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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§181)

2023-08-27 01:35:09 | SOTUS The other side
久しぶりにゆっくり食事と会話を楽しみ、身も心も満足したアーティットとコングは、宵闇の中車を走らせながら心地良い夜風に吹かれていた。
「・・・先輩、相変わらず窓を開けて走るのが好きですね。 エアコンの方が涼しいのに」
助手席で気持ちよさそうに風を受けているアーティットへ、ステアリングを操作しながらコングが話しかける。
「海辺や川の近くを走る時だけだよ。 水の近くの風が気持ちいいんだ。 街中はいつも渋滞してて空気が悪いし」
そうは言うものの、ここタイは常夏の国。 夜とはいえまだまだ暑さは健在だ。 コングとしてはエアコンの涼しい空気が恋しい気分だが、隣で快適そうな顔をしているアーティットを見ていると、やはりここは諦めざるを得なさそうだ。
「・・・着きましたよ。 降りましょう」
橋詰にあるパーキングスペースに車を停め、コングとアーティットは車を降り立った。 
肩を並べて二人欄干にもたれる。 川面から吹き渡ってくる風は少し冷気を孕んで、汗ばんだ肌に心地いい。
「・・・先輩、髪の毛が乱れてますよ」
少し強めの風がアーティットの前髪を弄んでいることに気付いて、コングがそう言いながら手を伸ばす。 意外と柔らかな髪の感触を味わい、そっと整える。
コングの手を遮ることこそしないが、それでも少し居心地悪そうにもぞもぞと身じろぎするアーティットの様子を見て、コングがふっと笑う。
「――何年経っても先輩は変わりませんね。 いつだってウブでシャイで・・・可愛い」
微笑みながらそう呟いたコングが、急に顔を近づけてアーティットの耳元へ小声で囁いた。
「ベッドの中ではあんなに淫らで色っぽいのに」
吐息めいたその囁きに、瞬時にしてアーティットの耳が真っ赤になる。 同じく頬も紅潮させて、わかりやすく狼狽えた。
「おまっ・・・! こんなとこで何言って・・・!」
「こんなとこで? じゃあ誰もいないところならもっと俺の本音を言っていいですか?」
「あのなぁ・・・」
顔を真っ赤にしながらも、呆れたような口調でごちる。 だがコングには、そんなアーティットの素振りが照れ隠しからくるものだとわかっていた。
そして当のアーティットも、そんな自分の心の中を見抜かれていることに気付いていた。 こんな応酬はもういつものことだからだ。
そうして何度も繰り返してきた甘いルーティンを今また味わいながら、コングがふっとアーティットから視線を外して、暗い川面の果てを見つめた。
「・・・ここで、初めて先輩が俺にキスしてくれたんですよね。 あれから何年経つんだろう・・・」
巨大な吊り橋が美しくライトアップされ、天高くそびえる支柱から伸びる幾本ものワイヤーが放射状に広がっている。 そんな光景を見渡したアーティットが、しみじみとした口調で頷いた。
「あの頃はまだ俺たちは学生だったな。 おまえはまだ大学1年で・・・」
若かったよな、と懐かしそうに目を細める。 その横顔と当時の面影を重ねたコングが、不意にアーティットの肩を抱き寄せた。
「――コングポップ?」
少し驚いたアーティットが、間近にあるコングの顔を見て名を呼ぶ。 
「・・・先輩、今もまだ俺信じられないんです。 先輩が俺とともに生きる道を選んでくれたことが」
「コングポップ・・・」
「あなたが、俺のために自分の生き方を変えてくれるなんて。 こんな奇蹟が起きるなんて」
「・・・・・・・・・」
自分を見つめるコングの目のまっすぐさが胸に響いて、アーティットの胸が震えた。 込み上がってくる言葉にならない思いに耐えられず、コングから視線を外して大げさだよと小さく呟くのが精いっぱいだった。
「大げさなんかじゃありませんよ。 心の底からそう思ってます。 ただ欲を言うなら、一番俺のそばで支えてもらえる秘書になってほしかったですけど」
コングのその言葉に、小さくアーティットが反応した。
「それは・・・」
「わかってます。 先輩の性格を知ってるから、用意されたポストにただ安穏と座るわけないって」
「・・・・・・・・・」
アーティットの脳裏に、先日のグレーグライの言葉が蘇る。
サイアムポリマー社へ来たからには、当然アーティットにはコングの片腕となる部署に所属してもらうつもりでいた。 事実、秘書課に彼のデスクもすでに用意してあった。
だが予想に反し、アーティットはそれを固辞したのだ。
『なぜだね? コングポップを支えてくれると言ったじゃないか』
『はい、言いました。 けれどそれは、俺の働きぶりを直接見てもらったうえで、グレーグライさんの目に適うと判断してからにしてほしいんです』
『わたしの・・・』
『もともと俺はモノづくりに携わる仕事がしたくて、オーシャンエレクトロニック社に入りました。 それは今も変わってません。 だからこれからは、サイアムポリマー社でその力を発揮したい』
『・・・・・・・・・』
『そして俺の力がサイアムポリマー社に必要だとあなたに認めてもらえたなら、その時はコングポップの補佐として働かせてください』
『アーティットくん・・・』
真摯な目をしてそう訴えるアーティットの気持ちは、グレーグライにも強く伝わった。 
自分の力が、能力が、本当にサイアムポリマー社の発展に寄与するのか。 寄与することを証明できるまで、コングの補佐はできないという確固たる意志。
恋人という立場だけで、大企業のトップの直近に胡坐をかくことはできない。 そのポジションにふさわしいと認められるまでは。
何事にも真面目で真剣なアーティットらしいと思った。
『・・・わかった。 正直残念な気持ちはあるが、きみの意志を尊重しよう。 ひとまず製造部に配属してもらうことにするよ』
『本当ですか? ありがとうございます!』
『試用期間は1年間としよう。 その間きみの働きぶりを見せてもらう』
『わかりました。 わがまま言ってすみません』
『その代わり、1年後わたしがコングの補佐にふさわしいと判断したら、その時はもう異論は言わせないからね』
『はい、わかりました』
張りつめていたアーティットの表情が、ぱっと明るい笑顔になる。 それにつられてグレーグライも笑顔を浮かべた。
「――先輩、アーティット先輩?」
いつしか感慨に耽っていたらしい。 隣で何度も名前を呼んでいたらしいコングの声が、ようやくアーティットの耳に届いた。
「あ?」
「急に黙りこくっちゃってどうかしたんですか?」
「いや、ちょっと考え事してて・・・すまん。 で、何だった?」
「もう21時をまわったし、そろそろ行きましょうかって言ったんです」
「そうか、もうそんな時間か・・・。 うん、行くか」
そう言って二人は橋を後にし、車へと歩き出した。
「先輩の部屋へ行くの、久しぶりですね」
「そうだな。 忙しかったから掃除してないぞ」
「先輩いつもそう言うけど、そんなに散らかってないですよ」
他愛のない会話を交わしながら、車へと乗り込む。 やがて車は、アーティットのアパートへ向けて走り出した。
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SOTUS・Season3(§180)

2023-08-17 01:20:40 | SOTUS The other side
大きな花束を抱えたアーティットが、アパートのドアを開けた。
室内に入り、ゆっくりとベッドに花束を置く。
オーシャンエレクトロニック社で過ごした4年間は、長かったようでもあり短かったようでもある。
いずれにしても、今日ですべてが終わった。 オーシャンエレクトロニック社の社員という肩書は、明日からはもうない。
 「・・・・・・・・・」
社員代表としてアースから手渡された花束をじっと見つめる。
アーティットの退職を、購買部のメンバーはもちろん、製造部長であるヨンも駆けつけて盛大に祝ってくれた。
再び製造部へ戻るというヨンとの約束を果たせなかったことを詫びると、豪快に笑いながらヨンが言った。
『そんな小さいことは気にするな。 今度はサイアムポリマー社社員として、再び顔を合わせることもあるだろう。 その時はまたよろしくな』
そう言いながら明るく笑ったヨンの笑顔が瞼に残る。
アースもソムオーもトードも、みんな明るい言葉をかけてくれた。 だがサットだけは、背中を押す言葉をくれた後、少しだけ本音を漏らした。
『・・・寂しくなります。 もうここで先輩に教えてもらうことはないんだって思うと、とても・・・』
そう呟いて思い詰めたような表情を浮かべるサットを見て、思わずアーティットの胸も締め付けられた。
それまで堪えていたものが、それをきっかけに溢れ出てしまいそうになるのを必死で抑える。
自分で決めたこととはいえ、やはりオーシャンエレクトロニック社を去るのは寂しい。 できることなら、このままここで働き続けたかったという思いが残る。
だが、もうすべては動き始めている。 ここで立ち止まって過去を振り返り現在を憂う暇などないのだ。
心に喝を入れたアーティットは、強い眼差しでサットに言葉をかけた。
『何を言ってる。 もうおまえは一人前だ。 俺が教えることはもう何もない。 自信を持てよ』
ニッと笑ってサットの肩を叩くと、感極まったのかサットが抱きついてきた。 これにはアーティットも驚きを隠せなかった。
『お・・・おい、子供じゃあるまいし・・・』
『少しだけ・・・少しだけ、こうさせてください・・・』
アーティットの肩に顔を埋めてそう呟くサットの声がかすかに震えている。 薄いシャツ越しに、涙が浸み込むのがわかった。
突然のことに戸惑っていたアーティットだったが、サットの熱い気持ちを知って、もうそれ以上何も言わず彼の気が済むまで好きなようにさせた。
だがしばらくすると、何か思い出したように素早くサットがアーティットから離れた。
『すいません、こんなことしてたらコングさんに叱られますね。 先輩、内緒にしといてください』
『な、なに言ってんだおまえ』
いきなりコングを引き合いに出されて、激しく狼狽える。 するとすかさずトードが冷やかしの言葉を投げ、さらにソムオーが嬉しそうに追い打ちをかけ、そしてそんな様子を呆れ気味にアースが見守る。
こんないつものルーティンも、これが最後だ。 そう思うと、さすがのアーティットも寂しさを隠しきれなかった。
神妙な面持ちになったアーティットが、みんなに対して感謝の言葉を述べる。
『・・・これまで、本当にありがとうございました。 ここでみなさんに教えてもらったこと、してもらったこと、俺は忘れません』
ありきたりの言葉だったが、それでもアーティットの気持ちはしっかりと皆に伝わった。 誰からともなく拍手が沸き起こり、泣き笑いのような顔で皆がアーティットを送り出してくれた。

RRRR・・・

花束を見つめたまま感慨に浸っていたアーティットの耳に、スマホの着信音が飛び込んできた。 
滲みかけていた涙をぐいっと拭い、スマホを手に取る。 着信は、コングだった。
 『――先輩、もう帰ってきましたか?』
 「ああ、ついさっきな」
 『お疲れ様でした。 みんなに言葉をかけられて、泣きませんでした?』
目をこすっていたアーティットの手が思わず止まる。 まるで今の自分を見透かされたような気恥ずかしさを感じ、反射的に激しく否定する。
 「ばっ・・・馬鹿言うな! 俺が泣くかよ」
 『あーはいはい、泣かなかったんですね、エライエライ』
完全に見抜いているらしく、半分からかうような口調でコングがあしらう。 その態度が癪に障ったが、これ以上無駄口を叩くとさらに墓穴を掘るような気がして、アーティットはそれ以上何も言わず黙った。
 『――あれ、怒りました? すいません、今日は先輩のハレの日なのに余計なこと言いましたね』
 「・・・まったくだ。 そんなことより、おまえもうこっちに着いたのか?」
 『ええ、俺もついさっき家に着いたところです。 もう少ししたら迎えに行きますね』
 「わかった、じゃあ今からシャワー浴びるよ。 1時間後くらいに来てくれ」
 『わかりました』
通話を終えたアーティットの顔が、それまでの仏頂面から一転してぱぁっと明るくなる。
今夜はアーティットの退職を祝って、コングと食事に行くことになっている。
今日は金曜日だが、午後から休暇を取ったコングがチェンマイからバンコクへ車を飛ばして来てくれた。 そして今夜と明日はゆっくりと一緒に過ごすことになっている。
アーティットの退職が決まってから多忙な日が続き、コングと会うのも、こうしてゆっくり過ごすのも久しぶりだ。
 「コングポップ・・・」
久々の逢瀬を思うと、無意識のうちに唇がコングの名を呼んだ。 その自分の声がひどく甘ったるく聞こえて、誰もいない部屋の中で一人赤面する。
 「だぁーっ! シャワー浴びるぞ!」
なぜか後ろめたい気持ちが胸いっぱいに広がり、どうしようもなくなったアーティットは、誰にともなくそう叫んで足早にシャワールームへと駆け込んだ。
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SOTUS・Season3(§179)

2023-06-25 00:14:41 | SOTUS The other side
いよいよアーティットの退職日となった。
いつも皆より早めに出勤するアーティットだが、今日はひときわ早い7時半に出勤してきた。
始業より1時間も早いと、さすがに社内に人気はほとんどない。 時折清掃作業員とすれ違うのみで、あたりはひっそりとしている。
購買部にも、当然まだ誰もいない。 室内の照明をつけ、自分のデスクへ向かう。
荷物を入れるための箱をデスク上に置き、椅子に座る。 大きな荷物はもう先に運んであるため、残っているのは筆記用具などの小物ばかりだ。
 「・・・・・・・・・」
がらんとしたデスク上を眺め、室内を見渡す。 大学を卒業して、およそ4年間ここに勤務した。
思えば、あっという間だった。 楽しいことも、つらいことももちろんあった。 だが今となっては、すべてが懐かしい思い出だ。
ここで経験したすべてのことが、今のアーティットを作り上げたと言っても過言ではない。 それほど、ここで身に着いたことは貴重でかけがえのないものだと思っている。
そして何より、自分で選んで決めた就職先だ。 その選択肢は間違っていなかったと、今改めて思う。
だが。
そのすべてを断ち切って、これからサイアムポリマー社での新しい日々が始まる。 そこに不安はないかと言われれば、嘘になる。
しかし、これも自分で決めたことだ。 
グレーグライから幾度となく勧誘されたが、断ることももちろんできた。 事実、初めのうちは固辞していた。 自分で選んだ道を貫きたいと思っていたから。
だが、コングの片腕として、彼とともにサイアムポリマー社をより発展させてほしいというグレーグライの熱い思いが、ついにアーティットの心を動かした。
コングの人生の伴侶として、公私ともにコングを支えてやってほしいというグレーグライの言葉が、今もアーティットの耳に残っている。
今もまた脳裏に蘇り、アーティットの胸を熱くした。
 「――あれ、早いですね。 おはようございます」
感慨に耽っていたアーティットの耳に、ドアを開ける音と同時にサットの声が飛び込んできた。 一気に現実に戻ったアーティッが、挨拶を返す。
 「おまえも今日は随分早いな」
 「何だか早く目が覚めちゃって。 たまには早く来るのも悪くないかなと」
そう答えたサットが、鞄をデスクに置いて足早にアーティットの席へとやってきた。
 「先輩、昨日グレーグライさんと会って話をしましたよ」
アーティットの臨席のアースの席に腰を下ろしながらそう告げる。 小さく頷いたアーティットが、そうかと答えた。
 「先輩は、全部知ってたんですね」
ふと零れたその言葉に、アーティットがはっとした。 一瞬、知っていたのに黙っていたことを責められるのかと思った。
だがサットの表情はあくまでも穏やかで、その口調もまた然りだ。
 「あ、責めてるわけじゃありませんよ。 簡単に口にできるような話じゃないですし」
アーティットの狼狽を感じ取って、やんわりと宥める。 少し表情を和らげたアーティットが、静かに問いかけた。
 「・・・全部聞いたんだな」
ゆっくりと頷くサットの表情はいつもどおりで、感情を推し量ることはできない。 あれだけの衝撃的な事実を聞かされて、少なからず衝撃は受けたはずなのに。
 「・・・正直、驚きましたよ。 あのグレーグライさんが、俺の父親だったなんて」
まるでアーティットの心の声を聞いたかのように、サットが呟いた。
 「それで、グレーグライさんに何か言ったのか?」
 「いえ、特に何も。 これからも俺は俺で、グレーグライさんはグレーグライさんだから、それぞれの人生を歩むだけですと」
サットの言葉を聞いて、思わずアーティットが微笑む。 彼なら、きっとそう言うだろうと予想していた。
 「でも、グレーグライさんはそれで納得したか? 父親として、おまえに何かしたいと言わなかったか」
 「家族や会社に俺の存在を明かしたいと言われました。 もうすでに奥さんのプイメークさんは知ってるとも」
 「なるほど・・・それで」
 「丁重にお断りしました。 グレーグライさんの家族を傷つけたくないし、何よりコングさんの将来を邪魔したくないので」
 「・・・・・・・・・」
サットのその言葉を聞いて、アーティットの目が見開かれる。 
サットが、そこまでコングのことを考えてくれていると思わなかった。 直接会ったのは数回程度、決して親密な関係ではないのに。
 「・・・なんでそこまでコングポップのことを考えてくれるんだ? おまえにとっちゃ、ただの知り合い程度だよな」
無意識のうちに、疑問が声になった。 訊くつもりはなかった。 慌ててアーティットが口元を手で押さえる。
だがそんな興味本位の質問に、サットは誠実に答えてくれた。
 「それは、あなたの恋人だからです。 俺にとって先輩は大切な人。 その先輩の最愛の人は、俺にとってもやっぱり大切な存在だから」
 「おまえ・・・」
予想外の答えに一瞬呆然としたが、すぐに恥ずかしさが襲ってきた。 こんなに素直に自分の感情を言葉にするなんて、アーティットには到底できない芸当だ。
 「――あれ、先輩顔が赤いですよ。 もしかして照れました?」
 「ちがっ・・・!」
図星を指されて思わずムキになるが、とっさに反撃の言葉が出てこない。 口惜しさと気恥ずかしさで歯噛みしながら、ふと心の中で思う。
そういえばコングも、いつだって自分の気持ちを素直に口にしていた。  こういうところも、サットとコングはよく似ていると思った。
 「お、二人とも早いじゃん。 Good-morning!」
そう元気に声をかけてきたのはトードだ。 その後ろにはアースの姿もある。
 「おはようございます。 今日は早く目が覚めちゃったんで」
にこやかに答えるサットと、顔を赤く染めたままフリーズしているアーティットを見比べて、トードが面白そうな表情になる。
 「おっと、どうしたのかな~アーティットくん。 耳まで真っ赤になっちゃって」
ニヤニヤしながら近づいてくるトードに気付いて、アーティットが絵に描いたように慌てる。
 「こ、これはその、あ・・・暑いからだよ! なんか今日はムシムシするな~。 そうだ、顔洗ってこよう!」
取って付けたように襟元を大げさに扇いで、アースへの挨拶もそこそこにアーティットが素早く部屋を出て行った。
そんな彼の後ろ姿を見て、トードたちが楽しそうに笑った。
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SOTUS・Season3(§178)

2023-06-11 01:50:55 | SOTUS The other side
互いの胸にそれぞれの思いを抱きながらしばし見つめ合っていたグレーグライとサットだったが、少し真顔になったサットがおもむろに口を開いた。
 「・・・あの、僕のことは本当にもう気にしないでください。 グレーグライさんはグレーグライさん自身のことだけを考えてくださいね」
 「サットくん・・・」
グレーグライの胸に、やはりという気持ちが広がった。 サットのことだから、きっと必要以上の厚意は固辞するだろうと。
予想していた答えを呑み込み、それならと、あらかじめ用意していた代替案を提示した。
 「・・・では、せめてきみを正式に私の家族や会社に紹介させてくれないか」
 「えっ」
驚くサットに、実は、とグレーグライが付け加える。
 「私の妻には、もう伝えてあるんだ。 妻はきみの存在を快く受け入れてくれているよ」
グレーグライの言葉を聞いてさらに目を見開いたサットが、一瞬言葉を喪う。
 「コングポップもきっとわかってくれるはずだ。 アーティット君もきみのことは良い人間だと称賛していたし、社員だって理解してくれると信じている。 何も心配はいらない」
グレーグライとしてはサットの不安を取り除くために言ったのだろうが、サットの表情は堅く強張ったままだ。
それに気づいたグレーグライが、言葉を切ってサットを見た。
 「・・・どうかしたかね?」
様子を窺いながら慎重に問いかける。 それまで落ち着かなげに視線を泳がせていたサットが、グレーグライを見た。
同時に真剣な目になったサットが、テーブル越しにやや身を乗り出して訴えかけた。
 「あの、会社やコングさんにはどうか言わないでください」
真っ直ぐ目を見てそう訴えるサットを、今度はグレーグライが驚いて見つめる。
 「何故だね? 親の私が言うのも何だが、コングポップは分別のある人間だと思ってる。 社員も然りだ。 事情を話せば必ず理解してくれるはずだ。 きみが不安に思う必要は全くない」
 「それは・・・わかってます。 コングさんが素晴らしい人間だというのもよくわかってます。 でも」
そこで一旦言葉を切り、ひときわ目に力を込めたサットがはっきりと言い放つ。
 「僕は、コングさんの障害になりたくないんです」
障害。 その意味が、すぐにはグレーグライには理解できなかった。
 「障害? どういう意味だね」
 「僕の存在が明るみになることで、コングさんの未来に影響が出てしまうのが嫌なんです」
 「きみの存在・・・」
それでもまだ、グレーグライにはサットの心配する意図がわからない。
 「きみのことを公にしたら何か起きると言うのかね? 何がそんなに心配なんだ」
やや訝しそうにそう問いかけてくるグレーグライに、サットがその理由を語り始めた。
 「・・・グレーグライさんたちや社員の方に他意はなかったとしても、他の人たちもそうとは限りません」
サットの言葉を聞いてますます怪訝そうな顔になるグレーグライにかまわず、サットは続ける。
 「次期社長のコングさんに兄弟がいると世間に知れ渡れば、色んな反応が起きますよね。 良い反応もあれば、当然悪い反応もある。 それが僕は心配なんです」
 「反応・・・」
 「そうです。 いくらグレーグライさんたちが僕のことを好意的に紹介してくれたとしても、やっぱり中には妙な憶測をして、良からぬ噂を立てる人間だっているかも知れない。 それが、ひいてはコングさんの地位や将来に悪影響を及ぼしてしまうのが・・・怖いからです」
 「・・・・・・・・」
徐々にサットの言わんとすることが見えてきて、それまでの訝しかったグレーグライの表情が、次第に真顔になっていく。
 「・・・僕も、コングさんのことは好きです。 真面目で誠実なところとか、深い愛情を持ってるところとか。 いつもアーティット先輩からコングさんのことは聞いてましたから」
 「サットくん・・・」
 「だからこそ、コングさんの足枷になるようなことはしたくないし、心を乱す原因になることもしたくない。 たとえそれがどんな些細なことであっても」
 「・・・・・・・・・」
もう、グレーグライは何も言うことができなくなってしまった。
サットがこんなにも、コングのことを考えてくれているとは思わなかった。 
少しでも欲のある人間ならば、ここぞとばかりに、サイアムポリマー社の後継者としての権利を主張してもおかしくない。
むしろ、コングの兄なのだから、後継者としての継承権はコングよりも上位になる可能性だってあるのだ。
ところが、サットの口からはそんな言葉は全く出ず、コングの将来を案じる言葉ばかりが並んだ。
まったく、マリアンはどうやってこんな素晴らしい人間を育て上げてくれたのか。 心から、頭が下がる思いがした。
 「・・・・・・きみの気持ちはよくわかった。 コングポップのことをそこまで考えてくれて、心から礼を言うよ。 ありがとう」
深々と頭を下げるグレーグライを見て、慌ててサットが宥める。
 「あの、どうか頭を上げてください」
サットの言葉を受けて、ゆっくりとグレーグライが頭を上げる。 戸惑った表情のサットと目が合った。
 「――アーティット君は、もうすぐ我が社にやってくる。 君にも来てもらえたらと思うが・・・無理だろうね」
 「え、それは・・・」
予想外な申し出に、ますますサットが困惑する。 何だか自分の言動が逐一彼を困らせているようで、思わずグレーグライが苦笑いを零した。
 「いや、今の言葉は忘れてくれ。 これ以上私の我儘できみを困らせたくはない」
 「グレーグライさん・・・」
適当な言葉が見つからず、それきりサットが口ごもる。 そんな彼に、グレーグライは最後の願いを投げかけた。
 「ひとつだけ、私の願いを聞いてほしい。 私を『父さん』と呼んでくれないか」
 「えっ」
 「一度だけでいい。 きみの口から、『父さん』と・・・」
じっと自分を見るグレーグライを、サットもまたじっと見つめる。 グレーグライの目は、どこまでも真摯だ。
グレーグライの心からの願いと悟ったサットが、ゆっくりと口を開いた。
 「・・・お父さん」
小さな声だったが、サットの言葉はグレーグライの耳にしっかりと届いた。 言った後照れ臭くなったのか、サットがすっと視線を逸らせて俯いた。
 「・・・ありがとう。 こんな立派な息子を持って、私は幸せ者だよ」
微笑みながらそう語りかけるが、なかなかサットは視線を戻そうとしない。 ただ謙遜してわずかに首を左右に振っただけだった。
たとえ視線は合わせてくれなくても、グレーグライの心は温かな思いで満たされていった。
永らく胸に痞えていた心残りの種がすーっと消えていくのを感じながら、グレーグライは満足したように小さく頷いた。

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SOTUS・Season3(§177)

2023-05-06 20:37:41 | SOTUS The other side
 ホテルのレストランの個室で、少し緊張した面持ちで向かいに座るサットを、グレーグライがじっと見つめる。 
 今彼はいったいどんな気持ちで自分と対峙しているのだろうか。 
アーティットからは、用件は何も伝えていないと聞いている。 だが勘のいいサットのことだ。 きっとおおよその見当はついていることだろう。
グレーグライが自分に対してこんなに親切にしてくれるその理由を、今日は明らかにしてもらえると。
 「・・・・・・・・・」
グレーグライの脳裏に、ふとマリアンの声が蘇る。
今日この日を迎える前に、マリアンにこのことを伝えた。 自分がサットの父親であることを明かすつもりだと。
はじめは驚き、困惑したような様子を見せていた。 それはグレーグライにも予想できていた反応だった。
もしかしたら、反対されるかも知れないとも思っていた。
グレーグライに何も告げず、たったひとりでサットを産み育てる道を選んだ彼女。 そこには並々ならぬ決意と覚悟があったはずだ。
しかし意外にも、彼女は首を縦に振ったのだ。
『サットが、あなたのことをとても気にしてる。 さすがに父親だとは思ってないとは思うけど、あの子のためにもそろそろはっきりさせてあげた方がいいと思ってたところだったの』
聞けば、家でもたびたびグレーグライの話が出ているらしい。 真実を知らないサットがグレーグライの過剰な親切に対して当惑している様子を見ているのは、マリアンにとっても心苦しく感じていたのかも知れない。
ただ、ひとつだけ条件があると言われた。
『真実を打ち明けて、サットがどうしたいと思うかわからないけど、あの子のしたいようにさせてあげてほしい。 あの子の気持ちを尊重してあげてほしいの』
そう言った時の彼女の真摯な目が今も瞼に焼き付いている。 
母としてのマリアンの思いは、グレーグライにとってもよくわかった。 庇護を要する子供ならいざ知らず、サットはもう立派な成人だ。 彼の意志を尊重するのは当然のことだと思う。
改めて、目の前のサットを見た。
思えば、こうして彼の顔をじっくり見るのは今日が初めてのような気がする。 目元、口元、輪郭・・・。 
そこかしこに、マリアンの面影が見て取れる。
そして意志の強そうな瞳は、自分とよく似ている気がした。
 「・・・今日はよく来てくれたね。 忙しいんだろう? 連日残業続きだと聞いているよ」
しばらくの静寂の後、グレーグライが穏やかに話し始めた。 反射的にグレーグライを見たサットが、慌てて首を左右に振る。
 「いえ、そうでもないです。 もうほとんどアーティット先輩との引継ぎも終わったので」
山積していたアーティットとの引継ぎ事項も、ようやく終わろうとしていた。 アーティットの退職まであと1日、本当にギリギリだった。
あとは少しの事務処理を残すだけとなり、アーティット、トードとともに安堵のため息を吐いたのはつい昨日のことだ。
 「・・・アーティットくんも、いよいよ退職だな」
 「ええ。 正直寂しいですけど、今後はサイアムポリマー社で活躍する先輩の姿を見れるのを楽しみにしてます」
微笑みを浮かべながらそう話す彼の様子からは、本当にアーティットを慕っているということが伝わってくる。
そんな彼を見ているとついこちらまで笑顔になるのを感じながら、グレーグライは緩みかけた頬を引き締めて、ついに本題を切り出した。
 「——今日は、とても大事な話をしようと思う」
グレーグライの表情が変わったことに気付いたサットが、何かを悟って真顔になる。 知らず、小さく唾を飲み込む。
サットの緊張を感じながらしばし彼の目をじっと見つめた後、ゆっくりとグレーグライが懐からブレスレットを取り出した。
それを見たサットが、不思議そうな顔をして尋ねた。
 「え、それって・・・。 ちょっと見せてもらってもいいですか」
グレーグライが頷いたのを確認して、差し出されたブレスレットを受け取る。 まじまじと何度も角度を変えて凝視したサットが、困惑した表情で問いかけた。
 「これ・・・これは、もしかして母が僕にくれたものと同じものですか・・・? いやまさかそんな・・・」
グレーグライに対しての言葉ではあるが、同時に独り言のように呟く。 そんな彼へ、グレーグライが告げた。
 「そう、それは学生時代にマリアンがわたしにくれたものだよ。 マリアンとわたしは・・・恋人同士だったんだ」
 「え」
短く声を発したサットが、目を見開いた。 グレーグライとブレスレットを交互に見て、何か信じられないものを見たような表情になる。
 「マリアンと別れた後、わたしは見合いをしてプイメークと結婚したんだ。 彼女とはもう会うこともないだろうと思っていたよ」
 「・・・・・・・・・」
 「だがきみの手首にこのブレスレットを見つけた時、わたしの中にある疑念が生まれた。 もしかして、きみはマリアンの息子なんじゃないかと」
 「・・・・・・・・・」
 「そしてあの夜・・・。 きみを家へ送り届けた日、マリアンから真実を聞いたんだ」
想像だにしなかった衝撃的な事実に慄きつつも、サットは心のどこかで符合が一致していくのを感じていた。
いつだったか、アーティットが言っていた台詞。 サットが、どこかコングに似ていると。
当時はまだコングのことをよく知らず、ただ聞き流していただけだった。 おそらくアーティットも、その頃はまだ自分とコングに血の繋がりがあることは知らなかったはずだ。
自分の愛する人の血縁者を、無意識のうちに感じ取っていたのかも知れない。
 「・・・遅すぎることは承知のうえで、わたしは君たちに何か償いをしたいと思った。 マリアンにもそう話したが、しかし彼女は強く拒否したんだ。 一人で育てることを選んだのは自分だから、今さらわたしの手は借りたくないと」
 「・・・・・・・・・」
 「そうは言っても、やはりわたしはどうしても何かせずにはいられなかった。 だからついきみに色々余計なお節介を焼いてしまった・・・。 だがわたしのこの行いが、きみを困惑させてしまうことになるとは」
そこまでで言葉を切ると、呆然としているサットに向かって深く頭を下げた。
 「わたしの自己満足のためにきみに迷惑をかけてしまって申し訳ない。 そして、今までのことすべてを詫びたい。 本当に、すまなかった」
大企業の社長が、いま自分のために平身低頭頭を下げている。 その光景を、サットはどこか他人事のように感じていた。
それと同時に、なぜグレーグライが謝罪するのか、その意味がわからなかった。
確かに生まれた時から父親はいなかったが、それを不幸だと思ったことはないし、父親が欲しいと思ったこともない。
それはすべて母マリアンのおかげだ。
父親がいない分、たくさんの愛情を注いでくれた。 片親で寂しいと思ったことも一度もない。
だから、なぜグレーグライがそこまで申し訳なく思うのか、本当にわからなかった。
 「・・・あの、グレーグライさん。 とにかく頭を上げてください。 僕はあなたに詫びてほしいなんて思っていません」
そう言葉をかけながら、グレーグライの肩に手を置いて体を起こさせる。 至近距離で、二人の目が合う。
 「確かに、僕にとってこのことはとても衝撃的でした。 今になって父親が誰なのかがわかり、しかもそれがあなただったなんて」
 「サットくん・・・」
 「だけど、これからも僕は僕だし、あなたはあなたです。 それぞれの人生を歩んでいくだけです。 あなたと僕が親子だとしても、それは変わらない」
 「・・・・・・・・・」
静かに語るサットを、無言でグレーグライが見つめる。 
自分の不義理さを責められる覚悟をしていた。 それだけのことをした自覚があったからだ。
だが今、目の前で穏やかに且つ確かな口調でそう話すサットを見て、そんな杞憂は無用だったと思い知った。
改めて、サットという素晴らしい青年に感服する。
しばし二人は、言葉もないまま真摯に互いの目を見つめていた。




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