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悶茶流的同性愛小説

小説を書く練習のためのブログ。

俺の彼氏はヤンチャ坊主! 「坊主が屏風に上手にダイヤの絵を描いた!その2」

2011年04月27日 | 小説 「俺の彼氏はヤンチャ坊主!」
「お兄ちゃん起きて!」

「ん……」

「お兄ちゃん! 起きて!」

「わかってる……」

「もぉ! 遅刻するよ!」

「あぁ……」

「しょうがないなぁ~」

進藤沙希はセーラー服のまま兄の手首を掴むと、

「せいっ!」

洗練された見事な動きで腕挫十字固をきめた。

「…っ!」

虎男が目を開くと、妹の股間の上で伸びた自分の肘が見える。

「どうだ!」

「もっと体重かけて引っ張んねえと効かねえぞ。手首の捻りも忘れてる」

「ふんっ! 本気でやったらお兄ちゃんの腕が抜けちゃうから手加減してるの!」

虎男はようやく体を起こすと、

「遅刻するから早く支度して!」

母親のように口煩くなってしまった妹の沙希を無視し、洗面所へ向かう。
焦ったところでどうせ今日も遅刻だ。
あくびをしながら小便をすませ、歯を磨く。
その時、鏡に映った自分の顔が別人のように浮腫んでいるのを見て、虎男は眉を寄せた。
最近やたら目覚めが悪い。睡眠は充分とっているはずなのに、日中の眠気も酷かった。

「お兄ちゃん、あたし先に行くからお弁当忘れずにねー!」

「おう、サンキュー」

沙希が居なくなると小さな家の中は途端に静まりかえった。
虎男は制服に着替え、仏壇の母親に手を合わせる。

――陽子さん、あなたが守ってくれた沙希は、今日も元気でやってます。安心してくれ。

六年前。
まだ十歳だった虎男と、わずか四歳だった沙希を残し陽子は死んだ。
プロレスラーである父親の猛男が地方巡業で家を空けていた折、強盗にあったのだ。
いや、世間的には強盗殺人ということで片付けられたが、あれは絶対にそんなもんじゃない。
見たこともない異形の影、それが沙希を襲ったのだ。
陽子さんは身を呈して沙希を守り、あの影に殺されてしまった。
虎男はその時、いたずらの罰として閉じ込められた押入れの隙間から一部始終を見ていた。
そして見たことの全てをありのまま刑事に伝えた。しかし、誰も虎男の言うことを信じなかった。
ショックで頭が変になったと思われ、精神科を受診させるように勧める奴までいた。
唯一虎男を信じた父の猛男も、やがてそのことを忘れるように虎男に言い聞かせ、
事件は未解決強盗殺人という形で幕を閉じ、人々の記憶からも忘れ去られることとなる。

「あっ」

支度をすませ玄関を出た虎男だったが、
沙希が作ってくれた弁当を忘れたのを思い出して引き返す。

「腹減ったな」

そう言えば朝飯もまだだった。
虎男は時間も気にせずトーストを三枚焼くと、ココアを作ってテーブルについた。
どうせ遅刻だ。焦る必要はない。



**********



およそ一時間半遅れで教室へ入ると、担任教師の矢田が数学を教えていた。

「おい、何やってんだ進藤。お前最近遅刻多いぞー?」

「すいません」

「遅れる時は連絡くらいしろ。常識だぞー」

虎男は特に悪びれる様子もなく自分の席に着く。
窓際の最後尾、それが彼の席だ。
海星に入学してから友達らしい友達の出来なかった虎男にとって、
B組のこの席を獲得したことだけが、学生生活で唯一の幸運に思えた。
外見がイカつくて怖いと自分を敬遠するクラスメイト達、つまらない授業、
手を抜かなければならない体育と、煩わしく面倒なことばかりの毎日も、
斜め前に座っている中村ダイヤ、あいつを見ていると不思議に気が紛れた。
しかし、今日はその姿が見当たらない。
虎男は隣の席の生徒に顎をしゃくり、

「おい、こいつ休んでるのか?」

声を掛けられた生徒は不審者を見るような怪訝の目で、

「体調悪いって保健室行った」と答えた。

何故クラスメイトがそんな目をするのか。
簡単な話し、虎男もダイヤもクラスのやっかい者なのだ。
一人は強面で何を考えているのかわからない野獣のような体格をした坊主頭。
一人はハンサムな顔を台無しにする強烈な無愛想さで、はじめは好意的だった女子ですら全て敵に回した嫌われ者。
野獣が嫌われ者の行方を尋ねたのだ。怪訝な顔をされるのも無理はない。
虎男は急に白けた気分になり、教科書を机に仕舞うと、

「腹痛いんでトイレ行ってきます」

それだけ告げて教室を出た。
担任の矢田は特に何も言わなかった。



**********



腹が痛いのは嘘だが、微かな便意はあった。
虎男は無意識にひと気のないトイレへと足を運ぶ。
それは旧校舎にある幽霊が出ると噂のトイレで、
滅多なことでは人を寄せ付けない独特な気味の悪さがあった。
日当たりの悪い薄暗い旧校舎を歩きながら、虎男はふとダイヤのことを考える。
斜め前に座る無愛想な男。一度も口を利いたことはないが、クラスで浮いた存在なのは自分と同じだ。
いつか声を掛けてみようと思いながら、結局今までそんなタイミングはなかった。

――あいつ、最近よく保健室に行ってるよな。

虎男は保健室に行ってみようと思った。
そこならクラスメイトの白い目も気にせず、気兼ねなく声を掛けられるんじゃないだろうか。
しかし、何て声を掛ければいい。話したいことなど特にないはずなのに、何故かダイヤが気になった。
とにかく保健室に行ってみよう。話しはそれからだ。

――いや、その前にクソだな。

ようやくトレイの前へつくと、入り口から蛍光灯の明かりが漏れているのが見えた。
一瞬心臓が跳ね上がる。授業中のこの時間に、何で電気が点いてるんだ……。
そのトイレは日中でも薄暗く、用を足すには電気のスイッチを入れる必要があった。

――誰か居るのか……。

聞き耳を立ててみたが、音はしない。
虎男は警戒しながら忍び足で中に入った。
湿っぽい空気に鼻を突く独特の臭気が混じっている。
蛍光灯が切れ掛かっているせいで、嫌なタイミングで明かりが点滅している。
そして虎男はすぐに気づいた。三つ並んだ個室の一番奥のドアが閉まっているのだ。
一年の頃からこのトイレをよく使っていた虎男だが、こんなことは初めてだった。
そもそも、こんな薄気味悪い場所に他の生徒は誰も来たがらないのだ。
虎男の脳裏に、六年前に見たあの異形の影が蘇る。

――まさか……。

虎男は気配を殺し、足音を立てないように慎重にドアの前に立った。
スライド式の鍵が赤になっている。間違いない、何者かが内側から鍵をかけているんだ。
その時、微かな音が聴こえた。
まるで死を目前に控えた病人が、最後の力を振り絞って呼吸をするような、苦しげな吐息の音。
虎男は拳を握り、力を込めた。今の自分なら、たとえ相手が人知を超えた生き物だったとしても、
そう簡単に負けることはない。最悪でも相打ちに持っていける自信はあった。

――陽子さん、俺はここで死んでも後悔しない。その代わり、絶対あなたの仇は討ってみせる。

虎男はスライド式の鍵を握ると、ドアを破壊するつもりで全力で手前に引いた。
爆発音に似た轟音がトイレ内で反響し、ドアが吹っ飛ぶ。
瞬時に戦闘の態勢に身構えた虎男の目に映ったのは――








――中村……ダイヤ……。








次の瞬間、虎男の股間の辺りに何かが弧を描いて飛び散った。
思考も時間も、完全に理性を失い止まってしまう。








――何なんだこれは……。








驚愕の表情を顔に固定した中村ダイヤが虎男を見上げ、金魚のように口をパクパクさせている。
そして蓋を閉じた洋式便座に座る彼は、ズボンと下着を足首まで下げ、右手で自分の勃起したペニスを握り、
尿道の先から白濁液の糸を垂らしている。
足元に転がったスマートフォンには、汗に塗れた全裸の男が激しく絡み合う動画が流れていた。

「な、何やってんだお前……」

今にも消え入りそうな声で呟いた虎男に、中村ダイヤは何も答えなかった。
石像のように固まって微動だにしない。
虎男はふと自分の股間に飛び散ったモノに目をやった。
ほとんど生地に染み込まず表面で凝固しているそれは、紛れもなく目の前に居る中村ダイヤが放った精液だ。
虎男はそれを手のひらで拭き取ると、顔の前へ持ってきて確認した。
指と指の間で蜘蛛の巣のように糸を引くダイヤの精液。

海星高校二年B組み、進藤虎男。
彼こそがこの物語のもう一人の主人公、坊主頭である。

中村ダイヤ、悪夢の始まり。



つづく。