オーシャンエレクトロニック社の購買部に、部長のダナイをはじめトードたち部員あてに真っ白な封筒に入った招待状が届いた。
高級な二つ折りの厚紙を広げると、そこにはサイアムポリマー社の新社長就任披露パーティーの案内と、出席を要請する内容の文章が印刷されていた。
「ーーそうか、とうとうコングが社長になるんだな」
しみじみとした口調でまずそう呟いたのはトードだ。
「いろんな経験を積んで、きっと素晴らしいリーダーになるでしょうね」
トードの言葉に頷きながら、アースが微笑みを浮かべる。
「アーティットも一緒に出席するのかなぁ? 二人のラブラブぶりをリアルで見れるのかしら♡」
やけに嬉しそうに目を輝かせてそう話すのは、相変わらずのソムオーだ。
「これは公式なパーティーなんだから、そんなことにはならないでしょうよ。 まぁアーティットはコングの秘書だから同席はするだろうけど」
いつものように呆れつつも、アースがそう説明をしてやる。 するとつまらなそうにソムオーが口を尖らせた。
「え~、つまんないなー。 あ、そうだ。 ねね、アース先輩はどんな服着ていきます? わたし新しいドレスを買いに行こうかなぁ」
さっきまでの表情とは打って変わり、今度はきゃらきゃらと楽し気に話すソムオーの変わり身の早さに、アースもトードも思わず苦笑いを零した。
「あ、そうそう。 俺もアース先輩もパーティーに出席するから、Babyを母さんにお願いしとかないとな」
トードとアースには、昨年末に第一子となる女児が誕生した。 名前はShineと言い、彼女の人生が光り輝くものになってほしいという思いが込められている。
育児休暇も取らず、産後三ヶ月でアースは職場復帰を果たした。 トードや周りの人々は休暇を取るように勧めたが、両家の家族の理解と協力もあって、アースの希望どおり仕事に復帰した。
(私この仕事が好きなの。 もちろん子供も愛してるわ。 だから両方大事にしたいの)
まだShineが生まれる前から、常々そう口にしていたアース。 そんな彼女の希望を、トードたち家族が尊重した結果だ。
普段はトードとアースどちらかの家族がShineを見ていて、休日はトードたちが面倒を見ることになっている。
「再来週の土曜日だったら、わたしのお母さんが見てくれると思うから、頼んでおくわね」
「ねっ、もちろんサットも行くわよね?」
先ほどから何も言わずに手の招待状を見つめているサットへ、何気なくソムオーが声をかける。 えっ、と反射的に顔を上げたサットが、無意識に招待状を隠すような仕草をしたのをソムオーが目ざとく見た。
「なにを隠したの? 見せて見せて~!」
すかさずサットの席までやってきて、あっという間に隠された招待状を抜き取る。 こういう時の彼女は、仕事中の動作とは雲泥の差の素早さだ。
「あら、奥さんにも招待状? 夫婦で招待されるなんてすごいじゃない!」
「もう、返してくださいよ!」
2枚ある招待状を楽し気に見ていたソムオーの手から、サットが素早く取り返す。 と同時にそそくさと封筒にしまい込んだ。
「もしかして照れちゃった? かわい~♡」
サットの行動を照れ隠しと捉えたソムオーが、ニヤニヤしながらからかう。 しかしサットは、そんなソムオーの勘違いに内心ホッとしていた。
どうやらソムオーに見られたのは、妻であるパラニー宛のものだけで、サット宛の方は見られなかったらしい。
「・・・ちょっと、コーヒー飲んできます」
「あら、逃げちゃった。 当日は奥さんとのラブラブぶりが見れるの期待してるからね~!」
「ソムオー、もうそれくらいにしときなさいな」
いつまでもからかいの手を緩めないソムオーに、アースが呆れ気味の口調でたしなめた。 そんな彼女たちのやり取りを背中で聞きながら、さりげなく招待状の封筒を手にしてサットが部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・」
誰もいない給湯室で、おもむろに封筒から招待状を取り出す。
サットに宛てられた招待状の末尾に、手書きの文字がしたためられている。 そこにはこう書かれていた。
できればこの就任披露パーティーで、きみをわが一族の一員として皆に紹介したかった。
コングポップの兄弟として、華々しい人生をともに歩んでほしかった。
だが君はそれを望んでいない。
しかしそれではどうしてもわたしの気持ちが収まらない。
たったひとつだけ、わたしの要望をどうか聞き入れてもらえないだろうか。
当日、会えるのを楽しみにしているよ。
文章の最後には、グレーグライのサインがあった。
「要望・・・」
ふと口に出してみる。 文面にはそれが何なのか書かれていない。 当日、サットに直接伝えるつもりだろうか。
サットにしてみれば、グレーグライの息子という実感がいまだに湧いていないのが正直なところだった。
だから当然、サイアムポリマー社の後継者であるコングと同等の場所に立つなど、ありえないことだしそのつもりもまったくない。
だが書面にもあったように、サットのこの気持ちはグレーグライもすでに知っている。
ではグレーグライは他にいったい何を望んでいるのだろう?
「・・・・・・・・・」
しばし招待状をじっと眺めてそんなことを思っていたが、ひとつ小さなため息を吐いてゆっくりと封筒にしまった。
いずれにせよ、当日になればわかることだ。
そう気持ちを整理して、サットはコーヒーメーカーに手を伸ばした。
高級な二つ折りの厚紙を広げると、そこにはサイアムポリマー社の新社長就任披露パーティーの案内と、出席を要請する内容の文章が印刷されていた。
「ーーそうか、とうとうコングが社長になるんだな」
しみじみとした口調でまずそう呟いたのはトードだ。
「いろんな経験を積んで、きっと素晴らしいリーダーになるでしょうね」
トードの言葉に頷きながら、アースが微笑みを浮かべる。
「アーティットも一緒に出席するのかなぁ? 二人のラブラブぶりをリアルで見れるのかしら♡」
やけに嬉しそうに目を輝かせてそう話すのは、相変わらずのソムオーだ。
「これは公式なパーティーなんだから、そんなことにはならないでしょうよ。 まぁアーティットはコングの秘書だから同席はするだろうけど」
いつものように呆れつつも、アースがそう説明をしてやる。 するとつまらなそうにソムオーが口を尖らせた。
「え~、つまんないなー。 あ、そうだ。 ねね、アース先輩はどんな服着ていきます? わたし新しいドレスを買いに行こうかなぁ」
さっきまでの表情とは打って変わり、今度はきゃらきゃらと楽し気に話すソムオーの変わり身の早さに、アースもトードも思わず苦笑いを零した。
「あ、そうそう。 俺もアース先輩もパーティーに出席するから、Babyを母さんにお願いしとかないとな」
トードとアースには、昨年末に第一子となる女児が誕生した。 名前はShineと言い、彼女の人生が光り輝くものになってほしいという思いが込められている。
育児休暇も取らず、産後三ヶ月でアースは職場復帰を果たした。 トードや周りの人々は休暇を取るように勧めたが、両家の家族の理解と協力もあって、アースの希望どおり仕事に復帰した。
(私この仕事が好きなの。 もちろん子供も愛してるわ。 だから両方大事にしたいの)
まだShineが生まれる前から、常々そう口にしていたアース。 そんな彼女の希望を、トードたち家族が尊重した結果だ。
普段はトードとアースどちらかの家族がShineを見ていて、休日はトードたちが面倒を見ることになっている。
「再来週の土曜日だったら、わたしのお母さんが見てくれると思うから、頼んでおくわね」
「ねっ、もちろんサットも行くわよね?」
先ほどから何も言わずに手の招待状を見つめているサットへ、何気なくソムオーが声をかける。 えっ、と反射的に顔を上げたサットが、無意識に招待状を隠すような仕草をしたのをソムオーが目ざとく見た。
「なにを隠したの? 見せて見せて~!」
すかさずサットの席までやってきて、あっという間に隠された招待状を抜き取る。 こういう時の彼女は、仕事中の動作とは雲泥の差の素早さだ。
「あら、奥さんにも招待状? 夫婦で招待されるなんてすごいじゃない!」
「もう、返してくださいよ!」
2枚ある招待状を楽し気に見ていたソムオーの手から、サットが素早く取り返す。 と同時にそそくさと封筒にしまい込んだ。
「もしかして照れちゃった? かわい~♡」
サットの行動を照れ隠しと捉えたソムオーが、ニヤニヤしながらからかう。 しかしサットは、そんなソムオーの勘違いに内心ホッとしていた。
どうやらソムオーに見られたのは、妻であるパラニー宛のものだけで、サット宛の方は見られなかったらしい。
「・・・ちょっと、コーヒー飲んできます」
「あら、逃げちゃった。 当日は奥さんとのラブラブぶりが見れるの期待してるからね~!」
「ソムオー、もうそれくらいにしときなさいな」
いつまでもからかいの手を緩めないソムオーに、アースが呆れ気味の口調でたしなめた。 そんな彼女たちのやり取りを背中で聞きながら、さりげなく招待状の封筒を手にしてサットが部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・」
誰もいない給湯室で、おもむろに封筒から招待状を取り出す。
サットに宛てられた招待状の末尾に、手書きの文字がしたためられている。 そこにはこう書かれていた。
できればこの就任披露パーティーで、きみをわが一族の一員として皆に紹介したかった。
コングポップの兄弟として、華々しい人生をともに歩んでほしかった。
だが君はそれを望んでいない。
しかしそれではどうしてもわたしの気持ちが収まらない。
たったひとつだけ、わたしの要望をどうか聞き入れてもらえないだろうか。
当日、会えるのを楽しみにしているよ。
文章の最後には、グレーグライのサインがあった。
「要望・・・」
ふと口に出してみる。 文面にはそれが何なのか書かれていない。 当日、サットに直接伝えるつもりだろうか。
サットにしてみれば、グレーグライの息子という実感がいまだに湧いていないのが正直なところだった。
だから当然、サイアムポリマー社の後継者であるコングと同等の場所に立つなど、ありえないことだしそのつもりもまったくない。
だが書面にもあったように、サットのこの気持ちはグレーグライもすでに知っている。
ではグレーグライは他にいったい何を望んでいるのだろう?
「・・・・・・・・・」
しばし招待状をじっと眺めてそんなことを思っていたが、ひとつ小さなため息を吐いてゆっくりと封筒にしまった。
いずれにせよ、当日になればわかることだ。
そう気持ちを整理して、サットはコーヒーメーカーに手を伸ばした。