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腐女子&妄想部屋へようこそ♪byななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

SOTUS・Season3(§122)

2021-03-07 00:31:07 | SOTUS The other side
その頃アーティットたちは、バンコク市内にあるレストランに来ていた。
オーシャンエレクトロニック社とサイアムポリマー社、それぞれのプロジェクトメンバーが集まって、慰労会が開催されることになったためだ。
オーシャンエレクトロニック社からは、購買部長のダナイ、そして担当のアーティット、トード、サットが参加する。
一方でサイアムポリマー社からは、製造業務部長のトゥルク、担当のマックス、そしてリーザの3人が参加することになっている。
開始時刻前に全員が揃ったため、慰労会は予定より少し早めにスタートした。
普段は何かにつけてケンカ腰でアーティットたちに突っかかってくるリーザも、さすがに場の和やかな雰囲気を壊すと思っているのか、今のところ大人しくしている。
だが宴会がたけなわになるにつれ、アーティットは隣のトードの様子が気がかりになっていた。
トードは酒が入ると、やたら煩くなる。 いわゆる酒癖が、あまりよろしくないのだ。
少しずつ喋る声が大きくなってきていて、取引先の面々がいるこの場で醜態を晒さないか心配になって、アーティットは酔うことができない。
 「おいトード、もう少し静かにしろよ」
肘でトードの腕をつついて小声で注意すると、ヘラヘラ笑いながらOKOK!と大袈裟に頷くが、その声は先ほどよりもさらに大きい。
これはダメだ、とでも言うように、アーティットが肩を竦めた。 ため息を吐いて箸を手に取ると、隣のサットが話しかけてきた。
 「アーティット先輩、あまりお酒が進んでないですね」
 「まあな・・・。 こいつの様子が気になって、うかうか飲めない」
苦笑いしながら親指でトードを指すアーティットを、サットが同情の目で見る。
 「トード先輩のことは俺が見てますから、先輩は安心して飲んでください」
 「え? でも・・・」
 「俺はお酒飲めないので、遠慮する必要はありませんよ。 あ、そうだ。 席替わりましょう。 俺がトード先輩の隣へ行きますね」
一人で話を進め、あれよあれよという間にサットがアーティットと場所を入れ替わった。 
 「トード先輩、飲んでばかりいないでこれも食べてみてくださいよ。 美味しいですよ」
 「あん? なんでアーティットと場所替わったんだぁ?」
 「先輩に美味しいものを食べてもらうためですよ。 さっきからずっと飲みっぱなしでしょ? 食べ物も食べないと胃に悪いですよ」
そう言いながら、手早く取り皿に料理を盛り付けてトードの前へ差し出す。 ご丁寧に箸まで手渡す念の入りようで、これにはトードもさすがに降参したようだ。
 「わかった、わかったよ。 まったく、お前は俺のおふくろかよ」
 「あ、それよく言われます。 何なら本当にお母さんと思ってくれても構いませんよ」
 「ぶっ! こんなゴツいおふくろなんかごめんだ」
何だかんだ言いながらも料理に手を付けたトードが、意外そうに目を見開いた。
 「お、うまいなこれ!」
 「でしょ? こっちの料理もいけますよ。 どんどん食べてください」
そう言うが早いか、さらにもう一枚皿を手に取り、再び料理を取り分ける。 そんな様子を、呆気に取られたようにアーティットが見ていた。
サットにまくしたてられたトードは、いつしか食べるのに夢中になって、グラスから完全に手が離れている。
サットの手際の良さに、思わず感服した。
肩の荷が下りたように安堵したアーティットが、ようやく自分のグラスに手を伸ばす。 時間が経ってすっかり温くなってしまったビールを飲み干すと、空になったグラスを差し出して店員に2杯目の注文をした。
こうして、サットはいつもさりげない気遣いを見せる。 しかもそれが相手の負担にならないよう、あくまで何気ない体を装うのが、彼の憎いところだ。
サットと一緒に働くようになっておよそ2ヵ月。 その間、幾度となくこのような気遣いを受けてきた。
いつしかアーティットは、そんな彼の優しさを心地よく感じ始めていた。
他人からのこうした気遣いや施しを甘受するのが苦手なアーティットだが、なぜかサットからは素直に受け入れることができるのも、思えば不思議な話だ。
アルコールが浸透し始めた脳が、心地良い思考へと導いていく。 それは、グッドトリップにも似た高揚感をもたらす。
元々ネガティブなアーティットは、酒を飲むと時にそのネガティブさが増強され、何もかも悪い方向へと考え込んでしまうことがある。
そのため、普段はほとんど酒は飲まない。 仕事の付き合いで飲まなければいけない時も、酔わない程度にほんの少ししか飲まないことにしている。
ふと気付くと、すでに4杯目のグラスもほぼ空になっていた。 こんなに飲んだのは、初めてかも知れない。
そして、こんなに明るい気持ちで酔えるのも、初めての気がする。 そう思うと、自然と頬が緩んだ。
すると、不意に誰かの視線を感じた。 俯き加減だった顔を上げると、自分を見つめるサットと目が合う。
 「・・・アーティット先輩、笑うと本当に可愛いですね。 蕩けそうな笑顔してますよ」
素直に思ったままを口にするサットを、思わず凝視する。 途端に顔が赤くなるのを自覚したアーティットが、とっさに顔を背けた。
普段なら、ふざけたこと言うな!と一蹴してやるのだが、なぜか今はそんな言葉が出てこない。 ただ無言で顔を逸らすしかできなかった。
そんなアーティットを、サットが不思議そうに見つめる。
 「・・・先輩? どうかしたんですか?」
何も言わないアーティットの肩に手を置き、覗き込むように顔を近づけてくるサットの様子に狼狽える。
 「な、何でもない」
それだけ言うのが精いっぱいだった。 サットから逃れるように、通りかかった店員に空のグラスを差し出して5杯目をオーダーする。 
 「先輩、少し飲みすぎじゃないですか?」
 「大丈夫だ、これくらい」
少し心配そうに自分を見つめるサットから更に顔を背け、店員が持ってきたグラスを素早く受け取ると、顔の火照りを鎮めるが如く一気に冷たいビールを流し込んだ。
そうして、約3時間に及ぶ慰労会は恙なく終了した。
 「今日は楽しかったよ。 みんな気を付けて帰るように」
すっかり赤くなった顔をテカらせながら、トゥルクが労いの言葉をかける。 
 「歩いて帰るのは、リーザとアーティットさんですよね。 あとの方はタクシーですか?」
 「あ、僕も歩いて帰ります。 タクシーにはダナイさんとトード先輩、トゥルク部長が乗ってください。 俺呼んできますね」
言い終わる前に、サットが手を挙げて大通りへと走って行った。 やがて一台のタクシーが止まると、ダナイたちに向かってサットが手招きした。
無事に3人を乗せたタクシーが発車すると、アーティットとリーザ、マックスとサットの4人が残った。
 「僕は自転車なんですよ。 少し離れたところの駐輪場に停めてるんで、お先に失礼しますね」
そう言い残し、手を振ったマックスが離脱した。 あとに残った3人の間に、微妙な空気が漂う。
 「・・・じゃ、私ももう行きます」
気まずさに耐えられなくなったのか、そう告げて歩き出そうとしたリーザに、サットが声をかけた。
 「もうこんな時間だし、女性の一人歩きは危ないですよ。 俺たちで良ければ送っていきますよ」
少々飲み過ぎてぼんやりしているアーティットに目配せをして、サットが同意を求める。 しかし、リーザは小さく鼻で嗤って首を左右に振った。
 「けっこうです。 いつも通ってる道だし、余計な気配りはいりませんから」
じゃ、と言って、今度こそリーザは振り返ることなく足早に歩き出した。
いつも通りの彼女の態度に、サットが小さくため息を吐いた。 すると、それまで何も言わなかったアーティットが、ふと呟いた。
 「・・・やっぱり、一人はまずいだろ。 もし彼女に何かあったら、男二人もいたのに何してたんだって言われるしな」
完全に酔っていると思っていたが、存外まともなことを言うアーティットを感心したようにサットが見る。
 「・・・なんだよ」
そんな視線に気付いて、怪訝そうにアーティットがぼそりと零す。
 「いえ、なんでも。 そうですね、俺もそう思ってたところです。 彼女に気付かれないよう、少し距離を置いてついて行きましょう」
 「・・・ああ」
まだ胡乱げな目でサットを見ていたアーティットだったが、ふらつきそうになる足にぐっと力を込めると、サットとともに小さくなっていくリーザの背中を追い始めた。
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SOTUS・Season3(§121)

2021-03-07 00:30:30 | SOTUS The other side
翌日。
土曜日で誰もいないオフィスで、コングは一人デスクに向かっていた。
ジェーンによって理不尽な暴露をされてから、四六時中人々の好奇な目に晒されることになったせいで、業務時間中は仕事に集中できない日々が続いていた。
おかげで仕事が滞り、こうして休日勤務することになった。
しかし逆に誰もいない休日の方が却って集中でき、おかげで随分仕事が捗った。
山積していた仕事はこうして徐々に片付き始めたが、一方で未だに心の中でくすぶり続けているのが、中国行きがなくなったことを父とアーティットにどう伝えるか、ということだ。
特に問題なのがアーティットだ。
彼にだけは本当の理由を話すわけにはいかない。 もし本当のことを知ってしまったら、間違いなく自分を責めて深い傷を負わせてしまうだろう。
誰も傷つけず、そして誰もが納得できる理由を考えなければならない。
チラリ、とデスク上のカレンダーに目をやる。 今日は12月21日。 あと5日で、年末の休暇に入ってしまう。
それまでにどうにかして答えを出さなければいけない。 悠長に構えている暇はないのだ。
思わず深いため息を吐いたとき、不意に部屋のドアが開く音が聞こえた。 振り向くと、そこにはノックの姿があった。
 「・・・コング?」
恐らく誰もいないと思っていたのだろう。 ひどく驚いた様子で、ノックが立ち尽くしている。
 「なんで・・・」
ゆるく自分を指さしながら独り言のように呟くノックに、おまえこそ、とコングが返す。
 「休日出勤か? 悪いな、忙しい思いさせて」
自分の代わりに中国行きを担わせたことで、過密なスケジュールとなってしまったことを申し訳なく思ったコングが、控えめに詫びた。
 「・・・おまえは? おまえも仕事か」
 「まあな。 誰もいない方が仕事に集中できるから」
なぜか苦笑いを浮かべてそう零すコングを見て、ふとノックの表情が曇る。 コングがどういう気持ちで言ったかを思うと、ノックの胸が少し痛んだ。
先日、コングから男の恋人がいると聞かされた時、思わず気が動転してひどい態度を取ってしまった。
あれから彼は何も言わないが、友人だと思っていた相手にあんな態度を取られたら、きっと傷ついたはずだ。 それでも、何もなかったかのようにこうして話しかけてくれる。
そう思うと、急に自分がしでかしたことがたまらなくなった。
 「コング・・・ごめん。 おまえを傷つけたよな」
 「え、何の話?」
 「こないだ、おまえがカミングアウトしてくれた時・・・。 俺ショックで、おまえに対してどう接すればいいかわからなくなって、つい避けるような態度取っちまって・・・」
たどたどしい口調ではあるが、それでもノックが精一杯心を込めて言葉を紡ぐ様子を見つめていたコングが、ふっと優しい微笑みを浮かべた。
 「・・・気にしてないよ。 これまでも、これからも、おまえは俺の友達だ」
一時は失ってしまったかと思った友情。 それが、今こうして再び戻ってきた。 その喜びが、コングの胸を穏やかに満たしていく。
そんなコングの微笑が、ノックの心も緩やかに溶かしていった。
だが、なぜか不意に表情を曇らせたノックが、少し声のトーンを落として告げた。
 「・・・あ、そうだ。 ジェーン先輩のことだけど、気を付けた方がいいぞ」
 「ん? どういう意味だよ」
 「昨日の打ち合わせが終わった後、先輩がブランカ部長とヤハウエ専務と話し込んでたんだけど、どうもおまえのことを話してたみたいなんだ」
 「え・・・」
 「ちょっとヤバそうだよ。 ジェーン先輩って、キレたら何しだすかわかんないだろ。 昨日の一件で、先輩かなり頭にきてたみたいだからさ」
 「・・・・・・・・・」
そう話すノックは、心底心配そうな顔をしている。 コングの気分がズシリと重くなった。
昨日の件では、コングも少し言い過ぎた自覚はある。 あんなに熱くなってしまうとは、自分でも予想外だった。
ジェーンの性格を考えてみれば、あれだけ後輩から言われっぱなしで黙っているとは思えない。 ましてやそれが、自分が憎らしく思っている相手からなら尚さらだ。
苦い顔で無意識に大きくため息を吐くコングの肩へ、ノックが静かに手を置いて進言した。
 「・・・ジェーン先輩に、謝った方がいいんじゃないか」
 「謝る?」
少し驚いたように、コングがノックを見る。
 「何を謝るっていうんだ? 俺は何も間違ったこと言ってない」
 「確かに間違ってはいないけど、ジェーン先輩を不愉快な気分にさせたのは確かだ。 しかも自分の悲惨な過去まで暴露したんだ。 傍目には完全な逆恨みに思えるけど、
  先輩はみんなおまえのせいだってきっと思ってるよ」
 「・・・・・・・・・」
 「悪いことは言わない。 おまえの気持ちもわかるけど、ここは不条理を呑み込んで頭を下げた方がいいと思う
諭すようにそう告げると、ノックがゆっくりと肩から手を離した。 しばらく険しい表情で無言を貫いていたコングが、やがて絞り出すように低く呟いた。
 「・・・・・・俺が同性愛者だということで先輩を不愉快な気持ちにさせてすみませんでした、って言えっていうのか? 俺たちの存在は、そんなに許されないものなのか?」
 「そうは言ってない」
 「いや言ってるだろ! 現におまえだって、一時は俺のことそういう目で見てたんだろ。 ただ純粋に人を愛してるだけなのに、なんでそんな目で見られなきゃ
  いけないんだ!?」
 「コング・・・」
普段の冷静沈着な彼とは全く違う、激高して声を荒げるコングを目の当たりにして、思わずノックが言葉を失う。 
呆然と自分を見つめるノックの様子に気付いて、コングがふと我に返った。
 「あ・・・悪い、つい大声を・・・」
 「いや・・・」
昨日のジェーンに対する様子といい、今の状態といい、本来のコングはこんなにも熱を持つ人間だということを初めて知った。
友人だと言っておきながら、その実彼のことをまだまだ理解していなかったことを思い知る。
同時に、恋人のことをとても大切に思っているのがひしひしと伝わってきた。
恐らくコングにとって、かけがえのない存在なのだろう。 性別など何の意味もないと思えるほどに。
そんな相手にまだ出会ったことがないノックには、少し羨ましく思えた。
 「・・・ごめん。 おまえの気持ち考えずに、軽率なこと言った。 さっきのは、忘れてくれ」
 「ノック・・・」
ようやく自分の気持ちを理解してくれたことを悟って、コングの表情が和らいだ。
 「・・・もし俺にも何かできそうなことがあったら、いつでも言ってくれ。 あんまり力にはなれないかも知れないけど」
少しだけ唇の端を上げて、そうノックが告げる。 微かだったコングの笑みが、深くなった。
 「・・・ありがとう」
頷きながら礼を述べるコングの肩へ、もう一度ノックが手を置く。 ぽんぽん、と軽く叩くと、ニッと笑ったノックと目が合った。
 「・・・じゃ、仕事頑張れよ」
 「おまえもな」
どちらからともなくそう言うと、二人は己の仕事に取りかかるため、それぞれ別々の場所へと散って行った。

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SOTUS・Season3(§120)

2021-03-07 00:29:54 | SOTUS The other side
金曜日の夕方。
まだ終業時刻から1時間過ぎただけだが、週末だからかオフィスにはもうほとんど人影は見えない。
窓から差し込む西陽が、室内を柔らかなオレンジ色に照らしている。
静まり返った部屋で、コングは一人険しい顔でデスクに向かっていた。
 「・・・・・・・・・」
それまでひたすらパソコンのディスプレイをじっと見据えていたコングが、深いため息を吐いて体の力を抜いた。 疲れたように背もたれに体を投げ出して、目を閉じる。
やはり、アーティットとのことを会社に暴露したのはジェーンだった。
あれからコングは、掲示板に投稿されたこの記事の出処をずっと探っていた。 すると何とか投稿者のIDを突き止めることに成功し、総務の知り合いに照合してもらったところ、ジェーンの名前が浮かび上がったのだ。
いったい彼女は、何の目的でこんなことをしたのだろうか。
コングとアーティットが恋人同士だからといって、彼女に何の関係も関わりもない。 ましてや、不利益をもたらすこともない。
他人のプライベートを曝して、何が嬉しいというのだろう。
 「・・・・・・・・・」
再び大きく息を吐いて、わからない、とでもいうようにコングが頭を左右に振る。 そしてそのまま首をうなだれていると、不意にオフィスのドアが開いた。
静まり返っていた部屋に響いたその音で、コングはひどく驚いた。 反射的にドアの方を向くと、そこには彼の人・ジェーンが立っていた。
 「・・・あら、まだ残ってたの」
どこか不敵な笑みを浮かべたジェーンが、コングを見るなり開口一番そう呟いた。
理解に苦しむようなことをしておきながら、何事もなかったかのように白々しく話しかけてくる彼女に対し、沸々と苛立ちが沸いてくる。
だがコングはそれを鉄の理性で抑え込み、表面上は平静を装いながら、しかし僅かに棘を含んだ答えを返す。
 「・・・先輩こそ、出張から直帰するものと思ってました。 意外と勤勉なんですね」
ふっと微かに鼻を鳴らしてそう零す彼に、ジェーンはどこか違和感を覚えた。 これまでの彼は、こんな好戦的な態度を見せることはなかった。
すぅっと、ジェーンの表情が消えた。
 「・・・何が言いたいの」
声のトーンを落とし、低く問いかける。 そんな彼女を尻目に見つつ、コングがゆっくりと椅子から立ち上がった。
ドア前で棒立ちになっているジェーンのところまでやってくると、コングがおもむろに口を開いた。
 「・・・・・・掲示板に俺のこと書いたの、あなたですよね」
ゆっくりと感情を押し殺した声で、コングが鋭く切り込む。 しかしジェーンはひるむことなく、フンと鼻で嗤って吐き捨てた。
 「何のこと? 言ってる意味がわからないけど」
 「日曜日にわざわざ会社へ出て来てまでこんなことするなんて・・・。 いったい、何が目的なんです」
 「だから何のこと言ってるのよ? 私が何をしたっていうの」
あくまでシラを切る彼女へ、コングが証拠を突きつけようとしたとき。 不意にジェーンの背後から、誰かの声が聞こえた。
 「先輩、遅くなって・・・」
聞き覚えのある声に、思わずコングが目を見開く。 それは、先日まで親友と思っていたノックだった。
 「・・・コング・・・」
手に持ったコンビニ袋を上げかけていたノックの動きが止まる。 一瞬、時が止まったかのように三人が微動だにしない。
しかし最初にその静寂を破ったのは、コングだった。
 「・・・ノック、おまえ何でここへ・・・」
戸惑いながら問いかけるコングに答えたのは、ノックではなくジェーンだった。
 「彼はね、あなたの代わりなのよ」
 「え?」
 「誰かさんが問題起こして中国行きメンバーから外れたから、代わりにノックが中国へ行くことになったの。 今日はその打ち合わせがあるのよ。 だから私もこうして
  出張帰りだけど会社へ来たわけ」
 「え・・・ノックが・・・」
驚いたコングが、ノックを見る。 彼の視線を受けて、どこかバツが悪そうにノックが首をうなだれた。
 「何しろ三週間後にはもう中国へ発つんだし、とにかく時間がないの。 まったく、いい迷惑だわ。 ねえノック、あなたもそう思うでしょ?」
 「・・・・・・・・・」
否とも応とも言わず、ノックがさらに深く俯く。 そんな彼の態度を見て、ジェーンが小さく舌打ちをした。
すると、不意にコングが手に持っていた一枚の紙をジェーンの眼前へ差し出した。
 「・・・これ。 掲示板の記事を書いた人物のIDナンバーです。 この番号は、あなたですよね」
 「え・・・」
不動の証拠を突きつけられ、さすがのジェーンも思わず言葉を失う。 先ほどまでの傲慢な表情が一瞬にして消えた。
すると、それまで黙っていたノックが口を開いた。
 「それ、本当なのか? ジェーン先輩が書いたって」
 「ああ。 総務で照合してもらったんだ。 間違いない」
 「・・・・・・・・・」
信じられない、というような眼でノックがジェーンを見た。 口をつぐんだままのジェーンへ、コングがさらに詰め寄る。
 「なぜこんなことをするんですか? 俺があなたに何かしましたか? 俺たちの何が悪いんですか」
次第に詰問口調になるコングを、ノックが呆然と見つめる。 ノックもまた、こんなコングの激高した様子を見るのは初めてだった。
完全に追い詰められたジェーンが、とうとう堰を切ったように反撃を開始した。
 「・・・なんでこんなことするかって? それは、あなたがゲイだからよ! 私はゲイが許せないのよ!」
 「ゲイが許せないって、そんな理不尽な理由ありますか!? それに俺はゲイじゃない!」
あまりの理不尽な言い訳を聞いて、思わずコングの声も荒くなる。 
 「俺はゲイじゃないけど、なんでそんなにゲイを毛嫌いするんですか!? 彼らだって俺たちと同じ人間なのに」
 「私の父親がゲイだったからよ!」
ほとんど叫ぶようにそう吐き捨てたジェーンを、ノックとコングが凝視する。
 「父親が・・・?」
 「そうよ。 父は私と母を捨てて、男の恋人と一緒になったのよ。 おかげで母は精神を壊して、挙句自殺してしまった。 父が母を殺したのよ! だからゲイは大嫌い!!」
一気にそう吐き出すと、ジェーンははあはあと肩で息をしながら言葉を途切れさせた。 
これには、さすがのコングも驚いた。 こんな過去があれば、ゲイを憎んでしまうのも無理はないのかもしれない。
だが、だからといってそれが彼女のしでかしたことの免罪符になるわけではない。
 「・・・先輩にそんな過去があったとは、知りませんでした。 でも、ゲイがみんな悪いわけじゃない。 お父さんのしたことは確かに許しがたいだろうけど、だからって
  他のゲイがみんな同じような人間だと思わないでほしい」
 「うるさい! あなたに何がわかるっていうのよ! 知ったふうな口叩かないでよ」
 「でも、先輩だってお父さんを愛してたんでしょう? そこまで憎むってことは、裏を返せば愛する人に裏切られた悲しみでもあるわけですよ。 だって何とも思ってない相手なら、
  そこまで深く傷つかないでしょう」
 「・・・・・・・・・」
 「それだけ、お父さんを愛してた。 そして、今は愛するご主人と子供さんがいる。 今が幸せなら、もう過去は忘れてもいいんじゃないですか」
 「・・・・・・・・・」
訥々と語るコングの言葉を、苦い表情でジェーンが受け止める。 しかし彼女は、もうそれ以上何も言わなかった。
 「・・・少し、喋りすぎました。 俺が言いたかったのはそれだけです」
冷静さを取り戻したコングが、ぽつりとそう呟いた。 そして、ジェーンの隣で思いつめたように立ち尽くしているノックへと話しかけた。
 「・・・ノック。 俺の代わりに、中国で頑張ってくれ」
そう囁いて、ぽんと肩を叩く。 見上げたその目は、戸惑いが色濃く浮かんでいる。
 「コング・・・俺は・・・」
先日、コングがゲイと知って取り乱し、辛く当たってしまったことを思い返しているのだろうか。 何かを訴えようとするように、唇が小さく震えている。
だが結局、言葉にはならなかった。 それでも、彼の心の中の葛藤はコングにも伝わった。
無言で立ち尽くすジェーンとノックをそのままに、コングはゆっくりと部屋を出て行った。

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SOTUS・Season3(§119)

2021-03-07 00:29:15 | SOTUS The other side
打ちひしがれた心をひきずりながらコングが自席に戻ってくると、部長との会談を終え、険しい表情で戻ってきたナラックがすぐさま駆け寄ってきた。
 「コング、ちょっと来てくれ」
椅子に座ろうとしていたコングの腕を取ると、返事も聞かないうちに強引に別室へと連れて行かれた。
小さな打ち合わせ室へコングを押し込むと、ナラックが単刀直入に訊ねてきた。
 「さっきブランカ部長から信じられないことを聞いた。 おまえ、ゲイというのは本当なのか」
 「・・・・・・・・・」
思いつめた表情で自分の答えを待っているナラックを、コングがじっと見つめる。 彼もまた、ノックたちと同じ人種なのだろうか。
入社当初から何かと自分を気がけてくれ、リーダーとしても人間としても尊敬できる人物だと思ってきた。
だが、彼もまたそうなのだろうか・・・。
 「・・・・・・・・・」
無言のまま、コングが苦し気に表情を歪めた。 そんな彼の様子を見て、ナラックが腕を掴んでいた手をそっと離した。
 「・・・勘違いしないでくれ。 俺は、おまえを責めてるわけじゃない。 ただ本当のことを教えてほしいんだ」
先ほどの切羽詰まったような声音ではなく、言い聞かせるようなトーンでナラックが根気強く答えを待つ。
やがてコングが、ゆっくりと口を開いた。
 「・・・・・・俺に、同性の恋人がいるのは本当です」
じっと目を見てそう告白するコングを、ナラックもまた真剣な目で見つめる。
 「でも、ゲイというわけではありません。 彼という人間を愛してるんであって、そこに性別は関係ないんです。 たまたま、男性だったというだけです」
詭弁と取られるかもしれない。 同性愛者は、みんなそうやって己の正当性を主張するのだと一蹴されるかも知れない。
しかしコングには、これがすべてだった。 男性だから、女性だからという既成概念は、何の意味もない。
アーティットという人間を、全身全霊で愛している。 ただそれだけが、粛々たる事実だった。
 「・・・そうか。 正直に話してくれてありがとう」
 「・・・課長も、僕を軽蔑しますか」
ふっと自虐的な苦笑いを浮かべたコングが、ぼそりと零した。 だが意外にもナラックは首を左右に振ってみせた。
 「いや、俺はゲイに対して偏見はない。 おまえがゲイにしろそうでないにしろ、そんなことは大した問題じゃない。 ただ、中国行きを控えたこの時期にこういうことが
  発覚したのが問題なんだ」
 「時期・・・」
 「部長が一番気にかけてるのが、中国側への悪影響だ。 それに、うちの会社はLGBTに対する風当たりが強い。 中国行きのメンバーにも当然偏見者はいるだろう。
  そういう中で、おまえが中国へ行くのは極めてリスクが高いとして、部長が中国行きをやめさせると言ってきたんだ」
 「・・・・・・・・・」
 「それにしても、なんで部長はこんな情報を知ったんだろう? おまえ、誰かに話したか」
腑に落ちない、とでもいうように首を傾げながらそう問いかけるナラックに、コングはすぐに答えることができなかった。
情報の出元がジェーンだということは、ほぼ間違いないだろう。 ジェーンがブランカに告げ口をしたのもおそらく間違いない。
ではなぜジェーンがこのことを知っていたのかと訊かれると、土曜日のことを詳細に話さなければならなくなる。
今のコングには、それをする気力がなかった。 ただ曖昧に首を振って、無言で俯く。
 「そうか・・・。 俺としては、とても残念だ。 おまえには中国で思う存分力を発揮してもらいたかったんだが・・・」
 「・・・期待に沿えず、すみません・・・」
振り絞るようにそう答えるコングに、はっとしたナラックが慌てて弁護する。
 「おまえが謝ることはない。 おまえだってとんだ災難だったわけだしな。 また次の機会があるさ」
その場しのぎの慰めだとわかっているが、それでもコングは小さく頭を下げた。 それ以上かける言葉が見つからないナラックは、微かに苦笑いのようなものを浮かべ、軽くコングの腕をぽんぽんと叩いた。
それを合図に、二人はゆっくりと部屋を後にした。


中国行きがなくなったこと、自分がゲイだという噂が社内に流れたことなど、その日は一日思考を雑念に支配され、仕事に身が入らなかった。
常にそこかしこから誰かしらの視線を感じ、結局終業と同時に職場から逃げ出すように帰路についた。
オフィスビルの外へ出ると、まだ夕闇すら訪れていない明るい空が目に入った。 こんな時間に帰宅するのは、何ヶ月ぶりだろうか。
屋内でずっと過ごした目には、傾きかけた太陽の光が眩しい。 目の前に手をかざしたコングは、ゆっくりと足を踏み出した。
いつもなら自炊で食事の準備をするが、今日はもう何もする気になれず、帰り道でファストフードのテイクアウトを買った。
マンションに着き、自室へ入ると、鞄とともにベッドへダイブした。
一日仕事らしい仕事もしていないのに、体全体が鉛のように重く怠い。 心なしか頭痛までしてきた気がする。
ごろりと体勢を変えると、ベッドのマットレスが目に入った。 今朝シーツを洗濯した後新しいシーツを敷く時間がなく、そのままにしていたことを思い出す。
寝転んだままベランダを見ると、干しっぱなしのシーツが目に入った。
のろのろと体を起こしたコングは、シーツを取り込むために重い足をひきずってベランダへと降り立った。 ぱりっと乾いたシーツは、ほのかに太陽の香りがする。
このシーツの上で、昨日アーティットと目くるめく愛の時間を過ごした。 何物にも代えがたい、至高のひとときだった。
あれから一日しか経っていないのに、気持ちは一気に奈落の底まで堕ちた。
シーツを握りしめたまま無意識にため息を吐いたコングの脳裏に、ふと父グレーグライの言葉が蘇った。
(おまえが赴任先で恙なく任務を全うし、晴れて凱旋できたなら、おまえたちの関係について考えてみることにしよう)
 「・・・・・・!」
思わずコングが頭を抱えた。 この中国行きには、深い意味があったことを思い出す。
アーティットとのことを認めてもらう大きなチャンスだったのに。
いったい父にどのように伝えたら良いのだ。 アーティットとの関係が上部にばれ、それが原因で中国行きを取り消されたなどと、そんなことは言えるはずもなく。
そしてアーティットにも、どうやって言えば良いのか。 真実を知ったなら、間違いなく自分を責めて、最悪の場合別れるなどと言い出すかもしれない。
思わずコングが強く頭を左右に振る。 それだけは絶対に嫌だ。 アーティットは何も悪くないのだから。
 「・・・・・・・・・」
シーツを胸に抱いたまま、ずるずるとコングがその場に座り込む。 八方塞がりな気持ちになり、目の前が暗くなった。
地の底まで沈んだコングの心を、オレンジ色に染まりかけた夕陽が静かに照らしていた。
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SOTUS・Season3(§118)

2021-03-07 00:28:40 | SOTUS The other side
同じ頃。
いつもより出勤時間が遅くなったコングは、速足で自分の部署である建設営繕課へ向かっていた。
アーティットと甘い時間をたっぷりと過ごした後は、寝具と衣服の洗濯がつきものだ。 今朝はその後始末に追われ、家を出るのが遅くなってしまった。
腕時計を気にしながら社屋の廊下を歩いていると、ふと妙な違和感を感じた。
行き交う人々の多くが、なぜか自分に視線を投げてくる気がする。
普段なら、すれ違う相手をいちいち気にしたりはしない。 たまにちらりと見る人間もいるが、知り合いでもない限り大抵はすぐに視線を外す。
だが今は、多くの見知らぬ人間が自分をじっと見てくるのだ。
だがコングと目が合うと、すぐに目を逸らしてそそくさと立ち去っていく。 その動きは不自然で、単に目が合った気まずさだけとは思えなかった。
心に引っかかるものを感じながらも、コングは自分の部署へとたどり着いた。
 「おはようございます」
そう挨拶しながらドアを開けると、課員が一斉にこちらを見た。 その目は、先ほど廊下で見たものと酷似していた。
いつもなら同僚たちが口々に挨拶を返してくるのに、今日はヒソヒソという囁き声が聞こえるのみで、それがコングの違和感を一層掻き立てる。
 「・・・・・・・・・」
戸惑いながら席に着いたコングは、ふと隣のジェーンの席に目をやった。 デスク上は綺麗に片付けられ、当のジェーンもいない。 時計を見ると、もう始業時間を過ぎている。
 「・・・あの、ジェーン先輩は」
土曜日のことが気になり彼女に聞きたいことがあったコングは、向かいの同僚に何気なく尋ねた。
 「・・・今日から出張だよ」
ぶっきらぼうなその答えを聞いて、そういえば今週は一週間出張だと言っていたことを思い出した。
仕方なくコングが仕事の準備に取りかかり始めると、同僚の中でも一番仲の良いノックが近づいてきた。
彼に気づいたコングがおはようと声をかけると、どこか人目を気にするような素振りで、ノックがコングの腕を取って告げた。
 「・・・ちょっと、話がある」
そのままぐいっと腕を掴んで歩き出そうとするノックに、驚いたコングが抗議する。
 「おい、もう朝のミーティング始まるのに、どこ行くつもりだよ」
 「課長が今部長に呼び出されてて、ミーティングは遅くなるって連絡あったんだ」
そう説明されて、そういえば課長のナラックの姿が見当たらなかったことを思い出す。 ミーティング前のこんな朝一番に部長が呼び出すのは珍しい。 何かあったのだろうか。
やがて人気のない場所までコングを連れてきたノックが、ようやく腕を離して振り返った。
 「・・・おまえ、ゲイって本当なのか」
いきなりとんでもないことを言われ、思わずコングが目を見開く。 あまりに唐突すぎて言葉を失っている彼へ、ノックがさらに追求する。
 「今朝はもうその話題で持ちきりだ。 おまえには男の恋人がいるって」
剥き出しのその言葉が、コングの胸に突き刺さった。 怖いものを見るような目で、ノックを見る。
震えそうな声で、コングが口を開く。
 「誰が、そんなことを・・・」
明らかに動揺しているコングの目の前へ、ノックが一枚の紙を差し出した。 素早く手にとって読み始める彼に、ノックが補足説明を加える。
 「・・・誰かが昨日、社内掲示板に書き込んだらしい」
ノックが持ってきたのは、掲示板をプリントアウトしたものだった。 そこには、次のように書かれていた。
〔建設営繕課のコングポップ・スチラクには、同性の恋人がいます。彼は来月から始まる中国支社建設特別プロジェクトの一員ですが、同性愛者である彼が中国へ
 行くのはリスクが高く、同性愛を善しとしない中国サイドから批判を受ける可能性があります。 ひいてはわが社のイメージダウンに繋がる危険性もあることから、
 彼の派遣中止を強く望みます。〕
投稿者の氏名欄は空欄になっていたが、コングにはこんなことを書く人物は一人しか思い浮かばなかった。
 「・・・・・・・・・」
凍り付くような眼で紙面を凝視するコングの手が、わなわなと震えた。 
やはり、ジェーンは見ていたのだ。
あの日、飛び出して行ったアーティットを説得して部屋に戻ってくると、そこにジェーンの姿はなかった。 てっきりもう帰ったものだと思っていたが、そうではなかった。
おそらくどこかに身を潜め、自分たちのやり取りを見ていたのだ。 そして、恋人同士だということに気付いたのだろう。
しかし、このような大袈裟なことをするとは思わなかった。 可愛さ余って憎さ百倍、といったところなのだろうか。 
つい三日前までは、傍目から見ても明らかなほどコングへ熱い眼差しを向けていたというのに。
いずれにしても、彼女の逆鱗に触れたことは間違いないのだろう。
辛酸を舐めたように顔を歪めて立ち尽くすコングへ、再びノックが尋ねる。
 「・・・なあ、ここに書かれてることは本当なのか? おまえがゲイって、本当なのかよ!?」
いっそ悲愴さを感じるほどに声を荒げ、自分に詰め寄るノックを見て、コングの胸がすうっと冷えた。
彼もジェーンと同じく、いやその他大勢の社員と同様に、ゲイに対して強い偏見を持つ人間だったのだ。 そういう了見の狭い人間だったのだ。
必死に答えを求めるノックの目が、嘘だと言ってくれと訴えている。 本当のことを口にすれば、きっと彼は自分から離れて行くだろう。
何でも語り合えると信じていた友人。 しかしそれは、単なる思い込みに過ぎなかった。
心の中で虚しく何かが壊れていくのを感じながら、コングはゆっくりと最終通告を口にした。
 「・・・俺はゲイじゃないけど、同性の恋人がいるのは・・・本当だ」
その瞬間、ノックの目が最大限に見開かれた。 ゲイじゃないというコングの前置きの言葉は、もはや彼には何の意味もなかった。
男の恋人がいる。 それだけでノックの心を砕くには充分だった。
よろ、とよろめきかけながら二、三歩後ずさったかと思うと、それきり何も言わずにノックが歩き出す。 
やがて小走りになって遠ざかっていくその背中を、疲れたようにコングが見つめていた。 

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