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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/03

2022-01-03 09:39:22 | 日記
高血糖高浸透圧状態

1. 疾患概念と危険因子

・高血糖高浸透圧状態(hyperglycemic hyperosmolar state: HHS)は著しい高血糖(血糖>600 mg/dL, しばしば血糖>1000 mg/dL)と高浸透圧(血清浸透圧 >350
mOsm/L)による高度な脱水症.しばしば低容量性ショックを来す(『ハリソン内科学第4版』).

・典型的には,2型糖尿病の高齢者に起こる.口渇が感じられない,あるいは飲水できない状態にある高齢者は高リスクである(Arch Intern Med 1988; 148: 747).

・40-60%で感染症が合併している.感染症のうち最多は肺炎で 40-60%, 次いで尿路感染症が5 -16%である(Diabetes Care 2014; 37 3124-3131)

・糖尿病ケトアシドーシスの罹患率が 4.6-8.0 /1000人・年であるのに対し,高血糖高浸透圧状態の罹患率は 1/1000人・年に満たない(CMAJ 2003; 168: 859-866).

・高血糖高浸透圧状態の死亡率は 10-20%であり, 糖尿病ケトアシドーシスの10倍程度高い(Diabetes Care 2014; 37: 3124-3131).


2. 所見

・通常,昏睡または昏迷している.血管内容量の低下により,低血圧と頻脈を認めることが多い.また体は冷たく,皮膚は乾燥している.口腔内粘膜も著しく乾燥している.

・血液検査では,著しい高血糖を認める.また糸球体濾過量の低下を反映して尿素窒素が著しい高値(BUN ~120 mg/dL)を示す.さらに,自由水の欠乏を反映して高Na血症を認めることが多い.血清浸透圧(2Na (mEq/L) + Glu (mg/dL) /18+BUN (mg/dL) /2.8 で計算)は高値(>350 mOsm/L)となっている.

・低血圧を認める症例ではしばしば乳酸アシドーシスを合併する.長期の飢餓のためにケトン濃度が上昇していることもある.


3. 診断

・米国糖尿病学会は高血糖高浸透圧状態の診断基準として,血糖 >600 mg/dL (33.3 mmol/L),有効血清浸透圧 >320 mmol/kg を満たし,明らかな代謝性アシドーシスがないこととしている(Diabetes Care 2009; 32:
1335-1343). ただし,最大30%で糖尿病ケトアシドーシスを合併する(Nat Rev Endocrinol 2016; 12: 222-232) .

・有効血清浸透圧(effective serum osmolality)は 2Na (mEq/L) +Glu (mmol/L) または 2Na (mEq/L) + Glu (mg/dL)/18 で計算される指標であり,血清浸透圧とは異なる.尿素窒素は細胞膜を自由に透過できるので, 細胞内外の浸透圧形成には寄与しない.

4. 合併症

・高血糖高浸透圧状態の4-6割は感染症を合併しているが,感染症の合併を判断するのは容易でない.

・患者は多くの場合,低体温であるし,高度な意識障害のために問診や身体診察から得られる情報は限られる.また感染症の有無に関わらず,白血球数は上昇している.組織低灌流をともなう場合は,肝で産生されたCRPは肝内に滞留して末梢血に出てこない.高度な脱水のために尿が出ないので,尿路感染症の診断は難しい.また輸液後に肺炎が顕在化してくることもある.

・高血糖高浸透圧状態の死亡率は10-20%と高いが, 敗血症性ショックの死亡率は40-60%とさらに高い.感染症を見逃して治療が遅れれば致命的なので,血圧低下をともなう高血糖高浸透圧状態を診た場合には,私は敗血症性ショックとして広域抗菌薬投与を開始することにしている.

・重度の意識障害のために入院時に診断することは難しいが,入院後に麻痺が明らかになり脳梗塞が見つかることがある(Nat Rev
Endocrinol 2016; 12: 222-232).

・他に心筋梗塞を合併することもある(Nat Rev Endocrinol 2016; 12: 222-232).


5. 治療

・米国糖尿病学会は糖尿病ケトアシドーシスの治療と高血糖高浸透圧状態の治療とを区別していない(Diabetes Care 2009; 32: 1335-1343).

・全英糖尿病学会は高血糖高浸透圧状態の治療レジメンを提案している(Diabet Med 2015; 32: 714-724).

・最初の1時間で生理食塩水を 1L 輸液する.その後は血行動態や電解質を見ながら輸液の量を調整する.一般的には 250-500 mL/h で維持する(私は 200 mL/h 程度で維持することが多い).

・血糖の低下速度は 70-100 mg/dL/h, 血清浸透圧の低下速度は 3-8 mOsm/kg/h を目標とする.血糖と血清浸透圧が安定した段階で低張液への変更を検討する.

・血糖 <250 mg/dLになったら,輸液に5%または10%ブドウ糖を加える(私は血糖 <300 mg/dL を確認した時点で4%ブドウ糖を追加している).

・尿が出ていて血清カリウム <5.5 mmol/L であれば,生理食塩水に 40 mEq/L のカリウムを加える.血清カリウム <3 mmol/L の場合はインスリン静脈注射を開始するべきではない.

・インスリンはケトン血症を認める場合,あるいは十分な量の輸液を行っているにも関わらず血糖低下が <90 mg/dL/h の場合に検討する.インスリン静脈注射を行う場合は低用量(0.05 U/kgBW )で開始する.

・インスリン静脈注射の用量は血糖低下が <90 mg/dL となるように調整する.最初の24時間は血糖 180-270 mg/dL (10-15 mmol/L) より低い血糖にするべきではない.