以前のブログ記事で
三大国家試験とは、
その制度設計と
相互の試験科目免除制度などから
司法試験、公認会計士試験、
不動産鑑定士試験の3つであると
論じた。
で、もう一度、三大国家資格
について考察してみたい。
ものの本では、
医師、弁護士、公認会計士を
三大国家資格と書いたり、
公認会計士の代わりに
国家公務員試験総合職を入れて、
三大国家試験とか書いたりしている。
しかし、
例えば、医師が書いた著作物の中に
「医師は、弁護士、公認会計士と
並ぶ三大国家資格です。」などと
書いてあることは、あまり無く、
せいぜいが「医師は、弁護士と並ぶ
国家資格です。」と書いてある程度だ。
(ただ、最近は、医師が書いたもの
などには、
「医師は、弁護士と並ぶ二大国家
資格でしたが、近年は、弁護士
になることは、かなり簡単に
なったようです。」
などと書いてあったりする。)
医師、弁護士に公認会計士を入れて
三大国家資格と呼んでいるのは、
公認会計士が書いた著作物とか、
公認会計士試験のガイドブックに多い。
実際、アメリカでは、医師と弁護士
は、原則的には、大学院(メディカル
スクール、ロースクール)に入学・
卒業しないと得られない資格である
のに対し、
公認会計士は、大卒という学歴だけ
で取ることができる資格なので、
医師・弁護士の両資格に比べると
資格としての位置づけが低い。
(アメリカで
三大プロフェッショナルスクール
と言えば、メディカルスクール、
ロースクール、ビジネススクール
であり、
ビジネススクールを卒業してMBAを
取得した者は、
投資銀行家、戦略系コンサル、起業家
や大企業の経営などに進むのが常道で、
CPA(公認会計士)を本業にしたり
する人がいると、
「どうしてMBAまで取ってCPAを
本業にするんだ。
CPAを本業にするなら、わざわざ
ビジネススクールに来ないで、
大卒で十分だろ。」
という感じのようだ。
あるいは、一流大学のMBAを取って
CPAを本業にした人は、投資銀行や
戦略系コンサルへの就職に失敗し、
かといって起業家になるような野心
もない、
つまり、CPAは、すべり止め的な
仕事ということかもしれない。
〈2流、3流のビジネススクール
ならCPAを本業にするのもあり
かもしれないが〉
ハーバードなどの1流ビジネス
スクールでは、「会計」の講義
の際に、
「仕分けとか、記帳とか、そんな
ことは会計士に任せておけば
いい。
エリートである君たちは、
会計の細かい知識なんかでは
なく、
もっと大局的に会計を
利用することを学ぶんだ。」
といった趣旨の説明がされる
らしい。
つまり一流ビジネススクールでは、
MBA取得者はCPAなどにはならない
という前提で「会計」の講義が
行われるのだ。)
日本でも、学歴という観点で見れば、
法科大学院卒の弁護士はJD(ジュリス
ドクター、法務博士(専門職))で、
いちおう「博士」である。
(日本の法科大学院卒は、司法試験の
予備試験を免除されるための学歴
なので、予備試験合格者は、当然に
法科大学院卒と同等とみなされる。
〈弁護士の就職など実務の世界では、
予備試験合格者>法科大学院卒と
なっているので、予備試験に合格
すれば、法科大学院に入学しない
し、法科大学院の学生が予備試験
に受かれば法科大学院を中退する
ことが多い。かつての外務省は
東大3年生のときに外務公務員試験
に合格し、東大を中退して外務省
に入省した人がトップエリートで
あったがそれと同じ。〉)
また、
医師の6年生医学部の学歴の
「医学士」や「学士(医学)」は
英訳するとMD(メディカルドクター、
ドクター・オブ・メディスン)で、
医師もドクターである。
(なので、日本の医師を英訳する
ときにドクター(doctor)と
訳しても間違いにならない。
医師となった後に、人によっては
「博士(医学)」を取得するが、
これは、MDではなくてPh.Dだ。
東大など一流大学の医学部には、
医学部に在籍しながら博士(医学)
を目指すカリキュラムである
PhD・MDコースというのがある。
医学部の3年か4年時に博士課程に
進み、そこで医学博士号(Ph.D)を
取得したら医学部に戻り、その後、
医学士(MD)を取得するという
カリキュラムだ。
ただ、なんかこれって、結局、医学士
(MD)の方が医学博士(Ph.D)よりも
上の扱いってことになってしまうような
気がする。
実際、アメリカではそうなっている
ようだけど。)
しかしながら、
会計士となるために「博士」は、関係
ない。
商学や法律学の博士号を持つ人は
会計士試験で、短答式試験や
論文式試験一部科目の免除があったり
するが、
それは、MDやJDが医師や弁護士に
なるための必要条件であるのに対し、
会計士試験では、たとえば、法律学の
博士号を持つ人は会計士試験の民法や
企業法なんか出来て当たり前だから
免除するということで、
博士号が十分条件として扱われている
ので、博士の扱いが医師・弁護士と
会計士とでは根本的に異なる。
刑法の秘密漏洩罪(刑法134条1項)
でも、「医師、薬剤師、医薬品販売業者、
助産師、弁護士、弁護人、公証人又は
これらの職にあった者が、正当な理由が
ないのに、その業務上取り扱ったことに
ついて知り得た人の秘密を漏らしたときは、
六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に
処する。」
と弁護士だけ他の文系資格とは別に特別
扱いになっている。
(公認会計士、不動産鑑定士、弁理士、
司法書士などは、それぞれの資格の
法律で秘密漏洩に対する罪が規定
されている。)
それになにより、資格取得の困難性
という観点からは、
医師と弁護士が二大国家資格という
ことになるだろう。
また、小説、映画、テレビドラマ、
漫画などの題材になったり、主役に
なったりする点や、
ニュースやワイドショーなどに
コメンテーターとして出演する資格者
という点では、
医師と弁護士が他の資格に比べて
圧倒的に多く、
やはり、数ある資格の中で、この2つは
特別であると言える。
(これはアメリカでも同様だ。
逆にアメリカの映画やドラマで
会計士が出てくる場合、あまり
よく描かれていない場合が多い。
だいたいがメガネをかけた細身
の体で、計算や、規則や、建前に
こだわる子悪党や小人物として
出てくる。
アメリカ人の会計士に対する
一般的なイメージは、決して
良いものではなく、
日本で言うと、一般的な日本人が
不動産業者(宅建業者)や宅建士
(宅地建物取引士)に抱く
イメージに近いかもしれない。
あくまでもイメージだが。)
ただ、
文系と理系に分けて、それぞれを考える
ということも可能だ。
この場合、文系では、弁護士に次ぐ資格
として、
資格取得プロセスの類似性と資格試験間
の科目免除制度の面から、
やはり、公認会計士と不動産鑑定士が
来るので、
弁護士、公認会計士、不動産鑑定士を
文系の三大国家資格と呼ぶことができる。
資格取得プロセスの類似性とは、
この3つの試験ともに、
一つの試験に合格しただけでは資格者
になることができず、
それぞれ、資格者になるためには、
司法試験、公認会計士試験、不動産
鑑定士試験に合格した後に、
長期間の研修を受け、
その研修の修了試験に合格しなければ
ならないという面倒なプロセスが必要
という点で、
他の文系資格と異なる特徴がある
ということ。
司法試験、公認会計士試験、不動産
鑑定士試験自体も、短答式試験、
論文式試験と分かれており、
面倒くさい試験対策が必要という点
も似ている。
資格試験間の科目免除制度とは、
司法試験に合格すれば、
公認会計士試験の民法と企業法が
免除され、
不動産鑑定士試験の民法が免除
されるとか、
公認会計士試験に合格すれば、
不動産鑑定士試験の会計学が
免除されるとか、
不動産鑑定士試験に合格すれば、
公認会計士試験の民法と経済学が
免除されるとかのことである。
次に、理系では、医師に次ぐ資格
として、
難易度の観点と資格取得プロセス
の類似性から、
歯科医師、薬剤師が考えられる。
難易度の観点とは、
理系の大学入試において
最も難易度が高いのが医学部医学科
であり、
それに次ぐのが歯学部や薬学部
であるという点だ。
資格取得プロセスの類似性とは、
この3つの資格とも、
大学の学部で6年間学ぶことを要し、
それぞれの学部を卒業することが
国家資格の要件となっている点だ。
なので、理系の三大国家資格として、
医師、歯科医師、薬剤師を挙げる
ことができる。
以上から、全部あわせると、
医師、弁護士、歯科医師、公認会計士、
薬剤師、不動産鑑定士を六大国家資格
と言うことができるかもしれない。
更に加えるならば、
文系の三大国家資格に準ずる資格
として税理士と司法書士、
理系の三大国家資格に準ずる資格
として1級建築士と技術士が存在
する。
これらをまとめれば、
医師、弁護士、歯科医師、公認会計士、
薬剤師、不動産鑑定士、1級建築士、
税理士、技術士、司法書士が
十大国家資格ということになる。
P.S.
弁理士と測量士・土地家屋調査士
を忘れていた。
弁理士は、文系の三大国家資格の
中に入るような難関資格だが、
弁護士は、当然に弁理士になることが
でき、
弁理士にならなくても、弁護士資格の
ままで弁理士業務をすることができる。
ただ、現実には、弁理士は、理系
出身者が多く、
文系の資格と言い切れないところが
ある。
測量士は、土木関係の有力資格で
あるが、
たとえば、大学で測量に関する
科目を修めていると、
1年の実務経験だけで無試験で
取得できる。
土地家屋調査士も弁理士と同じく、
理系出身者も多い。
測量士が独立する場合、測量だけ
では喰っていけない可能性がある
ため、
土地家屋調査士資格を取って、
登記関係の仕事もすることによって
事務所経営を成り立たせるという
ことがよくある。
測量士は(測量士補や1級建築士、
2級建築士も)土地家屋調査士試験の
うち、土地及び家屋の調査及び測量
の科目が免除されるのだ。
土地家屋調査士は、測量と法律という
理系と文系の双方にまたがる資格だ。
これらも加えると十三大国家資格と
なる。
(どんどん増えていくな )