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悶茶流的同性愛小説

小説を書く練習のためのブログ。

俺の彼氏はヤンチャ坊主! 「転校生! サクラ現る! その2」

2011年06月17日 | 小説 「俺の彼氏はヤンチャ坊主!」

今から僕が話すことは、君達がこれまで生きてきた世界の常識では考えられないようなことかもしれない。
まずは疑う心を捨てることだ。さもなければ、僕達は近い将来、確実に死ぬことになる。

――死ぬのはべつに怖くない。自然の摂理だからね。
遅かれ早かれ、時が来れば誰にも終わりは訪れる。
たとえこの身が苦痛と恐怖に支配されようと、
一筋の救いの光がそこにあるのなら、恐れることはない。
人は必ず生まれ変わる。今生で得た僅かばかりの糧を手に、
希望と可能性に満ちあふれた来世へ、それぞれの運命を背負って転生するからだ。

だけど僕達は違う。
この世界で僕達を結びつけている因果は、絶望と死、のみだ。
何度生まれ変わっても執拗に僕達を捕らえ、放さない。
中村ダイヤ、お前が全ての元凶だ。
お前が生きている限り、僕と虎男君は平穏な暮らしを得ることは決して出来ない。
命尽きるまで、僕達の周りにはつねに死がつきまとうことになるだろう。
その前兆はすでに何年も前から始まっていた。

虎男君、君の義母は死んだ。
身体を切り裂かれ、激しい痛みと恐怖に絶命するその瞬間まで、
我が子のように愛した君と、君の妹を守り、為すすべもなく血にまみれ朽ち果てた。
一部始終を見ていた君は、ずっと疑問に思っていたはずだ。
何故あの時、妹が襲われたのか。
あの異形の影の正体は何だったのか、と。

簡単なことだ。
六年前、君の妹は中村ダイヤに接触していた。
記憶にすら残らない微かな接触だったかもしれない。だが、君の妹は中村ダイヤに出会った。
ただそれだけだ。ただそれだけのことで君の義母は死に、君達兄妹は心に深い傷を負った。
そして君の義母は、来世でもまた同じように最悪の死を迎えることになる。
中村ダイヤの因果に取り込まれたからだ。

同じように死んでいった人達が何人もいる。
君の見た異形の影は、この中村ダイヤが引き寄せた悪霊だ。
このままこいつを放って置けば、その影は姿を変えて次々と人を襲い、多くの命を奪うだろう。
君も、君の妹も、僕自身も、そう長くはない。やがて悪霊と対峙しなければならなくなる。
奴らは狡猾で非情だ。どんな卑劣な手段を使ってくるかわからない。
死んでも地獄、生き残っても地獄。
そんな世界で生きるのはもううんざりだ。
だから僕は、一つの決断を下すためにここへやってきた。

「中村ダイヤ、今この場で、お前を殺す」

 

**********

 

鋭い光を放つ赤い目がダイヤを見据えている。

「お、おい虎男……こいつマジで頭イカれてるぞ……どうする?」

ダイヤは背筋を伝ういやな汗に感ずかれまいと、薄ら笑いを浮かべて虎男を見た。
しかし、虎男は眉間に皺を寄せて黙ったまま天野サクラから視線を逸らさない。

「おい! お前まさか、こんなわけわかんねえ奴の言うこと信じてんじゃないだろうな!?」

虎男の目がゆっくりと動き、ダイヤを捉えた。

「なぁダイヤ……お前の目に、こいつはどう映ってる?」

「は?」

「着てる服は? 喋った声は? どうなんだ……?」

「だからさっきも言ったろ! そいつはどっからどう見ても男だ! 男の学生服を着てる! 寝ぼけてんのかお前!?」

「俺には女にしか見えない……。着てる服もセーラー服だ……。
こいつの言ってることが嘘なら、俺とお前の目に映るこいつが別人なのはどういうことだ?」

「し、知るかよそんなもん!」

「虎男君、君も自分の力にとっくに気づいてるはずだよ。
僕達には本来人間が持っている潜在能力を遥かに凌駕した力が備わっている。
君がその鋼の肉体と怪力を天命によって授かったように、僕にも一つの力がある」

「馬鹿馬鹿しい! おい虎男、行こうぜ!」

ダイヤは虎男の腕を掴んで引っ張るが、その身体は地に根をはったように動かない。

「もしも……ダイヤが死んだら……どうなる?」

「中村ダイヤが死ねば、今生での僕達の因果は一度途絶える。
死の恐怖に怯えることのない、ごく平凡な、当たり前の日常がやってくるだろう」

「もしも……ダイヤが生き続けたら?」

「やがて訪れる悪霊と戦うことになる。
たとえ僕達自身の命を守れたとしても、中村ダイヤが引き寄せる悪霊によって、多くの人が死ぬことになるだろう。
目の前で大切な人の死を見なければならなくなる。君の義母のようにね」

ダイヤはついに痺れを切らして叫んだ。

「いい加減にしろよてめぇ! さっきから俺のせいで人が死ぬとか、悪霊がどうとか、意味わかんねえんだよ!
お前マジで頭おかしいんじゃねえか!? 狂ってんだよキチガイ! 上等じゃねえか、やれるもんなら――」

 

「 お 前 も 気 づ い て る は ず だ 」


天野サクラの凄まじい殺気を含んだ赤い目がダイヤを直撃した。
その瞬間ダイヤの体は硬直し、身動きが取れなくなる。
低く擦れた声が脳に直接響く。

「今まで何人殺した? 無自覚なのをいいことに、お前は人を不幸に落としいれ、殺し続けてる。
忘れてるなら思い出させてやる。」

サクラがダイヤへ手をかざした瞬間、世界が暗転した。

 

つづく。