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悶茶流的同性愛小説

小説を書く練習のためのブログ。

俺の彼氏はヤンチャ坊主! 「転校生! サクラ現る! その3」

2011年06月25日 | 小説 「俺の彼氏はヤンチャ坊主!」

「ねぇお母さん、愛ちゃんどこにいっちゃうの?」

「お空の上にある、天国っていうところ」

「天国?」

「そう、天国。天国ってねえ、つらいこととか、悲しいこととか、なーんにもない、
とっても幸せな場所なんだよ。愛ちゃんね、そこにお引越しするの。
だから沙希も、今まで仲良くしてくれてありがとうって、ちゃんと愛ちゃんに言おうね」

「うん。でもね、愛ちゃんね、いつ帰ってくるの?」

「もう帰ってこないの」

「帰ってこないの? なんで?」

「それはね……」

陽子の目からたまらず涙が溢れた。
沙希はそんな陽子の顔を不思議そうに覗き込み、

「天国に行くって、悲しいことなの?」

この町へ越してきてから、誰よりも親しくしてくれた雅美の娘が死んだ。
自宅から歩いて数分の、馴染みのスーパーへおつかいへ出した帰り、
愛は忽然と姿を消し、三日後、水死体となって河原で発見されたのだ。
衣服は全て剥ぎ取られ、性器には裂傷があった。
まだ七歳になったばかりだった。

愛が行方不明になった日から、雅美は一睡もせずに捜索隊の一報を待った。
自分の命を差し出してもいい、だから、どうか愛を無事に返してください。
雅美は必死で祈り続け、陽子も彼女の側を一時も離れなかった。
しかし、愛はむごたらしい遺体となって帰ってきた。
泣き崩れる彼女の背中に、陽子は何も言葉をかけてやれなかった。
あまりに深く、絶望的な悲しみだった。
それからしばくして愛の葬式が行われたが、そこに雅美の姿はなかった。
猛、虎男、沙希と連れ立って、陽子は愛の遺影に最後の別れを告げた。
その数日後、走り書きの遺書を残して雅美は自殺した。

「わたしがおつかいなんかに出したから、愛は死んでしまいました。
本当にごめんなさい。わたしも愛のもとへ行きます。あの子寂しがりやだから」

 

**********

 

愛の誘拐殺人事件は雅美の自殺により、よりセンセーショナルに過熱報道され、
親しくしていた進藤家にも連日多くの報道陣が取材に訪れた。
陽子は家族みんなに、絶対に何も答えないようにきつく言い聞かせた。
慣れない子育てや日々の悩みを親身になって聞いてくれた雅美や、
沙希を妹のように可愛がってくれた愛ちゃんとの思い出を、
興味本位で週刊誌に書き立てる連中なんかに汚されたくなかったからだ。

報道陣の他に、警察も何度も家へやってきた。
行方不明当日、不審な人物を見なかったかというのだ。
この町は至って静かで、こんな凄惨な事件が起こる気配など微塵もなかった。
陽子は何度もやってくる刑事に、そのつど同じ内容の話しをした。

「あの日、愛ちゃんと他愛ない会話をして、おつかいへ行くのを見送りました。
ただそれだけです。わたしも後悔してます。愛ちゃんのこともそうだし、
雅美さんのこと……あんなことになって、どう接していいかわからなくなって……。
側にいてあげれば……あんなことにならずにすんだかもしれなかったのに……」

陽子はいつの間にか刑事に本音をぶちまけ、悔しさに涙を流していた。
そうしなければ、自責の念でどうにかなってしまいそうだった。
そして、何度目かに刑事がやってきたとき、陽子は虎男の様子がいつもと違うことに気づいた。
年のわりにどっしりと肝の据わったところがある虎男が、不安げな表情で刑事を見つめていたのだ。

「ねぇ虎男、どうしたの?」

「えっ……」

「君は確か……進藤虎男君だね」

刑事が言った。

「うん」

「君は愛ちゃんのことでなにか知ってること、あるかな?」

虎男はすがるような目で陽子を見た。

「俺、男の子を見た」

「え?」

「男の子?」

虎男がこくりと頷く。

「愛ちゃんはおつかいの帰り、男の子と一緒にて、楽しそうに笑ってた」

「何歳くらいの子だったかな?」

「俺と同じくらい。だから俺、声掛けて一緒に歩いた」

刑事が息を呑むのがわかった。

「その子と愛ちゃんは、何してたのかな?」

「わからない。遊んでたみたいだった。でも男の子の方が野良猫見つけて、
その野良猫をいきなり蹴って、そしたら愛ちゃんが怒ってその子に文句言って」

刑事と陽子が驚きを隠すように静かに目を合わせる。
今までまったく出てこなかった目撃情報だったからだ。

「怒った男の子は愛ちゃんを突き飛ばしたんだ。
だから俺、愛ちゃんのこと守ろうと思って、その子の頭を殴った。
そしたらそいつ、いきなり落ちてた石を投げてきて、俺の足に石が当たって、
痛くてむかついて、逃げるそいつのこと追いかけた。
でもそいつ足が速くて追いつけなくて、結局逃げられた。
もとの場所にもどったとき、愛ちゃんはもういなかった……」

「そっか。他に何か見たことはある?」

「ない」

「その男の子は、初めて見たのかな?」

「うん」

「偉いね、虎男君。愛ちゃんのこと守ってあげようとしたんだね」

「だってあいつ、愛ちゃんに向かって死ね! って叫んでたし、うざかった」

死ね、という言葉を聞いた瞬間、陽子の背筋を不気味な悪寒のようなものが走った。


つづく。