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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§176)

2023-03-21 22:13:23 | SOTUS The other side
いつの間にか、ふたたび眠っていたらしい。 部屋の外で誰かが話している声で、アーティットは目を覚ました。
まだぼんやりする頭のまま、カーテンから漏れる斜陽が目に入る。
部屋全体を温かなオレンジ色に染めるその光を見つめていると、徐々に意識が明瞭になってきた。
 「・・・!」
がばっと、それこそ音がするほどの勢いでベッド上に起き上がる。 とっさに腕時計を見ると、もう夕方の6時半だった。
一瞬、何が何だかわからなくなる。 
記憶にあるのは、プイメークが作ってくれたお粥をほんの少し食べ、それから鎮痛剤をもらって飲んだ。 それはまだ朝日が差し込む時間帯だったはずだ。
あれから数時間が経っているなんて、にわかには信じられない。 思わずアーティットが頭を抱えた。
だが、ひどかった頭痛と悪心が、今はすっかりなくなっている。 頭も妙にすっきりした気分だ。
鎮痛剤には少なからず傾眠薬が含まれているというが、それにしても何時間も意識を失ったように眠りこけてしまうとは。
ベッドサイドに置かれていたお粥の入っていた土鍋も、いつの間にか下げられている。 きっとプイメークが下げに来たのだろうが、それにも気づかずにいたということか。
思えば、最近は退職に向けて多忙な日々が続いていた。 夜も遅くまで、そして朝も早くから仕事づくめの日々だった。
次第に蓄積されていった疲労と睡眠不足に加え、とどめの深酒でついに体が悲鳴を上げたのだろうか。
なぜか因果応報という言葉が頭に浮かんだが、そんなことよりももっと重大なことを思い出した。
先ほど聞こえた話し声。 内容まではわからなかったが、一人はきっとプイメークだろう。
そして話していた相手。 それはもう、グレーグライしかいない。
そう思い至った瞬間、アーティットは脱兎のごとくベッドから抜け出し、勢いよく部屋から飛び出した。
 「――あ、アーティットさん。 気分はどう? 良くなった?」
ドアから廊下へ出たところで、プイメークがそう声をかけてきた。 続いて、グレーグライも話しかけてきた。
 「ゆっくり休めたかね」
二人からの言葉を受けて、アーティットは乱れた呼吸を速やかに整え、深々と頭を下げた。
 「すみませんでした、大変お世話をかけてしまって」
前後不覚になるほど泥酔し、意識を失った自分をプイメークに介抱させた挙句、二日酔いで仕事までも休むような体たらく。
合わせる顔がない、というのはまさにこのことだ。
そんなアーティットの心情がわかったグレーグライが、彼のそばまでやってきて肩をポンポンと叩いた。
 「顔を上げなさい、そんなに恐縮しなくていい。 まぁ気持ちはわかるが、完璧な人間などいないんだ。 若気の至りというのは、誰にでもある」
 「そうよ。 それに前にも言ったけど、私たちは家族同然なんだから、遠慮なんかしないで」
二人がかりで優しい言葉をかけられ、ますます恐縮してしまいそうになるが、それでもアーティットはゆっくりと顔を上げた。
 「――うん、すっかり顔色も良くなったわ。 これなら、夕食も一緒に食べられるわね」
満足げに頷きながらそう話すプイメークに、ぎこちなく微笑みを返す。
 「じゃあ私は夕食の準備の続きをしますね。 夕食が出来上がるまで、アーティットさんはもう少し休んでらっしゃい」
そう言い残して、プイメークが一足先に階下へ降りて行った。 その後に続こうとしたグレーグライの腕を、アーティットがとっさに掴んだ。
少し驚いた表情で振り向いたグレーグライの目に、真剣な目をしたアーティットの顔が映った。
 「――あの、グレーグライさん。 ちょっとお話が・・・」
一瞬アーティットをじっと見たグレーグライだったが、やがて目を細めて頷き、アーティットを伴ってドアが開け放しになっていたままの部屋へ入った。
ベッド上の乱れた布団を簡単に整え、二人は並んで腰を下ろした。
 「なんだね、話とは」
そう問いかけられ、アーティットがやや戸惑う。 自分から言い出したものの、やはり話すには勇気がいる。
だが、これ以上サットに対して嘘をつき通す自信がなくなった今、どうしても話さなければならないことだ。
ひとつ小さく息を吸ったアーティットが、覚悟を決めて口を開いた。
 「・・・あの、サットのことなんですが」
 「サットくん? どうかしたか」
 「実は、サットはあなたのことが気になってるようなんです」
 「気になっている・・・とは?」
まだアーティットが何を言おうとしているのかわからない顔のまま、グレーグライがそう訊き返す。 慎重に言葉を選びながら、アーティットが続ける。
 「あなたがなぜこんなに自分に良くしてくれるのか、ここまでしてくれる理由は何なのかと・・・」
反対していた恋人の両親への説得しかり、結婚式場の斡旋しかり・・・。
アーティットの話を聞くうち、グレーグライの表情が次第に険しくなってきた。
グレーグライにしてみれば、非公表とはいえ我が息子。 これまで何もしてやれなかった分、何とか力になってやりたいと思うのは親心として当然だ。
だが当のサットにしてみれば、ほぼ無関係の自分に大企業の社長がなぜここまでしてくれるのか、疑問に思うのもまた当然だろう。
自分の欲求を満たすことばかりに気を取られて、他に目が行っていなかったことに今さらながら気付く。
 「――昨日はサットからそんな話をされて、ついぎこちない態度を取ってしまって。 そしたらあいつに追及されて・・・何か知ってるんじゃないかと」
 「・・・・・・・・・」
 「知ってるなら教えてくれと強く言われて・・・それで、酒に逃げたんです。 酔っ払ってしまえば、どうにかなるかと」
バカですよね、と自嘲するアーティットを、グレーグライは笑えなかった。
サットにはいずれ真実を話すつもりでいた。 だがそれをずるずると先延ばしにして、結局まだ何も言えないままでいる。
それが裏目に出て、アーティットを困惑させることになったとは。
 「――すいません、俺嘘をつくのが苦手で・・・。 これ以上あいつに追及されたら、いつか話してしまいそうで・・・」
不器用で、正直な人間。 それがアーティットだ。 そんな彼だからこそ、コングのパートナーとして、そして家族としても受け入れた。
アーティットの言葉はそこまでで途切れたが、グレーグライにはその先の言葉が聞こえるようだった。
 「――わかった。 サット君には、明日にでも私からはっきり伝えるよ。 わたしのせいで、君に辛い思いをさせてすまなかったね」  
そう詫びるグレーグライを、慌ててアーティットが宥める。
 「いえ、そんな。 あなたの葛藤もよくわかります。 だけどいつか俺が口を滑らせてしまう前に、あなたの口から直接あいつに伝えてもらえたら、それが一番いいと思うので・・・」
 「ああ、そうだね。 これはわたしの問題だから、わたし自身で解決するのが当然だ。 悪いが、明日出社したらサット君の都合を聞いておいてくれないか?」
 「わかりました、聞いたらまた連絡します」
 「頼むよ」
グレーグライの中で、ようやく踏ん切りがついた。 結果がどうなろうと、すべて受け入れる覚悟もついた。
ちょうどその時、ドアの外から食事ですよとプイメークの声が聞こえた。
 「さ、行こう」
グレーグライに促され、アーティットが腰を上げる。 頷き合った二人は、ゆっくりと部屋を後にした。
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SOTUS・Season3(§175)

2023-02-25 22:50:42 | SOTUS The other side
翌朝。 アーティットの目覚めは、最悪なものだった。
携帯のアラームが、ひどく頭に響く。 普段は気にならない電子音が、今日はやたら攻撃的に耳をつんざいた。
布団から手だけを出し、いつもの定位置に置かれた携帯へと指を伸ばす。 が、そこには何もない。
まだアルコールが抜けきっていない脳ではあるが、それでも何かがいつもと違うことをぼんやり感じる。
そういえば、この布団もいつものものじゃない。 ふわふわとした上質の手触りは、普段自分が着ている使い古したものとは雲泥の差だ。
深く眉間に皺を寄せたまま、アーティットは恐る恐る目を開いた。
初めは霞んでいた視界が、ゆっくりとクリアになっていく。 やがてはっきりと目に映ったのは、自分の部屋ではない白く高い天井だった。
 「・・・・・・!」
がばっと、身を起こす。 するとその急激な動きで、猛烈な頭痛が襲いかかってきた。
 「~~~っ!」
両のこめかみを強く手で押さえ、どうにか痛みから逃れようとするが、混乱した思考も相まってさらに増悪する。
 「う・・・」
噛みしめた唇の端から、声にならない呻きが漏れた。 
きつく目を閉じてそのまましばらくじっとしていると、ほんの少しだけ痛みが薄らいだような気がした。
とはいえ、頭の中で割れ鐘をぐわんぐわん叩かれているような感覚は未だ収まらない。
とうとうアーティットは、現状を把握することを諦めた。 とにかく今はこの激しい頭痛をどうにかしないと、何も考えることができない。
再びベッドに身を横たえたアーティットは、頭の中の割れ鐘と耳鳴りの嵐にもみくちゃにされながら、もう一度眠りにつこうとした。


それからどれくらい経ったのか、ドアをノックする音でアーティットは目を覚ました。
 「アーティットさん、起きてる?」
ドア越しのその声は、コングの母プイメークのものだった。 そう悟った瞬間、ここはコングの家だということにようやく気付く。
 「アーティットさん、入るわよ」
なかなか返事がないことに痺れを切らしたのか、プイメークが部屋の中へ入ってきた。 慌てて身を起こしたアーティットに、プイメークが手で牽制する。
 「ひどい顔色だわ、まだ具合悪いんでしょう? いいから横になってなさいな」
そう言いながら、サイドテーブルの上に食事の載ったトレイを置く。
 「朝食よ。 食べられるようだったら食べて」
トレイには、湯気が立ち上るおかゆと茶碗蒸しが載っている。 どれもアーティットの好物だが、今はどう頑張っても食べられそうもない。
プイメークに対し申し訳ない気持ちが浮かんだが、それよりもなぜこんな状況になっているのか、その理由をまず知りたかった。
 「あの、俺はいったい・・・」
 「あら、覚えてないのね。 昨日、サットさんが泥酔したあなたをここへ連れてきたのよ」
 「サットが・・・」
そう言われて、ようやく昨夜のことが頭に浮かんだ。 サットの追及から逃れようと、ひたすら飲みまくったのだった。
だがその度が過ぎて、意識を失ってしまったらしい。
 「・・・・・・・・・」
恥ずかしさと情けなさ、後悔が一気に押し寄せてきて、アーティットは思わず顔を手で覆った。
 「・・・すみません・・・」
絞り出すようにそう詫びるアーティットを見て、プイメークがふわりと微笑んだ。
 「謝る必要なんてないでしょう、私たちは家族同然なんだから」
 「・・・ありがとうございます」
プイメークの優しい言葉が、胸に沁みた。 不思議なことに、気分の悪さまでも同時に癒されるような気がした。
ふと、カーテンから漏れる朝の光が目に入る。 その瞬間、アーティットがはっと我に返った。
 「え、今何時ですか?」
とっさにあたりを見回しながらそう問いかけると、7時半よとプイメークが答えた。
 「やばい、遅刻する!」
普段ならもう身支度も済んで出勤の準備をしている頃だ。 慌てたアーティットが素早く立ち上がろうとすると、激しい眩暈に襲われた。
 「危ない!」
足元がふらつき、そのまま頽れそうになるアーティットへ、プイメークが手を差し伸べる。
 「す・・・すいません」
 「こんな状態じゃ出社できないわ、今日はもうお休みしなさい。 私が連絡しておくから」
 「で、でも」
 「いいから、休んでいなさい」 
強くそう言われベッドへと戻されたアーティットは、もうそれ以上抗うこともできず、仕方なく横になった。
アーティットが大人しくなったのを見て、満足そうにプイメークが部屋を出て行こうとした時。 アーティットがふと問いかけた。
 「――サットは、なんでここに僕を連れてきたんでしょうか」
 「あなたの家を知らないからって言ってたわ。 でもうちに連れてきてくれて良かった。 こんな状態のあなたを一人で家に置いておいたら、心配で仕方ないから」
そう言って微笑みを残し、プイメークが静かに部屋を出て行った。
プイメークはああ言ったが、でもやはり迷惑をかけてしまったという後ろめたさは消えない。 だがアーティットの自宅を知らないサットにしてみれば、もうここしか思いつかなかったのだろう。
そもそもサットを責めるのは筋違いだ。 前後不覚になるほど泥酔した自分が一番悪いのだから。
 「・・・はぁー・・・」
一人になった部屋で、盛大なため息を吐く。 二日酔いで仕事を休むなんて、情けなくて笑えてくる。
そして二日酔いするほど飲んだ理由が、これまた情けない。 
こんなに自己嫌悪に陥るのは、久しぶりだった。 いい歳をした、分別のある大人のすることではない。 
 「――ふぅ・・・」
胸の中の淀んだ空気を残らず吐き出すように、アーティットは深く深く息を吐いた。
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SOTUS・Season3(§174)

2023-01-29 00:10:14 | SOTUS The other side
下心は、あった。
サットからの追及をどうにか逃れたくて、アーティットはとにかく酒をあおりまくった。
シラフのままだと、真実を隠し通せる自信がなかった。 酔っ払ってしまえば、サットも諦めるだろうという目論見があった。
その姑息な作戦はどうやら成功したようだが、いささかやりすぎたようでもある。
 「――先輩、大丈夫ですか? 立てますか?」
 「ん~大丈夫・・・」
そうは言うものの、テーブルに突っ伏したまま一向に立ち上がる気配のないアーティットを見て、呆れ顔のサットがため息をこぼした。
 「全然大丈夫じゃないでしょう。 ほら、俺に掴まってください。 帰りますよ」
 「だぁいじょうぶだって」
アーティットの腕を取って肩にまわそうとすると、アーティットがいやいやをするように首を左右に振り、サットの腕を振り払おうとする。
 「無理ですってば。 一人じゃ歩けませんよ」
 「そんなことない! ほら、見てみろ」
完全に腕を振り払ったアーティットが、いきなり立ち上がった。 が、それも一瞬で、すぐに膝から頽れてしまう。
 「ほら、危ない! もう素直に認めてくださいよ」
床に倒れそうになったところを、すんでのところでサットが抱き留めた。
 「う~・・・世界が回ってる・・・なんでだ?」
 「飲みすぎです。 先輩の目が回ってるんです」
きつめの口調でそう言い切ってみるが、腕の中のアーティットには効き目がなさそうだ。 
まだ往生際悪くサットの腕から逃れようともがいてはいるが、もう四肢に力が入らないようで、難なくサットがその抵抗を封じた。
 「・・・これがあのアーティット先輩だなんて。 会社の人たちが見たら信じられないだろうな」
いつも熱心で、真面目に仕事に取り組む。 少々口は悪いが面倒見が良く、同僚や後輩から頼りにされている。 上司からの信望も篤い。
そんなアーティットの、知られざる側面。 彼のこんな面を見られるのが、サットは少し嬉しくもあった。
だが、サットは気付いていた。 アーティットがこんなに泥酔したのは、自分の質問から逃げるためだということを。
その事実が、もうすでにアーティットが真実を知っていることの証明でもあった。
 「・・・・・・・・・」
腕の中のアーティットを見る。 上気した赤い頬を無防備に晒し、目を閉じて寝息を立てている。
彼は、いったい何を知っているのだろうか。 こうして頑なに隠そうとするのはなぜなのか。
訊きたいことはいくつもある。 だが、今の彼はもう夢の中だ。
 「・・・仕方ないな・・・」
低く呟いて、サットはアーティットを背負ってゆっくりと店を出た。
しかし大通りまで来たところで、ふと気づく。 アーティットの自宅を知らないことを。
 「まいったな・・・」
背中のアーティットに尋ねようにも、もう完全に熟睡している。 しばしどうすべきか迷っていたが、不意に何か思いついたのか、サットがポケットからスマホを取り出した。
 「――あ、グレーグライさんですか? サットです。 夜分に申し訳ありません。 実は・・・」
以前アーティットがコング宅にいたことを思い出し、ひとまずグレーグライに連絡をしてみた。 事情を説明すると、連れてくるようにとのことだった。
電話を切ったサットは、すぐにタクシーを掴まえに急いだ。


 「――よく連絡してくれた。 すまなかったね」
 「いえ、こちらこそ突然すみません。 アーティット先輩の自宅がわからなくて、どうすればいいか悩んでたんですが、以前こちらに住んでいたのを思い出したので」
 「ああ、アーティットくんは家族同然だからね。 コングポップがいなくても、ここに住むように何度も言ってるんだが、なかなかうんと言ってくれなくてね」
 「・・・先輩らしいですね」
そうやって二人がしばし玄関先で立ち話をしていると、不意に背中のアーティットが身じろいだ。
 「先輩、目が覚めましたか?」
肩越しにそう声をかけてみるが、返事はない。 再び規則正しい寝息が聞こえてきて、サットとグレーグライが顔を見合わせて苦笑いした。
 「――ひとまず、ここへ寝かせてくれるかね」
そう言ってリビングのソファを示すグレーグライに頷き、サットがゆっくりとアーティットを下ろす。 それでもまだ目覚める気配はない。
 「・・・よく眠ってるな」
小さくそう呟いたグレーグライに、サットも笑顔で同調する。
 「しかし、彼がこんなに泥酔するなんて珍しいな。 明日は仕事だろうに」
ふと零れたグレーグライの言葉に、サットの表情が曇る。 アーティットの寝顔を見下ろしているグレーグライを、じっと見つめる。
どうして、こんなに自分に良くしてくれるのか。 なぜここまでしてくれるのか。
その疑問を、目の前のグレーグライ本人にぶつけてみたい衝動に駆られる。 思わず拳を握りしめたサットが、口を開いた。
 「――あの、グレーグライさん。 お聞きしたいことが」
 「ん? なんだね」
穏やかな笑みを湛えてサットを見るグレーグライを、サットもまた見る。 しかし、次に続く言葉がどうしても出ない。
なぜなのか、と訊くだけ。 ただそれだけなのに、喉の奥に何かが詰まったように声が出ない。
 「・・・どうした?」
そんなサットに、不思議そうな顔でグレーグライが問いかける。 とっさに、口から言い繕う言葉が滑り落ちた。
 「あ、いえ。 なんでもありません。 じゃあ僕はこれで失礼します」
 「サットくん? 何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」
 「いえ、ほんとに。 明日も仕事なので、失礼します。 先輩をよろしくお願いします」
そう言い終わらないうちに立ち上がったサットが、素早く一礼して部屋を出て行く。 しばし呆気に取られてその後姿を見つめていたグレーグライが、我に返ってすぐに後を追ったが、もう彼の姿はどこにもなかった。
 「・・・・・・・・・」
開け放たれた玄関のドアから、闇に広がる広大な庭を見つめながら考える。
彼は何を言おうとしていたのか。 そして、なぜ言わなかったのか。 アーティットの泥酔と、何か関係があるのだろうか。
 「・・・・・・・・・」
ドアを閉めながら、首を小さく左右に振る。 また彼が言いたくなった時に、話してくれるのを待つしかない。
そう自分に言い聞かせて、グレーグライはリビングへと戻った。
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SOTUS・Season3(§173)

2022-12-22 23:49:59 | SOTUS The other side
まもなく退職するアーティットは、連日トードとサットへの業務引継ぎのため残業の日々が続いていた。
だが今日はトードが急用で1時間ほど前に帰宅したため、今は室内にアーティットとサットの2人だけになっている。
チラリと時計を見たアーティットが、引継書に目を落としているサットへ声をかけた。
 「——今日はここまでにしよう」
その声で顔を上げたサットとアーティットの目が合う。
 「え、でも」
腕時計を見たサットが戸惑っている。 時刻は午後7時半、いつもならまだまだ残業の真っ最中だ。
 「今日はサットももういないし、明日また続きをやればいいから。 まだ退職日まで1週間あるし」
そう言いながらデスク上を片付け出したアーティットを見てしばし思案したサットだったが、ふと何か思いついたのか、わかりましたと答えて同じく帰り支度を始めた。
 「——先輩、この後何か予定ありますか?」
退室するため照明を消そうとしたアーティットに、サットがそう尋ねた。
 「え? 特にないけど」
 「じゃあ、食事して行きません?」
意外な提案を受けて、思わずアーティットが驚く。 サットからこんな誘いを受けるのは珍しい。
 「珍しいな、おまえからそんなこと言うなんて。 いいぞ、どこへ行く?」
 「どこでもいいですけど、落ち着いて話せるところがいいかな」
 「落ち着いて話せる・・・」
いつもアーティットが行くのは賑やかで活気に満ちた店が多いせいか、サットの言うような店がすぐには思い浮かばない。
 「日本料理店はどうです? ちょっと歩きますけど、大通り沿いに雰囲気の良い店があるんですよ」
 「そうなのか? じゃあそこでいい」
相槌を打ちながらそう答えたアーティットを見て、じゃ行きましょうと微笑んだサットが声をかけた。


 「――へえ、こんな店があったんだ」
20分ほど歩いたところに、【えにし】と日本語で書かれた店があった。 麻布製ののれんをくぐると、ほのかに檜の香りが鼻をくすぐる。
少し照明を落とした店内は、程よい落ち着き感があった。 店員に席へ案内されながらあたりを見回しているアーティットへ、サットが小声で話しかける。
 「彼女と時々来るんです。 彼女も日本料理好きなので」
 「俺も日本料理は食べるけど、もっぱらスキヤキかシャブシャブばっかりだ」
 「確かにスキヤキもシャブシャブも美味いけど、ここの魚料理は絶品ですよ」
静かな店内に響かないよう声のトーンを落として会話をしていると、席に到着した。 どうやら個室のようだ。
引き戸を開けた店員に席へ促されながら、サットが告げる。
 「先輩、ここは俺のおすすめを味わってほしいので、オーダー任せてもらえますか?」
 「ああ、任せるよ」
 「じゃあ、懐石を2つお願いします」
オーダーを受けて、店員が静かに立ち去って行った。 引き戸が閉められると、完全にプライベート空間のようになる。
なるほど、ここなら落ち着いて話すにはぴったりだ。
ふとここを選んだサットの思惑が気になったアーティットが、対面に座るサットへ問いかけた。
 「・・・なあ、もしかして何か話があるんじゃないのか? そのためにここを選んだとか」
確かに落ち着くしな、と付け足すアーティットを、じっとサットが見つめた。 やはりアーティットは勘が良いと改めて思う。
 「・・・実は、そうなんです。 ちょっと相談というか・・・。 先輩の考えを聞きたくて」
 「話してみろよ」
そう促されたサットが、手元の湯飲みのお茶をひと口飲むと、おもむろに口を開いた。
 「――グレーグライさんのことなんですが」
 「えっ」
湯飲みに手を伸ばそうとしていたアーティットの動きが、一瞬止まる。 思わず目の前のサットを凝視するが、アーティットの視線に気付いているのかいないのか、やや目を伏せたまま言葉を続けた。
 「どうして俺にこんなに良くしてくれるのか、その理由がわからなくて・・・」
ぼそりと呟くサットの表情は、少し困惑しているようにも見える。 激しくなった鼓動が、アーティットの耳の奥で拍動している。
まさか、グレーグライが父親だということを知ってしまったのか・・・?
だがそれにしては、サットの態度が落ち着きすぎている気がする。 本当に知ったとしたら、もっと動揺するのではないだろうか。
今の彼の様子は、驚きや衝撃ではなく、戸惑っているように見えた。
 「・・・良くしてくれる、って・・・?」
未だ収まらない動悸に苛まれながら、慎重にアーティットが尋ねる。 すると言葉を選びながら、サットが答えた。
 「今年の秋に彼女と結婚することが決まったんですが、結婚式場をグレーグライさんが斡旋してくれたんです」
 「斡旋?」
 「ええ。 サイアムポリマー社の子会社が経営してる式場らしくて、無料で使わせてくれるって」
 「無料・・・」
 「彼女の両親への説得だけでも充分ありがたかったのに、この上式場まで・・・。 なぜここまでしてくれるのか、俺にはわからないんです」
ため息まじりにそう吐き出すサットに、アーティットが少し同情した。 
グレーグライにしてみれば、自分の血を分けた子供にできる限りのことをしたいという一心なのだろう。 しかし何も知らないサットにしてみれば、身に余る厚遇は逆に困惑するだけだ。
経営者としては超一流のグレーグライも、こういうことには不器用らしい。 思わず苦笑いが漏れた。
 「・・・きっと、コングポップを助けてくれた恩を感じてるんじゃないか」
 「確かに、グレーグライさんもそう言ってました。 でもそれを言うなら、あの時トードさんも一緒にいたのに、なぜ俺だけにって思って」
 「・・・・・・・・・」
当然の疑問に、アーティットも言葉を喪う。 サットへの気持ちが先走りすぎて、つい後先を考えずに言ってしまったのだろうか。
 「――もしかして、母さんのせいかな」
 「えっ?」
ふと呟かれたその言葉に、アーティットがぎょっとする。 なぜ唐突にサットの母親のことが出てくるのか?
アーティットの心の疑問に答えるように、サットが説明を加えた。
 「母さんとグレーグライさん、高校時代の同級生なんだそうです。 前に俺を自宅へ送り届けてくれた時に、母さんを見たグレーグライさんがそう言ってました」
 「同級生・・・なるほど」
 「でも、たかが同級生の息子にそこまでするわけもないか・・・」
独り言のようにそう零すと、再びサットの表情が曇る。 腑に落ちる答えが出ないまま、しばらく沈黙が続いた。
すると、不意にサットがアーティットを見た。
 「先輩、どうかしましたか? なんかさっきから少し様子が変ですよ」
 「え、変、って」
不意打ちを喰らったアーティットが、絵に描いたように狼狽える。 ますます怪訝そうな顔になったサットが続ける。
 「なんでそんなにキョドってるんです? もしかして、何か思い当たることでもあるんですか?」
 「え、いやその」
 「知ってるんだったら教えてください。 わけがわからないままグレーグライさんの好意に甘えたくないんです」
 「それは・・・その」
必死でこの場を取り繕う言葉を探すが、いかんせん不器用なアーティットには何も思い浮かばない。 じっと自分を見据えるサットの目が、心の奥底まで見透かすように思えた。
万事休す、の心境になりかけたアーティットの耳に、失礼しますという店員の救いの声が聞こえた。
 「お待たせいたしました、前菜でございます」
音もなく開けられた引き戸から入ってきた店員が、手に持った脇取盆から前菜の載った器を二人の前へ静かに並べる。
 「ほ、ほら、料理がきたぜ。 とりあえず、食べよう」
そう言うが早いか、素早く箸を手にしたアーティットが、下手なセリフを読むようにそうまくし立てる。
強制的に話を逸らされたサットは、密かにため息を吐きつつも、仕方なく箸に手を伸ばした。
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SOTUS・Season3(§172)

2022-11-04 16:46:05 | SOTUS The other side
 「――あの、ダナイさん」
部長室のドアに手を掛けようとしていたダナイが、背後から聞こえた声に振り返った。
 「ちょっと・・・いいですか」
そこには神妙な顔をしたアーティットが佇んでいる。 一瞬そんな彼を不思議そうに見たダナイだったが、ふと真顔になってゆっくり頷いた。
 「ああ、入りなさい」
ドアを開け広げてアーティットに入室を促し、その後に続いたダナイが、後ろ手にドアを閉めた。
部屋の中央に置かれた応接セットに向かい合って腰を下ろし、ダナイとアーティットが正面から対峙する。
 「・・・・・・・・・」
少し緊張したような面持ちのアーティットが、何かを言おうと口を開きかけては言葉を呑み込む。 そんなことを幾度か繰り返している間、ダナイはただじっと待っていた。
やがて覚悟を決めたのか、大きく息を吸ったアーティットがおもむろに口を開いた。
 「――あの、ダナイさん。 突然なんですが、僕・・・このオーシャンエレクトロニック社を退職しようと思うんです」
一気に胸の内を告白したアーティットが、真摯な目でダナイを見る。 
突然の宣言に驚き、そして困惑すると思っていたが、予想に反してダナイの表情は穏やかなままだった。
そんな彼の意外な様子にアーティットが戸惑っていると、ダナイが静かに言葉を紡いだ。
 「・・・ようやく、決断できたみたいだね」
 「え?」
さらに意外な言葉を発するダナイを、呆気にとられたようにアーティットが見た。 そんな彼の胸中を察したダナイが、諭すように説明を始める。
 「実は、サイアムポリマー社のグレーグライ社長から話があってね。 アーティットにサイアムポリマー社へ来てほしいと打診しているところだと」
 「え・・・」
 「君を、コングの伴侶として迎えたいと。 公私ともにコングの支えになってほしいとね」
 「・・・・・・・・・」
思わずアーティットは言葉を喪った。 まさかグレーグライが直々にそんな話をしていたなんて、思いもしなかった。
 「オーシャンエレクトロニック社には申し訳ないと思うが、前途ある二人のためにどうか容認してもらえないだろうか・・・と」
 「グレーグライさんが・・・」
 「ここへ来られて、深々と頭を下げてそうお願いされたよ」
その言葉に、アーティットはさらに目を見開いた。 あの誇り高いグレーグライが、自分たちのためにそこまでするなんて。
 「・・・・・・・・・」
たまらず、アーティットが目を閉じた。 胸に押し寄せてくる感動に似た気持ちに、目の奥が熱くなる。
だが一方で、ダナイをはじめオーシャンエレクトロニック社に対して、申し訳ない気持ちもあった。
自分の極めてプライベートなことで、この会社に迷惑をかけることになるからだ。
 「・・・申し訳ありません」
不意に謝罪の言葉を述べ頭を下げるアーティットを見て、ダナイが驚く。
 「どうして謝罪を? きみの幸せのためなんだから、私たちは喜んで送り出すよ」
 「私的なことで、皆さんにご迷惑を・・・」
頭を下げたまま、申し訳なさそうに小さくそう話すアーティットに、ふっと微笑んだダナイが語りかける。
 「・・・実は、私の息子も同じでね」
 「え?」
ふと顔を上げたアーティットと、ダナイの目が合う。
 「私としてはわが社に入ってほしかったんだが、スポーツジムに就職することになってね」
 「え、それはまたどうして・・・」
 「息子の恋人がジムを経営してて、その手伝いがしたいからだそうだ」
息子とは、つまりダーのことだろうか。 そして確かテイウはジムを経営していたはずだ。 ということは・・・。
 「・・・もしかして、ダーとテイウのことですか?」
アーティットの口からテイウの名前が出て、ダナイが驚いた顔になる。
 「テイウ君のことを知ってるのか?」
 「ええ、大学時代の友人なんです。 ダーとそういう関係なのは、薄々感じてました」
 「そうだったのか・・・まったく世間は狭いね。 まぁそういうわけで、ダーは来年大学を卒業したらテイウ君のジムに就職するんだ」
 「そうなんですか・・・」
いつかブライトの店で見た二人の様子を思い出す。 あの時はまだ恋人というほどの雰囲気ではなかったが、それでもお互い惹かれ合っているのは感じたものだ。
あれから数ヶ月、二人はしっかりと愛を築いていたと思うと、アーティットの胸が温かくなった。
ここのところ色々多忙で、なかなかテイウとも会えていない。 そんな中、こうして偶然にも彼の近況を知ることができて、嬉しくも思う。
しかし反面、いくら息子の希望とはいえ、大企業への就職より個人経営のジムを選んだダーをダナイはどう思っているのだろうか。
父親としては、複雑な気持ちだったのではないだろうか。
だがそんな危惧は、ダナイの次の言葉ですべて消え去った。
 「・・・私は何よりも息子の幸せを望んでいる。 たとえ将来が不安定だろうとも、息子が選んだ道を応援したい。 辛いことや苦しいことがあったとしても、愛する人と一緒なら、きっと乗り越えていけると思う。 それに、それもまた人生経験だからな」
まっすぐアーティットを見てそう告げるダナイの目は、あくまで真摯だった。 それがダナイの心からの気持ちだということが強く伝わってきて、もうアーティットは何も言えなかった。
親が子を思う気持ち。 時にはお互い激しく衝突することがあったとしても、その根底にはいつも子供の幸せを願う親心があるはず。
ふと、アーティットの胸に一抹の寂しさが漂う。 自分にはそんな風に思ってくれる父親はもういない。 母親は健在だが、今は遠く離れて暮らしている。
ダナイやグレーグライという父を持つダーとコングが、少し羨ましく思えた。
だが、いつかグレーグライがくれた言葉。
『私のことは父さんと呼んでくれ。 きみのことは本当の息子のように思っている』
この言葉を思い出すたび、自分にはこんな素晴らしい父親ができたんだと感無量になる。 こんな自分を息子と言ってくれるグレーグライに、精一杯の恩返しをしたいと思う。
グレーグライが一番望んでいるもの。 それは、やはりコングの幸せと会社の繁栄だろう。
そのために自分がすべきことは、やはり・・・。
 「・・・ダナイさん。 僕のわがままを聞いていただき、ありがとうございます。 これからはここで培った経験を糧に、コングとともに頑張っていきます」
 「ああ、それがいい。 それで、退職の時期はいつにする?」
 「そうですね・・・グレーグライさんとも相談して、また報告させてください。 少なくとも、僕の業務をきちんと引き継ぎしてからにしたいと思ってます」
 「わかった。 じゃあまた決まったら教えてくれ」
 「はい」
しっかりそう答え、深く頭を下げるアーティットを満足そうに見たダナイが、ゆっくりと立ち上がった。 それに伴い、アーティットも立ち上がる。
そして二人は、部長室を後にした。
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