内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/22

2022-02-22 07:45:04 | 日記
持続的腎代替療法についての総説
Chest 2019; 155: 626-638

急性腎障害 (acute kidney injury: AKI) は重篤な患者ではしばしば認められ、相当な程度、障害および死亡と関連する。AKI 患者の 5-10% は集中治療室入室中に腎代替療法 (renal replacement therapy:RRT) が必要となり、その場合の死亡率は 30-70% にもなる。

過去 20年間で RRT が必要になる AKI 患者はだいたい年に 10%の割合で増加し続けている。RRT が必要になる AKI の危険因子としては、高齢、男性、敗血症、代償されない心不全、肝不全、心臓手術後、人工呼吸器の使用がある。

かつては RRT は例外的な治療だと見なされていたが、血行動態が非常に不安定な患者でも使用できることから現在ではルーチンで行われている。しかし、RRT については多くの基本的な事柄が分かっていないままである。例を挙げれば、RRT を開始する最適な開始時期や終了時期、最適なモダリティは何であるかが分かっていない。

CRRT と IHD

腎障害をともなう重篤な患者の腎代替療法としては、持続的腎代替療法 (continuous renal replacement therapy: CRRT) の他、標準的な透析法である間歇的血液透析 (intermittent hemodialysis: IHD) 、CRRT と IHD の中間である prolonged intermittent renal replacement therapies : PIRRTs がある。いずれも同じ体外血液回路を用いていて、主な違いは透析を行っている時間と溶質を除去する早さである。

IHD は比較的短い透析時間(3-5時間)で速やかに溶質を除去するのに対し、CRRT はより緩徐に除水と溶質の除去を行う。PIRRTs は両者の中間で、1回の透析時間は 8-16時間と幅がある。

CRRT と PIRRTs は循環動態が不安定な急性腎障害の患者で行われるのが一般的だが、両者の適応は施設間で相当な違いがある。

Kidney Disease: Improving Global Outcome (KDIGO) 急性腎障害診療ガイドラインには循環動態が不安定な患者には CRRT を推奨するという記載があるが、根拠は乏しい。循環動態が不安定な患者では、緩徐かつ持続的に透析を行った方が良さそうなものだが、ランダム化比較試験では、CRRT と IHD、PIRRTs の間で死亡率および腎機能障害からの回復については差を認めなかった。とはいえ、循環動態が不安定な患者に IHD を行うときは、限外濾過は緩徐に、透析液のナトリウム濃度は高く、透析液の温度は低くするなどの工夫は必要だろう。観察研究では、CRRT は IHD よりも効率良く除水でき、頭部外傷や劇症肝炎で頭蓋内圧が更新している場合には CRRT は IHD よりも脳灌流の維持に有効であることが示唆されている。

2. CRRT のモダリティ

CRRT は溶質を除去する原理によって持続的静脈血液濾過 (continuous venovenous hemofiltration: CVVH) 、持続的静脈血液透析 (continuous venovenous hemodialysis: CVVHD) 、持続的静脈血液濾過透析 (continuous venovenous hemodiafiltration: CVVFDF) の 3つに分類される。

CVVH は主に限外濾過によって溶質を除去し、CVVHD は主に拡散によって溶質を除去する。CVVHDF は両者を併用したものである。

CVVH では、半透膜である血液濾過フィルターに静水圧をかけて限外濾過を行う。溶質は水とともに半透膜を透過して除去される。この過程はしばしば溶媒牽引 (solvent drag) と呼ばれる。

十分な溶質クリアランスを実現するためには高い濾過速度が必要であり、溶質とともに除去される水を補充するために晶質液を供給し続ける必要がある。この補充液は血液回路によって濾過フィルターを通過する前に供給される場合と通過した後に供給される場合がある。

血液濾過速度を高くすると血液が濃縮されて血液濾過フィルターが目詰まりする危険が上がる。濾過フィルターを通過する前に補充液を供給する回路では濾過する前に血液が希釈されるので、血液濃縮が起こりにくくなる。しかし、溶質の濃度が薄くなってしまう分、同じ濾過速度では溶質クリアランスが低下する。

CVVHD では、溶質は透析膜を介した濃度勾配にしたがって透析液中に拡散する。拡散では低分子 (500-1500 Da 未満) は効率良く除去できるが、分子量が大きくなると急速にクリアランスは低下する。

一方、限外濾過では膜を介した溶質の移動は主にフィルターの孔の大きさによって決まり、クリアランスは大きな分子でも小さな分子でもだいたい同じである。

したがって、1000-20000 Da の溶質については、同じ流量でのクリアランスは CVVH の方が CVVHD よりも大きい。炎症性サイトカインも CVVH では効率良く除去できるので、サイトカインストームの患者では CVVH は有用そうだが臨床的な効果は証明されていない。

3. CRRT の適応

CRRT の適応は RRT 一般の適応と変わるところはない。すなわち、溢水、重度の代謝性アシドーシス、電解質異常、そして尿毒症を認める場合である。いずれも解釈に幅があり、客観的な規準ではない。悪化傾向にあるあるいは遷延している AKI に対しても RRT が行われる。

一般的に、溢水に対する RRT は溢水による臓器障害が存在し、利尿薬に反応しない場合に検討される。小児および成人を対象とした観察研究では、RRT を行う前の溢水の程度と死亡率との間には強い相関が認められる。しかし、溢水を改善させれば死亡率を低下させられるのかについては分かっていない。これについては今後前向き研究で検討される必要がある。

溢水のために重炭酸ナトリウムを投与できない代謝性アシドーシスの患者では RTT は有効である。一般的に、代謝性アシドーシスに対する RRT は pH 7.1-7.2 未満または重炭酸イオン 12-15 mmol/L 未満で検討するが、急性肺障害の患者では呼吸性アシドーシスも合併するので、より早い段階で RRT を検討する必要があるかもしれない。

RRT は乳酸を除去できるが、メトホルミンなどの薬剤による乳酸アシドーシス以外では RRT が乳酸アシドーシスの予後を改善させられるかどうかは分かっていない。

一般には高カリウム血症に対する RRT は薬物療法に反応しない血清カリウム 6.5 mEq/L 超の高カリウム血症で検討される。この場合は IHD の方が CRTTよりも早く血清カリウム濃度を正常化することができる。一方、重度の低ナトリウム血症をともなう場合は CRRT の方が IHD よりも緩徐に血清ナトリウムを補正できるので、浸透圧変化による脱髄を起こしにくいことが示されている。

脳症や心膜炎など顕性の尿毒症に対する RTT の治療効果については確立している。しかし、これらの症状は AKI が進行しないと出現しない。より早期に出現する、血小板機能異常、低栄養、易感染性、心不全、肺水腫については多臓器不全に陥っている重篤な患者では AKI による尿毒症が原因かどうかは判断できない。そのため、AKI に対する RRT では尿毒症の治療でなく予防のために行われることが多い。この場合の RRT の開始時期については議論がある。

4. 毒素・薬物の除去

アルコール、リチウム、サリチル酸、バルプロ酸、メトホルミンなどの薬物や毒物は RRT で除去でき、毒や薬物による中毒の場合には早期に RRT を行うことで合併症を防ぐことができるかもしれない。目的の薬物または毒物が、1. 分子量が小さく、2. 蛋白質に結合せず、3. 分布容積 1 L/kg 体重未満であれば、RRT で効率良く除去することができる。中毒の場合はいち早く毒物または薬物を除去する必要があるので、たとえ循環動態が不安定であったとしても、CRRT よりも IHD が好まれる。

劇症肝炎にともなう高アンモニア血症に対する RRT の効果は不明である。後ろ向き観察研究では、劇症肝炎に対して IHD を行った群は RRT を行っていない群と比較して 21日後の死亡率が低かった。しかし、 この研究だけで劇症肝炎における RRT の使用が死亡率を減らせると結論することはできない。

5. 敗血症

CVVH は炎症性サイトカインを除去できるが、敗血症に対する血液濾過の効果を検討した臨床試験ではいかなる利益も示せなかった。80名の敗血症患者を対象にしたランダム化試験では、標準治療に血液濾過を追加した群は標準治療と比較して死亡率やその他の臨床パラメーターを改善しなかった。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6435902/