高血糖高浸透圧状態
1. 疾患概念と危険因子
・高血糖高浸透圧状態(hyperglycemic hyperosmolar state: HHS)は著しい高血糖(血糖>600 mg/dL, しばしば血糖>1000 mg/dL)と高浸透圧(血清浸透圧 >350
mOsm/L)による高度な脱水症.しばしば低容量性ショックを
・典型的には,2型糖尿病の高齢者に起こる.口渇が感じられない
・40-60%で感染症が合併している.感染症のうち最多は肺炎
・糖尿病ケトアシドーシスの罹患率が 4.6-8.0 /1000人・年であるのに対し,高血糖高浸透圧状態の罹患率は 1/1000人・年に満たない(CMAJ 2003; 168: 859-866).
・高血糖高浸透圧状態の死亡率は 10-20%であり, 糖尿病ケトアシドーシスの10倍程度高い(Diabetes Care 2014; 37: 3124-3131).
2. 所見
・通常,昏睡または昏迷している.血管内容量の低下により,低血
・血液検査では,著しい高血糖を認める.また糸球体濾過量の低下
・低血圧を認める症例ではしばしば乳酸アシドーシスを合併する.
3. 診断
・米国糖尿病学会は高血糖高浸透圧状態の診断基準として,血糖 >600 mg/dL (33.3 mmol/L),有効血清浸透圧 >320 mmol/kg を満たし,明らかな代謝性アシドーシスがないこととしている(D
1335-1343). ただし,最大30%で糖尿病ケトアシドーシスを合併する(Nat Rev Endocrinol 2016; 12: 222-232) .
・有効血清浸透圧(effective serum osmolality)は 2Na (mEq/L) +Glu (mmol/L) または 2Na (mEq/L) + Glu (mg/dL)/18 で計算される指標であり,血清浸透圧とは異なる.尿素窒素は細胞
4. 合併症
・高血糖高浸透圧状態の4-6割は感染症を合併しているが,感染
・患者は多くの場合,低体温であるし,高度な意識障害のために問
・高血糖高浸透圧状態の死亡率は10-20%と高いが, 敗血症性ショックの死亡率は40-60%とさらに高い.感染症を
・重度の意識障害のために入院時に診断することは難しいが,入院
Endocrinol 2016; 12: 222-232).
・他に心筋梗塞を合併することもある(Nat Rev Endocrinol 2016; 12: 222-232).
5. 治療
・米国糖尿病学会は糖尿病ケトアシドーシスの治療と高血糖高浸透
・全英糖尿病学会は高血糖高浸透圧状態の治療レジメンを提案して
・最初の1時間で生理食塩水を 1L 輸液する.その後は血行動態や電解質を見ながら輸液の量を調整す
・血糖の低下速度は 70-100 mg/dL/h, 血清浸透圧の低下速度は 3-8 mOsm/kg/h を目標とする.血糖と血清浸透圧が安定した段階で低張液への変更
・血糖 <250 mg/dLになったら,輸液に5%または10%ブドウ糖を加える
・尿が出ていて血清カリウム <5.5 mmol/L であれば,生理食塩水に 40 mEq/L のカリウムを加える.血清カリウム <3 mmol/L の場合はインスリン静脈注射を開始するべきではない.
・インスリンはケトン血症を認める場合,あるいは十分な量の輸液
・インスリン静脈注射の用量は血糖低下が <90 mg/dL となるように調整する.最初の24時間は血糖 180-270 mg/dL (10-15 mmol/L) より低い血糖にするべきではない.