絶句する。
すると堰を切ったように、感情的になったサットが次々と言葉を吐き出した。
 「確かに母はシングルマザーかも知れないけど、それでも世間に恥じるような人間じゃない。 それどころか、父親の分まで僕をしっかりと育ててくれた、立派な人です。 それを、なぜそんなふうに・・・!」
そこで言葉を切ったサットが、はあはあと呼吸を乱れさせる。 胸に深い衝撃を感じながらも、グレーグライが尋ねた。
 「彼女自身はどうなんだね。 まさか、彼女も・・・?」
 「いえ、彼女は全く気にしてません。 むしろ、僕と一緒になってご両親を説得してくれてます」
 「そうか・・・」
その言葉に、グレーグライは少し救われた気持ちになった。 恋人までも両親と同じだったら、もうどうしようもないところだった。
しかしそれでも、問題は根深い。 しかも、自分がその原因の根源となっているのだ。 思わず、手で顔を覆った。
心の底から愛していたマリアンに、自分との子供がいた。 とても驚き戸惑った反面、嬉しいと思ったのも確かだ。
これからはどんな形にせよ、マリアンとサットのためにできることを考えていこうと思っていた。
それなのに、皮肉にも自分のせいでサットを苦しめることになるなんて。
 「・・・あの、グレーグライさん。 どうしました?」
自分よりも辛そうな様子のグレーグライに気づいたサットが、心配そうに声をかけた。 はっとしたグレーグライが、一瞬サットを見る。
そして恐る恐る、禁断の質問を口にした。
 「・・・きみは、お父さんのことを恨んでいるのか」
 「え?」
 「父親がいないせいで、不本意な目に遭ってるわけだろう? お母さんと結婚しなかった父親のことを、憎いとは思わないのか」
なぜか必死な形相でそう尋ねてくるグレーグライを不思議に思いつつも、サットが首を左右に振った。
 「そうは思ってません。 きっと父と母には何か事情があったんだと思うし、それに母がシングルの道を選んだからには、それが最善の方法だったと思うので」
 「サット君・・・」
 「それよりも、片親っていうだけで偏見の目で見る人が世の中にまだまだいるんだってことが、僕を打ちのめしたんです」
 「・・・・・・・・・」
心の底から、マリアンに感謝したくなった。 こんなに素晴らしい青年に、よくぞ育てあげてくれたものだと。
胸に熱いものが込み上げてくるのを感じながら、ゆっくりと目を閉じる。 数回深呼吸をした後、やがて目を開けたグレーグライが、ゆっくりと言葉を発した。
 「・・・わたしも、かつては偏見を持っていたよ」
 「え?」
 「息子のコングポップに同性の恋人がいると知った時、頭をハンマーで叩き割られたような衝撃を受けた」
 「あ・・・アーティット先輩とのことですね」
静かに頷いたグレーグライが、続ける。
 「わが社の後継者であるコングポップがゲイなど、とても認められなかった。 何よりわたし自身がゲイに対してひどい偏見を持っていたから」
 「・・・・・・・・・」
 「だがアーティット君のひたむきで無償の愛と、二人の強い絆を見て、わたしが間違っていたと気づいたんだ。 真の愛に、性別など関係ないとね」
 「・・・・・・・・・」
目を見開いたまま自分の話を熱心に聞いていたサットに、グレーグライが強く訴える。
 「きっと彼女のご両親も、きみたちの強い愛と絆を見れば、些細なことなどどうでも良いと思うようになるはずだ」
 「・・・・・・それでも、もしどうしてもダメだったら・・・」
不安そうに訊き返してくるサットに、身を近づけたグレーグライが力強く告げた。
 「いっそ二人で逃避行だ。 自分たちだけの幸せを最優先に考えなさい。 親は、何といっても子供の幸せを一番に望んでいるはずだから」
 「グレーグライさん・・・」
感慨深い目で自分を見つめるサットからふと視線を外したグレーグライが、ぽつりと零した。
 「・・・わたしには、できなかったから・・・」
それはサットに向けてというより、独り言のような小さな呟きだった。 え?と訊き返すサットになんでもない、と答えたグレーグライが、気持ちを切り替えるようにギアをドライブに入れた。
 「すっかり遅くなってしまったね、行こうか」
その言葉で姿勢を正したサットを見て微かに微笑んだグレーグライが、ハザードをウインカーに切り替えてステアリングを切った。
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SOTUS・Season3(§159)

2021-06-30 15:55:37 | SOTUS The other side
グレーグライとプイメークの二人がかりで送ることを猛烈に説得されたサットが、とうとう観念した。
だがリビングへ上がることだけは丁重に辞退した。 もう時間も遅いし、明日はお互い仕事もあると必死に訴えて、どうにか納得してもらった。
 「じゃあ行こうか」
車のキーを手にしたグレーグライが、サットの背を押しながら告げる。 
 「アーティットくんのこと、頼んだぞ」
アーティットを支えているコングと、隣に佇むプイメークへとそう言い残したグレーグライは、二人がしっかり頷いたのを確認すると満足したように足を踏み出した。
 「・・・すみません、色々ご迷惑をおかけして」
コングに支えられたまま、アーティットが申し訳なさそうにうなだれた。 頭を左右に振ったプイメークが、にっこり笑って答える。
 「さっき主人も言ってたけど、たまには羽目を外すのもいいことよ」
 「はぁ・・・」
 「最初は、具合悪そうなあなたを見てびっくりしたけれど」
ふふっと笑ったプイメークに、アーティットが申し訳なさそうに首をすくめる。
 「・・・先輩、部屋に行きましょう。 明日も仕事だし、早く休んだ方がいいです」
プイメークとアーティットの会話を遮るように、コングが少し強い口調で告げる。 アーティットが返事をするのを待たず、やや強引にコングが彼を抱えたまま歩き出した。
 「コング・・・?」
コングの態度に何か違和感を感じたプイメークだったが、それ以上深く考えることはせず、階段を上っていく二人を見届けたあと、リビングへと戻って行った。
まるで連行されるように部屋へと連れてこられたアーティットは、部屋へ入るとコングの手を振り払った。
階段を上る間も、廊下を歩く間も何も言葉を発さないコングを不審に思っていたアーティットが、怪訝そうな表情でベッドへ腰かける。
 「・・・おまえ、さっきからなんかおかしいぞ。 いったい何なんだ」
 「・・・・・・・・・」
腰を下ろすでもなく立ち尽くしたままのコングが、ふと目を伏せた。 だがすぐに顔を上げると、素早くアーティットのそばまでやってきて、彼の両肩を掴んで訴えた。
 「・・・理不尽なのはわかってます。 でも、我慢できなかった・・・」
 「何のことだ」
アーティットにとっては意味不明な言葉だった。 わけがわからず訊き返すと、少し戸惑うような表情になったコングが、ためらいがちに答える。
 「・・・あなたを抱えてるサット君を見た時、謂れのない嫉妬を感じてしまいました」
 「はぁ?」
予想外の答えを聞いて、思わずアーティットが脱力した。 バツの悪そうな顔でやや俯き加減のコングを、呆れ顔のアーティットが見る。
そんな彼の視線を感じたコングが、言い訳めいたことを口走った。
 「わかってます、そんなわけないって。 サット君は純粋に酔ったあなたを送ってきてくれただけだって。 でも感情が言うことを聞かなくて・・・」
少し苦しそうに目を細めて言葉を絞り出すコングを見ているうち、アーティットの脳裏にジェーンのことが蘇った。
いつかコングの部屋を訪ねた時のことを思い出す。 コングに寄り添う彼女を見た瞬間、頭の中が白くスパークして何も考えられなくなり、思わず部屋を飛び出してしまった。
頭ではコングが浮気などするはずないとわかっているのに、それこそ感情が暴走してどうにもならなかった。
あの時の自分と、今のコング。 きっとコングも、同じ気持ちに翻弄されているのだろう。
自分でもどうにもならない気持ちを持て余し、黙り込んでしまったコングへ、アーティットが穏やかに話しかける。
 「・・・顔を上げろよ」
そう言いながらコングの頬へ手を伸ばす。 両手で彼の両頬をはさみ、そっと顔を上向かせる。 至近距離で、目と目が合う。
彼の瞳に映る自分の姿を感じながら、アーティットが甘く囁く。
 「嫉妬してくれて、嬉しい・・・」
言葉に混じる吐息を感じたコングの胸が、ドクンと脈打った。 それをきっかけに、鼓動がどんどん速まっていく。
頬にかかるアーティットの両手に、コングが手を添える。 そのまま彼の手を握り、ゆっくりと唇へ誘導する。
アーティットの手に口づけながら、コングが囁き返す。
 「・・・あなたは、俺だけのものです。 他の誰にも、触れさせたくない・・・」
そう言って再度手に口づけたコングが、そのままその手をぐいっと引き寄せた。 アーティットの体が、コングの腕へと倒れ込む。
しっかりと両腕で受け止めたコングが、ぎゅっと抱きしめた。 そして彼の耳元へ、さらに深く囁く。
 「あなたのこの白い肌も、赤く染まった耳朶も、全部俺のものです」
 「コングポップ・・・」
 「そして、この敏感な・・・」
そこで言葉を切ったコングが、つ・・・とアーティットの脇腹を手でなぞった。 反射的にビクッと反応したアーティットが、とっさにその手を掴む。
すると今度は別の手でアーティットのワイシャツのボタンを外し始め、はだけたシャツの間に手を差し込むと、胸の最も敏感な部分を指先で軽く弾いた。
 「あ・・・っ」
思わず身を捩るが、コングの手はさらに深く入り込んで、胸から脇腹へとくまなく撫でまわす。 そして、ついにはズボンのベルトを外し始めた。
ゆっくりと下ろされたジッパーの中へコングの熱い指が侵入すると、アーティットが声にならない吐息を漏らした。
そして蠱惑的な目をしたコングが、おもむろに宣告する。
 「この敏感で熱いトコロも・・・俺だけのものです」
耳元へそう囁くと、すでに赤く染まった耳朶を軽く噛んだ。 
 「あっ!」
耳が弱点のアーティットには、致命的な一撃だった。 全身が痙攣したようになり、呼吸が思い切り乱れる。
それを境に、二人の理性が弾け飛んだ。
勢いよくベッドに倒れ込んだ二人は、これまでの禁欲の期間を埋めるように、激しくもつれ合った。 幾度も体勢を変え、あらゆる体液に塗れながら、熱く淫らな夜が更けて行った。
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SOTUS・Season3(§158)

2021-06-23 00:11:14 | SOTUS The other side
サットの手を借りてどうにかタクシーから降りたアーティットは、一人で歩こうとしたが叶わなかった。
足に力が入らず、前のめりになったところをサットに抱えられた。
 「だから無理だって言ったじゃないですか。 もう無駄なあがきはやめて、俺に掴まってください」
 「・・・・・・・・・」
呆れた口調でそう諭すサットを、恨めしそうな目で見る。 だがサットはそれに構わず、やや強引にアーティットの腕を掴んで自分の肩へと回した。
そのまま歩き出そうとしたサットが、不意に発車しようとしていたタクシーの運転手に向かって話しかけた。
 「あの、すぐ戻るのでこのまま待っててください」
運転手が頷いたのを確認して、二人は門をくぐった。
広大な庭をもつこの豪邸は、門から玄関までかなりの距離がある。 普段なら何ともないが、人に抱えられて歩くにはなかなかハードな距離だ。
だが自分を抱えて歩くサットはさらに大変だということに思い至ったアーティットが、ふと足を止めた。
 「どうしたんですか?」
急に動かなくなったアーティットを不審に思いそう尋ねるサットに、アーティットが庭園のベンチを指さして告げた。
 「あのベンチに座らせてくれ」
 「え? 中に入らないんですか」
 「こんな情けない状態を、グレーグライさんたちに見せたくない。 あそこで少し酔いを冷ますよ」
 「でも・・・」
 「いいから頼む」
うんと言うまでアーティットは動かないのが、サットにはわかった。 仕方なく、言われるままベンチへと向かう。
すると不意に玄関が開き、誰かが出てきた。
 「アーティットさん! どうしたの?」
サットに抱えられ足元がおぼつかないアーティットを見て、そう驚きの声をあげたのはプイメークだった。
すぐさま二人へ駆け寄り、アーティットの様子を窺う。 こんなみっともない姿を見られたくないアーティットは、思わず彼女の視線を避けて俯いた。
 「気分が悪いの? 顔色が悪いわ」
心配そうに話しかける彼女へ、口ごもるアーティットの代わりにサットが答える。
 「大丈夫です、ちょっと深酔いしただけなので」
 「まぁ・・・」
サットの答えを聞いたプイメークが、今度は意外そうな顔をした。 一人で歩けなくなるほど泥酔する彼が、よほど珍しいようだ。
 「とにかく中へ入りましょう」
そう促す彼女に頷いたサットが、アーティットを抱え直して玄関へと向かう。 結局アーティットの意志とは裏腹に、こんな情けない状態のまま家の中へと連れて行かれた。
 「あなた、ちょっと来てください」
玄関へ入るなり、プイメークがリビングにいるグレーグライへ呼びかけた。 ぎょっとしたアーティットが、慌てて訴える。
 「お母さん、もう大丈夫ですから」
 「何言ってるの、まだまだ足元が危なっかしいわ。 でも私じゃ支えきれないから、主人に助けてもらいましょ」
サットと一緒に上がり框へアーティットを座らせたプイメークが、さらにあなた早く!と付け足す。
何だか絶望的な気分になったアーティットの目に、リビングから出てきたグレーグライの姿が映る。
 「どうしたんだ、何があった」
座り込むアーティットを見たグレーグライが、驚いて駆け寄ってきた。
 「ちょっとお酒を飲みすぎたんですって。 サットさんが送ってきてくださったんですよ」
サットの名前を聞いたグレーグライが、思わず動きを止めた。 軽く頭を下げて挨拶するサットを、じっと見つめる。
 「・・・あなた?」
不意に動かなくなったグレーグライへ、訝しげにプイメークが声をかける。 はっとしたグレーグライが、とっさに咳払いをした。
 「なんでもない。 サットくん、悪かったね。 後はわたしが引き受けよう」
 「はい、よろしくお願いします」
恥ずかしさと情けなさで顔を上げることができないアーティットの気持ちがわかったのか、ふっと微笑んだグレーグライが呟いた。
 「・・・わたしも独身の頃は、よく飲んだものだよ。 たまにはこうして羽目を外すのもいいさ。 特にきみのような真面目な人間はな」
アーティットの心を慰めるように、優しい口調で語りかける。 顔を上げたアーティットへ、さらに微笑みを深めたグレーグライが小さく頷く。
 「・・・じゃ、僕は帰ります」
そのやり取りを見て安心したサットが、そう言ってドアを開けようとした。 するとグレーグライが彼を引き留めた。
 「待ってくれ。 もう遅いし、わたしが家まで送って行くよ」
予想外の申し出に、サットが驚いて首を左右に振る。
 「大丈夫です、タクシーを待たせてありますので」
 「いいから。 きみ、これを運転手へ渡して帰ってもらうよう伝えなさい」
そう言ってすばやくポケットの財布を取り出し、数枚の札をプイメークに手渡したグレーグライが早く行くよう目配せする。
あっという間に外へ出て行った彼女の背中を呆然と見送るサットと、そんな彼をじっと見つめるグレーグライを、アーティットが複雑な表情で見た。
アーティットを家まで送り届けてくれたサットに対し、礼を尽くしたいという気持ちもあるのだろう。 だがグレーグライの真意は、また別にある気がした。
サットを家まで送れば、必然的に彼の母であるマリアンとも会うことになる。 その時、グレーグライはどうするのだろう。
 「・・・さ、サットくんも上がってくれ。 飲み物でも持って来よう」
 「いえ、そんな。 お気遣いなく」
謙遜するサットと、もてなしたいグレーグライとの攻防がしばらく続いた。 すると二階へ続く階段から、コングが姿を現した。
 「コングポップ・・・」
最初に気付いたアーティットが、ふと呟く。 その声につられ、グレーグライとサットがコングを見た。
 「なんか声がしたので、どうしたのかと思って。 サットくん、久しぶりだね。 どうしてここに?」
 「・・・俺を送ってきてくれたんだ」
そう答えるアーティットを、コングが不思議そうに見る。 そんな彼に、サットが説明を付け加えた。
 「トード先輩に飲まされて、深酔いしたんです」
 「え、トード先輩に?」
 「そうです。 トード先輩は完全に潰れてしまいましたよ」
そう言ってくすっと笑ったサットを、じっとコングが見る。 おそらくアーティットを抱きかかえてここまで来た彼に、謂れのない嫉妬を覚えた。
彼に下心などあるわけないのはわかっている。 単に同僚を家まで送ってきた、ただそれだけだ。
頭ではそうわかっているのに、感情が言うことをきかない。 アーティットの体に触れた、その事実だけがコングの煩悩を刺激する。
急に何も言わなくなってしまったコングの心中を推し量れる者は、誰もいなかった。
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