台所事件簿

背が低いんです。すごく低いんです。
子供の頃の夢は『前へならえ』で腕を前に出す事でした。(いつも一番前で腰に手を当てるポーズ担当)
前へならえをする機会の無くなった現在でも背の低さは結構コンプレックスで、生活の中の色んな場面で

ちびって切ない・・・

と実感させられるんです。
通勤ラッシュの電車内では窒息死。運良く窒息は免れても、おやじの鼻息＆咳＆くしゃみ攻撃を頭頂に喰らう。
人ゴミの中で待ち合わせしても発見されない。まれに置いて行かれたりすることも。
ライブを見る時は最前列に行かないと何も見えない。自分が演る側の場合は、ステージ上で常にジャンプしてないと後方のお客さんにわしの姿が見えない。
ベルボトムを購入して丈を詰めると、見事にベルは消え失せただのストレートになる。
渋いバーのカウンタースツールに腰掛け、『ターキー、ロックで』とかクールに決めてみても、足が床に届かずぶらぶらしてカッコ悪いことこの上なし。
・・・等々、数え上げたらキリがありませんが、たかが背が低いというだけで、今日ほど傷つけられた事はなかったのです。

事件はキッチンで起きました。
どこのご家庭にも、『買い溜めしたけど置くトコないからとりあえず入れておくコーナー』という場所があると思うんですが（ない？ない？ウチだけ？）、我が家の場合はそれが、流し台の上にある棚なんです。
天井にくっついてるタイプのよくあるヤツで、扉を開けるとニ・三段に分かれている棚。床からの高さ約170cm。
一段目はね、さすがに届くんです。ちょっと背伸びするけど。
『買い溜めしたけど置くトコないからとりあえず入れておくコーナー』はね、二段目なんですよ。高さ約2メートル。
今日買ってきたちょっとした品物を、ホントにちょっとしたモノなんですよ、仮に『ブツＡ』としましょう、ブツＡをね、そのとりあえずコーナーにしまおうと思ったんです。
しかし扉を開けてみると、そこには先客の山が。

かつおぶし(徳用サイズ)、砂糖(1kg)、塩(1kg)、ホットケーキミックス、
だし昆布、小麦粉(1kg)、サッポロ一番味噌ラーメン(5個パック)

ブツＡは、こやつらの上に乗せられねばならないのです。
幸い、ブツＡは袋状かつ軽量。目一杯背伸びすれば『つんっ』と簡単に押し込めるはず。
さぁ。目一杯背伸びして『つんっ』
・・・『つつるんっ』と戻って来る。
さ、さぁ。気を取り直して、『つんっ』
『つつるんっ』
・・・いやいや。落ち着いてもう一度。
つんっ
つつるんっ
つんっ
つつるんっ
つんっ
つつるんっ
つんっつつるんっつんっつつるんっつんっつつるんっつんっつつるんっつんっつつるんっつんっつつるんっつんっつつるんっ


むきいいぃぃぃおあんがぅおえぇ


・・・ま、待て。落ち着け。落ち着きましょうったら。椅子or脚立を持ってきた方が早くないか？
・・・否。
答えはＮＯだ。ここで負けてはならぬ。
ちびに泣いて、ちびに終わる人生でいいのか！？
ちびの根性を、ちび魂の叫びを、ヤツラに(誰に？)叩きつける時ぞ、今！！！
助走用に3メートル下がり、呼吸を整え、精神統一。
スゥゥゥーッ、ハァァァーッ。
行け！
飛べ！
ラン＆ジャァァァァァンプ！！！
『とぅおぇやぁぁぁぁっ！』(ジャンプしてブツＡを叩き入れる)


ざぁらざらざらざらざらざら


ええ。ご想像の通りです。
ご想像の通りの品々の来襲に見舞われましたとも。ええ、ええ。

かつおぶし(徳用サイズ)、砂糖(1kg)、塩(1kg)、ホットケーキミックス、
だし昆布、小麦粉(1kg)、サッポロ一番味噌ラーメン(5個パック)
　＋
ブツＡ
　
ついでに言っちゃうとね。ブツＡはね。
お麩なんです。