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日常の業務ではMicrosoft Excelを多用している。というかExcelなしでは仕事が全く成り立たない状況であり、これは私だけでなく世の中の相当数の人に共通しているのではないだろうか。Excelをはじめとする表計算ソフトは人類最高の発明のひとつだと思う。

現在のパソコン用の表計算ソフトのスタートは、1979年に発売されたVisiCalcだ。

VisiCalc
https://ja.wikipedia.org/wiki/VisiCalc

1979年、Personal Software 社が Apple II 向けに発売した VisiCalc は、ダン・ブリックリン考案、ボブ・フランクストン設計、彼らの Software Arts社開発によるものであった。これにより Apple II はホビースト向けの玩具から便利なビジネスツールへと変貌した。
ブリックリンによれば、彼はハーバード・ビジネス・スクールで教授が黒板に金融モデルを書くのを見ていた。その教授が間違いに気づいてパラメータを修正しようとしたとき、表の中の大部分を消して書き直さなければならなくなった。これを見たブリックリンは、このような計算をコンピュータ上で処理する「電子式表計算」を思いついたのである。
ブリックリンは友人のフランクストンと共同でSoftware Arts社を設立し開発をスタートさせた。1978年から1979年にかけての冬の2カ月間でVisiCalcを開発。
VisiCalc はビジネスツールとしてのパーソナルコンピュータの有効性を示し、Apple II の躍進に寄与した。このことは、それまでPC市場を無視していたIBMがPC市場に参入する要因にもなった。




VisiCalcで特筆すべきは、当時既にベストセラーとなっていた Apple II 向けのソフトであったことである。ブリックリンは当初、表計算専用のハードウェアを設計・製造して販売することを考えていたが、大学教授から紹介されたダン・フィルストラの「わざわざハードを作らなくても、既に売れているハード向けにソフトを作って売ったほうが賢明だ」という助言に基づくものだ。
ハードのパソコンはまだ何に使用されるかが模索されていた段階で、VisiCalcはビジネスや確定申告などの一般的な使用への道を開き、またApple IIは一般ユーザーにも購入されるようになった。
そしてこれを機にコンピュータ業界ではソフトウェアの重要性が認識されるようになった。まさにビジネスモデルを変えた歴史的なソフトだと言えよう。

しかし、表計算ソフトのプログラムはそれまでにも大型のメインフレームにおいて存在していた。以下を参照しながらもう少し遡ってみてみよう。

Spreadsheet Early implementations
https://en.wikipedia.org/wiki/Spreadsheet#Early_implementations

SlidePlayer SPREADSHEETS by Marjory White
https://slideplayer.com/slide/8415149/

(1) BCL
表計算ソフトのコンセプトは、1961年に当時カリフォルニア大学バークレー校のRichard Mattessich (1922~2019) によって「Budgeting Models and System Simulation」という論文で概説された。
そして2人の研究助手Tom C. SchneiderとPaul A. Zitlauの助けを借りて、Fortran IVを使用してメインフレーム用のこのコンピュータープログラムが作成され。1962年にIBM 1130にて「BCL」 (Business Computer Language) というプログラムとして実行された。これはバッチシステムなので我々が表計算として描いているリアルタイムなものとは全く異なる。その後BCLは1968年にIBM 360/370に移植され、ワシントン州立大学での金融の授業でも使用された。

(2) LANPAR
1969年にはハーバード大学の学生だったRene K. PardoとRemy Landauは「LANPAR」 (LANguage for Programming Arrays at Random) と呼ばれるプログラムを開発した。LANPARはBell Canada、GE、AT&T、および多くの電話会社によって予算管理業務に使用された。
LANPARはユーザーに任意の順序で入力させ、電子コンピューターに正しい順序で結果を計算させる (自動自然順序計算アルゴリズム) という特徴があり、これは後にVisiCalc、SuperCalc、MultiPlanの最初のバージョンで使用された。

(3) Autoplan / Autotab
1968年にGeneral Electricコンピューター会社の3人の元従業員でCapex Corporationの創業者であるA. Leroy Ellison、Harry N. Cantrell、and Russell E. Edwardsがビジネスプラン作成の計算のためのプログラム「Autoplan」と開発し、GEのタイムシェアリングサービスで使用された。またその後IBMメインフレームでは「Autotab」として導入された。AutoPlanとAutoTabはスプレッドシート用のシンプルなスクリプト言語であった。

(4) IBM Financial Planning and Control System
1976年にIBM CanadaのBrian Inghamが開発したもので、少なくともIBMで30か国で実装された。 IBMメインフレームで実行され、APL (プログラミング言語) で開発された最初の財務計画用アプリケーションの1つであり、プログラミング言語をエンドユーザーから完全に隠すことができた。ユーザーは、行間および列間の単純な数学的関係を指定でき、また非常に大きなスプレッドシートをサポートできた。またバッチシステムから引き出された実際の財務データを各ユーザーのスプレッドシートに毎月ロードできるなど、プログラムの効率を従来の50倍も向上させるものだった。

(5) APLDOT
1976年に米国鉄道協会でIBM 360/91で開発された表計算ソフトで、メリーランド州ローレルのジョンズホプキンス大学応用物理学研究所で運営された。
この表計算ソフトは米国議会およびConrailの財務および原価計算モデルなどのアプリケーションの開発に長年にわたって使用された。

このように表計算ソフトの発案者はRichard Mattessich (のちにカナダのUniversity of British Columbiaのビジネスエコノミストで会計学名誉教授) だ。

Decision Support Systems Resources Spreadsheet:Its First Computerization (1961-1964)
http://www.dssresources.com/history/mattessichspreadsheet.htm

Mattessich also pioneered financial spread sheet analysis and simulation and did the basic research on which such best selling micro-computer programmes as Visi-Calc, super-Calc, Lotus 1-2-3, etc. are based. His book Simulation of the Firm through a Budget Computer Program (1964) contains the following basic ideas, decades later revived in those micro computer programmes: the use of matrices or spread sheets, the simulation of financial events, and most importantly, the support of individual figures by entire formulas behind each entry.
From: Hugh Legg "Ricco Mattessich: Acclaimed Researcher," Viewpoints (Summer 1988)




表計算ソフトはMattenssichの発案が種となり、VisiCalcで芽が出て、Lotus 1-2-3を経てMicrosoft Excelで花開いたという感じだろうか。
今後も表計算ソフトの機能は拡張してより便利に (または消化不良に) なっていくだろうが、それはMattenssichの発案の延長線上に位置するものだ。近い将来に全く新しい価値を提供する、これまでとは不連続で破壊的イノベーションを起こす製品が出現し、現在の表計算ソフトが足元をすくわれる日がくるかもしれない。日常業務を通じてアンテナを高く張っておこう。



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