内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/14

2022-02-14 19:02:32 | 日記
非侵襲的換気の総説
Eur Respir Rev 2018; 28: 180029

非侵襲的換気 (noninvasive ventilation) とは侵襲的な人工的な気道 (挿管、気管切開) をともなわない機械換気のことを指す。非侵襲的換気には陽圧換気と陰圧換気とがある。前者は気道に陽圧をかけて直接肺を膨らませるのに対し、後者は腹部または胸郭に体外から陰圧をかけることで上気道から肺に空気を引き込む。前者の非侵襲的陽圧換気 (noninvasive positive-pressure ventilation: NPPV) は最近 20年間で急性呼吸不全患者の呼吸管理に広く用いられるようになった。

多くの科学的エビデンスに基づいて、NPPV は現在、1. 呼吸性アシドーシスを呈する慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease: COPD) 患者、2. 肺水腫の患者、3. 免疫不全患者の重度の低酸素血症、4. 慢性換気障害患者の侵襲的機械換気 (invasive mechanical ventilation: IMV) からの離脱に対する換気療法として第一選択となっている。

NPPV の IMV に対する利点としては、1. 上気道を損傷するリスクが低い、2. 患者の不快感が少ない、3. 人工呼吸器関連肺炎 (ventilator-associated pneumonia: VAP) のリスクが低い、5. 飲食や会話が可能であり、吸入や喀痰、リハビリテーションの際に換気を一時中断できることが挙げられる。

しかし、1. 心肺停止、2. 過度の興奮状態、3. 血行動態が不安定、4. 高 CO2 血症以外の原因で昏睡している、5. 多臓器不全は NPPV の絶対禁忌であり、速やかに挿管するべきである。

呼吸不全の増悪を防ぐために、急性呼吸不全の兆候、特に高 CO2 血症を認めたらできるだけ早期に開始するべきである。

臨床医は NPPV を開始する際に、その目的を認識する必要がある。すなわち、下記のいずれの目的で NPPV を使用しているのかを認識し、治療のゴールと失敗をあらかじめ想定しておくことが重要である。

1. 急性呼吸不全が差し迫っている状況で、呼吸不全を回避するため、2. すでに呼吸不全で気道確保は必要だが自発呼吸は保たれている状況で、呼吸不全の増悪を回避するため、3. IMV からの離脱目的、4. 終末期の呼吸器疾患患者またはがん患者で挿管は行わない (do not intubate: DNI) または蘇生を行わない (do not resuscitate: DNR) 方針で姑息的に NPPV を使用するため。

マスクが装着できない、分泌物 (痰や唾液) が管理できない、NPPV 開始後もガス交換の改善がない、あるいは神経障害がある場合には、NPPV によって挿管や死亡を回避することは困難になる。特に一般病棟で NPPV を使用する場合は、NPPV が失敗した場合にどうするかを明確に決めておく必要がある。

1. COPD の急性増悪

COPD は頻度の高い呼吸障害で、可逆的ではない閉塞性障害で呼吸困難、咳、痰などの呼吸器症状をともなうものである。

COPD では、換気血流不均衡、動的肺過膨張、末梢気道抵抗の上昇、呼吸筋の疲労を認める。COPD の急性増悪では、CO2 が貯留 (PaCO2 45 mmHg 以上) し、呼吸性アシドーシス (pH 7.35 未満) を認める。

COPD の急性増悪においては、 NPPV は肺胞でのガス交換を支持し、換気血流不均衡を是正し、呼吸筋の負担を軽減させる効果が期待できる。

NPPV の COPD の急性増悪に対する適応は、標準的治療を行っても PaCO2 45 mmHg 以上の CO2 貯留があり、pH 7.25-7.35 のアシデミアがある場合には強く推奨される。この条件で標準治療に NPPV を追加すると、死亡率、挿管の必要性、そして入院期間を低下させることが示されている。

一方、CO2 貯留はあるがアシデミアをともなわない COPD の急性増悪に対しては NPPV は使用するべきではない。

2. 喘息発作

喘息は可逆的な閉塞性障害である。喘息発作は COPD と同様に高 CO2 血症を認めるが、閉塞障害の程度はさまざまである。閉塞障害が高度の場合、動的肺過膨張のために呼気終末陽圧 (positive end-expiratory pressure: PEEP) への反応性が COPD の急性増悪よりも悪いこともある。

そのため喘息発作に対して NPPV を行う場合は動的肺過膨張となるような不適切な 1回換気量や呼吸数、呼気時間の設定にならないように注意するべきである。また、NPPV を行っていてもガス交換や呼吸性アシドーシスが悪化する、循環動態が不安定になる、あるいは意識状態が悪化する場合は直ちに挿管するべきである。

そのような状況に追い込まれた場合、患者はすでに消耗しており安全に挿管できる余地は少ない。言い換えれば、喘息発作では COPD の急性増悪よりも安全に NPPV を行える時期が限られている。そのため、喘息発作に対する NPPV の使用が死亡、挿管の回避、入院期間に与える効果については一貫した結果が得られていない。

3. 神経・筋疾患

神経・変性疾患ではさまざまな疾患が含まれるが、いずれも呼吸筋(主に横隔膜、他に肋間筋および呼吸補助筋) が障害されれば呼吸不全を来たし得る。機能的には拘束性障害のパターンで努力肺活量と総肺気量が低下する。また、呼気筋力が低下すると痰の喀出が難しくなる。無症候の患者でも夜間の低換気を認めることがある。

近年、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの慢性呼吸不全や重症筋無力症やギランバレー症候群の急性呼吸不全に対して、気道クリアランスに NPPV を併用することが治療選択肢となっている。後者は急速に呼吸不全が進行し、しばしば挿管が必要になる。

球麻痺をともなわない神経筋疾患患者の慢性および急性呼吸不全に対して NPPV は広く使用されているが、倫理的にランダム化比較試験を行うのは難しく、文献上はエビデンスに乏しい。

4. 気管支拡張症

NPPV は嚢胞性線維症 (cystic fibrosis: CF) の慢性器および急性増悪において、肺胞でのガス交換を改善し、呼吸筋への負担を軽減する効果があるとされている。しかし、CF に対する NPPV の使用については明確な開始基準がない。神経筋疾患と同様に高 CO2 血症を認める場合は NPPV を開始した方が良いだろう。

CF に対する NPPV の効果については一貫した結果が得られているが、CF 以外の気管支拡張症についてはほとんど検討されていない。

5. 肺水腫

肺水腫に対する NPPV の効果については古くは 1980年代終わりの持続的陽圧換気 (continuous positive airway pressure: CPAP) の効果を検討した研究から始まり、30年以上検討されている。

陽圧換気は静脈還流量を低下させ、左室および右室の前負荷を軽減する効果と、肺胞の虚脱を防ぎ、酸素化を改善する効果とがあり、循環器系および呼吸器系の双方に良い効果をもたらす。

心原性肺水腫に対する NPPV (二相性陽圧換気 Bilevel positive airway pressure: BiPAP, CPAP) は死亡率および挿管のリスクを減らすことが示されている。

BiPAP と CPAP ではどちらが優れるかについては分かっていない。BiPAP では吸気もサポートされるが、うまく合わせられないと吸気時の負担が増える。低酸素血症をともなう急性呼吸不全で CPAP/NPPV が使用できない場合の high-flow nasal cannula: HFNC の使用についてはエビデンスが蓄積しつつあり、選択肢のひとつとなっている。

エビデンスの確かさは低いが、NPPV を行っているグループでは心筋梗塞のリスクが高いという報告がある。急性冠症候群が心原性ショックの患者に対する NPPV の使用については推奨するに十分なエビデンスがない。

6. 免疫不全患者の急性呼吸不全

VAP を回避できる利点から免疫不全患者の急性呼吸不全に対する NPPV の適応は支持される。欧州呼吸器学会 European Respiratory Society: ERS/米国胸部学界 American Thoracic Society: ATS のガイドラインによると、免疫不全患者の急性呼吸不全に対して標準治療に BiPAP または CPAP を追加した場合、挿管および死亡のリスクを低減させることが示されている。

近年、HFNC のエビデンスも蓄積されつつあり、最近発表されたメタ分析では、集中治療室に入室している免疫不全患者においては HFNC は NPPV と比較して、短期的な死亡率と挿管のリスクが低いことが示された。

7. 手術後の呼吸不全

手術後には麻酔、術後の疼痛、横隔膜の機能障害など複合的な要因により低酸素血症を来たし得る。ガイドラインでは、手術後で抜管した後に急性呼吸不全に至った場合は NPPV の使用を推奨している。この場合、術後の合併症を評価した上で CPAP または BiPAP で換気をサポートすると、腹部、胸部、心臓血管の手術後の患者について再挿管、院内感染、死亡、合併症のリスクを低下させ、入院期間を短縮する効果があることが示されている。

腎移植術後に急性呼吸不全に至った患者に対し、NPPV と HFNC の効果を比較した後ろ向き観察研究では、死亡率と集中治療室の入室期間については両者でほぼ互角だった。今後、手術後の急性呼吸不全患者に対する NPPV と HFNC の効果を比較するランダム化比較試験が必要だろう。

8. 胸部外傷

胸部外傷にともなう低酸素血症に対する NPPV の使用は、酸素投与および IMV と比較して、死亡、挿管、院内肺炎のリスクを減らし、集中治療室の入室期間を短縮する効果があることが示されている。

9. IMV から自発呼吸への移行

IMV の期間を短縮することは肺炎や気道損傷などの機械換気ともなう合併症のリスク低下に関連する。IMV からの離脱と抜管を予測する指標はいくつかあるが、どれが優れているかは分かっていない。

最も簡便な指標は頻呼吸指数 (rapid shallow breathing test index: RSBTI) である。これは呼吸数 (respiratory frequency) を 1 回換気量 (tidal volume) で除したものである。Yang と Tobin ら (1991) は RSBTI 105 回/分/L 以上で IMV 離脱を感度 97%、特異度 64%、陽性的中率 78%、陰性的中率 95%で予測できることを報告した。これについては、後にシステマティックレビューで確認されている。

自発呼吸トライアル (spontaneous breathing trial: SBT) は現在、抜管できるかどうかを評価するための指標として最も広く用いられている。これは自発呼吸があるかどうかを確認するために、一時的に(30-60分間)人工呼吸器のプレッシャーサポートを徐々に下げていくという試験である。場合によっては補助換気へ切り替えることも試みられる。

1998年に Nava らは 1度抜管に失敗した IMV の患者を、抜管して NPPV につないだ 25名と、再挿管した 25名に割り付けしたランダム化試験の結果を報告した。それによると NPPV につないだ群では、IMV 離脱までの期間と集中治療室に入室している期間が短縮し、VAP と死亡のリスクが低下した。

2013年のコクランレビューで 16件の臨床試験 (被験者は 900名超) の結果をまとめた結果、IMV からの離脱目的に NPPV を使用すると、特に COPD の患者で死亡、VAP、離脱失敗のリスクが低下し、集中治療室の入室期間が短縮すると結論した。

10. NPPV 失敗の原因

NPPV が奏効するかどうかは呼吸不全の原因に依るところが大きい。もともと慢性的な呼吸障害がある高 CO2 血症をともなう呼吸不全(COPD、胸郭変形、神経筋疾患、慢性心不全など)では NPPV が奏効しやすいのに対し、もともと呼吸障害がない急性発症の低酸素血症 (急性呼吸窮迫症候群など) では NPPV に反応しないことが多い。

重度のアシデミア (pH 7.25 未満) 、新規発症の高度な低酸素血症 (PaO2/FIO2 200 mmHg) 、頻呼吸 (呼吸数 25 回/分超) および肺以外の臓器不全ありは NPPV 失敗の予測因子である。

専門医でも 5-60% の頻度で NPPV による呼吸管理に失敗しており、失敗と関連する因子としては急性呼吸不全のタイプと重症度、医療チームの熟練度が挙げられる。

NPPV の失敗を即座に判断することは、IMV への切り替えのタイミングを逸しないために極めて重要である。

11. NPPV 失敗の原因

NPPV が奏効するかどうかは呼吸不全の原因に依るところが大きい。もともと慢性的な呼吸障害がある高 CO2 血症をともなう呼吸不全(COPD、胸郭変形、神経筋疾患、慢性心不全など)では NPPV が奏効しやすいのに対し、もともと呼吸障害がない急性発症の低酸素血症 (急性呼吸窮迫症候群など) では NPPV に反応しないことが多い。

重度のアシデミア (pH 7.25 未満) 、新規発症の高度な低酸素血症 (PaO2/FIO2 200 mmHg) 、頻呼吸 (呼吸数 25 回/分超) および肺以外の臓器不全ありは NPPV 失敗の予測因子である。

専門医でも 5-60% の頻度で NPPV による呼吸管理に失敗しており、失敗と関連する因子としては急性呼吸不全のタイプと重症度、医療チームの熟練度が挙げられる。

NPPV の失敗を即座に判断することは、IMV への切り替えのタイミングを逸しないために極めて重要である。

NPPV 失敗は、NPPV 開始直後であれば、痰詰まり、CO2 ナルコーシス、ファイティングが原因となる。1-48時間の早期であれば、NPPV の設定に問題があって十分に換気ができていない、呼吸回数が早すぎて呼吸疲労している、呼吸不全自体の悪化が原因となる。最初はよく換気できていたのに 48時間以上経ってからうまくいかなくなる場合は、睡眠障害や重篤な合併症が起こっている可能性がある。

NPPV 失敗の予防

NPPV が失敗する要因として多いのは、痰詰まりである。特に意識レベルが低下している場合や咳嗽反射が低下している場合は痰詰まりのリスクが高い。球麻痺をともなわない神経筋疾患患者の急性呼吸不全に対して NPPV に喀痰補助装置 (in-exsufflator リンク参照) や排痰手技 (ブレススタッキング breath stacking technique) を組み合わせると挿管を回避できるかもしれない。

COPD および気管支拡張症の急性増悪に対しては高頻度胸壁振動法 (high frequency chest wall oscillation) や肺内パーカッションベンチレーター (intrapulmonary percussive ventilator: IMV) は痰の可動性を改善させるかもしれない。ふたつの臨床研究で喀痰が困難な COPD 患者で NPPV の使用前または使用中に IMV を併用すると挿管のリスクが低下するかもしれないと報告されている。

気管支鏡も NPPV 失敗のリスクが高い患者における痰詰まり予防の選択肢のひとつである。1件の症例多少研究では、気管支鏡で痰の吸引をしながら NPPV で呼吸管理するのは、気管支鏡を行った後に IMV に切り替えるのと比べて、安全に実行できて、感染症の管理については優れる可能性があると報告された。

神経学的異常は NPPV 失敗の大きな要因である。脳症があると、誤嚥のリスクが高くなり、患者の協力が得られにくくなるので、理論的には NPPV は禁忌とされる。しかし、これは特に高 CO2 血症による脳症の場合は正しくない。この場合は、熟練した医療チームが注意しながら NPPV で換気をサポートした場合には IMV よりも安全にかつ速やかに意識状態を改善させることができる。

著しい興奮状態にあると NPPV を続けるのは難しくなる。特に高齢者では、NPPV 使用中にしばしばせん妄のために不穏になる。軽度の興奮状態にある患者に対して、高度な看護体制の下で、熟練した医療チームが低用量の鎮静薬 (オピオイド、プロポフォール、α2-アゴニスト)を使用することは選択肢のひとつである。ただし、過鎮静のリスクと IMV への切り替えの必要性については念頭に置いておかなければならない。

血中半減期が短いレミフェンタニルや呼吸抑制作用が少ないデキスメデトミジン (商品名: プレセデックス) などの新薬も NPPV 使用時の鎮静に利用できるかもしれない。

NPPV を長期間使用する場合はインターフェイスによる皮膚障害のリスクを低減させるために異なるタイプのインターフェイスをローテーションすることは検討しても良いかもしれない。

in-exsufflator
https://www.usa.philips.com/healthcare/product/HC0066000/coughassist-t70-mechanical-insufflator-exsufflator

元論文
https://err.ersjournals.com/content/27/149/180029