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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§166)

2021-12-29 09:57:47 | SOTUS The other side
それからしばらくはアーティットもコングも多忙な日々が続き、ようやく忙しさもひと段落したのは3月も半ばになってからだった。
季節もそろそろ乾季から暑季へと移り変わろうとしており、日に日に強くなる日差しに手をかざしながら、コングは車から荷物を下ろした。
約2ヶ月ぶりの帰省。 庭園に咲く花々も、季節の移ろいを感じさせる。
平日の昼間だからか、ガレージに父グレーグライの車はない。 今日は自家用車で出勤したらしい。
自分の車しかない広々としたガレージで、コングは大きなスーツケースを手にひとつ深呼吸をした。
いつもの帰省なら荷物もほとんどないが、今回はエムとメイの結婚式に出席するため、たくさんの荷物がある。
キャスターを転がしながら玄関へのアプローチを歩いていくと、庭の花に散水していたプイメークがコングに気づいた。
 「おかえりなさい、早かったのね。 お昼ごはん食べるでしょ? すぐ用意するから」
 「ただいま。 じゃあ先にシャワー浴びます。 チェンマイは涼しかったけど、バンコクはもうすっかり暑季ですね」
 「そうね、チェンマイは涼しいからねえ。 こっちはもう真夏のような暑さよ」
そう言いながら麦わら帽子の下で流れる汗を拭いたプイメークが、散水用のホースを置き、コングを伴って玄関に向かった。
部屋に荷物を運び入れ、着替えを用意してから、コングはスマホを取り出した。
『さっき帰ってきました。 今からシャワー浴びて、昼食です。 また連絡しますね』
ただいまのスタンプとともにそうラインを送る。 が、すぐに既読にはならなかった。 おそらく仕事中なのだろう。 
エムたちの結婚式は明日の土曜日だが、コングは遠方からの出席になるため、前日の今日休暇を取って帰ってきたのだった。
しばらくは返事がないと悟り早々にスマホを手放したコングは、着替えを手にシャワールームへと向かった。


久々のプイメークの手料理に舌鼓を打ち、若干食べすぎでもたれた胃のあたりを撫でながら部屋に戻ってきたコングは、ベッド上で着信ありのランプが光っているスマホが目に入った。
『今日は定時で上がれると思う。 久しぶりにメシでも食いに行くか?』
メッセージの着信時刻は12時半。 きっと昼休みに送ってきたのだろう。
『いいですね、行きましょう。 仕事が終わる頃に職場へ迎えに行きます』
送信して時計を見ると、14時前だった。 あと4時間ほどで、この苦しいほどの満腹がどこまで消化されるだろう。
ぼんやりそんなことを考えながら、何気なく窓辺へ歩み寄り、眼下の庭を見渡した。
すると、さっきまでコングの車しか停まっていなかったガレージに、いつの間にかグレーグライの愛車があることに気づいた。
それを見たコングは、スマホをポケットにしまうと足早に1階へと下りて行った。
 「父さん、もう仕事は終わったんですか?」
リビングに入ると、上着を脱いでソファで寛ぐグレーグライの姿があった。 コングに気づいたグレーグライが、ああ、と答える。
 「今日は珍しく早く片付いてね。 それより、久しぶりだな。 それこそ療養から復帰して以降、初めて帰ってきたんじゃないか?」
 「そうですね、とにかく仕事が忙しくて。 まぁ自業自得なんですけど」
 「今回の帰省は、確かエムくんの結婚式のためだったな。 式は明日か?」
 「ええ、明日の10時からなので、余裕をもって今日休みを取ってきたんです」
近況報告などの雑談を交わしながら、グレーグライの向かいに腰を下ろしたコングが、ふと真顔になった。
 「・・・父さん。 うちの社長に忠言したこと、聞きました」
 「ん?」
 「LGBTに対する偏見をなくすようにって」
 「ああ・・・」
最初は不思議そうな顔をしていたグレーグライだったが、コングのその言葉を聞いて納得顔になる。
 「驚きましたけど、嬉しかったです。 あんなに同性愛を嫌ってた父さんが、そこまでしてくれるようになるなんて」
やや俯き加減で、言葉どおり嬉しさを隠し切れない様子で話すコングを、感慨深げな目でグレーグライが見つめた。
 「・・・まるで昔のわたしを見ているようで、何ともいたたまれなくてね」
やや自嘲ぎみにそう呟くと、テーブルに置かれたコーヒーをひとくち口にする。
 「ネオジェネシスの社長・・・クラウスとは、もう20年くらいの付き合いなんだ。 わたしの方が年下だが、まるで幼馴染のように親しくてね」
 「へぇ・・・」
 「以前はそれこそ一緒になって、LGBTの人たちを軽蔑したり糾弾したりしていたものさ。 今となっては情けない話だが」
 「・・・・・・・・・」
 「そんな偏見のせいで、いったいどれほどの優秀な人材を逃していたことか。 性的思考など、仕事には何の関係も影響もないというのに」
穏やかな口調の中にも、忸怩たる思いが見え隠れする。 己の愚行を、深く後悔しているのだろう。
 「それに気づかせてくれたのが、おまえとアーティット君だ。 異性を愛するのじゃなく、人を愛するのだということを身をもって教えてくれた」
 「父さん・・・」
次第に、コングの胸が熱くなってきた。 自分たちのことを認めてくれただけでなく、心から改心して、周囲の人々にも偏見をなくすように働きかけてくれる父。
かつての自分たちのように、同性愛の関係を理解してもらえず苦しんでいるLGBTの人々が、少しでも救われてくれたらと願わずにはいられない。
 「・・・父さんのおかげで、ジェーン先輩が謝罪してくれましたよ」
 「ジェーン? 確か、おまえが倒れた元凶の先輩か」
 「ええ。 クラウス社長から、俺に謝罪するようにって言われたらしいです。 でも上辺だけの謝罪ではなく、心からちゃんと謝ってくれましたよ。 自分が間違ってたと、頭を下げてくれました」
 「ほう・・・。 クラウスはよほど熱心に部下に働きかけてくれたようだな」
頷きながら満足そうに目を細めるグレーグライを見て、コングも穏やかな笑みを浮かべた。
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SOTUS・Season3(§165)

2021-11-13 21:41:06 | SOTUS The other side
その頃チェンマイのネオジェネシス社では、長期休暇明けでコングが繁忙を極めていた。
今日は週末の金曜日だが、コングにとっては何の意味もない日だ。 当分は土日も仕事の日々が続くことになりそうだからだ。
 「お疲れ!」 「お疲れさまです」
陽の傾きと比例するように次々と同僚たちが帰宅していく中、コングはうず高く積まれた書類を相手に悪戦苦闘していた。
やがて外に漆黒の闇が訪れ、オフィスから人気がなくなった頃、デスク上のスマホが振動した。
疲れた目に、画面の光が眩しい。 目を細めながら、届いたLINEを開ける。
『お疲れ。 まだ仕事中か? あまり無理するなよ、病み上がりなんだから』
絵文字も何もなく、素っ気ない文章。 だがその字面から、アーティットの優しさが滲み出てくるようだった。
「ありがとうございます。 でも大丈夫です。 あなたからのLINEでエネルギー充電できましたよ」
文章の最後に、キスのスタンプを付けて送ってみる。 するとすぐ、中指を立てているスタンプが返ってきた。
 「・・・ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。 顔を赤くして、照れ隠しの怒り顔をしたアーティットが目に浮かぶようだ。
画面が暗くなったスマホをデスクの上に置き、体を思い切り伸ばすと、肩や首がポキポキと乾いた音を立てた。
ふと、隣のジェーンの席が目に入った。 デスク上には幾重にも重なった書類の山が築かれ、主の不在が長いことを物語っている。
中国支部建設プロジェクトで中国へ派遣されたメンバーが、つい先日一時帰国してきたと聞いた。
表向きは進捗状況の報告のためということらしいが、実際には休暇も兼ねているようだ。 その証拠に、会社へ顔を出したのは管理職のみにとどまっており、彼らも報告を終えると早々に帰宅していった。
久しぶりの帰国とあって、家族との時間を満喫していることだろう。
そんなことを疲れた頭でぼんやり思っていると、静かな室内にドアが開く音が響き、はっと我に返った。
 「・・・あ・・・」
ゆっくりとこちらへ近づいてくる人物に気が付いたコングが、小さく声を上げた。
 「ジェーン先輩・・・」
コングの隣にある自分のデスクで立ち止まったジェーンが、自分を凝視しているコングを見た。 コングの目に宿る驚きと戸惑いを感じ取ったのか、彼女もまたコングをじっと見つめ返す。
そのまま数秒の時が過ぎ、やがてジェーンがぽつりと呟いた。
 「・・・・・・あなた、サイアムポリマー社の社長令息だったのね」
 「えっ」
突然自分の素性を言い当てられ、思わずコングが絶句する。 ジェーンはもとより、ここの社員には自分がサイアムポリマー社の人間だとは言っていない。
一体どこから聞きつけてきたのだろう? また怪しげな情報網を使ったのだろうか?
戸惑いと猜疑の眼差しを浮かべたまま無言のコングを見つめながら、ジェーンが静かに自席に腰を下ろした。
 「・・・あなたのお父様は、本当にあなた・・・というより、あなたたちのことを大切に思ってるのね」
 「・・・・・・?」
それはコングに向けてというより、独り言のような小さな呟きだった。 何を言おうとしているのかわからず、コングがじっとジェーンを見る。
 「・・・あの・・・?」
コングの顔が、訝しむような表情から不思議そうな表情へと変わる。 すると、不意にジェーンがコングに向かって頭を下げた。
 「・・・あなたとアーティットさんにひどいことをして、ごめんなさい。 私が悪かったわ」
 「ジェーン先輩!?」
コングは思わず自分の耳を疑った。 だが深々と頭を下げているジェーンの姿が、聞き間違いではないことを証明している。
大いに混乱したコングは、何をどうしていいかわからず、ただ狼狽えるしかなかった。
やがてゆっくりと頭を上げたジェーンが、少しずつ謝罪の理由を語り出した。
 「・・・あなたのお父様が、2週間ほど前にうちの社長のところへ来られたの」
 「え、父が?」
 「ええ。 あなたはまだ休暇中だったから知らないと思うけど」
 「父が・・・」
初耳だった。 自宅で何度も顔を合わせていたのに、そんなことは一言も言ってなかった。
 「・・・でも、なぜ父が社長に?」
 「うちの社長がまだバンコク支社の支社長だった頃、グレーグライさんにお世話になったそうなの。 それ以来、社長はグレーグライさんと懇意にしてたそうで」
 「・・・・・・・・・」
コングの頭の中で、ひとつの符合が一致した。 
社会勉強の一環にと、ここネオジェネシス社を薦めたのはグレーグライだ。 当時はあまり深く考えなかったが、こういう理由があったのだと今初めて知った。
 「――でも、父が社長に会いに来た理由は何ですか?」
 「それはね、うちの社風に対して苦言を呈しに来たの。 LGBTへの偏見をなくすべきだって」
 「え?」
コングの口から、驚きの声が漏れる。 それは一体どういうことだろう。
 「今の時代、ジェンダーにこだわるのはナンセンスだって。 LGBTの人にも優秀な人材はたくさんいる、それをそんなくだらない理由で切り捨てるなんて馬鹿々々しいって」
 「・・・・・・・・・」
 「さすがの社長も、恩のあるグレーグライさんにそこまで言われちゃ、考えを変えないわけにいかなかったのね。 さっそく専務以下、管理職に通達を出したわ」
 「通達・・・」
 「LGBTへの偏見をなくすようにって」
 「・・・・・・・・・」
にわかには信じがたい話だった。 グレーグライがそこまでする理由。 グレーグライ自身も、かつては同性愛を毛嫌いしていたはずなのに。
 「・・・社長から、私にも厳重注意があったの。 あなたに対して、偏見と私的怨恨をぶつけたことを謝罪するようにって」
 「謝罪・・・」
 「誠心誠意を込めて謝罪するようにと。 そうしなければ、支社建設プロジェクトメンバーから外すって言われたわ」
 「そんな・・・」
だから、と告げたジェーンが、再び頭を下げた。
 「ごめんなさい、私が間違ってた。 許してとは言わないわ。 でも謝罪させて」
目の前で頭を下げ続けるジェーンを見て、コングの心は複雑だった。
社長から謝罪しろと命令されて、しおらしく頭を下げるような人間じゃないはずだ。 それとも、プロジェクトメンバーから外されたくない一心で、不承不承ながらこうして頭を下げているのだろうか。
だが先ほどからの彼女の口調や態度を見ていると、これまでの高圧的で居丈高な様子は鳴りを潜め、しおらしさすら感じる。
まさか本当に、心を入れ替えたというのだろうか。
そんなコングの心の中を見透かしたように、ジェーンが苦笑いを漏らした。
 「・・・私がこんなこと口にするなんて、信じられないって顔ね」
 「あの、いえ・・・」
 「――母の日記が見つかったの」
 「え?」
唐突な話題に、思わず気の抜けた声が出た。 だがジェーンはかまわず続ける。
 「前に言ったでしょ、父が男の恋人と出て行って、それが原因で母が自殺したって」
 「ああ、そういえば・・・」
 「私は母と私を捨てた父をずっと憎んでた。 母が自殺したのも父のせいだと」
 「・・・・・・・・・」
 「でも日記を読んで、実際はそうじゃなかったことを知ったの」
 「え?」
 「父には、母と結婚する前から同性の恋人がいたの。 でも父の両親に大反対されて、母と無理やり結婚させられたんだって」
 「え・・・」
 「でも母は父を愛してたから、それでもいいからって結婚した。 だけどやっぱり、父は恋人を忘れられなかった・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「それでも、結婚して子供も生まれたから、父は家庭を守ろうと努力してた。 だけど心ここにあらずな父が、母には耐えられなかったみたいで・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「だから、母から切り出したの。 恋人のところへ行くようにって。 私たちのことは心配しないでいいからって」
 「・・・・・・・・・」
 「父は反対したらしいけど、半ば無理やり母が追い出したみたい」
静かに紡がれるジェーンの独白を、いつしか無言のままコングは聞き入っていた。 ふ、と苦笑いをこぼしたジェーンが、ぽつりと呟いた。
 「でも結局、母は寂しさに耐えられなかったのね・・・」
それきり、ジェーンは黙った。 コングには、かける言葉が見つからなかった。
それからしばらくして、ジェーンが再び口を開いた。
 「・・・これまでずっと父を憎むことで、心のバランスを保ってた。 でも真実を知った今、私がこれまでしてきたことはみんな無意味だったって思えて、なんだかもう疲れたわ・・・」
 「ジェーン先輩・・・」
頬に落ちる翳が、彼女の言葉が事実だと告げている。 それはそうだろう、これまで信じてきたことを根底から覆されたのだから。
同情と憐憫の目で見つめていると、不意にぐっと顔を上げたジェーンが、気持ちを切り替えるように口を開いた。
 「――私の独り言はこれでおしまい。 とにかく、これからはもうあなたちには関わらないから安心して」
 「先輩・・・」
 「・・・じゃ、行くわね」
すっと立ち上がり、それきり振り返ることなくドアを出て行く彼女を、コングが感慨深げに見送る。
彼女には確かにひどいことをされたが、彼女もまた胸の奥に混沌とした思いを秘めていたのだと思うと、悲喜こもごもな運命の皮肉を感じずにはいられなかった。
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SOTUS・Season3(§164)

2021-10-06 00:41:18 | SOTUS The other side
コングがチェンマイへ行って、1週間が過ぎた。
昨日のラインで、ジェーンが帰国してきたと連絡があった。 だがそれ以外のことは特に書いてなかったので、ひとまずはトラブルもなく済んだのだろう。
願わくばこのまま何事もなく再び中国へ戻ってくれることを祈るばかりだ。
暗いままのスマホの画面をぼんやり眺めてそんなことを考えていたアーティットだったが、不意にスマホの画面が明るくなってひどく驚いた。
それはラインの着信を知らせるものだった。
仕事中にコングがラインしてくることはほとんどない。 一体誰だろうと思いながら開くと、送り主はエムだった。
『俺たちの結婚式まであと一ヶ月になった。 当日のことについていくつか連絡するよ』
今日は2月15日。 そういえばエムたちの結婚式は3月15日だったことを思い出す。
ふと、向かいに座るトードに目をやる。 彼らも、もうすぐ結婚だ。 確か6月と言っていた気がするが、日にちまでは思い出せない。
 「なあトード、おまえたちの・・・」
日付を聞こうと呼びかけたが、はっとして口をつぐむ。 隣にいるサットが、今もまだ恋人との結婚について心を痛めていることを思い出したためだ。
そんな彼の目の前で、トードの幸せそうな結婚話をするわけにはいかない。
 「なんだ? どうかしたか」
名前を呼ばれたものの、急に黙ってしまったアーティットを訝しげに見ながらトードが尋ねる。
 「あ、いや・・・何でもない」
そう言うなり俯いてしまったアーティットをしばし不思議そうに見つめたが、やがて視線を手元に戻した。
トードのそんな気配を感じ取ったアーティットは、パソコンと書類の隙間から、今度はサットを盗み見た。
デスクの書類を熱心に読んでいる様は、いつもどおりの彼に見える。 一時期の憔悴しきっていた彼とは違い、こけていた頬もふくらみを取り戻し、顔色も良い。
もしかして何か進展があったのかと思ったアーティットは、昼休みを待ってサットに声をかけた。
 「ちょっと、いいか」
昼食を食べ終えて自席に戻ってきたサットを呼び止め、そのままカフェルームへと誘う。
 「あら、いらっしゃーい」
 「ピンクミルクと、ブラックコーヒーを」
 「OK,あとで持ってくわね」
オネエのマスターにドリンクを注文して、二人は空いている席へと腰を下ろした。
 「・・・おまえさ、その・・・彼女とのことはどうなった?」
急にそう尋ねられ、一瞬サットが目を見張る。 束の間の沈黙があったが、それは気まずさというよりも驚きからのようだった。
 「えっと、その・・・結婚話のことですか?」
 「ああ、いきなり訊いてすまない。 おまえの様子が、一時期より安定したように見えるから」
若干言い訳じみた口調で理由を話すアーティットを見て、ふっとサットが笑った。
 「相変わらずよく見てますね。 やっぱり先輩は人の上に立つ人間ですね」
 「おだてるのはやめろ。 それより、どうなんだ?」
さらに詰め寄ったところで、マスターがドリンクを持って現れた。
 「はい、おまたせ。 なになに、深刻なお話?」
興味津々という感じでマスターが目を輝かせる。 
 「そんなんじゃないよ。 ほらマスター、お客さんが待ってるよ。 早く行かなきゃ」
 「あらやだ、本当! じゃまたね!」
慌てながらも、少々名残惜しそうな視線を残しつつ、マスターが離れていく。 それを見届けたサットが、おもむろに口を開いた。
 「・・・彼女の両親が、ようやく理解を示してくれたんです」
 「え、お母さんのことを?」
 「ええ。 すまなかったと、お詫びの言葉までいただけて」
 「そうか、良かったな! おまえたちの説得がようやく聞き届けられたんだな」
目を輝かせ、まるで自分のことのように喜ぶアーティットに、なぜかサットは首を左右に振った。
 「実は、グレーグライさんが両親を説得してくれたおかげなんです」
 「え? グレーグライさんが? どうしてまた」
 「僕も知らなかったんですが、彼女のお父さんがサイアムポリマー社の総務課長だったんです。 それで、グレーグライさんがお父さんを説得してくれて・・・」
何という偶然だろう。 だがそれで納得がいった。 社長から直々に説得されれば、了承しないわけにはいかないだろう。
だが、ふと思った。 グレーグライは、サットのこの問題を知っていたことになる。 どうやって知ったのか?
 「・・・おまえ、グレーグライさんにこのことを話してあったのか?」
 「ええ。 色々話してるうちに悩みがあることを見抜かれてしまって。 でもまさか説得してくれるなんて思わなくて」
 「・・・・・・・・・」
グレーグライの心が、アーティットにはわかる気がした。 そして同時に、彼の胸の痛みも。
自分の息子が心を痛めていると知ったら、何とかしてそれを取り除いてやりたいと思うのが親心だ。 ましてやその原因が自分の部下にあるとなれば、必死で説得したのも頷ける。
反面、その悩みの元凶が自分でもあるという忸怩たる思い。 胸の中では、さぞかし臍を噛んだことだろう。
だが、不意に不穏な考えがアーティットの脳裏をよぎる。 まさか、グレーグライはサットに打ち明けたのだろうか。
自分が父親であることを・・・。
 「・・・グレーグライさんが説得してくれたのは、彼の部下だから・・・だよな?」
 「え、もちろんそうです・・・けど、他に何かあると?」
 「あ・・・いや、そうだよな。 悪い、なんか変なこと言った」
 「・・・?」
サットの様子を見る限り、グレーグライからは何も聞かされていないようだ。 ほっとする反面、冷や汗も出た。
危うく自分が暴露してしまうところだった。 幸い、サットは不思議そうな顔をしているものの、たいして気にしたようでもなかった。
心の中で胸を撫でおろしながら、笑顔を浮かべて話題を切り替える。
 「とにかく、これでもう障害はなくなったんだよな。 あとは結婚式の日取りを決めるだけだな」
 「はい、いま彼女とその話を進めてるところで。 まだいつになるかわりませんが、先輩も出席してくださいね」
 「ああ、喜んで。 だけど、今年はもう2組の結婚式に呼ばれてるんだよな。 祝儀貧乏になりそうだ」
 「そういえば、トード先輩たちも6月でしたね」
 「ああ。 あいつにも幸せになってほしいよ。 もちろん、おまえにもな」
 「先輩も、幸せになってください」
コングさんと、と小声で付け足すサットに、ぺろりと舌を出しておどける。 それが照れ隠しだとわかって、思わずサットが笑顔になる。 
 「あ、もうこんな時間だ。 オフィスへ戻ろう」
いつの間にかもう昼休みはあと5分しかなくなっている。 急いで飲み物の空き容器を片付けると、二人は速足でカフェルームを後にした。
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SOTUS・Season3(§163)

2021-09-15 21:01:27 | SOTUS The other side
外は、気持ちの良い快晴だった。 時折吹いてくるそよ風が、アーティットとコングの髪の毛を揺らしながら通り過ぎていく。
広大な庭園をしばらく散策していた二人は、木陰にしつらえられたベンチにゆっくりと腰を下ろした。
 「・・・おまえんちは豪邸だってわかってたけど、やっぱりすごいな」
ベンチから見渡せる庭と建物を眺めていたアーティットが、ため息まじりに呟いた。
 「確かに、家族3人で暮らすにはちょっと広すぎですね」
 「車も何台あるんだよ。 俺が知ってるだけで4台はあるだろ。 運転するのはおまえとお父さんだけなのに」 
 「俺のは1台だけですよ。 あとは父さんのものです。 社用車を置いてる時もあるし」
遠くに見えるガレージには、今は2台しか停まっていない。 2台とも、国産の高級車だ。 恐らく1台1000万円近くはすると思われる。
再びはぁ、とため息を吐いたアーティットが、ぼそりと零す。
 「・・・普段は忘れがちだけど、こういうのを見るとやっぱりおまえは御曹司なんだな」
 「父さんが裕福なんであって、俺はただその恩恵を受けてるだけですよ。 チェンマイに戻れば、ただのサラリーマンです」
 「でもいずれは会社を継ぐんだろ。 チェンマイでの色んな経験も、将来のための糧にすぎない」
 「アーティット先輩・・・」
先ほどから妙にネガティブめいたことを口にするアーティットを、コングがじっと見つめる。 その視線に気付いたアーティットが、気まずそうに俯いた。
 「・・・悪い、なんかつまんないことばかり言ってる。 おまえと過ごせる最後の日なのに」
小さく詫びるアーティットの様子を見て、コングの中である考えが閃いた。 
もしかして、離れ離れになるのが寂しいから拗ねている・・・?
 「・・・ねえ先輩。 俺と離れるのが寂しいんでしょ」
 「な・・・っ? なに言って・・・」
 「いいんです、何も言わなくて。 もう俺の中ではそういうことになってますから」
おそらくアーティット自身も自覚がなかったのだろう。 目を丸くしてコングを凝視している。
いや、心の奥底ではわかっていたのかも知れないが、それを認めたくないのかも知れない。
素直に「寂しい」と口にすることのできない不器用さが、アーティットらしくもある。
こっちを見据えたまま固まっているアーティットを、コングが包み込むように抱きしめた。
 「お、おい。 誰かに見られたら・・・」
 「誰もいませんよ。 それにここは監視カメラの死角だから大丈夫なんです」
 「監視カメラ?」
意外な言葉を聞いて、ふとアーティットがあたりを見渡す。 そう言われてみれば、そこかしこに監視カメラらしきものが散見できた。
 「すごいな、あちこちにある」
 「ええ、あとホームセキュリティも厳重です。 以前不審者が不法侵入して被害を受けたことがあって、それからセキュリティやカメラを強化しました」
何でもない口調でとんでもないことを言うコングを、信じられないものを見るような目でアーティットが見た。
 「被害って・・・」
 「パソコンや書類を盗まれました。 ライバル会社の仕業で、うちの会社の重要機密を手に入れようとしたみたいです」
 「・・・・・・・・・」
 「あ、でも大丈夫ですよ。 大事なものは何も盗まれませんでしたから。 それにうちの家族もちょうど留守だったので、人的被害もなかったし」
にっこりと笑いながら無邪気に話すコングを見ているうち、何だか夢の中の話みたいで現実味がなくなっていくのを感じる。
自分の周囲では起こり得ない出来事。 ここでもまた、自分とコングの見ている世界は違うと再認識してしまう。
思わず、アーティットがぎゅっとコングの体にしがみついた。
 「ん? どうしましたか」
 「なんか・・・おまえと俺の間に距離を感じて、不安になる・・・」
自分にしがみつくアーティットを見下ろしたコングが、戸惑いながら話しかける。
 「距離って・・・。 こんなに近くにいるのに」
 「そういう意味じゃなく、生きる世界が違うっていうか・・・」
小さく零れたその言葉を聞いて、とっさにコングがアーティットの顔を覗き込んで叫んだ。
 「先輩、なに言ってるんですか。 俺と先輩は同じ今を生きてる。 ほかの世界なんてありえない」
 「コングポップ・・・」
真剣な眼差しで強くそう諭すコングの豹変ぶりに驚いて、今度はアーティットが戸惑った。
 「いいですか、俺たちは何も違わない。 自分を卑下しないでください。 それに、あなたは俺にとっていつまでも憧れの先輩であり、愛しい恋人でもあるんです。 それを決して忘れないで」
間近で目を見ながらそう強く訴えられて、アーティットはもう何も言えなくなった。 コングの怒りと熱い想いが、同時に心の中に流れ込んでくる。
ふっと目を閉じたアーティットが、ぽつりと呟いた。
 「・・・ごめん、変なこと言って。 おまえの気持ちを乱すつもりはなかったんだ」
コングの語気は強かったが、それはすべてアーティットに向けられた愛情の裏返し。 それだけ、コングの愛が深いことの証でもある。
コングの胸に顔をうずめ、それきり黙ったアーティットへ、今度は静かな口調になったコングが語りかけた。
 「・・・いつか、結婚したい・・・」
 「え・・・」
 「あなたと、結婚したい。 一生そばにいてほしい。 あなたの未来を、俺だけのものにしたい」
 「コングポップ・・・」
コングの口から初めて紡がれた結婚という言葉。 自分をじっと見つめる慈しみに満ちた瞳とともに、アーティットの胸に深く沁み入った
 「でも、おまえは・・・」
開きかけたアーティットの口を、コングが指でそっと押さえた。
 「何も言わないで。 今だけは、否定の言葉は言わないでください。 偽りでもいい、どうか頷いてほしい」
 「コング・・・」
実現するはずのない夢。 それは充分わかっている。 だがそれでも今このひとときだけは、すべてを忘れて愛の誓いを立ててほしい。
そんなコングの切実な想いが、アーティットの心にもひしひしと伝わってきた。
改めてコングの目をじっと見つめ、ゆっくりとアーティットが頷く。 その瞬間、泣きそうな顔になったコングが、強くアーティットを抱きしめた。
 「ありがとう、先輩・・・! 愛してます・・・!」
自分を包み込むコングの体が小刻みに震えている。 アーティットはもう何も言わずに、その大きな背中を抱きしめ返した。
この幸せは仮初めだとわかっていても、二人は溢れ出る愛情をいつまでも分かち合っていた。 
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SOTUS・Season3(§162)

2021-08-29 21:58:04 | SOTUS The other side
週末の朝。 
アーティットがコング宅で過ごすのも、今日で最終日となる。 明日の月曜日から、コングの職場復帰が決まったからだ。
およそ2か月近くを実家で過ごしたため、持ち帰る荷物も大量だ。
大きなカバン2つを荷造りし終えたコングが、ふーっと深く息を吐いた。
今日の夜にはチェンマイに戻る。 仕事に復帰すれば、溜まりに溜まった仕事が山積していることだろう。 当分はバンコクへ帰省することはできないかも知れない。
もしかしたら、3月のエムたちの結婚式まで帰ってこれない可能性もある。
 「・・・・・・・・・」
床に置いたカバンを見つめながら、再度ため息を吐く。 またアーティットとしばらく会えない日々が続くと思うと、気が重くなった。
それと、もうひとつ。 ジェーンのことも気がかりだった。
1月初旬から中国へ出張しているが、2月に一度帰国してくると聞いている。 その帰国時期が、ちょうどコングが復帰してすぐのあたりになるらしい。
年末にあんな別れ方をしてから、彼女とは会っていない。
別にコングが悪いわけではない。 むしろコングは被害者であり、彼女に引け目を感じる必要は全くないのだが、それでも会えば気まずい思いをするだろう。
もしかしたら、また難癖をつけて突っかかってくるかも知れない。
そんなことを考えると、今から気が重くなる。 仕事は好きなだけに、その他のことに頭を悩ませなければならないのが煩わしい。
一人悶々としているコングの耳に、ドアをノックする音が響いた。
 「はい」
返事を返すと、ゆっくり開いたドアからアーティットが顔を見せた。
 「アーティット先輩」
アーティットの顔を見た途端、今までの気分の重さがぱっと消えてなくなった。 彼は、コングにとって本当に心の清涼剤であり、安定剤でもある。
自然と笑顔になったコングのそばへ来たアーティットが、隣へ静かに腰を下ろした。
 「・・・荷造りは済んだみたいだな」
床に置かれたカバンを見てぽつりと零れた言葉に、コングが頷いてみせる。
 「荷物がたくさんあったので、思ったより手間取りましたけどね」
微笑みながらそう話すコングに、アーティットがそっと手を差し出した。 手には何か握られているようだ。
 「・・・これ、大学時代の友達にもらったんだ。 疲れた時や気分が冴えない時に飲むといいらしい。 持っていけ」
そう言って、小さな缶をコングの手に乗せた。 どうやらサプリのようなものらしい。
 「ありがとうございます」
 「・・・・・・おまえが具合悪くなっても、チェンマイまで飛んで行くことはできないからな」
だから体調管理はしっかりしろ、と言ったアーティットが、さらに付け足した。
 「2ヶ月も休んでたから、復帰したらきっと仕事も忙しいだろう。 無理に帰省しなくていいから、休日はしっかり体を休めろ」
 「え、そんなの関係ないです。 休日には帰ってきますよ。 帰ってきたいんです」
首を左右に振りながらそう言うコングに、アーティットもまた首を振った。
 「往復10時間もかけて車を運転すれば疲れも大きい。 それに過労の状態で長時間運転したら、事故のもとにもなる」
 「でも、先輩に会いたいんです。 俺にとって先輩に会えることが、何より心の休息になるんですから」
自分の両手を握って必死にそう訴えるコングをじっと見つめたアーティットが、再び首を左右に振った。
 「アーティット先輩・・・」
コングの目に、落胆の色が浮かぶ。 それを見たアーティットがゆっくりと顔を近づけて、コングへと囁きかけた。
 「・・・俺が、会いに行く」
 「え・・・」
一瞬、コングが虚を突かれたような顔をした。 だが言葉の意味を理解した瞬間、ぱっと笑顔になる。
 「先輩が、チェンマイまで来てくれるんですか!?」
 「毎週ってわけにはいかないけど、会いに行くよ」
 「わぁ、嬉しいです!」
そう言うが早いか、コングが素早くアーティットを抱きしめた。
 「先輩、約束ですよ。 俺待ってますから」
嬉しさで、コングの声が上ずっている。 抱きしめる腕にも、自然に力が入った。
 「おい、苦しい。 力を抜けよ、窒息するだろ」
 「あ、ごめんなさい。 嬉しくて、つい・・・」
息苦しさのあまりコングの背中をパタパタと叩くアーティットに気付いて、慌てて力を緩める。 ふう、と大きく深呼吸するアーティットを見て少し申し訳なさそうに目を伏せた。
ふと脳裏に、先ほど考えていたジェーンのことが受かんだ。 コングの顔から、すっと笑顔が消える。
 「・・・どうかしたか?」  
表情の変化に気付いたアーティットが、窺うように問いかけた。 ちらりとアーティットを見たコングが、ためらいがちに口を開く。
 「・・・ジェーン先輩のことが気になって」
 「ジェーン? 彼女は中国に行ってるんだろ」
 「そうなんですが、もうすぐ一時帰国してくるらしいんです。 一週間くらいこっちにいるみたいで」
やや険しい表情でそう告げるコングを、アーティットがじっと見つめる。 目を伏せたまま、コングがぼそりと零す。
 「・・・彼女と、どう接したら良いかわからなくて・・・」
 「・・・・・・・・・」
コングの複雑な胸の内は、アーティットにもわかった。 いつかの、欺瞞に満ちたジェーンの笑顔が瞼に蘇る。
コングとアーティットの胸を思うさま搔き乱し、偽善者を装って薄っぺらい同情の言葉をつらつらと残した。
彼女のせいで、二人の関係に最大の危機をもたらした。 その罪は大きい。
 「・・・オフィスには、顔を出すのか」
 「ええ、おそらく。 帰国は休暇もあるけど、仕事もあるらしいので・・・」
オフィスに来るとなれば、顔を合わさずに済むのは難しい。 何しろ彼女の席は、よりにもよってコングの隣だ。
ジェーンのことを考えると、無意識に表情が沈む。 ふとアーティットを見ると、彼もまた思い詰めたような顔をしている。
バンコクで一緒に過ごす最後の日に、こんな顔をさせてしまったことを申し訳なく思ったコングが、ニッと笑って見せた。
 「すみません、気を煩わせてしまって。 気分転換に、ちょっと散歩でも行きませんか」
 「散歩?」
 「しばらくバンコクともお別れだし、外の景色を満喫したいんです。 ね、行きましょう」
 「お、おい」
アーティットの返事を待たず、コングが彼の腕を掴んで立ち上がる。 そしてそのまま歩き出した。
腕を引っ張られる形で、無理やりアーティットも外へと連れ出された。 
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